「────!?」
少年は、バネにはねられたように勢いよく上体を起こす。
「はぁ、はぁ」
少年は、今自分がどこにいるのか確かめるため見渡す。目に映るのは、至る所に巻物が散らばっており、それ以外は生活に必要最低限な物にしか置いてない──見慣れた自身の部屋だった。
(……ど、どういう事だ)
「うっ!」
突如両目に激痛が走し、思わず両手で押さえつける。抑えていた手の隙間から生暖かい液体が流れ出る。
それはすぐに理解した。それは自身の血だった。
自身にかける毛布をずらし寝台から飛び起き慌ててながらも部屋を退出し、洗面所にある洗面台の鏡で自身の姿を写す。
少年の瞳には、赤く光り、三つの勾玉模様とは違い、三つの影が渦を巻くような形に変わっていた。
「こ、これは」
「────“万華鏡写輪眼”」
妙に威厳と落ち着いた声が少年の耳に届く。声の方に振り向くと何時の間にかドアが開いており、そこに立っていたのは着物を着た三十後半くらいの年をした男性だった。
「開眼したようだな……写輪眼と同じように解けば元に戻る」
声の正体は、少年の父“ヤヨイ”だった。彼の言われた通りに少年はいつものような感覚ですると、瞳は本来の黒目に戻った。
「レイ、居間に来い。話がある」
「……?」
普段のヤヨイは、修行以外はのんびりしていたがその面影はなく、いつも無く真剣な表情だった。
「もう察していると思うが、話というのはお前の万華鏡写輪眼についてだ」
「……その言い方だと父さんの仕業?」
目を半目にし、レイは言う。ヤヨイはレイの言葉を聞き、ふと口端がつり上がった。
「ふっ……ああ」
「…………んであの夢……違うな、幻術?」
ヤヨイはそっと目を閉じる。目を開けると、風車のような風魔手裏剣のような形に、その周りに三つの穴が空いた勾玉模様が配置された瞳がそこに写っていた。
「俺の万華鏡の瞳術の一つである“月読”をお前に仕込んでおいた」
「……?」
「昨晩見せただろ。その時だ」
「……どうやって」
「”転写封印”という術知ってるか?」
(……確か瞳術の効力を写輪眼に封じ、任意の条件下で発動するように仕掛ける術だったか? ……なるほど)
「……そういうことか」
「転写封印で俺の月読の瞳力をお前の写輪眼に封印し、意識を失った時しばらく時が経つと発動するよう仕込んだ」
「…………」
「ここまで来たら、分かるだろ?」
ヤヨイはそう言いながら目を閉じ、目を開けると元の黒目に戻っていた。
「……ああ。月読は”実際に体験していると錯覚させる術”。要するに疑似体験で無理矢理万華鏡写輪眼を開眼させた」
レイは憎むような恨めしいそうな目で、ヤヨイを見る。
「正解」
「……何故こんな事を」
「それは……」
「……それは?」
「…………今は言えない」
「……何だよそれ」
「いつか話す。でも力は手に入れて良かっただろ?」
「……」
「ま、現実では亡くすなよ。そのために疑似体験で開眼させたのだから」
「……ああ。何が何でも俺が守ってみせる」
「それと忠告しとく、万華鏡写輪眼を使えば使うほど視力は低下していき、やがて最後は失明することになるから使い方には気を付けろよ」
「……ああ」
「さて話は終わりだ。戻っていいぞ」
レイは腰にかけていたソファーから立ち上がり居間から出ようとしたその時に。
「……あ、待てレイ」
ヤヨイの呼びかけに止まる。
「?」
「お前明明後日は、”アスタリスク”に行け」
「……唐突だな」
「俺が手続きしてやる。何処がいい?」
「……正導館がいい」
「何でだ?」
「……なんとなく?」
*
飛雷神の術で故郷に帰ってきたレイとヤヨイは、縦三メートル、横二メートルくらいの幅をした扉で大きな門の前に立っていた。その扉には、右にうちわのような形をした家紋と左に金剛杵のような形をした家紋が描かれていた。
「……」
「帰って来たな」
レイはヤヨイの言葉に無言で頷く。
故郷は森林に囲まれていて、うちは一族の村であり、千手一族の村でもある。
「……」
「俺が印を結ぶとしよう」
ヤヨイは扉の前に立ち、複雑で長い印を結び始めた。結び終わると、閉じていた扉が徐々に開きだした。
「……」
「よし、開いた。入るぞ」
レイとヤヨイは、扉をくぐり抜ける。
「お、レイにヤヨイさんじゃないですか。遂に帰ってきたんですね」
レイとヤヨイに話し掛けて来たのは、服の背中にうちはの家紋を入れた、三十前半くらいの歳をした男性だった。
