この兄弟に祝福あれ   作:大豆万歳

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第44話

 お祭り3日目。の、開始前。

 

「えー、昨日も言った通り、俺は夕方から嫁とデートに行きますので。その後のことはお任せしました。では、今日も頑張りましょう!」

『はい!』

 

 昨日話したデートの件が確定になったので、お祭りが始まる前の挨拶の時に報告。そして、その後のことについて少し話し合って出店も開始。夕方のデートは楽しみだが、今は目の前の仕事に集中しないと。ここで浮ついて仕事に身が入らなかったら嫁に怒られる。

 

 

 

 

「……様。お嬢様!」

「な、なんだハーゲン!」

「お嬢様。そろそろハルキ殿との逢引のお時間ではないでしょうか?」

 

 ハーゲンに促されて窓の外を見てみれば、日も暮れてきて、空が茜色に染まっていた。

 

「っ!?すまない、バルター殿!残りの書類は任せた!」

「かしこまりました」

「では、行ってくる!」

「「行ってらっしゃいませ」」

 

 書類仕事もきりの良いところで切り上げ、財布に少々の金を入れた私は執務室を出てそのまま屋敷を──。

 

「おや、ララティーナ」

「お父様」

 

 出る直前で、お父様にばったりと出くわした。

 

「出かけるのかね?」

「ええ。その……これから、ハルキとデートに……」

「おおっと、これは呼び止めてしまってすまなかった。行ってらっしゃい」

「……行ってきます」

 

 父の温かい視線を背に受け、私はハルキのいるアクシズ教団に割り振られた区画に向かった。

 

 

 

 

「ハルキさんハルキさん」

「はいはいどうしました?マヨネーズが無くなりましたか?それとも青のりが無くなりましたか?もしや、キャベツが脱走しましたか!?」

「いえ……」

 

 セシリーさんが満面の笑みで手を差した先には──。

 

「待たせたな」

「ダクネスさんがいらっしゃいました」

 

 やだ、嫁がイケメン過ぎて魂が乙女になっちゃう。

 

「それじゃあ、あとは任せました」

「任されました。あ、これ、良かったらお2人でどうぞ」

 

 そう言ってセシリーさんが渡したのは2人分の焼きそば。いつの間に確保していたんだ。

 

「じゃあ、どこか近くで食ってから行くか」

「ああ」

 

 ~男女軽食中~

 

「まずはどこに行く?」

「そうだな……射的に挑戦させてくれ。前回のリベンジだ」

 

 ダクネスの言う前回のリベンジとは、前回のエリス祭りで射的に挑み、何の成果も得られなかった事を指しているのだろう。

 あれは本当に酷かった。真っ直ぐ放たれた矢が悉く明後日の方向に飛び、的に掠りもしない様は最早ギャグの領域だった。何が酷いって、それが前回に限った話ではないという事。その前も、更にその前も、1度として射的で景品を得たことはないらしい。そして、俺がパーティーに加わってからは俺が代わりに景品をゲットするという流れが恒例となっていた。

 

「今年も挑むのか?」

「勝つまでやれば負けないと私に言ったのはお前だろう。なら、私も勝つまで挑むさ」

 

 力強く拳を握りしめ、意気込みを語るダクネス。その瞳には『挑戦』の2文字が浮かんでいるように見えた。

 そして……。

 

「すまないハルキ。私に変わってあの冬将軍を仕留めてくれ」

「はいはい」

 

 今年も矢を当てられなかったダクネスが、涙目で俺に望みを託した。懲りない奴だ。

 狙撃スキルを持った人のハンデとして、目隠しを装着して少し距離を置いた所から的を狙うことになっているので、目隠しをして少し離れる。

 まあこんなの、的の場所を覚えるなり弦を鳴らした時の反響で探るなりすれば簡単に仕留められるんですけどね。

 

「ほい。お前もいい加減に諦めるってことを覚えようか?」

「そ、そうかもしれないが、私にも意地というものがあってだな……」

 

 ダクネスの注文通り、冬将軍を仕留めた俺は景品を手渡す。本人は嬉しそうだけど、夏仕様だからって首から下が海パン一丁の冬将軍の人形とかシュール過ぎないか?

 その後、ダクネスと会場内をぶらぶらしていると。

 

「おやおやおや!誰かと思えば、我が親愛なるビジネスパートナーの片割れではないか!鎧娘との逢引中かな?」

 

 声をかけられたので振り向いてみれば、そこではバニルがお面屋ならぬ、仮面屋を開いていた。

 見れば、ウィズと数名のサキュバスが手伝いをやっている。

 

「お前、ここで出店やっていいのか?仮にも悪魔だろ?」

「なに、その点ならば問題ない。貴様の弟を介して役員達と交渉は済ませてある。せっかくだ、お1つ如何かな?」

 

 そう言ってバニルが見せた仮面は色々あった。

 ゴブリンやコボルト、ジャイアントトードやブルータルアリゲーターなど様々なモンスターから、馬や鳥、羊などの動物まで多種多様だ。……流石にアンデッドや悪魔の類の仮面は置いてないか。後はシンプルに色を塗ってあるだけの仮面があるくらい。

 

「じゃあ、この黒の仮面で」

「毎度あり!」

 

 その中でも俺が選んだのは、シンプルに黒一色に染められた仮面。今後、クリスの神器回収を手伝うとなると、夜間の活動が多いだろう。王都では口元を隠してフードを被る程度で済ませたが、万が一ということもある。いい機会だから、序に買っておこう。

 バニルに金を渡し、仮面を受け取った時に何か仮面以外の物の感触を感じた。仮面を裏返してみるとそこには──。

 

「バニル。これって……」

「うむ。以前のお詫びの意味合いも込めた、サービスの品である。今後、夜はそれを使うが良い」

 

