醜いフレンズルドウイーク≪完結≫   作:照喜名 是空

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それでも僕らは恋をして 大切な誰かを探して
奇跡を待ってる 本当の自分を知ってくれる人を
応答して 声を聞けたら 僕を証明してくれると信じたいから

―岸田教団&THE明星ロケッツ「nameless survivor」


なまえのないかいぶつ

夜、私とキュルルは研究所から少し離れた森林の中でたき火をしていた。

作戦はこうだ。絵を描くキュルルを囮にして私が待機。

アムールトラが現われたら罠を作動させ捕獲。薬を注入する。

何かあれば狩人呼びの鐘を鳴らしゲールマンを召喚する。

かばんは研究所からバスに乗り待機……そういう手順だ。

 

「不安かね?」

「はい……うまくいけば、いいんだけど……

でもなんだか、アムールトラさんを騙してますよねこれ」

 

パチン、と篝火が弾ける。私は木の枝を火かき棒にして火を鎮めた。

 

「……やむを得まい。おそらく彼女はヒトに実験をされていた。

それもひどく過酷なね。故に注射を怖がるのだろう。

だからこんなやり方しかないのだ」

「飲み薬って手は……」

「君が確実に飲ませられるならば、それでもいいのだが……

すまない、もうあまり時間が無いようなのだ」

「それって、寿命……ですよね。でもフレンズ化すればきっと」

「ああ、きっとうまくいくさ」

 

キュルルは新しく自力で作り直したスケッチブックをめくる。

写真のように写実的で、しかし写真以上に美と愛を表現した絵があった。

アムールトラの美しい一枚画だ。

 

「君は……なぜあの娘を?」

 

気づけば、こんな言葉が出ていた。私らしくない。

だが、今を逃せばきっと聞けなかっただろう。

 

「えっと……最初は最悪でした。こわくて、乱暴で……

でも、あの子は僕を、僕だけを求めてくれたんです。

ヒトじゃなくって、僕を」

 

私は黙って続きを促した。

きっと、彼も今を逃せば言うことはないだろうから。

 

「でもきっとそれは、僕がサンドスターの量が多いからとかそんなのだったんでしょうけどね。

最初はそうだったんでしょうけど、なんだか、解ってきたんです。

本当の自分を受け入れてくれるのはあの子だけだし、

あの子を受け入れられるのも僕だけなんじゃないかって。

それって、ちょっとした奇跡なのかも……なんて、あはは……」

 

キュルルの小さい身体を包むのは迫り来る夜の青と星々のきらめきだ。

なるほど、まさに恋の中にいるようだ。

それは啓蒙だろうか?それとも思い込みだろうか?

まあ、どちらでも良い。煎じ詰めれば同じになるのだから。

出会いを偶然とするのも、奇跡とするのも同じように。

 

「そうか、若いというのは素晴らしいな。

恋は若者の特権だ。遠慮することはないのだよ」

 

キュルルは珍しく話を続けた。

 

「恋……そうですね。僕は恋をしてる……うん、そうなんです。

いつだったか、話してくれましたよね、狩人と血の話。

僕にもそういう黒い欲望はあります。フレンズにない、ヒトの持つ悪意……

それは、獣である彼女にもあって……

だから、僕らは拙いなりに恋をして、今もこんなに逢いたいんでしょうね」

 

恋、か……フレンズが覇者となったジャパリパークでは、

ヒトが消え去ってから、それは久しくなかったことなのだろう。

 

「奇跡か……そうかもしれないな」

「えっ?」

 

キュルルが聞き返すが、何か無粋な気がして私は話を変えた。

 

「いや、きっとすぐに会えるとも。この狩りが成就すれば」

「はい、狩りの成就を」

「狩りの成就を」

 

 

そして、夜が深まりキュルルは火の近くで黙々と絵を描いている。

私は少し遠くから土に掘った穴に隠れ潜んでいる。

 

「グルルルゥ……」

「アムールトラさん、また会えたね」

 

アムールトラが来た。

キュルルはそっとトラを抱きしめ、トラも身をかがめてキュルルの首筋に頭をすりつける。

 

「今日も絵を描いたんだ。見てくれる?」

「グルゥ……エ スキ……」

 

拙いが言葉をしゃべっている!?

かばんによる前回のフレンズ化剤は効いていたのか。

とはいえ、不完全なようだが。

 

「スキ スキ キュルル スキ……」

「僕も好きだよアムールトラさん」

 

アムールトラがキュルルの足下に横たわり、キュルルも地面に座り込む。

足下にじゃれつくトラの髪をキュルルは撫でた。

 

「ねえ、アムールトラさん。かばんさんの薬……試してみない?

