この兄弟に祝福あれ   作:大豆万歳

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ダクネス怒る


第45話

「カズマー?そこにいるのだろう?今なら説教で許してやるから、出てこーい」

 

 ドアの向こうからダクネスが呼びかけてくる。

 だが、声のトーンが平坦で恐ろしく怖い。いっそ怒号をあげてドアを蹴りつけてくれたほうが気が楽になる。

 

「助手君助手君!早くドアを開けて出てきて!じゃないとあたし死んじゃうよー!」

 

 ドアの向こうから聞こえるお頭。もとい、クリスの悲痛な叫び声。それを聞いたら部屋の隅でガタガタ震えている場合じゃない。

 

「……そこに座れ。そして話せ」

「「かしこまりました、ダスティネス様」」

 

 俺とクリスは並んで正座し、そのまま昨夜起きた事を話した。

 昨夜遅く、俺とクリスは神器回収のために貴族であるアンダインの屋敷に向かっていた。

 実を言うと、これは2回目の挑戦だ。1回目は、目的の神器である聖鎧アイギスが自我を宿していて、これまたお喋りなヤツだった。そいつが騒いだせいで逃げるはめになり、昨夜はそのリベンジだったんだ。

 しかし、屋敷に向かう直前で、思ったよりも早めに解放されためぐみんを連れたゆんゆんに遭遇した。

 俺達と目が合うなり、めぐみんは大興奮だ。さながらヒーローにでも会ったかのように。そしてめぐみんは俺達にファンレターを渡し、これから貴族の屋敷に向かうのかと訊ねた。

 めぐみんと違って落ち着いていたゆんゆんは、俺達の正体を察していたような表情をしたが、決して口にはしていなかった。そして、めぐみんにあまり騒いで仕事の邪魔をしないよう念を押していた。

 クリスはめぐみんに、これから貴族の屋敷に侵入する事を伝えると、めぐみんは俺とクリスに激励の言葉をかけて固い握手を交わした。あまりの握力に関節が悲鳴をあげたのは内緒だ。

 2人を見送った俺達は予定通り屋敷に侵入し、アイギスの回収に再挑戦した。しかも今回はバッチリ対策を立てたんだ。人間は学習する生き物だからな。

 ……それをアイギスのパワーでぶち破られた時は正直泣いた。

 アイギスは俺とクリスの説得に耳を貸さず、屋敷の住人にお別れの言葉を大声で叫んで窓から飛び降りた。

 万事休す。俺のその不安を吹き飛ばしたのは、めぐみんの爆裂魔法だった。

 俺達は爆裂魔法の混乱に乗じて屋敷を脱出し、この宿に逃げ込んできたと。

 

「……なるほど。それなら、なぜそんな事をやらかした。以前も言っただろう、最初からきちんと話してくれれば、こんな騒ぎにはならなかったと。お前達がアンダイン家の者に姿を見られていたせいで、街の冒険者を含めた色んな者達がお前達の賞金目当てにうろついているぞ」

 

 ある程度の事情を聞いたダクネスは、頭痛を堪える様にこめかみを押さえ息を吐く。

 俺は隣のクリスを指さし。

 

「俺は『相手が貴族ならダクネスに頼んでみたらどうだ?』って言ったぞ『ダクネスの家の権力で融通してもらうってのはどうだ』って。そしたら……」

「だって、あの貴族は神器を非合法な手段で手に入れたみたいだし、評判も良くないしで、きっととぼけられると思ったんだよ!それにダクネスも領主の仕事で忙しいみたいだったし!」

 

 俺とクリスの言葉を聞いたダクネスは深々と溜息を吐き。

 

「いくら忙しくてもお前達が犯罪に手を染めるくらいなら時間を割くさ。そして、それが例え非合法な手段で手に入れた物だとしても、貴族には貴族なりのやり方がある。相手にそれ以上の見返りを与える、とかな……!」

「痛い痛い痛いダクネス止めてえ!ごめんなさい、次からはちゃんとダクネスに言ってから盗みに入るからー!」

「盗まないという選択肢は無いのか、馬鹿者!」

 

 ダクネスのアイアンクローがクリスの顔面に炸裂。そしてそのまま床から浮上し始めた。

 なぜここまでダクネスは怒っているのだろう。やっぱり、兄さんとのデートの余韻をぶち壊したからだろうか。俺は何となく、兄さんの様子を観察してみる。すると……。ああ、こりゃあキレるわ。むしろこれで済んでるだけまだマシだったんだ。

