「あ~っ…くっそまだズキズキすんぜ…」
ベートは股間を気にしながら酒を飲んでいた。
「まあ…うん、そこは痛いよね…よく動けたね、ベート」
「ああ…ま、意地だよ、意地」
「え、首じゃなくてそっちなの?」
「そりゃあな…あれも痛かったけどよ、こっち程じゃねえんだよ」
「うん、ティオナ達にも分かるように言ったら…そうだね、むき出しの内臓をぶん殴られるようなもんだね」
「…そんなに?」
「そんなに、さ」「ああ、そんな感じだ」
「うへえ…」
ベート達は豊穣の女主人に戻り、酒盛りを再開していた。ベルはアイズがお姫様抱っこで担ぎ込み、膝枕をして介抱している。余談だがアイズはベルを運ぶ最中ずっと熱視線を浴びせ、口元をゆるませており、ベートがそれを突っ込もうとしてフィン達に止められるという一幕があった。
「それで?なにかわかったことはあったか、フィン。あいにくこっちはさっぱりだった、確かにベートに策を使わせるだけの実力は有るようだが、それがなぜなのかさっぱりわからない」
「ん、ああ。なんてことはないさ、彼は
「?お前と同類?」
「ああ、そうさ…まあ彼の方は
「え?」「団長…?」
「あぁ…。さてアイズ、お楽しみのようだけど、そろそろ彼と話がしたい。ポーションを浴びせて起こすよ。…それとヨダレを拭いた方がいい」
「♥️……はっ、うん、わかった…」
「アイズゥゥ…」「流石にちょっと気の毒…」「ベタぼれだあアイズ…」
気絶しているベルを目にハートマークを浮かべる勢いで凝視し、弛んだ口から涎を垂らしていたアイズにフィンが告げると、渋々と名残惜しそうにベルを見つめて離れるアイズにベートは嘆き、ティオナはそんなベートに同情し、ティオネはアイズに呆れていた(人の事は言えない気もするが…)
「…ん、んん…はっ?!」
「おはよう、ベル君」
「ここは…そっか負けたのか…」
「はっ、ったりめーだ。Lv.1のルーキーに俺が負けるかよ」
「あんな卑怯な手を使ったくせに…」「ねー」
「っせーぞバカゾネス!第一卑怯って言ったらあっちだろうが!」
「え?ああ、まあはい、そうですね」
「…そんなことはない…ベルはそもそもステイタスで負けてる…勝つためになんでもするのは当たり前…」
「うん、そうだねアイズ。そして君の強さはそこでもあるんだろう?」
「え?」「ん?」「どういうこと?」「…ああ、なるほど同類か…」
「君の強さは臆病なこと。戦いにおいて、策を練られるように、相手の動きを読むようにした。相手の動きを読めば策に嵌められるからね。そして選択肢を増やすために体さばきを会得した。選択肢が増えればそれだけ勝率が上がるから。アイズから詳しく話を聞いて確信したよ。ミノタウロスから逃げなかったのは単に逃げることが出来なかったから、だろう?」
「…はい、そうです」
「勘違いされやすいけどね、臆病というのは生存本能に根付いたものなんだ。だから真に臆病な人間は強大なものに対峙したとき、逃げはしない。逃げたって捕まるだけだからね。だからどうにか倒そうとする。あるいは自分を追って来られなくする。卑怯なことが出来る、というのは単にそうしないと生き残れないからってだけなのさ」
「……」
フィンは微笑みながら話す。まるでなにもかも分かっているかのように。
「なんでそんなに分かるのかって?簡単さ、僕が君と同類だからだよ。僕の二つ名は勇者…これはロキに頼んで着けて貰ったんだ。皮肉が効いてるだろう?なめられないように、と着けてもらったんだけどね」
「フィン、それは…!」
「いいんだロキ。彼には話しておきたい」
「あの、フィンさん…」
「いいんだ、聞いてくれ」
ロキとベルの制止にも耳を貸さず、フィンは語る。他のロキファミリアの面々も、自分達の団長の話を、意外に思いながらも聞き続ける。
「さて…僕はね、ベル君。ここに来たばかりの頃はお世辞にも強いとは言えなかったのさ。僕は小人族…こんな小さな身体じゃあろくに戦えなかった。今でこそこの身体を活かした槍術を使っているけれど、そんなものは当時は使えなかったからね。僕がここまで来れたのは、ひとえに僕が臆病だったからさ」
「団長が…?」「そんな…」「…」「フィン…?」
「僕はね、臆病だったから生き延びた。策を練って汚い手を使って、常に最善と思う行動を取ってきた。…僕の親指はね、そんな臆病さの象徴なんだよ。危険が迫っていたら逃げられるように、用意が出来るようにと、身に着いたものなんだ」