 いつだかの商談でバニルが使ってた、時計と錠前を合わせたような形の魔道具。確かこれの効果は一定時間部屋の音が外部に響くのを防ぐというものだ。今後の夜に使えって、それはつまり──。

 

「バニルさん、まさか……!」

「おっと、我輩は具体的な用途について言及していないぞ?」

 

 何かを察したらしいウィズがハッとした表情でバニルに問うが、バニルはすっとぼけたような口調で追及を避ける。そしてウィズは俺とダクネスを順に見ると、そっと目を逸らして売り子に専念し始めた。

 ダクネスのほうを見てみれば、顔を赤くしてバニルを睨みつけている。顔を赤くしているのは羞恥によるものなのか、バニルが嬉しそうに口角を吊り上げている。

 

「……お気遣いどうも。それじゃあ」

「うむ。また会おう!」

 

 バニルの仮面屋を後にして、少し歩いた頃。

 街の貯水池の方から腹に響く震動と共に音が鳴る。

 花火大会が始まった様だ。

 夜空に色とりどりの光が咲き乱れ、その度に辺りから歓声が上がる。

 夜空を見上げていた俺達は、周りの冒険者達の様子を窺う。

 

「……残念だけど、行くか」

 

 魔法使いと思われる人達が、取るものも取らずに駆けていく中、俺はそう呟く。

 ダクネスは骨をバキバキと鳴らし、瞳に怒りを宿して答えた。

 

「そうだな。デートの邪魔をした虫共を1匹残らず殲滅してやらねばならないな」

 

 祈りも空しく虫が襲撃してきたので、俺達は防戦に加わることになった。

 

 

 

 

「ただいまー。……なんだ?この手紙」

 

 虫の襲撃を防衛し、屋敷に帰ってきて居間に向かうとテーブルの上に置き手紙があった。

 

「ハルキ。手紙には誰から、何と?」

「めぐみんが爆裂魔法打とうとして警察に連行されたって、和真から。ゆんゆんは署でめぐみんが解放されるのを待ってて、和真とアクアは外で飲んでくるってさ」

「そうか。……つまり、私とハルキの2人っきりか」

「あいつらに気を遣わせちまったな」

 

 和真の置き手紙を元の位置に戻して風呂に入り。脱衣所で体を拭いて寝間着に着替え。俺の部屋で。

 

「ハルキ……」

 

 灯りはサイドテーブルのランプだけの薄暗い部屋で、ララティーナが俺に抱きつく。

 瞳は蕩け、顔は期待と興奮からほんのり赤くなり、息遣いも若干艶っぽい。所謂雌の顔で俺のことを見つめてくる。

 更に、寝間着は薄いネグリジェを着ている。

 この雰囲気で、そんな嫁を見せられて冷静でいられるような男などいない。事実、俺の分身は既に臨戦態勢になっているし、思考の殆どが本能で占められている状態だ。

 

「待った。最低限守るべきエチケットがあるだろ?」

 

 だが、俺は残りの理性を総動員して魔道具を操作し、ドアノブにセットする。ガチャリという施錠音と共に、部屋全体に結界のようなものが張られるのを感じた。因みに、この魔道具は時間の設定が可能で、最大で6時間、音が外に響くのを防いでくれる。

 

「お待たせ」

 

 俺はララティーナの肩に手を回して抱き寄せ、ベッドまで連れていく。

 

「こっち向いて」

「んっ……」

 

 ベッドに座り、まずはお互いの唇を重ねる。

 

「ちゅるっ……じゅるっ……」

 

 唇の端を舐めると、ララティーナの口が少し開く。そこに舌を入れて口内で絡めながら……。

 

「んむうっ……」

 

 左手は肩に置いたまま、空いている右手でララティーナのおっぱいを揉む。

 

「はぁ……はぁ……ちゅっ、ぴちゃっ……」

 

 少しして息を整えるために顔を離すと、ララティーナが俺の首筋に吸い付いてキスマークをつけ始める。先程のキスと、ララティーナが首に吸い付く音のツープラトンアタックで理性の残量が残り僅かになってきたところで、俺はララティーナに問いかける。

 

「ララティーナ。優しいのがいいか?それとも激しいのがいいか?」

 

 ララティーナは首筋から顔を離し、瞳にハートマークを宿して答えた。

 

「祭りの熱気と、街の防戦の昂ぶりで体が火照って仕方がないんだ。だから……」

 

 熱く、激しく愛して欲しい。

 返答を聞き、遂に理性が消し飛んだ俺はララティーナを押し倒す。

 そして、ネグリジェの裾を掴み、捲ろうとした──次の瞬間。

 

「「はっ!?」」

 

 突如夜空を照らした閃光と、轟く爆音で雰囲気が消し飛んだ。

 俺達はベッドから降りて窓を開け、街のほうを見る。

 夜空に広がる煙を見ながら、ララティーナに問いかける。

 

「今のって、どう見ても爆裂魔法だよな」

「……そうだな」

「あれって、もしかしなくてもめぐみんがやったよな」

「……そう、だな……っ」

 

 ちらりと見てみれば、小刻みに震えるララティーナの顔が怒りと悲しみで真っ赤になっていた。

 

「もうイチャイチャするどころじゃないな……今日はこのまま一緒に寝るか?」

「ああ……。明日、さっきの爆裂魔法についてめぐみんにたっぷりと問い詰めてやろう」

 

 俺の提案に、ララティーナは無言で頷く。

 あーもう滅茶苦茶だよ。めぐみんが知能の高いことで有名な紅魔族なのか、疑わしくなった。

 雰囲気を台無しにされた俺は、頭の中でそんな事を考えながら目を閉じた。




いいところで邪魔が入って雰囲気が台無しになる。ラブコメあるあるですね
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