運が良かったのでチーターになります   作:麦わらぼうし

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ネタだらけです。全部分かる人いるかな?


もはやチーターか分からない

『NWO』第1回イベント。

 

 内容としては荒れそうなバトルロイヤル方式となっていたが、参加者たちは己こそが勝ちあがると開始と同時に雄たけびを上げて戦いに臨んだ。

 

 だが、広大なイベントの一角にある廃墟は、戦場ではなく、狩場となっていた。

 

「はぁっ! はぁっ!」

 

 参加プレイヤーの一人である少年は走っていた。彼は友人たちとチームを組み、一人を10位以内に入れる作戦を立てた者たちの一人である。

 

 チームを組むことは別に禁止されている訳ではない、共に戦う仲間を作ることも立派な力だ。否、とりわけ強力なスキルも珍しいスキルもなく、プレイヤーとしての技量も高くない者たちがランキング上位に食い込むには、このような方法を取らざる負えないのだ。

 

 だが、そのような者たちは不測の事態には弱い。

 

 仲間と共に戦うことのメリットは数的有利による役割分担と手数の増加である。だが、想定外のことが起きると連携が崩れやすく、チーム全員がまとめて敗北することもおかしなことではない。

 

 だから、イベント中に現れたモンスター(・・・・・)に彼の仲間が全滅したことも別段不思議なことではないのだ。

 

「ガッ!?」

 

 全力で走っていたせいか、転倒した彼は思いっきり顔面を強打してしまった。もっとも、ゲーム内なので大きな怪我はないが、視点が下がった彼は目を開いたとき、目の前にいたソレの姿を見ると同時に思考が一瞬停止してしまう。

 

 彼の目の前にいるのは、子猫だ。

 大きさにしては、今回のイベントのアナウンスをしていたドラゴンのようなマスコットよりも小さい、とても“無害な子猫”に見える。だが、一目で普通の生き物ではない(モンスター)と分かるだろう。

 

 その子猫には、下半身がなかった(・・・・・・・・)。二本の前足だけで体を支えて、少年に向かって歩いてくる。

 

「ヒィッ!?」

 

 その光景に、少年は小さな悲鳴を上げる。いくらモンスターであろうと、体格差が歴然として少年の方が大きいのに怯え過ぎだと思うかもしれない。

 

 最初は少年もそう思った………………そう、思っていた。

 

 見た目で侮った仲間が全て、この子猫に喰い殺されていなければ。

 

「あ痛っ!?」

 

 すぐに逃げようと立ち上がろうとした少年は、再び転倒した。

 

「なにが、なぁっ!?」

 

 そこでようやく少年は気が付いた。

 

 自身の下半身が、物理的に消失していることを。

 

 少年は、子猫の方に目を向けた。

 間違いなく、原因はこの子猫だ。自身の状況に、あまりにも姿が似すぎている。だが、だからと言って何が出来るわけでもない。

 すでに武器を喪失し、攻撃魔法も取得していない彼は、残された二本の腕を使って後退(あとずさ)るしかなかった。

 

「来るなっ、来るなぁあっ!?」

 

 ゲームの中である筈なのに、少年は恐怖のあまり叫んだ。だが子猫は、それに全く躊躇することなく少年に近づいていく。そして後退っていく少年は、ついに木の幹にぶつかって逃げられなくなった。

 

「何なんだよ! 何なんだよお前はぁあっ!?」

 

 半狂乱になって、彼はモンスターに叫びを向けた。モンスターはプログラムだ、返事をする訳がない。だから、次の出来事に少年は理解が遅れた。

 

「チーズが、足りないよ……」

 

 意味不明。

 

 だが、子猫は確かに“言葉”を発したのだ。それはつまり、この子猫は――

 

「プレイヤー、かよ……」

 

 そういうことである。そして、それを理解すると同時に、少年は子猫に捕食された。

 

 

   ◆

 

 

【NOW】謎の猫、タマサブローについて【考察】

 

1名前:名無しの槍使い

スレ立てたぞっと

 

2名前:名無しの魔法使い

スレ立て乙~

 

3名前:名無しの弓使い

まずはイベントお疲れ~

そして、一位の姿を見て困惑~

 

4名前:名無しの大剣使い

一位がペインじゃないことに、まず驚いて

壇上に猫が昇ってきて意味が分からなかった

 

5名前:名無しの槍使い

あのペインを抑えて一位になった猫、いったい何なんだ?

