醜いフレンズルドウイーク≪完結≫   作:照喜名 是空

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ちくりん

次に来た場所は奇妙な植物が立ち並んでいた。

パイプのように細くまっすぐで節のある植物……

たまにカインハーストの輸入品で見かける極東の絵に出てくる植物のようだ。

 

「これは……」

「竹ですね。ボス、説明お願いできる?」

「ワカッタヨ、カバン。

アヅアエンハ、アジアノ気候ガ再現サレテルヨ。

竹ハ稲科ノ植物デ、草ト木ノ両方ノ特徴ヲモッテルヨ。

主ニアジアヤオーストラリアニ生エテ、

オオヨソ60年カラ120年ニ一度ダケ花ガ咲クンダ。

乾カスト、トッテモ頑丈デ、イロンナモノガ作レルヨ。

節ガアッテ、パイプミタイナ形モ、便利ナンダ。

お米ヲ炊クノモ、イイカモネ」

 

青いラッキービーストがバスの中をチョコチョコと歩いて私に説明する。

まったく不思議な機械だ。

それ以上に竹という植物もまことに都合が良い植物のようだが。

 

「なるほど、見た目の通り生きたパイプというわけか。

……自然にできたものなのかね」

「スクナクトモ、10世紀ゴロノ、日本デモットモ古イ小説ニハアッタヨ。

かぐや姫ト言ッテ、主人公ノかぐや姫ハ、竹カラ生マレルンダ」

 

ラッキービーストの博識さには舌を巻くばかりだ。

おそらく、この小さな機械の獣には図書館一つ分くらいの知識は入っているのだろう。

 

「なるほど、ヒトが作ったのではなく、自然にそうなったという訳か。

不思議なこともあったものだ……」

「ジャイアントパンダハ、竹ヤタケノコヲ主食トシテイルヨ。

タケノコハ、タンパク質ガ豊富ニアッテ、

大キナ身体デモ十分ニエネルギーヲ賄エラレルンダ。

ココニモ、パンダノフレンズガイルカモネ」

 

バスは竹林前で止り、サーバルとキュルル、カラカルはバスから飛び出す。

 

「へー、面白そう面白そう!絵の場所もここだし、探検してみようよ!」

「うん、次の絵もこの中みたいだし。夜にはまだ早いわ。行きましょキュルル」

「……うん!」

 

そう言って三人は駆けて行った。

さて、我々はどうするべきか。

 

「夜ご飯はタケノコ炊き込みご飯にしましょう!

ルドウイークさんは竹をいくつか切って来て下さい。

私はここでキャンプの用意をしますね」

「ああ、キュルル達は大丈夫だろうか?」

「そうですね……ちょっと不安ですけど、サーバルちゃんも狩り武器を持ってますから」

 

かばんはサーバルに強い信頼を置いているようだ。

しかし獣が狩り武器をか……

 

「武器は何だね?」

「ノコギリ鉈ですよ。鉈の背にノコギリがあって……すごく威力がありますよね」

「ああ、あれは本当に威力がある。よく知っているとも。

工房の最新鋭武器だ。ゲールマン老も大盤振る舞いをしたものだな」

 

私は適当な竹の木を定め、聖剣で一息に切り倒す。

ああ、よく知っている。この身に受けたのだから。

本当に良く効く一撃だったよ。狩人よ。

 

「はい、どうせなら一番良い物をって言ってましたね、ゲールマンさん。

それじゃあ竹を……こんな形でお願いします。

節にお米を入れて炊くので、節にそって切って下さい」

 

かばんは地面に簡単な図を描いて見せる。

なるほど一方を斜めに切り、それを地面に刺して炎で炊くわけか。

 

「解った。やってみよう」

「ありがとうございます!」

 

そう言っている間にもかばんはバスの荷台から屋根を出したりテントを張ったりしている。

なかなか手際が良い。慣れているのだろう。

ここで、サーバル達の悲鳴が聞こえた。

 

「ひどいよ!」

「ああ、せっかく直したのに……!やめてー!」

「……ゆるさなーい!」

 

どうやら、何かあったらしい。

私たちはすぐさまキャンプの手を止め、すぐさま狩り武器を構えて走り出した。

時間との勝負だ。

 

「行きましょう!」

「ああ!」

 

走り抜けると、そこには消えゆくセルリアンとみたことのないフレンズが二人。

そして壊れた遊具にキュルル達三人が居た。

 

「これは……」

「セルリアンが来てせっかく直したゆうぐを……

ごめんなさい。これって、僕たちが直したせいで輝きが出ちゃったんですよね……」

「ううん!謝るのは私もだよ。ごめんねかばんちゃん。全部は守れなかったや……」

 

皆、泣きそうな顔だ。

我々は間に合わなかったのだろうか?