 

「助手君からも何か言って、助手君!?」

 

 俺は全てを察知し、静かに土下座した。

 幸い、クリスから兄さんの首元の赤い斑点(キスマーク)は見えていないようだ。

 2人の夜の邪魔をして、本当にごめんなさい。

 

 

 

 

 ダクネスから解放され、俺とクリスは街を散策していた。

 目的は、先日逃げたアイギスを探し出すため。だが、しかし──。

 

「アイギス。どこに行ったんだろうね……目立つ鎧のはずなのに、全く見つからないよ……」

 

 俺の隣のクリスが肩を落とし、トボトボと歩く。猫背になり、声のトーンもかなり低くなっていて明らかに元気がない。

 今の彼女の様子を見ると、胸が苦しい。

 別に、彼女に恋愛感情を抱いているわけじゃない。

 だけど、奇人変人ばかりのこの街の数少ない常識人の友人である彼女に、俺は憧れている。

 例えるなら、そう。もし女性として生まれたらなら、彼女のようになりたいというような。

 だから、俺は……。

 

「お頭。エリス教団の人達に、協力して欲しい事があるんです」

 

 彼女の肩に手を置き、真っ直ぐ見つめながら。俺は言った。

 

「俺に考えがあります」

 

 

 

 

 『あー、あー……コホン。本日お集まりの皆様方。私、この度の視界に選ばれた事を誠に嬉しく、そして光栄に思います。ではこれより、エリス教団主催による今回の祭りのメインイベント!第1回!ミス女神エリスコンテストを、ここに開催いたします!』

 

 アクセルの街の大広場。

 街の中心に位置するそこに設けられたステージ上で、タキシードを着た男がマイクの様な魔道具に向かって叫ぶと、見物客から盛大な歓声が湧いた。

 

「ねえ助手君。これで本当に大丈夫なの?」

「大丈夫大丈夫。俺を信じて」

 

 作戦はこうだ。まず、このミスコンで街中の美女を集める。そして、美女が見れると聞いて姿を現したところを捕縛する。以上だ。

 あいつは自分を装備する人間にこだわりを持っており、最低でも美女であることを挙げていた。男は断固拒否らしい。

 なので、今回の作戦の実行にあたり、開催と出場についてダクネスを説得するのは苦労した。エリス様をダシにしたミスコンなんて、エリス様に対する冒涜だと怒られた。最終的には俺とクリス、兄さんの3人がかりで説得して、何とか承諾させたわけだ。

 

「じゃあ、長丁場になりそうだから冷たい飲み物買ってくるよ」

「おう。俺はここに待機して、アイギスが現れないか見張ってる」

『それではまず、最初の方となりますが……。お名前と年齢、そしてご職業の方をお願いします!』

 

 ──ミスコンが始まり、それなりの時間が経過した。

 ステージ上に次々と美女が現れ、簡単なプロフィール紹介をしていく。しかし、一向にアイギスは姿を現さない。

 あんなに目立つ鎧だから、見物客の中にいれば一発で気づくはずなんだが。まさか、もう街を出て何処かに行ってしまったのか?

 

《うーん、良いスタイルをしているな。着瘦せするタイプと見た》

「着瘦せするタイプか……。審査に水着も入れておけば良かったな」

《おいおいおい!何でそんな大事なもんを審査に入れないんだよ!馬鹿じゃねえの!?》

「うるせー!俺だって審査に入れたかったけどな、大人の事情で泣く泣く外したんだよ!」

 

 ……。

 

「確保ーっ!」

《うおっ!?なんだなんだ、何しやがる!大事なとこなんだ邪魔すんじゃねえよ!》

 

 大事なとこなのは同意するが、こいつを捕まえるのが目的だ。

 俺はノコノコと現れたアイギスに、用意していた投網を投げつけた。

 油断していたアイギスは、あっさりと網を掛けられ、逃げようとジタバタ藻掻く。藻掻いたところで余計に絡まるだけなのに、馬鹿な鎧だ。

 

「掛かったなアホが!これはお前を捕まえるための作戦なんだよ!」

《な、なんだってー!?お前中々やるじゃねえか、コソ泥かと思って油断したぜ!》

 