 

6名前:名無しの魔法使い

いや、聞いた話によると、ペインどころかランキングの2位から10位の全員が喰い殺されたらしいぞ?

 

7名前:名無しの大剣使い

人喰い猫とか、何それ怖っ!

 

8名前:名無しの槍使い

ちなみに俺も、喰い殺された一人です

 

9名前:名無しの弓使い

俺も

 

10名前:名無しの魔法使い

同じく

 

11名前:名無しの槍使い

なので、あの猫について考察していこうと思う。

 

12名前:名無しの弓使い

まず、品種は何だろ?

 

13名前:名無しの魔法使い

見た感じ、イエネコだけど

 

14名前:名無しの大剣使い

抱っこしてモフりたい!

 

15名前:名無しの槍使い

お前ら……

 

16名前:名無しの魔法使い

まあ、実際のところ分からないことだらけだしな

脱線したくもなる

 

17名前:名無しの大剣使い

まじめに考えると、そもそもカテゴリー的に何になるんだ? 剣? 槍? 盾?

 

18名前:名無しの大楯使い

カテゴリーじゃなくて、あれはスキルらしいぞ?

 

19名前:名無しの弓使い

知ってるのか? というか、話していいのか?

 

20名前:名無しの大楯使い

本人からある程度、話してもいいって言われてる

モンスターに間違われて攻撃されたくないんだと

 

21名前:名無しの魔法使い

そりゃそうだw

それで、スキルで猫になったって?

 

22名前:名無しの大楯使い

まあ、他にも色々スキルを取ったらしいが、そっちは流石に教えてくれなかった

 

23名前:名無しの弓使い

ちなみに、どんな子? というか、どんな猫?

 

24名前:名無しの大楯使い

ぶっちゃけ、俺の知っている情報はあんまりないぞ?

 

まず名前なんだが『福天』

猫になるスキルはNOWが始まった当初の初心者応援キャンペーンで、手に入れた課金アイテムで手に入れたスキルで、スキル名は『チーター』

チーターの姿になるスキルらしく、まったく別のアバターとして扱われるらしい。名前が『タマサブロー』になってるのは、猫形態での名前なんだとか

本人曰く、もう人間形態になるつもりはないらしい

礼儀正しくて普通に良い子

 

25:名無しの槍使い

色々ツッコミどころが多い気がするが、情報感謝

これで考察が進む

 

26:名無しの弓使い

いや待て、大事なことを聞いてない

 

27名前:名無しの大楯使い

なんだ?

 

28名前:名無しの弓使い

男か? それとも女?

 

29名前:名前:名無しの大楯使い

そんな気にすることか?

 

30名前:名無しの弓使い

よく考えてみろ。

女だった場合、全裸で女の子が走り回っていることになるんだぞ!?

 

31名前:名無しの槍使い

 

32名前:名無しの大剣使い

 

33名前:名無しの魔法使い

全裸w(猫)

 

33名前:名無しの大楯使い

えぇ……

 

34名前:名無しの弓使い

それで答えはっ!?

 

35名前:名無しの大楯使い

残念、男だ。ちなみに猫形態もオスだそうだ

 

36名前:名無しの弓使い

神は、死んだ!

 

37名前:名無しの槍使い

話を戻すが、どうやってペインに勝ったんだ?

 

38名前:名無しの魔法使い

その時の映像がこちらになります

 

39名前:名無しの大剣使い

どこから持って来たw

 

40名前:名無しの魔法使い

普通に公式のアーカイブから見れるよ

ちなみに【タマサブロー対ペイン戦】【タマサブロー対ドレッド戦】【タマサブロー対メイプル戦】

終盤発表の1位2位3位との対戦を切り取ってみたw

 

41名前:名無しの槍使い

有能w

 

 

   ◆

 

 

・タマサブロー対ドレッド戦

 

 順調にポイントを稼いで、2位を維持していたドレッドは、その自慢の機動力で新たな獲物を探していた。

 

