醜いフレンズルドウイーク≪完結≫   作:照喜名 是空

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お前は怪物を愛せるか
お前に獣の美しさが解るか
私はお前のためになんでもできる
お前は私のためになんでもするか?
お前の価値に比べてもらいが少ないと思わないのか?
今は去ろう。だが、いつか必ず戻ってくるぞ

―ローディー「would you love a monsterman」より


オリジナル展開
あなたはけものをあいせますか?


それから、海獣園では何の問題も無かった。

キュルルがアシカたちに新しい遊びを教え、立ち去ろうとしたときだ。

 

「すいません、ちょっとアシカさんたちの所に忘れ物しちゃったみたい。ちょっと待っててね」

「えっ?そっかー。じゃあ私たちはバスで待ってるね!」

 

そう言ってかばんはバスを前に引き返した。

キュルルの顔が曇る。

 

「キュルル、大丈夫かね」

「えっと……ううん、なんでもないです。

ちょっとだけ、一人にしてくれますか」

「ああ、わかった」

 

悔しいのだろう。

おそらく、かばんはキュルルのアイデアをより改良したものを与えに行ったのだ。

考えられるのは、ペパプとの共演、とかだろうか?

そして、キュルルのプライドを気遣って隠れてそれを行った。

故にキュルルは傷ついたのだ。

男とは、難しいモノだよ……

 

「キュルルちゃんだいじょうぶかな……?」

「そうね、アタシ行ってくるわ。サーバルはバスを見てて」

「うん!わかったよカラカル!」

 

フレンズは優しい。

だが、我々のような心に獣を持つただのヒトは、誰が傷つけなくとも悩みを持つものなのだ。

それが獣性を克服できていないということだ。

嫉妬や悪意が自らの意志とは関係なくわき出て自らを苦しめる。

それが若さであり、人間性なのだろう。

 

「ルドウイークはどうしたら良いと思う?」

 

サーバルはごく自然に尋ねてきた。

私がキュルルが何に躓いているのか知っているのを理解しているのだろう。

 

「……彼は自らの力不足が悔しいのだ。ヒトは誰しもそういう時期がある。

だがいずれ理解するだろう。人はそれぞれ分相応というものがあるのだと」

「そっかー……ありがとルドウイーク!

だいじょうぶ!フレンズによって得意なことは違うから!」

「そうだったのね……わかった、行ってみるわ」

 

カラカルはキュルルの方に駆けていく。

上手く行くことを祈る。こういうとき、男とはどうしようもないものなのだ。

それから、私は静かに風にそよぐ海を見ていた。

潮騒の音が心を癒やす。キュルルにもそうあって欲しい。

そんなことを考えていると、どすん、どすんと森の方から足音がする。

 

「新型セルリアンか……それもかなり大きい。

サーバル、かばんを呼んで来てくれ。

それからキュルルの避難を」

「ルドウイークは!?」

「それまでこれを引きつける。あの程度ならば問題は無い」

「……わかったよ!必ず戻ってくるからね!」

「ああ、心配ないよ」

 

私は背中の聖剣に手を伸ばし、構える。

大型セルリアンが吠え、前足を振り下ろした。

ステップで問題なく避ける。振り下ろし終えた足を剣で左右に薙ぐ。

さらにセルリアンの攻撃が来る前にステップで前に避けて背後を取る。

 

「やはり単調だな。これならば上位者狩りと変らない」

 

避けては斬り、避けては斬る。

相手が倒れるまで。その繰り返しだ。

動きが遅く単純なデカブツ相手ならば何時間やっても負けんよ。

 

「ルドウイークさん!私が囮になります。ルドウイークさんは攻撃を!」

「かばんか。助かるよ。囮がいるだけで狩りはずいぶんと楽になる」

「新型が脆いとはいえ、油断しないで行きましょうね」

「ああ」

 

それからは早かった。

かばんは仕込み杖を鞭に変えてセルリアンを切り刻み、時に松明で注意を引く。

私はその隙をつくだけでよかった。

かなり雑に狩ったが、無傷で勝利できた。

 

「すごい……!」

 

我々からやや離れた場所に移動したバスからキュルルがこちらを見る。

降り注ぐサンドスターを浴びながら我々はバスに戻ろうとした。

キュルルが駆け下りて、こちらに向かう、まさにその一瞬。

 

「グルルアァ!」

 

アムールトラだ!

