If it is not "IF"   作:たまごぼうろ

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意外と読んで下さる方が居て嬉しい限りです。
短編、と言いつつかなり長くなってしまっていますが、どうか最後までお付き合いください。


秘匿者たちの団欒

 

 

「キリ……あ、えと、ヴォーダイム!!」

 

 

 

「やぁ、オフェリア。元気そうで何よりだ」

 

 

 

ドアを開けると、その先は談話室のような空間になっていた。

自分が居た病室と同じく真っ白な部屋。

七人分の椅子が円卓のように広がったテーブルの前に置かれ、その先には大型のモニターが置かれている。

私たちが眠る前、会議室として使っていた部屋にとても良く似ていた。

 

 

 

「無事で良かった、本当に、本当に……」

 

 

彼女はそう言うと、私の胸に垂れかかって来た。

緊張の糸が解けたのだろうか。

彼女は私以上に私の安否を気にしていたしていたらしい。

 

 

 

「おっと、大丈夫かな。やはりまだ無理をしているんじゃ」

 

 

 

そんな彼女を優しく抱き留める。

 

 

 

「い、いえ、違うんです。その、ちょっと力が抜けちゃって」

 

 

 

「何言ってるのよ、私たちのリーダーがこんな所でくたばるわけないでしょう?」

 

 

 

続いてもう一人、私のところに歩み寄ってくる影。

こちらは対称的に、私の心配など、と言わんばかりだった。

 

 

 

「ぺぺ、君も大事無いかい?」

 

 

 

「まぁね。私、死にたい人の前でしか死なないって決めているから。……でも、心配してくれてありがとう。あなたも無事で良かったわ」

 

 

そう笑いかけると彼は視線を下に落とし、未だに私の胸にいるオフェリアに笑いかけた。

 

 

「それにしてもオフェリア、いきなり歩み寄って、増してや抱きつくなんて、見ない内に大胆になったわねぇ、んふふ」

 

 

 

 

「えっ、あっ!!ちょ、ちょっとぺぺ!!」

 

 

 

その発言で漸く自分が何をしているのか気が付いたのか。

顔を赤くしてオフェリアは私から飛び退く。

 

 

 

「やーねぇもう、起きたばっかりだっていうのに、見せつけてくれるわぁ」

 

 

 

 

「ご、ごめんなさいヴォーダイム。いきなり、その、だ、抱きついてしまって」

 

 

 

「ん?いや、いいんだ。状況が状況だし、何をされてもさほどは驚かないよ」

 

 

 

というか、オフェリア程の美人に抱きつかれて嫌になる男なんていないだろう。

こういうの、なんて言うんだっけな、確かぺぺから借りた本で読んだぞ。

ラッキー……ラッキーなんとか、ってやつだろう

 

 

「あ、いや、えっと…………、そ、そう!なら良かったです!」

 

 

「ん〜〜〜、こっちもこっちですれ違ってるわねぇ!本当あなたたち、キュンキュンさせてくれるじゃないの!」

 

 

 

「っ、もう!ぺぺ!!いい加減にして!!」

 

 

 

顔を真っ赤にして抗議するオフェリア。

傍から見ても、すごく照れているのが伝わってくる。

久しぶりに見るそんな光景に、数日前の日々を思い出していると、続々と他の仲間も集まって来た。

 

 

 

「いや、そうやって照れるオフェリアも、からかうペペロンチーノも見るのは数日ぶりだ。いや、数年ぶり、なのか俺たちは」

 

 

そう言って近寄ってきたのはベリルだった。

後ろには芥が、相変わず仏頂面で本を片手にしている。

 

 

 

「あなた、空気読めないって言われない?ベリル・ガット」

 

 

 

「何言ってんだ芥。そこに幸せそうな空気があれば、取って食うのが人ってもんだろう、なぁ?」

 

 

 

「知らないわよ、そんなの」

 

 

 

「ベリル、芥。久しぶりだね。君の言う通り、こうして会うのは数年ぶりなのか。ふふ、何だか不思議な感覚だね」

 