 1位であるペインとは知り合いであり、その強さはよく知っている。アレに追いつくためには、自分の一つ下の3位から点数を手に入れるか、それ以上の速度で残りのプレイヤーを倒すかだ。

 

 その2択において、ドレッドは後者を選択する。

 自身の武器は勘の良さと、その機動力だ。3位になるほどのプレイヤーを倒すのは面倒くさく、残りのプレイヤーを狩ったほうが楽だと思い。さらに3位には猛烈に嫌な予感がする。

 

 この勘に逆らってまで一発逆転を狙うほど、ドレッドは自身の勘を軽んじてはいなかった。

 それは正しい選択だ、なにせ現状のドレッドの武器では3位のメイプルにダメージを与えることはできない。

 

 故に、彼の考えは正しかった。だが、3位と戦わない選択が正しくとも、残りを探す選択が正しかったとは断言できない。

 

 なぜなら、もう一つの選択先にも、別の意味で敗北が待っていたからだ。

 

 育てたAGIによって高速で走るドレッドは、突如猛烈な悪寒を感じ取り後ろに大きく飛んだ。

 

 

 そこにナニカ(ネコ)が現れた。

 

 

 茂みの中から現れた下半身のない子猫。だが、その姿を視界にとらえると同時に一瞬困惑する。このイベントの最中に、モンスターが出てきたのは初めてだからだ。

 

 だが、その子猫が周囲を見まわしてドレッドと目が合った瞬間、さらに強大な悪寒を感じ取り、即座に撤退しようとする。

 

 ―――が

 

「なッ!?」

 

 足の感覚が突然なくなり、浮遊感と共に地面に倒れてしまった。

 

 

【半身猫】

 猫と視線が合った相手の平衡感覚を一時的に奪い。一定時間、下半身を操作・認識できなくさせる。

 

 

 速度で戦う相手に、これ以上なく相性の悪いスキルだ。全身麻痺などに比べて上半身で応戦できるからと発動条件が緩すぎる。

 

 そんなスキルを受けて悪寒が止まらないドレッドはすぐさま起き上がろうとした。

 

 しかし、その視界を前に向けたときにはすでに、子猫が自身の目の前にまで迫ってきていた。そして、まるで足があるかのように屈みこんで握りこぶしを作り――

 

「ドレッドシスベシフォーウ!」

 

「――ガッ!?」

 

 強烈なアッパーによって顎を撃ち抜かれて、ドレッドは4メートル近く上空に打ち上げられた。いったい彼に何のうらみがあるのだろうか?

 

 空中において身動きのできないドレッドは抵抗一つできず、下で口を開けた子猫に向かって落ちていき、そのまま喰い殺された。

 

 

 

 

 

・タマサブロー対メイプル戦

 

 順位を発表されて狙われたメイプルだったが、極振りした防御力と【毒竜】による毒の範囲攻撃によって一気に大量のポイントを獲得したメイプルはホクホク状態であった。

 

 だが逆に、その力を見せたことによってほかのプレイヤーが警戒し姿を隠してしまう。残り時間あと僅かというところで、現在メイプルは廃墟にポツンと一人で佇んでいた。

 

 そこに、その悪魔(ネコ)は現れた。

 

 その姿を見て、メイプルは子猫を敵と認識しなかった。

 

 それも仕方ないだろう。ログイン初日に、最初にあった白兎と遊ぶような子だ。

 見た目だけなら子猫も、特に身体に変なところもなく(・・・・・・・・・・・・・)“無害な子猫”に見える。

 

 クリティカルヒットした白兎の攻撃をノーガードで受けられるメイプルには、その子猫が危険な存在だと感じなかった。

 

 故にメイプルは盾を構えずに笑いながら「おいで~」と無警戒に手招きをした。その直後――

 

 

――ズドン!

