「楽しかったー!」
俺はベッドの上で、つい先ほどまで遊んでいたVRMMOの機械を取ると同時に、感嘆の声を出した。
この手のジャンルに限らず、俺は普段からあまりゲームをしない。しないのだが、近所の商店街で行われていたガラポンによる福引によって最新のハードウェアが当たったのだ。たとえ偶然であれ、手に入れた以上は使わなければ損だろうと思い。少し前に発売された新作ゲーム「NewWorld Online」を購入し、さっそくプレイしてみた。
その遊んだ感想としては、素直に言って「最高!」である。
とても電脳世界とは思えないほどの綺麗な町並みに、自然、生き物(モンスター)は、まさしく別世界であり、ただ見ているだけでも楽しくてたまらない。
あくまでゲームであるため命の危険があるわけでもないのに、こんな冒険ができるのだから本当に買ってよかったと思う。
「あの人にも感謝しないとねえ」
普段ゲームをやらない初心者である俺には当然、一緒にゲームをやっている相手などいない。なので、街中を右往左往して迷っているときに俺は道を尋ねるために声をかけたのだ。もっとも、その時の俺は話しかける相手をNPCだと勘違いしていた。失礼すぎる。
というか、今思うと「俺は何を考えていたんだろう」と思う。仮に相手がNPCだったとしたら、プログラム通りにしか話せない筈だから、道を聞くことなど出来る筈がないだろうに、いくら初めてだとしても浮かれすぎだろう。
とにかく、俺の話しかけた「クロム」さんというプレイヤーが道案内をしてくれて、初心者だということを伝えると少しだけゲームのレクチャーをしてくれたのだ。本当に感謝である。
「あっ、そういえば大楯の装備は人気がないって言ってたっけ? 少し調べてみようかな?」
そういって俺はネットで「NWO」について検索を掛ける。すると、いろいろな情報が出てきたが、公式情報ばかりで、大楯が本当に不人気なのか分からない。
「ん?」
そんな風に思っていた俺は、ある一つの記事を見て興味がひかれた。
それは「初心者応援キャンペーン」という項目にある課金システムである。価格としてはワンコインで購入できる値段であり、ランダムでレアアイテムを一つプレゼントとある。
どんなのがあるのかと思い検索を掛ければ、フォレストクイーンビーの指輪【レア】が当たったという書き込みを見つけた。そのコメントに対して、お祝いや嫉妬のコメントがついていることからよほどいいアイテムなのだろう。
「一回ぐらい、やってみようかな?」
まだ一日であるが、とても楽しませてもらったのだ。学生の身である俺のお小遣い程度ではあるが、課金という形で感謝を示すと同時に、このコンテンツが長く続くように少しでも手助けになったら嬉しい。だが、俺には課金をするにあたって一つ問題がある。
「課金って、どうやったらできるんだろう?」
普段からゲームをやらない俺は、課金のやり方がわからなかった。やり方を調べて、ようやく課金を終えてた俺は、その面倒くささにもう二度と課金はしないと心に誓った。
◆
「えーと、この「購入」マークを押せばいいんですか?」
「ああ、それで出来る筈だ」
一日経った後、俺は再びゲームにログインして、早速ゲーム内通貨を使ってアイテムを購入しようとした。しかし、ここでまたもや問題が発生。
課金はしたが、購入方法が分からない。
おそらく操作ミスをしないようにするために基本操作とは分けられているのだろうが、どうすればいいのかさっぱり分からなかった。
なので、昨日フレンド登録しくれたクロムさんが、ちょうどログインしていることを知ってヘルプを出した。すると、クロムさんが生産職の人がやっているお店にいるということなので、教えてもらった場所に向かった。
そしてリズさんという人が経営している一軒の店に入って、クロムさんにやり方を教えて貰う。なんか昨日から迷惑かけてごめんなさい。それとありがとうございます!
「か、買えました! 買えましたよクロムさん!」
「おう。よかったな、ちなみに何が当たった?」
ようやく買えたことに嬉しくなり声を上げたが、中身をまだ確認していない。
そしてクロムさんだけでなく、何も言わないがリズさんも何が当たったのか気になるようだ。なので俺は早速、プレゼントアイテムを確認した。
「スキル作成機?」
「? なんだそれ、聞いたことないな………」
「私も初めて聞くわね。名前から何となく想像つくけど、どんなアイテムなの?」
「はい、ちょっとまってください。えーと」
俺は「スキル作成機」の詳細を確認する。
スキル作成機
素材を消費してランダムに一度だけスキルを取得することができる(素材が多ければ多いほどレアリティの高いスキルを取得する確率が上昇する)
「えっと、アイテムを使って一度だけスキルが手に入るようです」
「なるほど、アイテムだけどスキルが手に入るのか」
「なかなか面白そうなアイテムね」
そう言われて、確かに面白いアイテムだと思った。しかし、商店街のガラポン、初心者応援キャンペーンと、ランダム要素のある出来事が多すぎないだろうか?