 

「怪我したフレンズは?」

「あー、かばんさんー。だいじょうぶだよー。私が全部やっつけちゃったからー」

「怪我は誰もしてないけど、こうえんが……」

 

なるほど、けが人はないが、皆で直した公園は破壊された、か……

このような悲しい顔は、ヤーナムでよく見た。

その後に物が飛んでくるのが常だったが。

 

「ルドウイークさん、試したいことがあります」

「それは、ケムリクサを使ってということかね?」

「はい、緑と私が作ったこれなら、たぶん……」

 

私は悩んでしまう。確かにフレンズの悲しむ顔は見たくない。

とはいえ、物的被害だけでアレを使って良い物か。

いや、逆に考えるのだ。おそらく物に使うだけなら問題は無い……

無いはずだ。

 

「説明を頼めるかね」

「はい、まず緑で遊具を直して、それからこの薄緑でアンチセルリウムフィルターを擬似的に再現した物を作ります。

これがあればセルリアンは近寄れません。それに、輝きも外に漏れ出さないのは確認しています。

副作用は今のところ見当たらないです。ケムリクサの葉を消費してしまうくらいで……」

「フィルターはどれほど持つのだね」

「わかりません。でも、葉を植えて水をかければ半永久的に枯れるまでは持つと思います」

 

私は思案する。といっても、科学的な根拠は何もない。

学のない私が考えるだけ無駄だ。

事はかばんを信用できるか、というだけだ。

私はかばんの目をのぞき込む。悪意などまるでない澄んだ目だ。

本当に善意でやろうとしている。

……信じて、やってみるべきか。

 

「……わかった。対象が物だけというならばやってみたまえ」

「はい!ありがとうございます!」

 

そこからはまるで魔法だった。

かばんが葉を撫でて触ると、一斉に何枚もの葉が故障箇所に飛んでゆき、独りでに遊具が直った。

曲がった場所はまっすぐに、破れた場所はくっつき合い。外れた場所ははまる。

 

「すごい……」

「これがヒトのフレンズの力……!」

 

驚くフレンズたちを横目に、さらにかばんは公園の四方に薄緑色の葉を埋め、水筒から水をかけた。

これまた驚くべき事に、あっという間に芽が出て足首ほどの大きさまで成長する。

1分もかからずにだ。

そしてかばんが何事かその葉を触ると……公園に薄緑の結界ができた。

信じられん……まさに、神秘だ。

 

「みんな、なんとか直ったよ!」

「ありがとうございますかばんさん!何か、私も役に立てる事ありますか?

あっ、私はレッサーパンダです!

お噂は聞いてます!ヒトのフレンズのかばんさんですよね?」

「うん、助けるのが遅くなってごめんね」

 

かばんはぺこりと頭を下げた。やはり人が出来ている……

 

「大丈夫です!セルリアンはジャイアントパンダが倒してくれたし、

キュルルさんには私が何が得意か教えて貰ったし……!

なんと恩を返したらいいか……!」

「あはは……じゃあ、タケノコを採ってきてくれるかな。

大きさはこのくらいで柔らかそうなものがいいね。

……ルドウイークさん、護衛をお願いしても良いですか」

「ああ、任された」

 

皆には笑顔がすっかり戻っていた。

科学的な事はわからない。

だが、少しはかばんを、その人柄を信用しても良いのかも知れない。

 

 

我々はタケノコを採ってきた頃には日が沈み、キャンプの用意はすっかり出来ていた。

 

「それじゃあ、今日はタケノコ料理をするよ!

サーバルちゃんとカラカルはタケノコを切ってね。

レッサーパンダちゃんはお米を洗おう!