 

 

「………え?」

 

 

 メイプルは爆音を聞くと共に、壁に叩きつけられていた。そして腹部に感じる僅かな痛みに、自身が攻撃されたことにようやく気が付いた。

 

 何が起きたのか? それは簡単だ。

 

 子猫が、高速でメイプル目掛けて体当たりしてきたのだ。

 

 だがその速度は、おおよそ秒速1800メートル。音速と言われるマッハ1が秒速340メートルと考えると、その速さが分かることだろう。

 

「いた、い……?」

 

 ゲームにおいて痛覚を実装するのは、怪我を負ったことをプレイヤーに認識させるためのものだ。故にショック死するような痛みを発生させることはない(そんなことがあったら会社が終わる)

 

 なのでメイプルが感じている痛みは、精々指圧程度の痛みだ。だが、今までダメージを受けた回数は少なく、そのダメージも毒によるジワジワとした日焼けのような痛みだった。

 故に、突発的な衝撃によるダメージを負ったのないメイプルは、その初めての感覚に戸惑った。

 

 

【弾丸猫】

 任意の数の専用アイテムを消費して、直線に加速し体当たりする。衝突した対象に、消費アイテムの数×10の固定ダメージを与える。(多段ヒット攻撃)

 

 

 硬さで戦う相手に、これ以上なく相性の悪いスキルだ。消費アイテム一つによるダメージが少なくアイテムの入手が難しいとしても、固定ダメージによる多段ヒット攻撃というガッツ系スキル貫通という凶悪さ。

 きっと運営がメイプルに毒竜を倒された腹いせに作ったスキルに違いない。

 

 メイプルのHPは最大で40、現在は30に減っていることから、アイテムを一つ消費して攻撃されたようだ。アイテムは攻撃する前に消費されるので、慎重に使っているのだろう。

 

 子猫はメイプルに再び狙いを定める。

 

 

 目が合った。

 

 

 倒れこんだメイプルは下半身が動かなくなった。

 

 逃げられない。

 盾は離れたところにあって防御もできない。

 そして何より、こわい。

 

 初めて受けたタイプのダメージに、メイプルは目の前に居る子猫が毒竜よりも恐ろしい存在に見えた。

 

 戦ってはいけない。見つかってはいけない。機嫌を損ねてはならない。

 

 そして現状、どうにもならない。

 

「うぁ……」

 

 小さなうめき声に、答えたのは子猫からの爆音だった。あまりの速度に反応できなかったメイプルは、腕で視界を塞ぐことすらできずに顔に向かって飛んでくる子猫に喰い殺された。

 

 

 

 

 

・タマサブロー対ペイン戦

 

 最初から現在まで1位を維持し続けてきた紛れもないトッププレイヤーのペインは、2位とのポイント差に慢心することなく、プレイヤーを狩り続けていた。

 油断なく、だが気負わず、そしてゲームを楽しみながら、鍛え上げた己のプレイヤースキルを遺憾なく発揮し戦い続ける。

 

 だが、その戦いも終わりのようだ。

 

 

 そこに怪物(ネコ)が現れた。

 

 

「やあ、どうやら俺と君で最後のようだね」

 

 ペインは目の前にいる自身を除いた最後の参加者に声をかけた。

 

 つい先ほど、運営からアナウンスが流れたのだ。

 残り時間10分、なんと生き残ったプレイヤーは2人、ペインと子猫のみであると。つまり他のプレイヤーは、この2人以外は全滅した。

 故にこれは、事実上の最終決戦。

 

 取得しているポイントはペインの方が上だ。なので戦わずに逃げてれば、自動的にペインが1位になれる。だがペインは、その選択肢を捨てた。

 

 そんな1位になんの価値がある?

 逃げ続けて1位になってなんの意味がある?

 そんな勝ち方、まったくもって面白くない。

 

 ペインはゲーマーだ。ゲーマーはゲームを楽しく遊ぶものだ。故に逃げる選択肢など、最初から無い。

 

 ペインの言葉に、子猫は小さく頷くと臨戦態勢になる。猫は本来肉食獣、それは獲物を狩るための姿。それを見たペインも、己の聖剣を構える。

 

「言葉は不要か。なら、行かせてもらう!」

 

 そういうと同時に、ペインは駆け出す。だが、踏み込みこそペインの方が早かったが、速さは子猫の方が上だった。

 

――ズドン!

