「……落ち着いたか?」
「う、うん。ごめんね」
「……いや、こんな事で謝るな……そういえばその髪は能力か道具かで変えてるのか?」
「うん」
シルヴィアは帽子を取りヘッドフォンを耳に装着すると、栗色の髪から美しい紫色の髪に変色した。いや写輪眼で見る限り、そう見せただけのようだ。
その姿にレイは、思わず見とれてしまう。
「……暫く見ないうちにまた綺麗になったな」
真っ正面からその言葉を言われたシルヴィアは鳩に豆鉄砲を食らった顔をしたかと思えば顔が真っ赤になり俯く。
「も、もういきなりはずるいよ。でもありがとう」
シルヴィアは顔を上げ笑顔を向けると、レイはなにかを押さえ込んでいたもの溢れ出すような感覚に襲われ目頭が熱くなり何かが頬につたう。
(ああ、この笑顔だ。俺が守りたかったものは大切な人が見せる心の底から笑っている明るく眩しい笑顔だったんだ)
「み、レイ君、どうしたの?」
シルヴィアは心配そうに顔を不安そうにさせ、レイに呼びかける。
「? 何が」
「レイ君、泣いてるよ?」
「……え?」
(しまった!?)
ミナトは自身が泣いている事に気づいた。
(あの疑似体験であの三人が自身よりも大切である事を身をもって気づかされた……そうだ世界に“絶望”し、皆を殺した奴らに殺意が湧きそして“憎んだ”)
「──君──」
(は? どういうことだ。確かにあの時は絶望と憎悪……負の感情に吞まれる程大きかった……なのに……なのに今は、それが余り……ない? いや薄くなっている?)
「レイ君!!」
「!? あ、ど、どうした?」
「だ、大丈夫? 顔を真っ青だよ?」
「……あ、ああ、大丈夫だ」
レイは一旦、この薄くなっている負の感情について考えるのをやめる。
(そんな不安そうな顔をしないでくれ。お前には笑っていて欲しいんだ)
安心させるようにと優しい手つきでシルヴィアの頭を撫でる。
「ふにゃ~」
シルヴィアは、だらしなく顔を崩す。その顔を知るのは世界でレイしか見せないそんな顔をしていた。
「……さて今は、ゆっくり話でもしたい所だが」
レイは撫でるのをやめ、シルヴィアから少し距離をとろうとするが、離すまいと強く引っ付いているため中々離れない。
「そういえば何でここにいるの?」
「……その事に話したいから一旦離してくれ」
シルヴィアは渋々と不満そうにしながら抱きつくのをやめた。
「それで何でここに?」
「……俺、明日から星導館に転入する事になった」
「!? じゃあ」
「……ああ、また会えるかもな」
シルヴィアはまた抱きつこうとする。レイはシルヴィアの頭を抑え阻止する。
「……まだ、話は終わってない」
「むー」
地図を無くしたと挙げ句迷ってしまった事を説明すると、クスッと可笑しそうに笑いだす。
「ふふっ、そういう抜けてる癖は昔と変わらないね」
「……そ、それで星導館は何処か教えてもらいたいのだが」
レイは歯切れを悪くし、場所を聞く。
「うん、いいよ。なら私が案内でもしようか?」
「……いいのか?」
「久しぶりの再開なんだし、出来るだけ長く一緒にいたいもん」
「……そうか。じゃあ頼む」
「うん!」
シルヴィアは元気よく頷き、レイの手を引っ張りこの場から離れた。
「……そういえばシルヴィは何故あんな所に?」
そう歩いて行く中、レイは何気なくそう聞き出す。
そしてシルヴィアは明るかった表情から暗い表情に変わりながらも答えた。
「…………ウルスラを探しているの」
「……!? ウルスラさんを?」
「うん」
「……俺がいない間に何があんたんだ?」
「あれから、ウルスラに歌や格闘技を教えて貰っていんだけど、ある日突然連絡が途絶えたんだ。」
「……そうか。なら俺を案内するよりもウルスラさんを探した方が──」
「ううん。今は目の前にいる大切な人が優先だよ」
そうシルヴィアは笑顔で返すが、レイは少し顔に陰が生じたのを見過ごせなかった。
「……話聞くぞ」
「いや悪いよ。レイ君には迷惑かけたくないし」
「……迷惑なんて微塵も思ってない。シルヴィが困っていたら何とかしてやりたい」
「! 本当に優しいよね。レイ君は」
「……まあ嫌なら話さなくてもいい」
「そういう所だよ」
シルヴィアは昔の事を思い出しながら懐かしむように、ふふっと笑う。
「?」
れいは、シルヴィアの言っていること訳が分からず首をかしげた。
「うん、レイ君。聞いてくれる?」
「……ああ、その話は誰にも聞かれたくない内容?」
「うん。出来れば」
シルヴィアを人目のつかない路地裏に連れ、印を結び影分身を一体出す。
「影分身?」
「……ああ、案内する必要はなくなった。シルヴィ、悪いが星導館までの行き先を大体でいいから教えてくれ」