キュルルの首根っこ、シャツの襟を口でくわえてものすごい勢いで森へと駆け抜ける。

 

「待て!」

「キュルルちゃん!」

 

やられた!勝った瞬間、キュルルが一人でいる一瞬。

その隙を狙われた。

くそっ、孤立した獲物を狙うのは狩りの常套手段じゃないか……!

 

「全員、決してはぐれるな。少し遅くなっても構わない!

一人になればそこを叩かれる!執念深く追うぞ」

「わかりました!」

 

それから3時間に及ぶ追跡に勝利を収めたのはトラだった。

途中で雨が降りフレンズ達が臭いをたどれなくなったのだ。

なんということだ……

 

 

それから数日後。

かばんとゲールマン、イエイヌ、そして私の4人はアムールトラの居場所を突き止めた。

山深い森の中の洞窟。そこにキュルルはいるようだ。

 

「作戦を確認します。

目標はキュルルちゃんの救出、次にアムールトラさんのフレンズ化です。

素早いゲールマンさんとイエイヌさんが囮になって、

死血を握りつぶした輝きで洞窟からおびき寄せます。

十分に離れたらルドウイークさんが洞窟内にいるキュルルちゃんを助けます。

最後に……僕がこのサンドスター濃縮剤をアムールトラさんに打ち込みます。

ここまでは大丈夫ですか?」

 

サーバルがいないのは……この先、凄惨な光景を目にする可能性があるからだ。

それはあるいはかばんの愛といえるのかもしれない。

あんなもの、見ない方が良いのだ。

 

「ああ、大丈夫だ」

「問題ないよ」

 

目標の森のほど近く、かばんは注射器を取り付けた槍を手に作戦を確認する。

イエイヌはやる気に満ちた目でうなずいた。

 

「洞窟までの道案内はお任せ下さい!」

「ありがとう、イエイヌさん!必ず、必ず取り戻しましょう!

キュルルちゃんのために、そしてアムールトラさんのためにも!」

「ああ」

「狩りの成就を」

 

かくして、山狩りは行われた。

目標の洞窟の近く、隠れ見るのに丁度良いしげみで我々は遠眼鏡を取り出す。

 

「……あれは」

 

洞窟の中は異様だった。

血によって壁画がびっしりと描かれ、中には半裸のキュルルとアムールトラがいる。

アムールトラは狩ってきた獲物の血肉を咀嚼し、キュルルに口移しで分け与える。

キュルルも、どこかうっとりとした様子でそれを受ける。

二人の間に、血の糸の橋がかかった。

それはある種のピエタ像のように、美しくもおぞましい光景だ。

 

「……彼らも血に呑まれたか。まあいい、やることには変わりが無い。今宵の狩りを始めよう」

「はい!ゲールマン!うぉぉーん!」

 

イエイヌが遠吠えをし、ゲールマンが死血を握りしめると狩りが始まった。

アムールトラがこちらに振り向き、猛スピードで走ってくる。

私は、隠れながらゆっくりと移動を始めた。

どこかにかばんも隠れて機をうかがっているのだろう。

 

「キュルル!助けに来たぞ!」

「あ……」

「さあ早く逃げるんだ」

「でも……!」

 

どうやら魅入られたか。しかしあれは本物の獣だ。

人に御せるものではない。

 

「あれは本物の獣だ!いずれ殺されるぞ!」

「そんな、そんなことは……」

「今我々でフレンズ化を試みている。とにかく、いったん距離をおくべきだ」

「……わかりました」

 

キュルルは気の進まない様子だったが、なんとか私に手を引かれ、洞窟から抜け出した。

 

「グルォォオオ!」

 

アムールトラが必死の形相でこちらに向かってくる。

飛びかかろうとした寸前にゲールマンが狙い澄ましたタイミングで散弾を撃つ。

 