 俺とクリスはこんなのにあそこまで手こずっていたのか。

 今までの苦労を返して欲しい。

 

「ていうかお前、来るのが早すぎるだろ!何で開始5分で捕まるんだよ!長丁場になりそうだからって、買い出しに行ったクリスに謝れ!」

《悪いがちょっと静かにしてくれ。あの子のプロフィールが聞けないもんで》

「……分かった。あの子のプロフィール紹介が終わったら再開な」

《ああ。あの子が舞台裏に引っ込んだらな》

 

 一時休戦した俺は、できるだけアイギスから離れない様にしてその時を待つ。

 幸い、俺達の周りにいた見物客は俺達の騒ぎを気にも留めず、ステージ上を注視している。

 やがてその子のプロフィール紹介が終わると、出場者はステージから下がっていった。

 

「《第2ラウンドの時間だオラァ!》」

 

 

 

 

「キミは何をやっているのさ」

「《ハッ!?》」

 

 俺とアイギスが取っ組み合いを始めてどれだけの時間が経過したのだろう。出場者が現れれば一時休戦して感想を述べ、舞台裏に引っ込むなり再開するを何度か繰り返していると、買い出しを終えたらしいクリスがやってきた。

 

『さあ続きましては本日の優勝候補の1人です!この街に住む皆さんなら、既に知らない方はいないでしょう!ある時は冒険者、またある時は我慢大会連続優勝者。そして今。女神エリスコンテスト出場者として参加されるのは、大貴族ダスティネス家の御令嬢、ダスティネス・フォード・ララティーナ様です!』

 

 本命が来た!

 ミスコンの最初からホイホイやって来たので今更ではあるが、アイギスを釣る餌として、ダクネスに出場を頼んでいたのだ。

 めぐみんとゆんゆんにも頼みたかったところだが、残念なことに2人は仲良く留置場にいる。

 

《ファーッ!綺麗な顔したエロバディ!しかも貴族令嬢!ポイント高えなおい!》

 

 ダクネスが現れると共に、アイギスのテンションが跳ね上がる。

 今日のダクネスはコンテストを意識してか、避暑地に出かける貴族の令嬢然とした恰好だった。

 偶に自分の屋敷で着る純白のドレス姿に、薄い化粧をして三つ編みを肩から垂らしたダクネスは、幅広の帽子を被っている。なぜそれを昨日の兄さんとのデートで着なかったんだ。

 多くの観客に注目され、恥ずかしそうに顔を帽子で隠してそっと俯いている。

 

「そうだろうそうだろう。あれ、俺の仲間なんだぜ。しかも、俺の義姉(あね)になる人だ」

《……ちょっと待て。ってことは、あのお嬢さんには婚約者がいるのか?》

「おう。俺の兄さんだ」

《そうか……じゃあ、あのお嬢さんは無しだ》

「はぁ!?」

 

 予想外のアイギスの言葉に、俺は目が飛び出るほど驚いた。あれだけ美女を探し求めていたアイギスが、条件に合致しそうなダクネスは無しだと言った。何故だ。

 

《いいか坊主。俺は鎧だ。つまり、誰かを守るのが使命だ。だけど、あのお嬢さんには守ってくれる(ひと)がいる。なら、俺はそいつの邪魔をしちゃあいけないんだよ》

「アイギス。お前……!」

 

 アイギスの言葉に、目頭が熱くなった。

 俺はこいつの事を誤解していたのかもしれない。美女なら誰でも良い、ただの女好きだと思っていた。だけど本当は、引き際を弁える正真正銘の紳士だった!

 

「何に感動しているのさ、キミは」

「冷たっ!?」

 

 今まで放置されていたクリスが、仕返しとばかりに首元に氷を押し当てる。

 

「ララティーナー!ハルキとはその後どうなんだー!?」

 

 観客席にいた冒険者の1人が叫んだ。それに釣られたかのように。冒険者達が兄さんとの関係の進展具合を聞いてきた。

 顔を真っ赤にして泣きそうな表情のダクネス。そして俺の兄さんはというと──舞台裏から顔だけ出して、ダクネスを見てニヤニヤしていた。良い趣味してんな。

 そしてその視線に気づいたのか、ダクネスは一瞬舞台裏の兄さんを睨むと、司会者からマイクを借りた。そして咳払いをして声の調子を整えると──。

 