「……頼んだぞ」
「……ああ、そっちもな」
そう分身は言い残すと一瞬で消えていった。
「……さて、俺達も場所を移そう」
レイは目に大量のチャクラを送り込み、瞳が三つの勾玉模様が表れ、渦を巻くような形の陰に変形した。
「えっ、その目は」
シルヴィアは考える時間もくれずに一瞬で左目の固有術である神威で神威空間に飛ばし、自身も移動する。
「ここは……それにレイ君、その目は?」
レイの万華鏡写輪眼の左目の固有術である神威によって作られた空間の目の前には、一部屋分くらいの大きさをしたカーペットが敷いてありカーペットの上にはテーブルが置かれ、それを囲うようにソファーやローソファーが設置されていた。
「…………これは、いつか話す」
(この目の開眼したキッカケなんて口が裂けても言えない特にシルヴィと……あの二人にはな)
目にチャクラを送るのを止め、万華鏡写輪眼を解除し、黒眼に戻す。
「……すまないが強引にこの空間に送らせてもらった」
「う、うん。えっ空間?」
「……今は置いといて、そこのソファーでも腰掛けてくれ」
「あ、うん」
「……飲み物はコーヒーでいいか?」
レイは二人分のマグカップにコーヒーを入れながら、そう聞いた。
「うん。ありがとう」
「…………シルヴィ、分かって聞くが探知系の能力は試したのか?」
シルヴィアが魔女であり、その能力が歌を媒介にして自身のイメージを変化させられる。そしてそのイメージを内包する歌を歌えばあらゆる事象を呼び起こせる万能の力ということは知っている。
それなら探知でも可能なのではと、レイはそう考えた。
「私の能力でもある程度範囲を絞り込まないとダメ。原則的に対象範囲によって消費する星辰力の量が変わるからね」
「……そうか」
入れ終えたコーヒーをシルヴィアの方に置く。そしてシルヴィアは礼を言い、マグカップを手に取り口につける。
「ウルスラはアスタリスクに行くって言ってたから、範囲としては問題なかったし──」
レイは、その先のシルヴィアの台詞を予想してたかのように遮る。
「……結果として、反応はあったと」
「うん。でも、どうしてもその先が絞り込めないの。アスタリスクにいるのは間違いないんだけど」
「……だが何故あそこ何だ?」
疑問に思ったことをシルヴィアに問う。
「……ウルスラは……“蝕武祭”に出場してたみたいなの」
「…………蝕武祭?」
「あはは、レイ君はここに来たばかりだから当然知らないよね」
シルヴィアは苦笑いしながらも、レイに分かりやすく説明する。
「蝕武祭は、非合法・ルール無用の武闘大会。ギブアップは不可能で、試合の決着はどちらかが意識を失うか、もしくは命を失うかによって決まるそんな武闘大会なんだ」
「…………そんな武闘大会あったんだな」
「でも蝕武祭を捜査を担当したヘルガ等星猟警備隊によって潰されたんだ」
「……ヘルガ?」
「ヘルガ・リンドヴァル。星猟警備隊の創設者にして、現在も隊長を務める女性の人」
「……そうか」
「話を戻すね。あそこは、再開発エリアは1番有力な場所なんだ」
(……なる程……ん? そんな所に俺は迷っていたのか)
「……蝕武祭に参加していたその人がいたとしたら再開発エリアが一番有力な場所なんだな」
レイは簡潔にまとめ上げる。
「うん。そういう事」
「……この後また再開発エリアで探すのか?」
「……うん」
レイは吐息をし、納得したような顔をする。
「……事情はある程度把握した……もし良ければ探すの手伝うぞ」
「え、でも、流石にそこまでは」
「……」
シルヴィアは、ミナトに真っ直ぐ見つめられ、しびれを切らしたのか。
「……分かったよ。お願いします」
シルヴィアはそう言って、そっと胸に手を当てた。
その言葉から、レイはシルヴィアが本当にその人の事を強く想っていることが伝わってくる。
「……」
シルヴィアはまだ顔を曇らせていた。その顔を見たレイは困ったような悲しみを含めた顔をする。
「……俺も全力で探すからそんな顔はしないでくれ。昔っからお前には笑った顔が凄く似合ってる」
ミナトはそっと頭に手をやり、撫でる。
(小さい頃は、落ち込んでいたこいつににこうやってよく慰めていたもんだ)
「っ、もう本当にずるいんだから」
シルヴィアはそのまま撫でられ口元を緩み、レイの方にそっと抱きつく。
「……ここから出るぞ」
万華鏡写輪眼を発動させ、左目の能力である神威で自身が先に出て、シルヴィアを神威空間から出した。
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