「久しいな」
「……お久しぶりです」
「あれから五年経ったか? レイは背が伸びたなー」
「……どうもです」
「貴方は……変わってないですね、ヤヨイさん」
「うっせ」
「……父さん、早く戻らないと」
レイはヤヨイにそう呼びかける。
「おっと、そうだった。じゃ、俺とレイはここで」
「おう、またな」
「……失礼します」
レイとヤヨイは男性と別れ歩き出し、雑談しながら帰えっていると目的地にたどり着いた。
「ただいまー」
「……ただいま」
「お帰りなさい。あなた、レイ」
そう玄関で迎えてくれたのは、エプロンを着ていた女性であり、その女性はレイの母である“ユウカ“だった。
「ああ、ただいま。ユウカ」
ヤヨイはユウカに微笑み、抱擁する。
その光景に見ていられなかったレイは、気まずく感じ取ったのか靴を脱ぎ、そそくさ逃げるように階段へ上っていった。
「ははっ! あの反応、昔のユウカとそっくりだったな!」
「むっからかわないで下さいよ。あなた」
ユウカは頬を染め、ふて腐れるように言う。
「ま、そういう所含めてお前を愛しているがな」
「……わ、私もあなたを愛しているわ」
「ありがとな」
そそくさ逃げるように行ったレイは、実家の私室に足を踏み入れ、吐息をする。
(……全く、父さんと母さんは相変わらずの仲が良い夫婦だ)
そう思いながら、背中にからっているリュックを下ろす。そして懐から巻物を取り出し、それを広げ、印を結び巻物に手をかざす。
「……口寄せの術」
出てきたのは、先程巻物に封じていたベッドだった。口寄せしたベッドを部屋の隅に移動させ、そのまま力が抜けたようにベッドに倒れる。
万華鏡を開眼した反動により、身体と精神に大きな負担がレイにかかっていた。
(……万華鏡の開眼した影響がここまで大きいとはな)
「……まあ、その内回復するだろ」
レイは重たい瞼を下ろし、再び眠りについた。
*
レイの両親であるヤヨイとユウカは居間にいた。
ユウカはローソファーの上にとんび座りで座っており、その膝に頭に乗せて体を横にしているのはヤヨイだった。所謂、膝枕というやつだ。
「……」
「時空間忍術の様子はどう?」
「ああ、恐ろしい程に成長して行ったな。今じゃ時空間忍術をあそこまで使いこなせるのはレイしか居ない」
「……あなたでも?」
「ああ、それに時空間忍術だけではないぞ。単純の速さでは多分うちはと千手の中……いや全人類含めてあいつは世界一だ」
「……流石に、それは言い過ぎじゃないの?」
「ははっ! 流石に世界一は言い過ぎた。でもこれだけは確信できる」
「……?」
「あいつは、うちはと千手の歴代最速の男だという事」
ユウカはヤヨイの言葉に目を見開き、驚く。
「まだ詰めが甘い所もあるが」
「……時々、動きが単純な時がある事かしら」
「流石剣術の達人。あいつは、焦ると攻撃が単調になるんだよな」
ユウカは剣術の達人である。それはもう天賦の才能の持ち主であり、剣術ではうちは最強と言われている程の実力者だ。
「それについては、私が言っておいたわ」
「ん? だから日が経つたびに焦る回数が減っていたんだな」
「ええ。私が剣術を教えているのよ? 焦りは最適な判断が出来ないからね」
週1に実家に帰ってくるレイにどうやらユウカが剣術を教えていたようだ。
「レイの精神と剣術の修行はユウカが適任だからな。そっちは任せるよ」
「ふふっ任されました。そういえばあの子はどうしたのかしら」
「寝てると思うな。万華鏡写輪眼の開眼による反動で寝てる」
「!? 大丈夫なの?」
「大丈夫かどうかはあいつ次第」
ユウカは心配するような顔をし、それに気づいたヤヨイは片方の腕を挙げ、ユウカの頬に触れる。
「俺達の息子を信じよう」
「……そうね。私達の子だもんね」
「ふう。よし、この話はここで終わり! …………あ、ユウカお腹が空いたんだけど、飯ない?」
真面目な雰囲気からヤヨイの発言に気の抜けた雰囲気に変わった。
「あなたのそのマイペースは変わらないわね」
ユウカは呆れてため息を溢す。
「どや」
「……褒めてはないわよ」
「ごめんごめん」
カラカラと笑いながら謝っているがどうも反省している様子ではないヤヨイを見て、ユウカは微笑むのであった。
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