「ん?なんの騒ぎですか?」
最初に気づいたのはリリルカだった。その騒ぎはコロシアムから響いていた。
「?!あれは…!モンスター?!」
「?!なんだって?!リリ、場所は…、あいや、見えた!でもなんで…!?」
「あっちは確か…コロシアムの方向だ!ベル君どうす…!?ちょっと!」
「神様達は早く逃げてください!僕はあのモンスター達を足止めします!」
「何…!?駄目だよベル君!それに君は…!」
ベルはモンスターの足止めを自ら買って出た。臆病な筈のベルが戦うことを選んだのは、リリルカとヘスティアを連れて逃げることは難しいと判断したからだ。ベルが二人を連れて逃げることは実のところ不可能というほどではない。ただしそれは周りを犠牲にしてようやく、といったレベルのこと。ベルはそんな選択ができなかった。
「大丈夫です!ちょっと足止めするだけです!」
「っでも!」
「神様逃げましょう!リリ達じゃ足手まといです!」
「…!気を付けるんだよ!」
ベルはヘスティアの声に手を挙げて答え、人々が逃げてくる方向に駆けていった。
この判断は、この事件が偶発的に起こったただの事故であれば、正しい判断だっただろう。しかしベルはリリルカ達と離れたことを、後に後悔することになる。
「アイズ!私たちも!」
「うん!」
アイズたちも駆けていく。その姿を見ていた人影には、ついぞ気づくことはなかった。
「くっ、は!」
ベルはまず一番前にいた大きな猿のようなモンスターの股の下をスライディングして潜り抜け、後ろに回ってから背中を登って首を後ろからナイフで貫いた。そのままナイフをねじってとどめを刺した。引き抜いたナイフを正眼に構え、残りの6匹ほどのモンスター達に向き直った。
(見たこともないモンスターばかり…少なくとも十階層以上のモンスターってことになるのかな…最初の一匹は不意を打って倒せたけど他のやつらは僕が現れた瞬間距離をとった…強いな…)
ベルはナイフを構えながら観察し、冷や汗を流す。しかしこの時点のベルの実力であれば問題なく倒せる程度のモンスターだったのだが、ベルの臆病さと、未知のモンスターに対する恐怖から過大評価してしまい、膠着状態に陥ってしまったのだ。もっともそれは時間稼ぎが目的のベルにとっては望むところであったのだが…。ところがこの事件では、いかんせん事情が違う。
ーグオオオオ……
「なっ!?」
大量のモンスター達の遠吠えが、ベルの周囲から響いた。
「なんで…明らかにこっちによって来てる!なにが…!」
ここオラリオにおいて、禁忌とされる行為がある。それは
ーうわああああああ…
「っ悲鳴!?まさか…住人が皆こっちに逃げてきたのか?!そんな…なんで?!」
ベルの言った通り。オラリオの住人たちが、全力でベルのいる方に逃げてきたのだ。これには理由がちゃんとある。普通は住人が一方向に逃げだすことなどありえないが、誘導したものがいるのだ。しかしそんなことはベルにはわからないし、住人にとってもどうでもいいことだった。
「まずい…早くどうにかしないと…!」
その時、逃げてきた住人たちの後ろに、飛び出していくものがいた。
「ヤアアアッ!」
急ごしらえの装備をしてモンスター達を狩っていたアイズである。
「アイズさん!?」
アイズはモンスター達の前に立つと、並みの冒険者では捉えることすら出来ないほどの速度でモンスター達の間を駆けめぐり剣を振るう。ずるり、とモンスター達は倒れこんだ。
「ウサギ君、大丈夫?!」
「え、あ、えっと…ティオナ、さん!」
「呼び捨てでいいよ!それよりもなんか…この事件さ、なんかきな臭いっていうか…嫌な感じする、よね」
ティオナはこの事件に、経験と野性的な勘でなんとなくではあるがこの事件に裏があることを感じ取っていた。
「…はい、なんだか…全部仕組まれてるみたいな…」
ベルは今までの状況から感じ取る。しかし…。
「ま、今はとりあえず!」
「はい!まずはモンスターを!」
「あ、今うちの魔法使いの子がでっかいの準備してるからとりあえず一か所に!」
「わかりました!」
アイズが倒したのはあくまで一方向のモンスター。まだ大量に残っているモンスター達の対応に追われ、この事件の悪意に気づきながらも、後回しにしてしまう。
ティオナ達のモンスターを一か所に集めて魔法で一掃する作戦。これがこの事件の裏の悪意とは無関係な、さらなる波乱を巻き起こすこととなる。
遅れました。難産でした…。私生活で色々ありまして…。楽しんでいただけたら幸いです。