醜いフレンズルドウイーク≪完結≫   作:照喜名 是空

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ぶらっどぼーん

醜い獣との戦いはそれ自体は単調なものだった。

引っ掻きは斜め前に回り込めば避けられる。

突進は横に三歩避ければ良い。

ジャンプからの落下は走り回って逃げればいい。

ごく単純で、しっかりと避け続ければ勝てる戦いだ。

 

「我が師……あなたはやはり、私の願いを叶え続けていたのか」

 

想いを巡らせるはあの光の糸、私の抱える欺瞞。

啓蒙と獣性は対になる。そして獣性とは人間性であり、啓蒙とは狂気だ。

遺跡に潜りすぎた私の狂気を鎮めてくれたのは月光の光だった。

そして、それは血と狩りの中でのみ導かれた。

つまり、上位者にならんとする脳のうごめきに対し、

狩りと血の欲望を思い出させることで人にとどめていたのだ。

 

「やはり、導きは私の浅ましい血と狩りへの欲望だったのか。

だが、それでも……ありがとう。私を人にとどめようとしてくれて」

 

倒れた月光セルリアンに対し、私は頭蓋に手を突っ込み、掻き出す。

 

「だがもう、良いのです。師よ。

ローゲリウス師の言うとおりでした……

『善悪と賢愚は、何の関係もありません』

ヒトの善性は、それだけで独立したものだったのです」

 

そう、賢愚とは獣の愚かと上位者の啓蒙。

月光は、その間でバランスを取ることで私を正気にとどめてくれていた。

だが、真にヒトに留まるのであれば、

それは愛や善や美といった別の軸をよすがとすべきだったのだ。

初めから啓蒙など、求めるべきではなかったのだ……

血の救い、上位者への進化。それこそがまやかしだった。

ただ私は、原初の誓い、他者を守るために剣を取ろう。

狩りと血への欲望ではなく……

 

「もう、夜に迷いません。さらば、我が師よ」

 

そして、セルリアンを突き放す。

パキン、と我が師月光の大剣が折れた音を聞いた。

セルリアンが、崩れゆく。最後には、溶けて折れた月光剣が残った。

鋼色で、もう輝かない。

私はしばらく黙祷をした後、かばんたちを追って研究所へと向かった。

 

 

鐘を鳴らす女を倒し、たどり着いた研究所では銃声が鳴り響いていた。

 

「遅いのですルドウイーク!」

「かばんたちが危ないのです。さあ、掴まるのです!」

 

私はハカセたちの手を取る。

みるみるうちに天高く昇り、研究所の周囲を飛び回る。

 

「わかった、かばんに加勢する。遠慮はいらない、窓から放り投げてくれ」

「わかったのです!」

「さあ、いくですよ!」

 

私は聖剣を構え、窓ガラスを割って中に入る。

中は凄惨な有様だった。

かばんも、敵対者もノコギリで引き裂いたような傷だらけで、床は血にまみれている。

かばんはドアを背に血に酔った狩人を侵入させまいと動いていたようだ。

 

「かばん、遅くなった」

「ルドウイークさん……!パリィに気をつけて下さい。

あの子、相当強いですよ」

「知っている。君は援護射撃を。私は前に出る」

 

私は聖剣を変形させてロングソード部分を抜く。

間合いを悟られぬように円を描くようにして歩く。

来た!

そこからの戦いは筆舌に尽くしがたい。

両者ステップで避け合う高速戦闘。

少しでもうかつに振ればパリィを取られる緊張感。

回復すらできず、ノコギリ鉈でじわじわと削り取られる。

だが私には秘策があった。

黒いかばんが油断してジェスチャーで煽ってくる。

 

「ここだ!」

 

私は大砲を夢から取りだし撃ち放つ!

これで倒れたわけではないだろう。うかつに攻め込んでも狩られるだろう。

故に隙の少ない方法を選ばせてもらう。

油壺からの、炎ヤスリだ。

ごうごうと聖剣が炎に包まれる。

あと一撃、あと一撃あてれば倒せるだろう。だが、そんなときこそ危うい。

煙が晴れた先で、黒いかばんはあの黒いフラスコを取り出し……

なんとそれを自分で飲んだ。

 

「かばん!パリィだ!」

「はい!」

 

かばんが銃を撃つが、一瞬遅かった。

手からエブリエタ―スの先触れのように触手を放ち、窓から逃げる。

私は骨灰から毒メスから投げられるものを放つが、今一歩足りない。

どうやら、あのセルリウムで回復していたようだ。

 

「もはや、フレンズでもヒトでもない……

あれは狩人の特性を持ったセルリアンだ……」

 

ともかく、いったんは退けた。だがまた襲ってくるだろう。

私は物陰に隠れてサンドスターを握りつぶし回復を図った。

くそっ、やはり血に比べると回復量が少ない。

 

「ルドウイークさん、これを試してみましょう」

 

淡く緑に光るかばんが、緑のケムリクサを差し出してきた。

自らで試したのだろう。傷はすでにふさがっている。

決断の時だ。それも、出来るだけ早く。

 

「……解った。やってくれ」

「……はい!」

 