フィンは自嘲するように嗤う。自分は臆病だったから、策略を使ったからここまで上り詰めたのだと。
「分かってくれたかい?君と僕は同類なんだよ、ベル君」
「………」
ベルは答えられない。自分よりも遥かに経験を積み、自分よりも弱かったものがここまで上り詰めるのに、一体どれほどのことをしたのか。そう考えるとなにも言えなくなってしまう。
「けれど、君と僕は違う。決定的な差がある。僕なら君と同じ状況になれば、どうにか他人に押し付けようとしただろう。自分が生き残るために、他の誰かを犠牲にしただろう。けれど君はそうしなかった。いや、きっと頭によぎることすらなかった。」
「…それ、は…はい、思い付きませんでした」
そう、あの時のベルは、他人を犠牲にしてしまえば、ミノタウロスから逃げられた。その機会は何度もあった。
「これは君がバカだったから、とかそういう話じゃない。君には立ち向かう勇気があった。そして僕にはそれがなかった。最高の結果よりも最善の結果を取りに行ってしまった。笑えるだろう?勇者…勇気ある者、なんて言われているのに、実際には僕の勇気なんて所詮その程度なのさ。最高の結果に手を伸ばそうともしない、臆病なだけの男なのさ」
誰も、何も言えなかった。
「臆病だからこそ、いざというときに振り絞った勇気は素晴らしい、なんて言う人もいるけれどね、僕の勇気は君に比べれば吹けば飛ぶようなものさ。最善の結果には目もくれず、ただひたすらに最高の結果に手を伸ばす君に比べればね」
「そんなことはありません!」
ベルはフィンの言葉に被せるように、否定した。
「何がだい?僕の勇気は…」
「違います!それだけは、それだけは譲れないんです!貴方ははっきり言えば弱かったんでしょう?!それなのに
「……けれどそれは…」
「最善とか、最高とか!そんなの些細な違いです!」
「そんなことはない!それには!」
「些細なことなんです!手を伸ばす、という行為そのものが、貴方の勇気を証明しているんです!」
「なに、を…」
「だって!貴方は
「それは…」
「僕よりも!下手をすれば誰よりも弱かった貴方が!臆病な貴方が!勇気を振り絞ってダンジョンに潜っているのは何の為ですか?!
「…!」
「貴方は単に、最初から最高の結果を見据えていたから、そのための行動をとってきたから…だから、そんな風に行動しているんです。最高の結果を手に入れる為に、最善の行動を、勇気を振り絞って」
「だから、貴方は臆病者なんかじゃありません」
「貴方は、立派な勇者なんです」
「……ッ!」
ベルはそう言って笑いかけた。ずっとずっと、震えながら、怯えながらも最善の行動をとってきた、勇気溢れる臆病者を称えるように。労うように。
フィンは泣いた。自分は間違っていない、勇気溢れる人物だ、と言われた嬉しさと安堵に。
「…ベル…」
剣姫はベルを見つめる。頬は紅潮していても、今までのような、熱に浮かされたような瞳ではなく、真っ直ぐな憧憬の瞳で。
(そっか…だから、なんだ…ミノタウロスと戦っているのを見て、あんなにも胸が高鳴ったのは。あんなにもベルのことが欲しくて堪らなかったのは)
アイズは自分がベルに対して恋心を抱いていたのを自覚していた。けれどその理由は、自覚していなかった。
(ベルはきっと、どんな時でも勇気を振り絞ってる。あの時ベルが格好良かったのは、勇気に溢れていたからなんだ…)
剣姫は自覚した、己がどうしてベルに惚れたのかを。故に、今までのようなただ求める想いだけでなく、ベルのことを知りたい、あんな風になりたいと、そう思い始めた。
(うん…今なら、自信が持てる。まだ言えないけれど、まだ勇気が出ないけれど…いつか、伝えるよ、ベル)
(私は貴方に、恋をしました)
剣姫は初恋を、一目惚れを、恋に昇華した。
評価に色がつきました。スッゴク嬉しいです。見たとき叫んで隣の部屋の人に怒られました。
はい、というわけでここまで前置きです。次回からアイズさんがベル君にアプローチしていきます。割りとイチャイチャもします。正直今回フィンのパートが多かった…。後フィンに関しては独自設定です。この小説ではそうなんだ、と思ってください
P.S第1話のサブタイトルをへんこうしました
ちょっと修正。確認を怠っていました…