あれがあればフレンズに……!」

 

トラは瞬時に起き上がり立ち上がって肩を怒らせて吠えた。

 

「ガルゥ!ガルル……クスリ イヤ!イヤ!イヤ!

フレンズ イラナイ!キュルル オマエダケ イル イイ!」

「ごめんね、アムールトラさん」

 

キュルルがなだめると、アムールトラはしばらくあたりをうろうろする。

そろそろか……

 

「アムールトラさん、信じて」

 

キュルルが指で合図を送った。今だ!

 

「ガアアア!キュルル ナンデ!ナンデ!ヒドイ!ダマシタ!」

「ごめんね、信じて……!」

 

落ち葉に偽装した網が袋のようにトラを包みこみ、空中に吊す。

木々を利用した単純なトラップだ。

急げ!私は走りより、注射器を掲げる。

 

「ガアアア!ヒドイ!ヒドイ!アアアアア!」

 

いかん、思ったより暴れ方が激しい。だが私は被弾覚悟でぶつかるようにして注射器を刺した。

サンドスターの激しい光が輝く。それと同時に、セルリウムの紫の妖気も吹き出した。

だが、トラの大暴れで私は吹き飛ばされ、注射器もまた地面に転がった。

あと一刺し!後一刺しが!

くそっ、これを使うしかない……

 

「ゲールマン老、頼みます!」

 

狩人呼びの鐘をならし、注射器を拾って私はまた駆け出す。

しかし、トラの大暴れで網を固定していた木が倒れ、トラは自由になった。

つまり私に向かってくると言うことだ!

 

「オマエ!オマエノ!ガアア!」

「そうだ、私が入れ知恵したのだ!さあ来い獣!お前の敵はここにいる!」

 

鐘を鳴らしている間はあまり動けない。

だが、怒りにまかせた単純な攻撃は歩いてでも避けられるものだ。

 

「ナンデ!ナンデ!」

「君の攻撃が簡単だからだ。それでは狩人は狩れない」

「ガアアア!」

 

いいぞ、もっと怒れ。敵視されるのは私で良い。

キュルルを嫌ってくれるなよ。

 

<古人呼びの鐘に共鳴がありました>

<鐘の音に惹かれ、どこかに「鐘を鳴らす女」が現われました>

<鐘の共鳴により、最初の狩人ゲールマンがやってきました>

 

脳裏に使者の声が響き、青い光と共にゲールマンが現われる。

 

「今宵の狩りにはこのゲールマンも加わろう」

「ゲールマン老、手はず通りに」

「ああ、君はやり遂げたまえ」

「はい」

 

吠えるトラの前にゲールマン老が加速し、銃でパリィを成功させる。

 

「今だ!」

「はい!」

 

私が駆けだそうとした瞬間だ。

 

<不吉な鐘の音に共鳴がありました>

<敵対者*********がやってきました>

 

「馬鹿な!?」

 

一瞬の迷いが致命的だった。

トラは硬直から立ち直り野生解放の力により我々を風圧で吹き飛ばした。

そしてトラは一目散に逃げ去ろうとする。

 

「待って!」

 

キュルルがその進路に立ちふさがる。

 

「うそつき!」

 

トラは無意識にか、手枷の一つを引きちぎり、キュルルに投げた。

キュルルはとっさに前に避ける。一歩、二歩。さらに前へ。

そして、すれ違い、伸ばす手は空を切った。

 

「アハ、あはははははハ!」

 

そして敵対者が現われた。赤いオーラに包まれ、その姿に我々は驚いた。

かばんにうり二つだ。

しかし、身に包むのは口布の無い狩人装束、手には散弾銃とノコギリ鉈。

容姿も少し幼い。

異世界のかばんか?それとも別の何かか……

 

「そうか、異世界では君は呑まれたか。だが」

「そういう者を始末するのも、狩人の役目というものだ」

『ヤーナムの狩りを知るが良い』

 

ゲールマン老は葬送を、私は聖剣をしまい、月光を構える。

黒いかばんの目を見る。赤く、濁り、瞳孔がとろけている。

立派に血に酔った目だ。

 

「アハハッ、あーっはっはっハ!」

 

黒いかばんはおかしくて仕方ないというように笑い、夢から骨片を取り出して掲げる。

加速か!まずい……

黒いかばんはかばんとは全く違う、ヤーナムめいた笑い方で一目散に逃げ出した。

まずい、これはこの流れは非常にまずい……!