『聞け!例の一件以来、ハルキへの嫉妬と羨望の言葉を酒場でぶちまけているであろう男性独身冒険者諸君!ハルキは毎日、私の胸に顔を埋めて寝ているぞ!』

『おおおっ!』

 

 兄さんが顔をひっこめた。今頃顔を両手で覆って座り込んでいるだろう。

 

『女性冒険者諸君!私は仕事で疲れた心身を、ハルキの膝枕で癒しているぞ!』

『きゃーっ!』

 

 女性冒険者達が、ダクネスの話を聞いて歓声を上げる。

 

『男性冒険者諸君!ハルキが羨ましいか?』

『羨ましいー!』

『女性冒険者諸君!この私が羨ましいか?』

『羨ましいー!』

『ならば武器を捨て街へ出よ!私とハルキへの嫉妬の言葉を酒場でぶちまけているだけでは、何も始まらないぞ!』

 

 ダクネスの〆の言葉に、観客席にいた冒険者達から拍手が送られる。

 そしてダクネスはマイクを司会者に返却すると、顔を再び真っ赤にし、舞台裏へと逃げるように引っ込んだ。どうやら一連の言動は自棄になって何も考えずにやっていたみたいだ。

 

 

 

 

 女神エリスコンテスト出場者控室。

 

「うぅ……私は、私はなぜあんな事を……」

 

 俺の膝を枕にして横になっているダクネスが、顔を赤くして小刻みに震えている。周りの視線から逃げるように俺の方を向いているせいで表情は良く見えないが、涙目になっているのだろう。

 

「そんな後悔するくらいなら、最初から言わなければよかったのに」

「五月蠅い!舞台裏から私を見てニヤニヤしていた奴が言うな!」

「羞恥に顔を赤くするダクネスが可愛いのが悪い」

「ーーーーっ!?」

 

 俺の率直な感想を聞いたダクネスが、声にならない悲鳴を上げて両手で顔を覆う。

 宥めるようにダクネスの頭を撫でると、震えが少しずつ治まってくる。

 

「……なあダクネス。そろそろどけてくれないか?周りの視線が痛い。あと、脚も痺れてきたんだが」

「我慢しろ」

「いや、視線の方はともかく痺れの方を我慢するのは」

 

 ダクネスの手が俺の脇腹に伸び、そのまま抓ってきた。

 

「わかったわかった。もう少しこのままにするから、脇腹を抓るな」

 

 ダクネスは脇腹から指を離すと、優しく撫でさする。

 少しすると、ウィズが椅子を持って近くにやってきて──。

 

「そ、それでハルキさん、ダクネスさん。あれ以来の2人の夜について詳しく教えていただけませんか?」

 

 目を宝石のごとく輝かせて、そんな質問をしてきた。他の出場者もこっちをジッと見ている。

 

「話してもいいか?」

「……ああ」

「まあ、祭りの準備が忙しかったから、せいぜい一緒に寝るくらいしかできなかった。それで昨夜久しぶりにいい雰囲気になったんだけど……めぐみんの爆裂魔法で台無しになった」

 

 瞬間、周囲の人達が視線をそっと逸らした。

 

「そ、そうだったんですか……し、失礼しました……」

 

 ウィズも大変申し訳なさそうに、椅子を持って下がっていった。

 それとほぼ同時に。

 

「外が随分騒がしいな」

 

 何事だとダクネスが起き上がり、外に出る。続いて俺や控室にいた出場者の皆さんも外へ出る。そこでは──。

 

「お前らこれで頭を冷やせ!『クリエイト・ウォーター』!」

「冷たっ!?この野郎!」

「やりやがったな!おい、コイツやっちまえ!」

「アイツは弱いことで有名なカズマだ!囲んで叩け!」

 

 ステージ上で喧嘩騒ぎが起こっていた。

 

「すいません。何があってこうなってるんですか?」

 

 俺はステージから避難してきたと思われる司会の人に、事の経緯を訊ねる。

 

「そ、それが……女神エリス様が降臨されたのです!」

『……ゑ?』

 

 俺をはじめ、さっきまで控室にいた人達は司会の人の言葉に耳を疑った。

 

「すいません、もう1度お願いします。……誰が来たんですか?」

「ですから!女神エリス様が降臨されたのです!」

 

 暫くの沈黙。そして。

 

