日向と影山の速攻が決まりだしてから、こちらのペースになった。俺がレシーブを上げ、影山がトス、そして日向が打つこのサイクルが続いた。一セット目の最後は月島が日向を完璧にマークしていたので、俺のところにトスが上がる。とりあえず、誰もいない所へ軽く打って一セット目を取る。
このままいけば二セット目は何の問題もなくとることができるだろう。
ボトルを持って壁に背を付ける。
水分を取ろうとすると右手に持っていたボトルを潔子さんに取られる。
「潔子さん、水取りたいんでボトル返して下さい」
「じゃあ、一セット目、なんで、ちゃんとブロックしなかったの?外から見ていたけど、ブロックするとき後ろ見ていたの気付いた。」
「……」
「それに、今日のスパイクはあんまりかっこいいとは思わないから、晃がそんなことするのは理由があると思う、体調が悪いの?」
「…………、はぁ、まぁ一セット目は軽く言っていたことは認めます。最初は影山、日向がお互いがチームメイトとして自覚するほうが大事だと思ったんで、ニセット目からちゃんとやります」
「わかった。じゃあちゃんとしてないと思ったらすぐ澤村に言うから」
そう言って潔子さんはボトルを返してくれた。
俺は日向、影山のもとに行き、簡単な作戦を伝えた。日向はあまりわかってなかったようなのでいつも道理にすればいいと伝え、影山には「できるのか?」と聞かれたので俺は素直に「できる」とだけ伝え、コートに戻った。
相手のサーブから始まる。サーブは俺のもとに来たので影山にAパスで返す。と、同時に日向と俺で助走を開始する。月島はそれを見て日向のほうをマークする。日向は助走で付けた勢いでジャンプする。
「王様のトス合わせられるのなんてチビちゃんだけなんだから、闇影が囮になろうがわかってれば通用しないんだよ‼」
月島はもちろん日向のほうに跳ぶ。レシーバーの澤村さんと山口も日向のほうに体を向けている。コートの外の人たちも日向と月島のほうに目が行っている。ただし、潔子さんだけは俺を見ていた。まだ跳んでおらず、移動をし始めた俺を見ていた。
そのまま日向とは反対方向に走っていき、ジャンプする。影山はそれに合わせてトスを上げてくる。練習で移動攻撃の練習なんてしたことない。だからこそ思う。影山、マジモンの天才だ、と。
その攻撃はしっかり決まる。月島は日向にボールが上がらないと分かると俺のほうを見ていた。澤村さんは俺にトスが上がるとこちらを向いていたがボールには反応できていなかった。
そして、俺のサーブの番。今日はまだスパイクサーブしか見せてない。だからこそそれ話警戒してレシーバーは少し後ろに下がっている。だからこそ次は五歩半。狙うは月島、サーブトス完璧、ゆっくりと助走し高く跳ぶ、身体をそりながら溜めて、腕を振る。無回転でボールはあまりぶれず月島のほうにとんでいく。月島はレシーブを構えるがボールは月島の腕に当たると思われた瞬間、横にぶれ、コートに落ちる。
「よしっ‼(83点)」
今のサーブに自分なりの点数を付けて次のターゲットを定める。次に狙うのは山口。さっきとは違い五歩歩いてサーブを構える。次は変化重視。若干長いが修正不要。ゆっくり助走を開始、軽く飛び、軽く腕を振る。ボールはいつもより遅いスピードで山口のほうにとんでいく、……かと思われたが白帯に当たってネットイン。
「64点、(少し前過ぎた)」
狙って撃たずにネットインしたボールなんて、ただのラッキーと何ら変わりない。
再び俺のサーブの番。今度は八歩、右手でボールを持つ、狙いは澤村さん。ジャンフロを警戒して少し前に出てきている。笛と同時にサーブトスを上げる。今度のサーブトスは完璧。助走は右足からスタートを切る、そのまま高く跳び、ボールを打つ。ボールは澤村さんのもとに飛んでいく。澤村さんは跳んできたボールを何とか上げるが、俺のもとに帰ってきた。
「チャンスボール」そう言いながら影山に返す。今度は俺だけで助走を開始する。日向は助走に入ることができない。俺が日向の走るコースに入ったからだ。もちろんそれを見ていた月島は俺一人をマークする。影山がトスを上げる。俺は相手のレシーバーの位置を見てジャンプをする。ブロッカーは月島だけ。山口はストレート、澤村さんはクロスを守っている。そして俺は狙いを定め、しなやかに腕を振って超インナースパイクを決める。
クロスに構えていた澤村さんも目で追うことしかできていなかった。