 

確かに、今まで眠っていた私たちにとって今の光景を目撃したのは数年ぶりなのだろう。

最早思い出す、というよりは、思い馳せる、の方がしっくりくるくらいだ。

 

 

 

「ほらな、こうして俺のジョークを真に受ける奴だっているんだよ。この場じゃ寧ろこいつが一番空気を読めないだろう!」

 

 

 

「ジョーク、だったのか?今の。でも事実なんだし仕方ないだろう」

 

 

 

「ははははは!いや、そういう奴だよお前は!元気そうで何よりだぜ、リーダー!嬉しくって涙が出ちまう!」

 

 

そう言ってベリルは私の肩に腕を回してくる。

そしてその光景を、他のメンバーは何とも形容しがたい顔で眺めていた。

こうした彼の陽気なところを私は気に入っているのだが、どうやら他のメンバーはそうでは無いらしい。

 

 

 

「?、ありがとう。君も元気そうだ。それに、芥も。相変わらずのマイペースさだね」

 

 

 

 

「………そりゃどうも。あなたこそ相変わらずね。寝ぼけてるんじゃないの?」

 

 

 

そしてこちらも変わらず、本から一切視線を離さない芥。

そんなにその本面白いんだな、言ってみれば貸してくれるのだろか。

 

 

 

「はは、手厳しさも変わらないな」

 

 

 

「ヴォーダイム」

 

 

 

すると、そんな団欒の空気の中、鋭い声が部屋に響く。

 

 

 

「デイビット!君も元気そうだ!どうだい、体の方は?」

 

 

 

 

「問題無い、お前も壮健そうだな。……爆発に一番近かったのはお前だ。恐らく、最も傷が深かっただろう。にも関わらずそうして動いていられるのは、日頃の鍛錬の成果だな」

 

 

 

 

「そうだったのか。流石、良く見えているな。でも、私がこうして動けているのは、私の力では無くカルデアの医療術のお陰だよ。別に、私は特別な事を何もしていない」

 

 

 

 

「何言ってんだ、お前は充分に特別だぜヴォーダイム。俺やカドックみたいな三下からしたら、そんなの皮肉にしか聞こえやしねぇ」

 

 

 

「ベリル。やっぱりあなた、空気読めてないわよ」

 

 

 

後ろの方で再び笑い声が聞こえる。

穏やかな日々に、また帰って来たんだと実感してしまう。

 

 

 

「いや、確かにお前の言う通りだ。今の発言は撤回しよう。お互い、無事で良かった」

 

 

 

「ああ、その通りだ」

 

 

 

そう言って彼の肩に手を置く。

彼とは話が合う。

少なくとも私はそう知覚していた。

魔術世界に置ける始まりと限界点、即ち零から生まれ無に帰るもの。

人の秘めた可能性、善と悪、それら整合性と相対した感情と行動との関係。

果てには各国に残る神話体系や、空想の生物の実在性など。

彼は私の知らぬ事を知り、私は彼に知らぬ事を与えた。

カルデアに来て、これ程まで有益な話が出来たのは彼以外にはいないだろう。

相変わらず、彼の表情に大きな変化は無いが、ここまで話してきた感覚で分かる。

きっと彼も、思いは私と同じだったのだろう。

 

 

 

「三下と言えばよぉ。カドックはどうした?あとあいつだけだろ、出て来てないの」

 

 

ベリルが思い出したかのようにそう口にした瞬間、空いていなかった最後のドアが勢いよく開いた。

 

 

 

「僕をアンタと同じ括りにするのはやめろ!!クソッ、目覚めの悪い」

 

 

 

 

出て来たのはカドック。

彼も私たちと同じように目覚めたはずだったが、人理修復の話を聞いてもう一度倒れていた、と聞いている。

 

 

 

「お、なんだなんだ〜!居たのかよ、兄弟!そんだけ悪態つけりゃあ大丈夫そうだな」

 