キュルルとルドウイークさんは焼きタケノコの火の番をお願いします!」

 

我々は篝火にタケノコを放り込んで焼き加減をじっくりと見る。

フレンズ達はそれぞれの作業に取りかかり、今はキュルルと私二人だけだ。

パチパチと爆ぜる火を囲む。我々は自然と無口になってしまう。

 

「……今日、ぼくは何もできませんでした。

初めて自分で思いついて、なんかが出来たと思ったのに……

でも、結局はかばんさんに最後は任せちゃって……」

 

それは妬みか悔しさか。そのどちらもだろう。

わかるよ。後続とは常に先達を意識する物だ。

 

「そんなことはない。

レッサーパンダに得意なことを伝えて自信を与えたのは君の優しさと、知恵のおかげだ。

……君は立派に彼女の役に立ったのだよ」

「役に立つ……」

 

キュルルは火を見つめながら呟く。

 

「レッサーパンダさんは、自分は何の役にも立たない、

誰かの役に立ちたいってずっと言ってました。

それは、僕もなのかも。

一人じゃ、何もできなくって、戦えないほどてんで弱くって……

このままじゃ、ぼく……」

 

この自身を失った少年にどう答えれば良いのだろう。

私もまさにその点に置いて、自分を見失っている。

ヤーナムではゲールマンと違う方向を探そうとし、

ここではかばんのあら探しだ。

 

「……わかるとも。私とて今日は大した役には立たなかった。

戦いには遅れて駆けつけ、修理も指揮もかばんにゆだねてしまった。

……だが、それで良いのだ。

皆が皆、一番になる必要は無い。指揮に従う者というのも必要なのだ」

「……僕はいやです。自分で、自分一人で何かをやりとげたい」

 

ぱちん、と火が弾け、私は棒でタケノコを転がした。

 

「……君はまだ子供だ。それで良いのだよ。

何から何まで自分でやろうとせず、必要なときに大人を頼ってくれれば良い。

むしろ、大事になるまで一人で抱え込むよりはよほど安心だ。

私たちにも、手助けさせてくれ。

ゆっくりと一人で生きるすべを学んでゆけば良い」

「……じゃあルドウイークさん。僕にも戦い方を教えてくれますか?」

 

私は来るべき質問が来たな、と感じた。

ずっと棚上げにしてきた疑問だ。

この少年は我が狩りを教えて良い者か?

悪用しないか?血に酔わないか?

答えは出ない。

キュルルはかばんのような聖人ではない。

人並みに悩んだり嫉妬する普通の子供だ。

だが、それでも……身を守るすべは必要だろう。

 

「ああ、どこまで教えられるかは君次第だがね」

「僕次第って?」

「君が身を守る事までは必ず教えよう。

だが、狩りの真髄は、その者が力を託せるかにある。

強い力は、責任が伴う。

簡単に言えば、君がその力を悪いことに使わないこと。

フレンズに向けないこと。

それを誓えるならば、教えよう」

「……誓います。

僕は戦う力を絶対に悪いことには使わないし、フレンズにも向けません」

 

私はキュルルの方に向き直り、肩に手を置いた。

剣を使うのはいささか場違いだろうから。

古い古い、騎士の誓いの儀式だ。

 

「誓いを受け入れよう。

これより私は君の師となり、君は私の弟子となる。

師なくば弟子なく、弟子なくば師なし。

未だ瞳の開かざる者よ。かねて血を恐れたまえ」

 

しばし、神聖な瞬間が訪れた。

キュルルはその言葉をかみしめるように復唱する。

 

「かねて血を恐れたまえ……?」

「君に送る、最初の教えだよ。

この場合の血は、自分から流れ出る血ではない。

敵から吹き出す返り血だ。

狩人は皆、狩りに酔う……

敵を痛めつけることを楽しみすぎては、いつか戦う目的を見失ってしまう。

そうすれば、かつて守ろうとした者にも刃を向けてしまうのだ。

戦ったら楽しそうだという、それだけの理由でね」

 

キュルルはごくり、とツバを飲む。

私の瞳から、それが本当にあった事だと解ったのだろう。

 

「……僕はそうなりません」

「故にこの警句を忘れないことだ。

同じ事を言って血に酔った者が大勢いたのだよ……」

「……はい」

 

ここで、サーバルの声が聞こえた。

 

「みんなーごはんたけたよー!ルドウイークたちのほうはどう?」

「ああ、こちらももう良いようだ。

……キュルル。実践的な教えは明日から教えよう。

まずは食べたまえ。食事は健康な身体の第一歩だ」

「わかりました……サーバルちゃん今行くね!」

 

我々は火からタケノコをとり出し、用意しておいた籠に入れて持って行った。

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