 

 爆音と共に凄まじい速度で突進してくる子猫。

 

「――ッ!」

 

 だが、その突進を、あろうことかペインは見て―――避けた。

 

 それはもはや、人間の反射速度ではない。彼が掲示板などで、動きが人間を辞めているとよく言われているが、その動きはもはや人間を超えている。

 

 戦いの映像を見ていた第三者からは、ペインが動こうとした次の瞬間には、身体を横にずらしたペインと、爆音と共にペインの後ろで土煙が上がったことだけが見えていた。

 

 まさしく刹那の攻防。

 

 それを制したのはペインだった。だが、子猫を斬れた訳ではない。

 

 今ので、速さは分かった。次は、斬る!

 

 そしてペインは土煙の中から獲物を探す。

 

 

 目が合った。

 

 

 次の瞬間、ペインの身体が崩れ落ちる。そしてそれと同時に――

 

―――ズドン!

 

 爆音と共に土煙が空気に押されて円状に晴れた中から子猫が突進してきた。だが――

 

「――ッ!」

 

 崩れ落ちると同時に下半身が使えなくなったことを理解したペインは、片腕だけで身体を支えてその場から飛び退いた。

 さらに飛び退いた先にある柱の(つた)を引き千切り、それを身体と柱に巻いて体勢を固定した。

 どこのクーフーリンだ。

 

 そしてペインは、目を閉じた。

 

 状態異常の原因が、視覚によるものだと判断したからだ。

 

 もう視覚には頼らない、頼るのは聴覚だ。

 

 すでに、その速さは理解した。ならばもう必要なのは―――音だけでいい。

 

 あとは己の力を信じ、ただそれを叩きつけるだけだ!

 

「――――――――――――――――――――――」

 

 一瞬の静寂、だが永遠にも感じられる悠久の時間。

 

 映像見ている観戦者たちも固唾を飲んで見守る。そして――

 

 

―――ズドン!

 

 

 爆音と共に、戦いの火ぶたが切られた。

 

 何千倍にも引き延ばされたペインの感覚は、その音を確かに捉える。

 

「(――此処だッ!)」

 

 ペインから放たれた【断罪の聖剣】は、確かに突進してくる子猫の頭を捉えた!

 

 

 ―――だが

 

 

 ―――ガイィン!

 

 

 確かに子猫の頭を捉えたペインの聖剣は、当たると同時に―――弾き返されてしまった。

 

 そして――

 

「俺の、負けか……」

 

 突進してきた子猫の直撃を受けたペインは、その言葉と共に柱にもたれ掛かりながら光の粒子となり、散った。

 

 それと同時に、イベント終了のアナウンスが流れる。こうして『NWO』第1回イベントは幕を閉じた。

 

 

 

 

 以上が、名無しの魔法使いによって編集されたタマサブローの対戦映像である。この映像を見た多くのプレイヤーは、しばらくの間、子猫の話題で持ちきりだった。

 

 ちなみに、怯えているメイプルの映像の再生数が異様に多かったが、そのことを本人たちが知ることはなかった。

 

 

   ◆

 

 

 ところ変わって、森の中。

 

 第一回イベントが終わって調整を受けた後【チーター】のスキルを得た彼は、新しいスキルを求めて彷徨っていた。

 

 最後のペインとの闘い、あれはスキルによる防御ではない。メイプルのようなVITによる耐久でもない。

 

 あれはもっと根本的なシステムによる現象だ。

【弾丸猫】による突進に合わせて、ペインが攻撃を当てたと思われたとき、すでに子猫の攻撃はペインに届いてHPを0にしていたのだ。

 

 HP0、すなわち死んだ相手の攻撃をシステムが無効にした結果、子猫に弾かれたように見えただけである。

 

 今回、彼がイベントに優勝できた要因である。【チーター】以外の3つのスキル。

 

 【半身猫】【弾丸猫】そしてもう一つの【無害な子猫】によるものだ。

 

 

【無害な子猫】

 体格を半分にする代わり、攻撃判定を元の体格の2倍の範囲にまで拡大することができる。

 

 

 冷静に戦う相手に、これ以上なく相性の悪いスキルだ。相手の攻撃を見切ったと思ったら、逆に罠に嵌まる。

 見た目通りの射程ではなく、しかも範囲内なら可変式。おまけに間にある障害物は無視することができる。

 このスキルにより、ある大楯使いのプレイヤーは自慢の大楯で突進を防御しようとして、盾越しに喰い殺されたりしていた。

 