 

 

「おはよう、カドック。元気そうね、安心したわ」

 

 

 

仲間たちも次々とカドックの無事を喜ぶ。

けれど、当の本人は生還を喜ぶ、という具合では無さそうだった。

 

 

「そうでも無いさ、目下腹痛と頭痛で悶えそうだよ」

 

 

 

「確かに、顔色そんなに変わってないわねぇ」

 

 

 

そう言えばダ・ヴィンチが言っていたな。

人理修復の話を聞いてカドックがまた倒れたと。

 

 

 

「はは、まぁいいさ。待たせて悪かったな」

 

 

 

恐らく、彼自身その事で私たちの時間を取らせたことに後ろめたさがあるのだろう。

ならばここはリーダーとして、彼のフォローをしてやるのが人情というものだ。

 

 

 

「やぁ、カドック。災難だったね。どうだい、午後の午睡は。最悪の気分、って顔しているけど」

 

 

 

「エリートってのは真顔で煽ってくるから怖いね。時計塔で権力闘争してたら自然と身に付くのかい。と言うか、なんの話だ?」

 

 

 

「ん、ダ・ヴィンチに聞いたんだ。君が驚愕の余り気絶した、ってね」

 

 

 

「んなっ!!」

 

 

 

沈黙。

日頃から黙る事の多い芥やデイビットだけでなく、あれだけ饒舌だったぺぺやベリルですら、目を丸くしてしまう。

何かおかしな事を言っただろうか。

心配したつもりだったのだが。

 

 

 

 

 

 

「ぶほぉっ!!………失礼、ごめんなさい、カドック」

 

 

 

「っ、くっはははは!そりゃそうだよなぁ!あんなん信じられねぇよなぁ!」

 

 

 

すると皆、吹き出したかのように笑いだした。

状況についていけてないのは私一人。

 

 

 

「皆、なんで笑ってるんだ?」

 

 

 

「アンタが余計な事言ったからだろ!何で知ってる!?まさかあの爆発まで含めて、僕の醜態を拝む為の策だったのか!?エリートってのは暇の潰し方まで一々平民を見下さないとやってられないって言うのか!!答えろ、キリシュタリア・ヴォーダイム!!」」

 

 

 

怒り心頭、寧ろ頂点、とばかりに捲し立てるカドック。

しかし私としては、何故彼が怒っているのか分からない。

増してや善意からの本気の心配だった為、彼の心情を全く察す事が出来ない。

 

 

「え、いや、私は君を心配してだな、と言うか、皆知らなかったのか?」

 

 

そう言って仲間たちの方を見やる。

きっと優秀な彼らなら、完璧に私のフォローをこなしてくれるはず……!

 

 

しかし

 

 

 

「いや全く。今初めて耳にしたな」

 

 

なんて真顔で言うデイビットに。

 

 

「ぷっ…………まぁ、私には関係ないわ」

 

 

なんて笑いを堪える芥に。

 

 

「ヴォーダイム、今回ばかりはあなたが悪いわね」

 

 

とトドメを刺してくるペペロンチーノ。

 

 

 

 

「なんでさ!?」

 

 

 

「どこが聞いたような言葉で誤魔化すのはやめろ!」

 

 

最後の希望まで断ち切られ、遂に追い詰められる。

どうやらあれはダ・ヴィンチが私だけに口を滑らせただけのようで、つまりあの珍事を知っているのは私だけだったようだ。

そりゃあカドックも怒る。

けど、多分悪いのは私じゃない、ダ・ヴィンチだ。

それを何とか伝えなくては。

 

………さて、どう言ったものか。

 

 

「いや、待て待て待ってくれ誤解だ。私も見ていた訳じゃない聞いただけだ。それに、私は単に君の心配をしてだな」

 

 

とりあえず真実を告げるしかない。

それにちゃんと心配した、と取り付けて、悪意など無かった事をアピールせねば。

 

 

 

「は?聞いた?………誰にだ」

 

 

 