「させはせんよ。ここだ!今だやりたまえ、かばん!」

「はい!」

 

膝をついたトラに隠れていたかばんが飛び出して注射機槍を突き出す。

刺さったのは一瞬だった。

 

「グオァオオ!?」

 

薬剤はいくらか入ったが、十分な量ではなかった。

トラは異様なおびえを見せて一目散に逃げていったのだ。

 

「アムールトラさん……」

 

キュルルが悲しげな目でそれを追っていた。

いずれにせよ、今夜の狩りは終わったのだ。

 

 

それからは、キュルルと私はゲールマンの工房で暮らすこととなった。

いつまたアムールトラが襲ってくるか解らないからだ。

横には、最近越してきたアードウルフの小屋もある。

セルリアンが恐ろしいので、狩人の集まるここでならば安心、とのことだ。

 

「しかし、アムールトラがキュルルを狙っているのだが……」

「そのときは狩人のみなさんにお知らせして私は逃げます!

警戒心と鼻は良いんですよ私」

「解った。君達を守ろう」

 

アードウルフは気が弱いものの、極善良なフレンズだった。

キュルルと気があったのか、良くパズルを一緒にしている。

それから、半年ほどは何もなかった。

かばんはフレンズ化剤やセルリウム浄化剤などをずっと作っているようだ。

かばんに代わってゲールマンはよくヒグマたちとパトロールをしている。

 

「今日も変化なし、か……長い戦いになるな」

 

例の円盤や遊園地前の火山は変わりない。

急激に何かが悪化するわけでもなく、穏やかに毎日が過ぎていく。

そして、キュルルは……

 

「先生!もう一本お願いします!」

「ああ、構えたまえ」

「はい!」

 

あの後、意外なほどにたくましく回復し、熱心に狩人の業を学んでいる。

かばんに比べれば成長はゆっくりとしたものだが、それでも着実だ。

すでに基本の動きや素手戦闘、銃の撃ち方は型を学び終え、

今は教会の石鎚のショートソードの型を学んでいるところだ。

 

「では、狩人の一礼を」

「はい」

 

キュルルは力強くステップを踏み、剣を振るう。

もうすっかり慣れたものだ。

私も前に出てすれ違い、木剣を振るう。

 

「相手が恐ろしいのであれば、一歩前に出て立ち向かうことだ。

すれ違っても良い、打撃を受けて殴り返しても良い。

このように」

「はい!」

 

キュルルを軽く剣で薙ぐ。

それに対応してキュルルもまたステップで三歩下がって剣を構える。

 

「そうだ、仕切り直す時は三歩後退する。

十分な距離を取ることだ。良く覚えていたな」

「慣れてきましたから……!」

「ではこれはどうかね」

 

私はダッシュから斬りかかりさらに猛攻を加える。

キュルルは斜め前に剣をすり抜けるように避けて剣で私に一撃を与える。

 

「ここだ!」

「そうだ、それで良い。今日の訓練はここまでとしよう」

「あ、はい……ありがとうございました!」

 

キュルルは優雅に狩人の一礼をする。

身を包むのは「ヤーナムの狩人装束」の女性版だ。

サイズが丁度合ってしまったのと、男性版はあまりにもごつすぎたからだ。

しかし、その狩人装束は奇妙にキュルルに似合っていた。

 

「うむ、血を恐れたまえよ」

 

私も狩人の一礼をする。教会の一礼は辞めた。

いい加減に過去と決別すべきだからだ。

ただの一人の狩人、それでいいじゃあないか。

風がさっと吹き抜ける。冬の寒さをまだ少し残した春風だ。

工房の庭の七色の花が風にそよぐ。

サバンナの夕暮れは雄大で、そして優しい。

 

「お疲れ様です!ルドウイーク、キュルル!冷たいお茶が入ってますよ!