 今回のメンテナンスで、修正を受けて1日の使用回数に制限が付くほど凶悪なスキルだ。

 いやもっと弱体化しろ運営、下手すると【悪食】より凶悪なスキルだ。

 

 とにかくこのスキルによってペインの聖剣に斬られる前に【弾丸猫】によってHPを削り切ったのである。ちなみに残ったアイテムを全部消費したので、あの一撃で倒せなかったら敗北していた。

 

 メイプルにも盾でガードされていれば【悪食】により敗北していた可能性もある。もっとも【無害な子猫】で接触前にHPを削り切られる可能性の方が高いが。

 

 ドレッドに関しては【半身猫】で動きを止めなければ、勘で避けられてアイテムを失ってしまう可能性もあった。

 

 故に、彼が勝てたのは所見殺しによるところが大きい。そして、それらのスキルを手に入れることができた彼自身のとてつもない運の良さによるものだ。

 

 今回の勝因である3つのスキルは、彼が【チーター】のスキルを手に入れてから自力で見つけたものだ。

 

 【チーター】を入手してすぐ、彼は運営に連絡をいれて不具合を修正してもらったが、しばらくの間、ゲームをプレイすることができなかった。

 

 そのお詫びとして、運営は彼の要望を1つだけ叶えてくれた。

 

 別に理不尽な内容ではない。ただ、チーター形態のままで言葉を話せるようにしてほしいというだけだ。それくらいならと、運営は了承してお互いにwin-winの関係のまま終わり、運営から放置された彼は、とんでもスキルを入手したのだ。

 運営仕事しろ。

 

「にゃにゃ! いらっしゃい旦那さん!」

 

 目の前に居る二足歩行する、石のピッケルを持った猫に挨拶される。

 

 ここは森の中にある彼ら『悪魔猫』と言われる者たちの隠れ村である。

 

 運営から放置された彼は、偶然この場所を見つけてスキルを手に入れた。どういう訳か、彼らからするとプレイヤーは旦那さんと呼ばれるように設定されているらしい。

 

「またあの人に会いに来たのかにゃ? 若いって良いにゃ~」

 

 からかいながら優しい目を向けてくる猫の言葉を聞いて、彼は曖昧に笑った。

 

 この村を見つけてからと言うもの、彼はある一匹の猫のもとに毎回通っている。だがそれは、恋愛感情によるものではない。

 その猫から与えられるクエストをクリアすることで、スキルを貰えるからである。

 

 クエスト内容としては、雲の上にまで伸びる高い塔を登って、そこにいる猫の仙人と戦えだの。

 攫われた子猫を、紳士服を着た猫と大型犬ほどに巨大な猫と共に奪還しろだの。

 塔に閉じ込められた魔術師を倒せだの。妹の猫を鍛えてほしいだの色々だ。

 運営は1回、偉い人に怒られろ。

 

 そんな訳で、今日も彼は会いに来た。

 

 石の上に佇んでいるその猫は、厚手のコートを羽織っていることで全身の殆どを覆われ、そのコートには何かの紋章が付いている。本人(猫?)曰く、かなりのお偉いさんらしい。

 

「ようやく来たな。では早速、次の依頼を与える。言っておくが、くれぐれも内密に頼むぞ?」

「分かりました!」

 

 元気よく返事をすると、彼はクエストを受注する。

 

 どうやら今回の依頼は、ある井戸小屋で引きこもっている猫の話し相手になってほしいということだった。

 

 今までのクエストに比べて随分と簡単なような気がするが、彼は気にせず指定された小屋に向かう。

 

 到着した彼は小屋の中に入ると、そこには一匹の猫が瞬き一つせず、こちらをジッと見つめていた。

 

「こんにちは、俺は福天――じゃなくてタマサブローって言います!」

「ねこです」

「ねこさんですか! ねこさんはいつも、ここに居るんですか?」

「ねこはいます」

「そうですか。俺はここの村の猫じゃないですけど、どうか友達になってくれませんか?」

「よろしくおねがいします」

「はい! じゃあ改めて、タマサブローです。よろしくね!」

「ねこです。ねこはいます。よろしくおねがいします」

 

 楽しそうに笑う彼はまた、おかしなスキルを手に入れそうだ。

 




ねこでした

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