やぁ!はじめましてだ!俺はアイト、『剛速の逃亡者』って呼ばれてる!え!?今何をしてるかって!?見りゃわかんだろ!全力で逃げてるんだよぉ!!全くどうしてこうなるかなぁ!?いやさ?確かにロクな下調べもしてないし用意もしなかったけどさぁ!?これは酷すぎませんかね!?森だよここ!?幾ら俺が走り慣れてるからってこれは酷いよ!?もう大分走った感じあるんだけどさぁ!?全然撒ける気配無いんだけど!?いやある意味しょうがないと思うよ!?だって後から追いかけて来るのは鼻が良く利く四足歩行獣に視力がハンパないフクロウ種を始めとする鳥獣、極め付けに音を感知する能力を買われ国でも良く使われる地中生物ときたもんだ!馬鹿じゃねぇの!?クソがぁ!!死ねと!?神は俺に死ねと言ってるのか!?死ぬ訳ねぇだろバァァカ!!!そら見ろ!俺は森を出て目的地はもう目と鼻の先じゃボケェ!!ザマァみろや!!
はぃ、アイトです。えーただいま、何処かの取り調べ室に入れられています、はい…いやふざけんなよ!こっちは被害者なんだが!?危く死にかけた方なんだがな!?…え?何?君のやった事は一歩間違えば大事故になる所だった?高名な冒険者がいたから良かったものの、最悪の場合街に入られ最悪の事態が起きる可能性もあった?
…はい、反省しております。いえ、何も暴言など吐いておりません…口では(ボソッ
ん?ああイエイエナニモイッテナドゴザイマセン、逃げるだけが取り柄な私は何も言ってなど御座いませんとも!
アイトです。あの後無事に不起訴になりました。ええはい、出所じゃ無いです。不起訴です、ここ大事。…で、ええと、なんだっけ…ああそうだ。なんでここが目的地かだったな、大丈夫、求められて無くても話す。なんでも最近黒目と黒髪の特徴的な人間が世に蔓延ってるらしくてな。いやはびこると言っても決して害を与えている訳じゃ無い。寧ろ俺みたいな奴は感謝しなけりゃならない存在なんだぞ。山や道を開拓し、さっきみたいな人に危害を加える獣を退治してくれる有難い存在だ。しかも、全く未知で高度な技術や知識を与えてくれる奴もいるらしくてな!?例えばこの靴!服!そして何より有難いのはひざやひじ、そして頭を守ってくれる装飾品だ!凄いぞこれは!軽い!つけ易い!そして何より壊れにくい!いやぁ、これらのお陰で洗濯も長期間しなくていいし寒くなりにくいし暑くもなりにくいんだ!もー黒髪黒目様様だ!!…おっと話が逸れた。まぁそんな御神体にまでなりそうな黒目黒髪がこの場所に来たんだそうでな。折角だから一目見に来ようかなと。まぁ狙って会えるもんでも無いから時の運って事なんだがまぁ…見れるなら見てみたいよなぉと。
アイトです!いやぁまさか、まさか会えるとは思いもよらなかった!いやこの街も広いからさ!会える確率なんてそうも無いと思っていたらまさか会えるとは!も大興奮よ!しかもこの人!俺を知ってるみたいでな!?俺が森から獣共を引き連れてきた所を一番に発見したっていう…はい、すみませんでした。とまぁ詰まる所この人があの大量の獣達を相手に無双した高名な冒険者だという…ホント仕事増やしてすみません!!
最高の時間だった!あの人、ほかの黒髪黒目とも仲が良いらしくてさぁ!更に『剛速の逃亡者』の名前も知ってるとはほんと嬉しい限りだった!ほら、サインあるんだぜ?羨ましいだろ〜!この靴の二重底の所にホラ、『坂元 清』って!この漢字?て言うのがあの人達の名前らしくてさ!凄いんだぜ!?たった一文字に色んな意味が入ってる!今じゃいろんな上の人達がこの漢字を使ってるんだ!いやぁ〜感謝してもし足りないな!