「ダ・ヴィンチ。レオナルド・ダ・ヴィンチ。今そこで聞いているだろう、我らの誇るべき先人だ」

 

 

 

『ぎくぅ!』

 

 

 

「ファック!!……おい、ダ・ヴィンチ!此処にはプライバシーってものは無いのかよ!」

 

 

 

『ごっめぇ〜ん☆君へのアナウンス担当があんまりにも慌てふためくものだからつい、ね。正直私も、もっと空気の読める人に零すべきだったと反省しているよ〜』

 

 

 

「反省すべきはそこじゃねぇけど、確かにそこも反省すべきだな」

 

 

 

「待ってくれベリル。今さらっと私の悪口言わなかったか」

 

 

 

「あ?何言ってんだ。これは友人としてのアドバイスだよ!」

 

 

 

………そうか、ならいいか。

 

 

 

「クソッタレ、死者が生者の秘部を暴くなんてとんでもないな。アンタ、一回座に還って、人との付き合い方をミケランジェロにでも聞いてくればいいんじゃないか?」

 

 

『ほーーう。私の前でその名前を出すとはいい度胸だねぇ、カドック・ゼムルプス。でもざーんねん。私に出来ない事があいつに出来るわけ無いから変わらないよー。なんてったって私は天才だからね』

 

 

「妙に説得力あるのが腹立つな……」

 

 

以前怒りが収まらないカドック。

その矛先こそダ・ヴィンチの方に向いたが、これではいつまでたっても本題に進めない。

さらっと心配して直ぐに進めるつもりだったんだがなぁ…

 

 

「えーと、全員そろったことだし、そろそろ説明が欲しいんですけど、いいですか?ダ・ヴィンチ」

 

 

そんな私の心象を察したのか、オフェリアが声を上げてくれた。

 

 

「っ!……………あー、その悪かったな。余計な時間を取らせた」

 

 

そこでカドックも気付いたのか、溜飲を下げながらも渋々下がってくれる。

彼としてもこの先の話を聞くのは心待ちにしていたのだろう。

 

 

 

 

 

 

『おっと、確かにその通りだ。お寝坊さんもやって来たところだし、そろそろブリーフィングを始めよう。対象は、そう。人類史上類を見ない未曾有の危機、魔術王による人理焼却』

 

 

 

その言葉を聞いて、部屋中にあった温かな空気が一気に冷えていくのを感じた。

無論、私も例外では無い。

ここに集うのは天体科君主、マリスビリー・アニムスフィアに見出された優秀な魔術師ばかり。

そして我らは、この危機から世界を救う事こそを使命としていた。

それを一体誰がどう解決したのか、納得のいく説明が無ければ引き下がることは出来ない。

 

 

「は、成り上がりの英雄の冒険譚か。いいねぇ、楽しみだぜ全く」

 

 

「ベリル、さっきから口が悪いわよ。何イライラしてるの」

 

 

「そりゃあ悪かったな。何でもないよ、気にすんな。ただ……そうだな。お気に入りを奪われちまったんだ。少しは妬いたっていいだろう?」

 

 

「…………………………そう。難儀ね、あなたもあのコも」

 

 

全員が着々と席についていく。

それぞれに用意された席の前には既にタブレット資料が置かれていた。

皆がそれを手にしたところで、照明が落ち、正面のスクリーンに青白い光が浮かぶ。

 

 

 

『手元の資料と、正面のスクリーンに映るこちらで観測できた範囲での映像を踏まえて説明していく。あと悪いが、説明中に質問は許可できない。というか、許可していればキリが無い。適宜パートに区切ってあるから、そこでその都度質疑を行う。理解してもらえると助かる』

 

 

 

「あぁ、問題ない」

 

 

 

『よろしい。では始めよう。人理修復、前代未聞の聖杯戦争を体一つで駆け抜けた、人類最後のマスター、藤丸立香の話を』

 

 

冠位指定(グランドオーダー)、「」立証、立説を開始する』

 

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