『ええええええっ!?』

 

 俺達の驚嘆の叫びが響く。

 

「そ、それはどういうことだ!?いえ、どういうことですか!?」

 

 驚きのあまり、ダクネスの口調がおかしなことになった。

 

「どうもこうも、言葉の通り女神エリス様が降臨されたのです!それで、会場にいる方々がエリス様と握手を交わそうとステージ上に上がり始めて、この騒ぎにまで発展しまして……」

 

 視線の先、ステージ上では、観客と和真の喧嘩が勃発していた。いくらウルトラマンブルに変身できると言っても、あいつのステータスが貧弱なのは変わらない。そう長くはもたないだろう。

 

「おいダクネス!止めるぞ!……ダクネス?」

 

 振り向いてみれば、ダクネスの姿がない。どこに行ったのか周囲を見ると。

 

「女神エリス様……っ!そのお姿、拝見したかった……っ!」

「しっかりしろダクネス!」

 

 膝をつき、拳を地面に叩きつけ、悔しそうな声をあげるダクネスの姿が。今はそんな事している場合じゃないのに!

 

「すいません!警察の人を呼んできてください!」

「わかりました!」

「腕力に自信のある人は、俺とあのバカ騒ぎを止めましょう!」

『はい!』

 

 俺はダクネスに代わって司会の人と祭りのスタッフに指示を出し、ステージ上に向かった──!

 

 

 

 

 祭りも終わり、その打ち上げの途中。

 会場をこっそり抜け出した俺とクリスは、その辺をぶらぶらと歩いていた。

 周囲に人の気配は……無いな。

 

「それで、アイギスの方はどうなりましたか?エリス様」

「会場から無事脱出した後、今まで失礼なことを言って申し訳ありませんでした!って、何回も頭を下げてたよ。それで、これからは貴女の命令は何でも聞きます!って、それはもう凄い手のひら返しを見せたね」

 

 クリス。もとい、エリス様は困ったように表情を緩める。

 そう。俺の目の前にいるクリスは、女神エリス様が下界で活動するときの仮の姿。

 気づいたのは、ダクネスの結婚騒動の後。俺達が兄さんとダクネスに気を遣って、1日外出していた日の事だ。

 前から、クリスとエリス様は似ていると思った。そして先輩女神であるアクアのことはさん付けで呼ぶが、めぐみんとダクネスは呼び捨てにしている。最後に、困った時に頬を掻くクセ。そこで俺は試しにこう言ったんだ。

 

『そういえばエリス様。領主から回収した神器って、どこに持ってったんですか?』

 

 と。そして彼女は反応し、こう答えた。

 

『ああ、アレですか?アレならヒュドラが眠っていた湖の底に、封印を施して隠してあります』

 

 そして、彼女はいつもの柔らかい笑顔を浮かべたまま、俺の前で固まったんだ。

 ちなみに、クリス=女神エリスであることを知っているのは俺だけ。

 2人だけが知っている、秘密。なんて素晴らしい響きなんだ。

 

「……しかし、好きな花の名前からとってたんですってね。てっきり一文字変えただけだと思ってました」

「キミってあたしをどんな目で見てるのさ」

 

 俺の頬を指でグリグリしながら、クリスが圧力のある笑顔で訊ねる。

 

「たった1人で人知れず、陰でずっと頑張ってきた、俺が尊敬する人だって思いますよ」

「……そ、そう。そっか、まあうん、それならいいや」

 

 サッと顔を背けると、クリスは会場に戻ろうと足を早める。

 

「おっと照れてますね?照れてるんですねお頭」

「五月蠅いよ、五月蠅いよ助手君、ちょっとだけ黙ろうか」

「顔を背けていても分かりますよ、耳とか真っ赤じゃないですか。今ならミスコンで兄さんがダクネス見てニヤニヤしていた気持ちが分かります。可愛い人って羞恥顔も可愛いんですね。ちょっとこっち向いてくださいよお頭」

「五月蠅いですよ、五月蠅いですよカズマさん。それ以上女神を揶揄うと天罰を与えますよ」

 

 こちらを一切振り向かないまま、早足になるクリス

 そんなクリスは、なおも俺の方は向かないままで顔を赤くしたまま不機嫌そうに。

 

「ねえ助手君」

「はい?」

「その……色々と、ありがとう」




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