「装備、見に行く前に少し歩こう?」
「は、はいぃ…」
エイナが逃げていった後、腕を組んだ二人はバベルの中を散策する。服を見たり美味しそうな食べ物を買ったりと、本当に恋人のようなデートだった。その間ずっと二人は腕を組んだままで、当初は恥ずかしそうにしていたベルも、嬉しそうに微笑みながら歩いていく。アイズは猫のように体を擦り付けながら、上機嫌に歩いていた。
一時間ほど散策していると、いい時間帯になっていた。
「…そろそろ装備、見に行かなきゃね…」
「…はい」
本来そのために来たはずなのだが、二人とも本当に名残惜しそうだった。最後に満喫するように、アイズは今まで以上に体を押し付け、ベルも比較的ゆっくり歩いて(単に歩きにくかっただけかもしれない)ヘファイストスファミリアの前までやって来た。
アイズは最後にぎゅぅっ、とベルの腕に抱きついてから、名残惜しそうに離れ、店員を呼び寄せた。離れたのは装備を見定めるのに浮かれた気持ちのままでは危ないからだ。
「この人の装備を探してる…予算は1000万ヴァリス、ロキファミリア持ち…」
「あ、はい!わかりました!」
「……?」
店員の反応に、ベルは首を傾げる。
「?どうしたの、ベル?」
「あ、いえもっと…こう、なんで疑問に思われなかったのかと…」
「ああ、そういえば…なんでだろ?」
二人の疑問は当然であり、今まで二人で腕を組んで歩いていたので、アイズが個人的に装備を贈るならまだあり得る。が、ロキファミリア名簿で購入するのに疑問を持たれない、というのはどういうことなのか、と首を傾げたのだ。
理由はいたって単純であり、豊穣の女主人での会話を他の客が聞いていてそれを広めただけである。本来の二人なら簡単に気付くはずなのだが、当時のアイズはベルのことしか眼中になく、ベルはロキファミリアのことを警戒するあまり、周りまで気が回らなかったのだ。
…この場で気づかないのは離れても気づかないうちに浮かれていたからだが。
「さあ、こちらです」
「あ、うん。行こっか」
「そう、ですね、はい」
店の奥へと通されると、量こそそれほどでもないが、素人目だろうと一目で一級品と分かる武具が置かれていた。
「ベルの武器はナイフでいいんだよね?」
「はい、防具は動きを邪魔せず、余り重くないものが望ましいですね」
「それでしたら胸当て、手甲、足甲などの防具に加えヘルメットタイプの兜がよろしいかと」
装備を前にして一気に集中する二人。先ほどまでの浮かれたカップルのような雰囲気は完全に消え去り、一流の戦士としての顔となる。二人の雰囲気が変わったことを感じとり、どういった装備を求めているかを聞いた店員も真剣にアドバイスする。
「うん、ナイフは出来るだけ硬い素材…アダマンタイトくらいのものがいいと思う。今回ベルがナイフを失ったのはナイフの強度不足が原因でしょう?それなら…」
「いえ、でもまだ僕のレベルで行ける階層なら、そこまでの強度は要りません。それよりは防具の方ですね、中層からは属性攻撃が増えると聞きますし…」
「それでしたら外套はどうでしょうか?」
「?外套…ですか?」
「はい、短めのものでしたらそれほど重量もなく、かさ張りませんし、属性攻撃への対策、背後からの奇襲に対する防御にもなります。確かに外套を踏んづけられたり捕まれたりといった危険は有りますが…」
「…それなら大丈夫じゃない?ベルの動きなら中層までだったら翻弄しきれると思うよ?」
「う~ん…そう、ですねぇ…」
「あらゆる状況に完璧に対処出来る防具や武器は存在しませんので…ある程度のリスクは覚悟せねばならないかと…」
「ですねぇ…それなら外套も見せてもらえますか?」
「はい、かしこまりました」
そんな感じで詰めていき、最終的にはそれなりの強度のナイフ、硬いが軽い足甲、固くある程度重量のある手甲、そして属性攻撃と背後からの攻撃に対する対策として短めだが背中全体を覆える程度の外套。そしてかなり軽い素材で作られた鎖帷子と頑丈な革鎧、ヘルメットタイプの兜となった。実は最も高価なのは鎖帷子だったりする。軽く硬く素材で、大きいためだ。
「手甲が重いのは何でなの?」
「僕の力だけだと切りつけるのも刺すのも難しいので、せめて重さを追加することで威力をあげようかと。足甲が軽いのは足を遅くしないためですね」
「…それでは占めて992万ヴァリスとなりますね」
「はい、ロキファミリアに領収書お願いします」
「はい、かしこまりました…包装して配送いたしましょうか?」
「…どうする?」
「配送は無料サービスとなっておりますが…」
「あ、それなら配送で。ヘスティアファミリアで、廃教会がホームになっています」
「はい、かしこまりました」
会計を済ませた二人は再び腕を組み、バベルの外に出る。装備を選ぶ間にとっぷりと日が暮れていて、綺麗な月が出ていた。Lv5の冒険者とはいえ、女性を夜に一人で返す訳にはいかないと、ベルはロキファミリアのホームまでアイズを送ることにした。ちなみに腕は組んだままだ。
「…アイズさん、今日はありがとうございました」
「ううん、私も楽しかったから」
「本当ですか?」
「うん、人生で一番楽しかったかも」
「そう、ですか…それは、嬉しいです」
「うん…ベルは?楽しかった?」
「…はい、とても」
「そう、良かった…」
それきり、二人の間に会話は無かった。しかし、決して気まずいものではなかった。
二人は静かに歩く。オラリオの街の喧騒の中で、静かに、ゆっくりと。やがてロキファミリアのホームである、黄昏の館が見えてきた。
「あ、そうだ。ベル、ミノタウロスの魔石のことなんだけど…」
「あ、はい」
「…今日のお釣り、8万ヴァリスと、私のお小遣いの10万ヴァリスで買い取らせて欲しいんだ」
「え?でもミノタウロスの魔石なんて…」
「私はね、あの魔石が欲しいんだ」
「ベルと、出会えた証、きっかけだから」
「……!」
「だから、ほしいの…ダメ?」
「…いえッ全然、はい…」
「そう、良かった…」
「お礼、してあげる」
「え?」
ーちゅっ
「……!」
「エヘヘ…またね、ベル」
ベルの頬に不意打ち気味にキスをしたアイズは軽やかな足取りでホームに戻っていく。残されたベルは顔を真っ赤にしながらキスをされた頬を押さえていた。
「…ズルいなあ、もう」
「好きになっちゃうじゃないですか…」
はい、というわけでベル君堕ちました。
といって結ばれるのはまだ先です。次回はモンスターフィリア回の導入。さてフレイヤどうしようか…