まあ、別に不幸なことは起きていないからいいのだが。
「せっかくなんで、使ってみます」
そういって俺は、昨日集めた持っているアイテムをすべて素材として消費する。もっとアイテムを集めてからの方がいいのかもしれないが、どうせ遊び半分でした課金なのだ。景気よくやってみよう。
そして俺は、アイテムの使用確認画面の「はい」を押す。すると、新しいメッセージ画面が表示された。
『スキル【チーター】を取得しました』
『効果を適用しますか? 「はい」「いいえ」』
「………」
「どうかしたのか?」
取得できたスキルを見ながら黙っていると、クロムさんが話しかけてきた。
「いえ、なんか取得したスキルの名前が【チーター】という名前なんです」
「は?」
俺の言葉を聞いて、クロムさんは間の抜けた声を出す。だがそうだろう、昨日ネットでゲームのことを調べていた時に覗いた掲示板に、この【チーター】という言葉を俺は見た。正確な意味は分からないが、罵倒のコメントに使われていたことから、きっと良くない意味なんだろう?
「いやちょっと待って、チーターっていうのは、要するに不正行為ってことだぞ。どんなスキルだよ?」
「いや、なんか適応するかの確認画面だけで説明がないんですが……」
「……じゃあ、とりあえず適応してみたら? それで要らなければ破棄すればいいだけだし」
見かねたリズさんが、俺にそう言ってきた。確かにその通りだ。要らないスキルは破棄できるのだから、使ってから判断しても遅くはないだろう。
「じゃあ、やってみます」
そう言って俺は「はい」のマークを押す。すると、確認画面がステータスの画面に切り替わった。
■■■■
Lv1
HP 0/0
MP !/?
【STR g7fffffffff】
【VIT \(^o^)/】
【AGI 99999999】
【DEX \×$=%】
【INT ⑨】
装備
頭【使用不可】
体【使用不可】
右手【使用不可】
左手【使用不可】
足【使用不可】
靴【使用不可】
装飾品【使用不可】
【使用不可】
【使用不可】
スキル
【チーター】
意味不明だった。というか、バグった? こういう時はアレだろうか? 運営仕事しろ!と言えばいいのだろうか?
「お、おい。え? は? え?」
「えっと、その……だ、大丈夫?」
「?」
何やらクロムさんとリズさんが狼狽えていた。
あれ? なんか二人とも、大きくなってる?
「お、落ち着け。とりあえず、そこにある鏡を見てみろ」
「?」
よく分からないが、クロムさんの言う通り、装備を確認するためにおいてある店の姿見鏡の方を向いてみる。するとそこには。
「がう(は?)」
ヤマネコのような大きさの『チーター』が居た。
【チーター】
けものはいても のけものはいない
◆
これは一人のプレイヤーが『チーター』になってから少し、ようやく事態に気づいた現実世界のゲーム運営の一室での会話である。
「だぁああああああれえだぁあああああああああ!!!」
一人の男性職員が叫ぶ。その声に、部屋にいた全ての職員が反応した。
「一体どうした?」
「どうしたもこうしたもあるかっ! 『スキル作成機』のプログラムチェックした奴はどこのどいつだ!」
「『スキル作成機』? それなら俺だけど、それってまだ作ってない上位層で手に入れられるアイテムだろ? どうかしたのか?」
「お前かっ! どうかしただと? どうかしたんだよ! それが使われたんだよ!」
「は? どうやって……あぁ『初心者応援キャンペーン』か……だとすると、上位層で手にはいるスキルでも当たったのか?」
「そのほうがまだ良かったよ! 【チーター】のスキルが当たっちまったんだよ!」
『え?』
その言葉に、対応していた男性だけではなく、部屋にいた全ての職員が声を漏らした。
「えっ? 嘘、なんでだよ……だってあれは」
ようやく事の重大さに気づいて、職員は狼狽え始める。そう、実は【チーター】は本来プレイヤーが取得できるスキルではないのだ。それはバグデータだから? バランス崩壊を生む調整ミスだから? それともイベント特典による景品だから? どれも違う、何故なら【チーター】とは―
「あれは、
そう。【チーター】というスキルは、【身捧ぐ慈愛】や【暴虐】ような変身系のスキルに、ペットモンスターのような人外モンスターの動作確認などをするためのもので、本来プレイヤーが入手できるスキルではないのだ。
「どうすんだよ!? あれデバック用だから、調整とか完全無視で作ったし、そもそも死ぬようにできてないからゲーム崩壊どころの騒ぎじゃないぞ!?」
「そうだ! 確実に修正を入れなきゃならん! だがあのスキルは、もう使用しないからと弄繰り回したから小さいアップデートじゃあどうにもならない! メンテナンス期間を設けて修正しかないぞ!?」
「だけどこれ、課金して入手したスキルだろ? どこまで修正するんだ? ログを見る限り、手持ちのアイテムを全部使って手に入れたのに、下手に弱体するのは酷過ぎるだろ?」
「いや、それ以前に、このスキルには入れてあるプログラム内容が多すぎる。デバック中ならともかく、他に多くのプレイヤーが同時に遊んでいる状況だと、最悪サーバーが落ちかねない!」
「お願いだからGMコールしてくれ! 全力で、即対応するから! ほら、ステータス画面が意味不明なのは分かるだろ? 明らかに不具合だろ? お願いしますなんでもしますから!」
「それ以前に、他に取得するプレイヤーが現れないように、『スキル作成機』のプログラムを早く修正しろ!」
「残業確定かよ、勘弁してくれ……」
その光景はまさしく大混乱である。最も、彼らがしっかりと確認しなかったのが原因なので自業自得なのだが。
スキル【チーター】それは、ダブルミーニングで名づけられたスキルであり、その不正行為の『チーター』はゲームを壊してしまう危険性のある犯罪行為であるのだが、まさが自分たちで、その体験をするとは夢にも思っていなかった運営であった。