「月島、俺と日向を潰すんじゃなかったっけ?今のところ俺を止めることで来てないし、日向はお前の見たがっていた王様トスを打ってから止めることできてないけど、どうやって潰すの?」
「ちっ!」
ああ、その顔、最初は粋がっていた奴が、悔しそうにするその顔、それを俺がやったっていう時の快感、たまらねぇ~。
その快感に浸りながらも、俺のサーブはまだ続くので切り替える。次は七歩歩く。右手でボールを持って少し高く上げる。これは普通のフローターサーブ。だが、普通とは少し違うところがある。右手でサーブトス、右足が前にある。右利きなら左手でサーブトス、左足が前が普通だ。ならどうして、俺が逆のことを行っているかと言うと左手でサーブを打つためである。しかし、強いサーブをフローターサーブで打つにはラインからじゃ強すぎてアウトになってしまう可能性がある。よって、七歩で打つことによって左で強いボールを打てる。
狙うのは月島。狙いを定めてから左手で打つ。今度は回転がかかっていることを理解したのか月島は正面でレシーブを構える。周りはボールをとらえることができたかと思われたが、月島のレシーブしたボールは壁に当たりアウトとなった。
「闇影、お前今、左で打ったか……?」
「?はい、左で打ちましたけど」
澤村さんは日向の速攻を見た時くらいに驚いていた。
『ハァッ‼‼』
「?」
何もわかっていない日向と、俺が左も使えると知っていた潔子さん以外が声を上げた。
「え、なになに?どうしたんだ?闇影ってなんかすげーのか?」
「日向、左利きの打つボールは右利きの打つボールと回転が違うんだ、右利きの人が多い中、バレーでの左利きは相手にとっては脅威になるんだ」
「で、でも、闇影ってずっと右で打ってましたよ?」
「だから驚いてんだ、ボケ‼?菅原さんの説明ちゃんと聞いてねぇのか!?」
日向と影山がまた言い争いを始めると思われたが、その前に菅原さんが日向を抑えた。
気づくと潔子さん以外のみんなが俺のことを見ていた。
「晃、みんな気になってる。教えてあげたら?」
潔子さんに言われ、隠すことでも、教えたくないことでもないので教えることにした。
「中学最後の試合、影山のチームと試合して、右腕を怪我したので医者に診てもらったら一ヶ月間の右手の使用禁止、二ヶ月間の運動全般禁止を言い渡されてしまったので、渋々左手で生活していたら、いつの間にか左でも生活ができるようになり、両利きになりました」
「じゃあ、なんで左で打たねーんだ?左利きってすげーんだろ?」
質問が多いぞ。日向。答えてやるけど。
「怪我して二ヶ月間運動できなかったから、とりあえず一ヶ月を過ぎてから左でスパイクを打つシャドーだけしてたんだけど、運動解禁になってからは親が勉強勉強うるさくてさ、ジャンプの練習があまりできなくて、跳んで左で打つってのがまだできないんだよね、フローターサーブはジャンプする必要ないし左で打てるから、打ってみた。さぁ、試合再開しましょう」
そのまま試合再開することになった。とりあえず納得したのか、みんなその後は何も言わず再開することになった。
次のサーブはジャンプサーブで澤村さんのところに打つが、次はきれいに拾われ、月島のトスを山口が日向の方向に打ち、日向はレシーブを上げられず、月島たちの得点になった。
月島のサーブは俺のもとに飛んでくるので、影山に返し日向の速攻で点を取る。
次の影山のサーブもアウトとなり次は澤村さんのサーブだ。
日向のところにとび、日向はこれを影山に返す。そして、俺はスパイクを打つために、影山がトスを上げるのを待つ。影山が高いトスを上げたので俺は助走を開始する。月島は当然のように俺をマークする。十分な助走、十分な高さのあるトス、これさえあれば俺には十分だ。いつも以上にジャンプに力を入れて跳び、月島の上からスパイクを叩きこむ。ストレートにいた山口の前に落ちるそのボールは大きい音を上げて跳ね上がる。
次は日向のサーブの番。日向のサーブは澤村さんの正面、山口がスパイクを打つため助走を開始する。月島は山口にトスを上げ、山口が飛ぶと同時に俺もブロックに跳ぶ。そして俺は見る。山口の体の向き、手の向き、フェイントはあるか、そして俺は一つの答えにたどり着いた。フェイントはなく、クロスに打つ。山口がスパイクを打つ瞬間、俺は左手だけでクロスを絞める。
結果、山口のスパイクは俺のブロックに捕まりシャットアウトされる。
試合はそのまま続いていき、日向にミスはあるものの、俺の持っている武器を活かし点を取って、25対23、25対14で勝利した。