「…じゃあ、僕がさっき会った筋肉の塊みたいな人が、あの『剛速の逃亡者』だったってこと?」
「筋肉の塊って…いや、確かにそのくらい無いと『剛速』なんて速さは出せないか…」
何処かの宿泊施設の個室に、数名の男女が集まって話をしている
「なぁ、なんでわざわざそんな奴の話なんてしてるんだ?ただの筋肉の塊だろ?俺達にとっちゃそんな奴…」
「それがそんな奴程度じゃ無いかもしれなくなる事案が発生したのよ」
言葉を切られた男が不機嫌な顔になる。だが、そこには少しばかりの興味が見え隠れしていた
「さ、話して」
女がここまで会話に参加しなかった男に話を振る。それで残りの三名がその男に顔を向ける
「ああ、清の話を聞いた所、土竜に似たような魔物や、鳥のような魔物、更に犬科に似た魔物が同時に一つの獲物に向かっていた。更にそれだけでは無くより大きな、それも一切の接点が無い種類の魔物も彼に向かっていたと言う」
「それが何か問題あるのか?」
先程話を切られた男が話をしていた男に質問する
「言うまでも無いと思うが、大アリだ。理由は生態系にある」
そこまで言われて、始めの方に清と会話していた女が気付く
「そうか…食物連鎖…!」
その言葉に神妙な顔で頷く
「正解だ。そこまで多種類の魔物が集っていたなら、途中で追い掛ける方が崩れ、争うはずだ。しかし清の話を聞く限り、それは無かった。全ての魔物が逃亡者を狙っていた。これはおかしい事だ」
沈黙が続く、そして更に話を切り出す
「そして更におかしいのは逃亡者の身体能力にある」
その言葉に、今度は清が反応する
「!そうか!鳥や四足歩行動物に、人間が速さで敵う筈が無い!」
「正解だ。幾ら筋肉の塊でも、街まで逃げる事、ましては逃げ果せる事など不可能な筈だ。しかし現に彼、逃亡者は森を走り抜け、そして街まで辿り着いてみせた。我々転移者でも、そこまでの事が出来る者は珍しい」
「じゃあそいつも転移者、もしくは転生者だって言うのかよ!」
「恐らくそれも違う。少なくとも清の話では黒目でも黒髪でも無かったそうだ。そうだろう?清」
「あ、うん。金色の目と、オレンジに近い赤の髪をしてた」
「…ふむ、そんな特徴的な人は、外国人でもそうはいない。やはりこの世界の人間だろう」
…その後も議論は続いたが、結局答えは出ないまま、床についた五人であった…
おはようございます!あー何時にも増して爽やかな朝だ!さて、じゃあ次の目的地を決めよう!さて、地図地図…と、あった…が、しまった。もう一年前のものか…あの人達が来てから、一年でほんと色々変わるからな。新しいのを調達しないと。
…しかしまぁ、安くなったなぁ、地図。紙も量産可能になって、測量も正確、縮図も正確ときたもんだ。さてさて、一年で何処まで変わったか…
はぁ!?もうここ道出来てたの!?うわぁあの時の山越えの苦労は一体…と思ったら今度はこの村潰れちゃってたのか…すっごく良い人達だったんだがなぁ…せめてご冥福をお祈りしつつ、生きてる事を願うか…
うま!うっっま!!胡椒ってこんな肉を美味くしてくれるのか!!そしてこのパン!ふんわりしてほのかに甘い!何よりこの米とか言うの!最高過ぎない!?あの人達が来てほんと生活が豊かになった!ありがとう!!黒い人達!!…ちょっと表現考えるか…
あれから街を彷徨いて、食料やその他消耗品を買い込んだ。もう袋がパンパンだ。だがこれを背中に背負えるのが良い!汗は染みるが、手で持つより動き易いし何より楽だ!最高だね。じゃ、ありがとう!楽しかったよ!バイバイ!!
いやだからどうしてそうなるんだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!??????まだ街から出てちょっとだぞ!?門番の人達びっくりして腰抜かしてたぞ!ほんと無粋な獣達だよほんと!!!!だっ、誰かーーーー!!!!!たーーすーーけーーてーーーーーー!!!!!!!!
…酷い目にあった…。食糧も消耗品も袋も大丈夫みたいだな。しかし、なんでこんな目に…朝の爽やかを返せっての!…まぁ、八つ当たりしてもしょうがない。兎に角次の目的地までダッシュだ!走るぞー!!
「やっぱり、何故か途中で魔物達が争わない。それどころか、普通の動物や植物があっても目もくれない。これは異常よ」
「何よりもおかしいのはやっぱり、彼自身の能力。体の発達もさる事ながら、一番は走り方。あんなに精錬された走りを見た事がない。…ある意味恐ろしい」
二人の話を聞いた男は、静かに、しかし鋭く逃亡者を見据えていた
「貴方のその全て…必ず暴いてみせる…!」
深く決意した男の目であった…