信じてみよう。かばんを。ヒトの善性を。

ケムリクサによる回復は劇的で、傷も、服のほつれも一瞬で巻き戻るように直った。

 

「ふう……ゲールマンとキュルルの回復を急ごう。

遠くに逃げられないうちに始末せねば」

「あの子は……」

「セルリアンだ。それもヒトフレンズ型の、狩人の業を知った。

極めて危険な存在だ。皆殺しにされるぞ」

 

実のところあれが墜ちたかばんなのか、

それともセルリアンが外形を模したのか、それは解らない。

だが一つ確かなことがある。

あれは狩人の血を取り込み、血に酔っている。

瞳のとろけた立派なヤーナム野郎だということだ。

ならばもう話し合いの余地はまるでない。

 

「わかり、ました……とにかく治療を急ぎます」

「ああ、私は護衛しよう」

 

そこで悲鳴と破壊音が響き渡った。

 

「やめてよ!なんでアムールトラちゃんが!?」

「ぐるるう……あいつ、いってた。こうすれば、キュルル、てにはいる……!」

「いやだよ!はなして!」

 

くそっ、一歩遅れたか!

私がドアを蹴破って中に入る。

気絶したサーバルを抱えたアムールトラが窓から飛び出した。

窓から外を見ると、あの黒いかばんが大笑いしてアムールトラを引き連れている所だった。

かばんとキュルルを煽るようにアムールトラの首筋を撫で、サーバルの肩を抱く。

 

「あはははハッ!あーっはっはっハ!あはははハ!」

 

キュルルが這いずって窓ぎわに手をかける。

ガラス片で血が出るにもかかわらず、血走った目で黒いかばんを睨み付け叫んだ。

 

「ぶっ殺してやる!殺してやる!お前を絶対に殺してやる!」

「あはハ、あはははハ!」

 

黒いかばんはおかしくて仕方ないというように腹を抱えて笑う。

そして、キュルルに何かを投げて当てた。

注射器だ!キュルルは怒りにまかせ引き抜くが、何が入っているやらわかった物ではない。

 

「なんで、なんであなたはそんなことを……サーバルちゃんを返してください!」

 

かばんは悲しい目でそれでも追おうと装備をし始める。

 

「ふふフ……」

 

黒いかばんは眼下で指を鳴らすと『狩人の手記』を使者にあずけた。

そして手を振ると全速力で逃げ始める。

キュルルが自らの長銃を構えて撃ちまくる。だが当たらない。

全速力で蛇行しながら逃げる相手では不可能だ。

 

「待て!待てよ!返せ!アムールトラさんを返せよ!

逃げるな!殺してやる、絶対に……!」

 

駄目だ、とても追えない。

私一人ならばなんとかなるだろう。だが孤立して戦える相手ではない。

私は、構えた長銃を下ろし、額に手をやった。

 

「……完敗だ。だが今は、だ。必ず、取り返そう」

「……はい」

 

その後、回復したゲールマン、かばん、私の三人で手記を見てみた。

 

『遊園地にて待つ。だがずっとではない。

僕を狩らない限り、夜はずっと明けない』

 

我々は、拳を握りしめた。

 

 

落胆している暇はない。

ケムリクサにより回復した我々はまずラッキービーストを使い、フレンズたちに避難を呼びかけた。

 

「ラッキーさん、緊急事態コード75『密猟者』です。

フレンズさん全員に通信の許可を」

「ワカッタヨ、カバン。ボクタチラッキービーストニヨル承認ガスンダヨ。

今、フレンズ全員ニ通信ガイクヨ。サア、話シテカバン」

 

かばんはラッキービーストに対して向き合う。

暗い目ではない、血に酔った目でも無い。

真剣で、誠意ある戦いを決意した者の目だ。

 

「みなさん。今僕とそっくりの姿をしたセルリアンがいます。

とても危険で、見境なしにフレンズを襲ってきます。

ハンターの皆さんは研究所に集合して下さい。

フレンズの皆さんは、それぞれ集まって安全な建物に籠もって下さい。

この騒動が終わるまで絶対に扉を開けないで。

たとえ僕の声であっても、セルリアンがまねしている可能性があります。

繰り返します。

フレンズさんは建物に集まって絶対に扉を開けないで。

セルリアンは遊園地に向かってます。遊園地には絶対に近寄らないで下さい。

僕らが……ハンターがアレを狩ります。安心して」

 

かばんは言い終えると、ふーっとため息をついた。

 

「カバン、コノ放送ハ狩リガ終ワルマデ繰リ返スネ。ハンター達ニモツタエタヨ。

モウスグ、ココニクルンジャナイカナ」

「うん……ありがとうラッキーさん」

 

我々は、かつて論戦を交わした会議室で疲れを癒やしてる。

キュルルは横で床に横たわり眠ってしまった。

緊張の糸が切れたのだろう。

 

「いや待てよ」

 

いや、先ほどの注射器から考えると油断はできない。

あれは何だったのだろう?

私は不安になり病室に戻り、拾い上げた。

 

「なんということだ……」

 

ああ、それは嫌と言うほど見慣れたヤーナムの輸血液だった。

 

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