「正月には戻ってくるんだろ?」
「……うん、まあ大体そのくらいには」
レイは靴を履き、立ち上がる。
服装は普段着ではなく、星導館学園指定の制服だった。その制服の左胸元には、赤い蓮の花の形をした校章が付けられていた。
「……じゃあ行ってくる。父さん、母さん」
「ええ、行ってらっしゃい」
「おう。行ってこい」
二人のその言葉を聞き、荷物を持ち上げ家を出た。
「……行ったわね」
「ああ」
「ハルトには伝えたのかしら?」
「…………忘れてた」
ユウカはジト目にし冷ややかな目線でヤヨイを見る。
「だ、大丈夫だろう」
「……」
「……すまん」
ユウカのジト目に耐えられなかったヤヨイは謝罪をする。
「……はぁ、まああなたですから」
「え、それで、すまされるの?」
「……怒られたいの?」
「あ、はい。すみません」
*
日はとっくに暮れており、現在レイが乗っている船は、霧が少し残る海上をゆっくりながら進み賑やかなその都市へと向かっている。
「……」
そそびえ立つビルやそれに映る広告、そこには人気のアイドルなどの曲が流れてあった。
「……“シルヴィ“」
その広告を見ると幼なじみであり、今は世界の歌姫と呼ばれる程有名になった少女の呼び名を口に溢す。
(……やっと着いた)
港に降りたレイは背伸びをしながら周りを見渡す。
「……」
こっそりと目立たないように近くにある壁の方に足を運び、壁に手を付ける。
手を離し、壁には五芒星のような形をした“マーキング“が施されていた。
「……よし。行くか」
そう呟きポケットに入れておいた地図を取りだそうとポケットに手を入れるが、ポケットには何も入ってはいなかった。
「……?」
慌てて制服の至る所のポケットに手を入れるが、何もなく、リュックに手を入れ探るが地図は入ってはいなかった。
(ちょっ冗談きついぞ……まさかこんな時に無くすとはついてないなこれ)
「はあ……仕方ない」
後ろの頭を掻きながら珍しく困ったような顔をする。
溜め息を溢し、地図なしで無事に星導館学園の寮へとたどり着くようそっと心の中で願い、足を進めた。
「……ここは」
適当に道を進み気がつくと、今でも崩れそうな建物がそこら中に建っており、人は誰一人もいなかった。
「……迷った」
レイはまた溜め息を溢し、辿ってきた道を引き返そうと背を向けると、どこからか人の話し声が聞こえた。
「……やめ……」
「……おい……ら……押さえとけ」
声が聞こえる方向に急いで駆け込み、様子を覗う。
帽子を深く被った栗色の髪の少女を囲うようにガラが悪そうな人が十人程の男性達がいた。
(うわっ、やばい所を目撃してしまったな……まあ目撃した以上ほっとくのもなんだし、助けるか)
今にも少女に襲い掛かろうとする人達の前に出る。
「ちっ、まさか人がいたとは」
「どうします?」
「無論、排除だ」
「了解」
リーダー格と思われる男性は、部下にそう指示しレイに攻撃し始めた。一人の男性がレイと目を合わせると突然、力が抜けたように膝から倒れる。
瞳には、赤く染まり瞳孔を囲うように三つの黒い勾玉が配置されている──うちはが持つ写輪眼に変わっていた。
「な、何だとっ!? 」
リーダー格は部下が倒れた事に驚く。
(相手するのも面倒くさいし、幻術で眠らせるか)
「…………はぁ……取りあえずあんたら眠っとけ」
男達に聞こえるように言葉を発し、男達はレイの目を合わせると少女を除く全員がバタッバタッと倒れ始めた。
そんな倒れていく彼らを冷ややかな目で見つめ、この場から立ち去ろうとした時、少女から呼び止められる。
「ま、待って!」
「……」
少女の呼びかけに進めていた足を止めた。
「あの、助けてくれてありがとう。何かお礼をさせて」
「……いや、大丈夫なんで」
そう言い立ち去ろうとするレイを止めるかのように少女は彼の袖を持つ。
レイは一度少女に振り向き改めてて姿を確認する。
丁度雲に隠れていた月は、何時の間にか出ており、月光が2人を照らす。
少女は息をのむほどに整った顔立ちをしており、見間違える筈がない幼なじみの顔をしていた。
「えっ、“レイ君”?」
少女はレイの顔を見て驚いた。
「……シルヴィ?」
レイは幼なじみの愛称で少女に呼ぶ。すると少女は目を目一杯見開いたと思えば、目に涙を溜めレイに勢いよく抱きつく。
「! レイ君!!」
突然抱きつかれたレイは少し慌てるが、念の為少女に確認をとる。
「……シルヴィなのか?」
「うん! レイ君の幼なじみのシルヴィアだよ」
「……そうか。久しぶりだな、シルヴィ」
抱きついている彼女を拒絶せず、昔にやったようにそっと背中に手を回し、片方の手は手慣れていたかのように頭の方にやり撫でる。
「!?……うぅ、ひっぐ、……レイ君~」
我慢が出来なかったのかシルヴィアは号泣し、レイの胸に顔を押し付ける。
「……」
そんな彼女に泣いている子供を慰めるような手つきで撫で続ける。
「会いたかったよ~!……うえぇん! レイ君~!」
「……ああ」
「ミナト君! ミナト君!」
シルヴィアはレイの名前を嬉しそうに連呼しながら、より一層強く抱き締める。
「えへへ」
何時の間にか泣き終わり、もの凄く幸せそうな顔でレイに頬ずりをする。
「……甘える所は相変わらずだな」
「だって、レイ君を見るとつい甘えたくなるんだもん。それに五年ぶりに再開したんだからその分甘えても良いよね?」
「……」
ミナトは無言で頷きシルヴィアはさっきより甘える。
そんな世界の歌姫と呼ばれる彼女は、人気が高くファンは大勢いる。もしこの場面を見られたらファン全員からの殺意を浴びることになるだろう。
「えへへ、レイ君~」
(アスタリスクに来て、地図を無くしたと思えばまさかシルヴィと此処で再開するとはな。運が良いのか、悪いのか……まあ今はこの甘えん坊の相手でもするか)
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