 

「ゲールマン!」

「ああ、優先すべきは血に酔った狩人だ。アレは見境なしだぞ」

「ええ、絶対にはぐれないように確実に狩りましょう」

「あの、僕は……」

 

そうだ、キュルルがいる。

 

「ルドウイーク、私が行く。君はキュルルを連れ研究所に。

かばんに最大限の警戒をと伝えたまえ。急げ!」

「はい!」

「でも……」

「ためらうな!パーク全員が死にかねん」

「は、はい!」

 

私はキュルルの手を引き全力で研究所に走る。

 

「あの、あれは……」

「いつか言った血に酔った狩人だ。

すまない、私が安易に鐘を使ったばかりに……!」

「いえ、でも……あれはそんなに危ないんですか?」

「あれは見境成しにフレンズを皆殺しにするぞ。

何もかも破壊し奪い去っていく嵐だ。

そして、おそらくアレはそれができる」

「そんな……」

 

研究所は目の前だ。ゲールマンの立てた案内板と使者の姿が見える。

いや、待て。あれは!?

 

「止まれキュルル!」

「えっ」

 

そこに散弾が飛んでくる。

黒い霧が晴れ、使者の居た場所に黒いかばんが立っていた。

秘儀『使者の贈り物』を使った擬態か!やられた……!

 

「うわああっ……!」

 

キュルルが足を押さえて転げ回る。

そうだ、キュルルはヒトだ。フレンズではない。

鍛えたとはいえ、血の医療もサンドスターの加護もない子供が散弾を受けて無事で済むはずもないのだ。

 

「あハッ、あははははハ!はーははははハ!」

「そんなにおかしいか、血に酔った狩人」

 

それを聞くと黒いかばんは手を広げて肩をすくめ、キュルルを指さした後指を下に向けた。

顔には泥のように悪意と血に粘つく笑みを浮かべて。

非常にまずい。キュルルをかばったまま戦うのは不可能だ。

ゲールマンかかばんが来るまで時間を稼ぐ。それで行くしかない。

 

「ゲールマン老はどうした」

 

黒いかばんはまた肩をすくめ、そして頬についた血をすくい取って舐める。

そして舌を扇情的に見せて笑った。

さらにノコギリ鉈をチャキチャキとリズムを刻むように変形させてこちらに近づいてくる。

 

「……そうか」

 

私は月光を構え、神秘の光を放つ。

避けてくるか、そうだろうな。さらに踏み込み光波と共に斬りかかる。

黒いかばんは避けて、黒いフラスコをキュルルに投げつけた。

とっさに私は月光の光波でそれを破壊する。

 

「~♪」

 

黒いかばんは鼻歌を口ずさみながら鉈を振るう。

キュルルをかばいながら私はそれを避ける。

 

「ルドウイーク、さん……!」

「キュルル、動くな。かばんが来るまで持ちこたえるのだ」

「いいえ……!僕も、戦えます。戦ってやる!」

 

キュルルは膝立ちになって銃を構える。

そこに散弾が刺さる。私が盾になってほとんどは防いだ。

しかし一瞬の硬直の間にまたあの黒いフラスコを投げられた。

光波と共に月光を振って迎え撃つ。

黒い粉の一部が月光に降りかかった。

ボコボコと泡を立てて月光が変形していく。

これは、まさか……

 

「セルリウムか!」

 

黒いかばんはうなずくと、手を降って森の中に逃げ出した。

最後に振り返って石ころをキュルルに投げるくらいの余裕を見せて。

私は月光を手放して聖剣を構える。

 

「ルドウイークさん!大丈夫ですか!」

 

車の音がして、本物のかばんがこちらに向かってくる。

 

「大丈夫ではない。キュルルを早く!あのセルリアンは私が片付ける」

「……わかりました。サーバルちゃん!」

「うん!」

 

かばんはサーバルに目線を送るとサーバルは後部座席から飛び出してキュルルを抱えて車へと移動する。

後部座席には血にまみれたゲールマンがいた。息はしている、大丈夫だろう。

 

「でも!」

 

背負われながらキュルルはこちらに目をやる。

 

「キュルル、任務を与える。

ここで何があったかかばんに言うのだ。君にしかできない事だ」

「……先生!」

「行け!これは私が始末をしなければならないんだ」

 

月光の残骸は泡立ち、ふくれあがり……無数の足が生え、頭ができつつある。

 

「……サーバルちゃん、キュルルちゃんを抑えて。僕は全速で車を飛ばすから」

「かばん!敵対者だ!わかっているな?フレンズ全員に避難を!」

「はい!」

「行け!」

 

かばんはためらわずにアクセルを吹かした。

車が遠ざかっていく。そうだ。それでいい。

この醜い獣は私が倒す。

ああそうだ、月光から生まれたセルリアンは、私が獣に墜ちた姿そのままだった。




霧に煙る夜、浮かべ赤い月
ほら見て私を、目をそらさないで

黒い鉄格子の中で私は生まれてきたんだ
悪意の代償を願え望むがままにお前に

さあ与えよう正義を壊して壊される前に
因果の代償払え共に行こう名前のない怪物

―EGOIST「名前のない怪物」
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