お夕飯は少し待ってて下さいね!今日はロールキャベツですよ」

「ああ、いつもありがとうイエイヌ」

「ありがとうね!ロールキャベツ、楽しみだなあ……」

 

イエイヌが私たちに濡れタオルを渡してくれる。

我々はそれで汗をぬぐった。

庭を横切り、工房へと歩く。

夕の赤と夜の青がせめぎ合う。その中に鳥のフレンズが飛ぶ。

あれはペリカンか。

 

「かばんさんからのお手紙、置いておいたわよー!」

「ありがとう、お礼のジャパリまんだ」

 

私は空中にジャパリまんを投げるとペリカンは素早くキャッチする。

 

「はーい、まいどありー!」

 

私たちは手を振り合い別れ、家路へと急ぐ。

工房の裏手、野外にしつらえられた食卓にはすでにゲールマンが居た。

 

「やあ、ルドウイーク、キュルル、励んでいるようだね」

「はい、もうそろそろ狩りに出ても良い頃でしょう」

「ほんとですか!」

 

キュルルはうれしそうに顔を輝かせる。

彼がこれほどまでに必死になる理由……それはやはり、アムールトラだろう。

ビーストの寿命は短い。捕獲して治療を行わねば長くは持つまい。

その狩りをキュルルは自らの手でやりたいのだ。

 

「ああ、小さいセルリアンであればもうすでに何体か狩っているだろう?

君はよくやっている。そろそろセルリアン狩りに出るベきだ。

むろん、ルドウイークやヒグマと共にね」

「はい!」

「だが、だからこそ心したまえ。かねて血を恐れたまえ。

恐れを忘れた狩人は獣と変わらない。

獣に墜ちた者に、獣は救えないと知りたまえ」

「……もちろんです」

 

不服そうなキュルルには私は一抹の不安を覚える。

しかしだからこそ私が導かねばなるまいと自らを戒める。

 

「さて、そんな君達に朗報だ。フレンズ化薬の精製が完了したそうだ。

さきほどかばんから手紙が届いたのだよ。

明後日の夕に会合を行い、夜に作戦を決行する。

……キュルル、君もやるのだ」

「……はい!これで、アムールトラさんもフレンズになれるんですよね!」

「……何しろ前例のない事だ。あまり過度な期待は禁物だが。

それでも希望を持つことは大事なことだ。

さあ、そろそろ夕食ができる。私も手伝ってこよう」

 

ゲールマンがゆっくりと椅子から立ち上がる。

 

「いえ、我々が」

「我々も、だよルドウイーク。ここでは皆、自らのことは自らでするのだ」

「はい」

 

夕食のロールキャベツもまた、甘く暖かかった。

 

 

夜、キュルルが寝静まった頃私はゲールマンと暖炉の前に居た。

 

「キュルルは、この後またトラに逢いに行くのでしょうか?」

「おそらくはね。愛は盲目だ。だからこそ美しい。

愛とは失われぬ限りにおいて、狩りの夜でよすがとなる。

……そんな狩人は大勢居ただろう?」

 

工房の壁に貼られたアムールトラの絵。

それは極めて写実的で、そして慈愛に満ちた表情をしている。

きっと、キュルルは何枚も何枚も描いたのだろう。

その一枚は、この工房に飾られているのだ。

 

「ええ、そして皆全てを失い獣に墜ちた」

「だが、ここはヤーナムではない。

我々もまた繰り返さぬ努力は怠るべきではない。違うかねルドウイーク」

「その通りですゲールマン老」

「『そして王子様は獣となった姫様にキスをして、

人になった姫様と末永くしあわせにくらしました』

……だよ。ルドウイーク。そんな優しいおとぎ話が、ここにあっても良いだろう」

「ええ、なんとしても……」

 

暖炉の火が爆ぜた。明後日。その夜が勝負となる。

万全を期さねばなるまい。

狩りの夜は、近い。




今作は前作と比べて、暖かく優しい「ほんとの愛」ではなく、「燃えさかるような愛」をテーマとしています。
男女の、そしてヒトと獣の愛です。
なので、どうしても殺伐としたノリになってしまいますね……
すみません……暖かい優しい世界が書きたいんですが、今回はどうしてもこうなってしまいました……すいません。
ですがハッピーエンドは確約します。
どうかもう少しおつきあい下さい。
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