醜いフレンズルドウイーク≪完結≫   作:照喜名 是空

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しあわせなけつまつ

「ん……あれ、あれは夢……?」

 

起き上がったキュルルの目は宇宙を見ていた。

幸い、瞳はとろけていない。

 

「どこまで、覚えているかね?」

 

会議室で私とかばん、ゲールマンが不安を抱きながらも見守る。

 

「工房にいたんです。でも、ちょっと違って坂の上にあって……

人形って女の人がいて……お墓に手をかざしたら、目が覚めました」

 

ああやはり、夢見る狩人になっていたか。

 

「その前は?」

 

キュルルは思い出すような表情になり、そしてはっと気がついた様子だ。

 

「アムールトラさんは!?そうだ、あいつに……!あれからどうなったんです!?」

 

良し、どうやら記憶はまともなようだ。

 

「あの後君はすぐ眠ってしまったのだよ。おそらく、狩人の夢に誘われて……

いつか話しただろう。あれが狩人の夢、そして君は……夢見る狩人だ」

「僕が……これなら、あいつに……!」

 

ゲールマンがかがんでキュルルに目線を合わせて優しく、しっかりと語る。

 

「だがしかし、君は獣の病の感染者になってしまった。

いいかね、人は誰しも獣であり、ヤーナムの血はそれを覚醒させる。

この一夜は大丈夫だろう。だが、その後は決して自分を見失わないことだ。

美であれ、善であれ、愛であれ、君には人であるよすがが有るはずだ。

それを忘れてはならない」

「……はい」

 

キュルルは自らの手を見てうなずいた。

 

「紫のランタンは見えるかね?」

「えっと……はい、あっちに」

「触れれば夢に戻れるはずだ。そこで、これを君に渡しておこう」

 

ゲールマンは無数の死血と狂人の知恵をキュルルに渡した。

キュルルも何気なくではあるが、それを自らの夢にしまっている。

 

「これは……?」

「死血……血に混じった遺志、すなわち輝きを人形に捧げると良い。

そうすればあれが君の力を高めてくれるだろう。最初の内は体力を高めたまえ」

 

私も死血と狂人の知恵、それから石鎚の石部分をキュルルに渡した。

 

「私からもこれを。もう扱えるはずだ」

「……ほんとだ、持てます。これなら……!」

「もし血の遺志が余り、使者が売ってくれるのであれば、ガドリングガンを買って来て欲しい。

あれは、切り札になりうる」

「わかりました!行ってきます!」

 

キュルルがランタンのあるであろう場所に手をかざすと水に溶けるように消えていった。

我々は、大きくため息を吐いた。

 

 

「しかし……どうしたものかね」

「どうしたものでしょう……

かばん、毎度頼ってすまないが、何か知恵はあるかね?」

 

かばんは額に手を当てしばらく考えた後、こう切り出した。

 

「狩人化した後に、フレンズ化すれば、獣化は抑えられると思います。

サンドスターが獣性を抑えてくれるみたいですから」

 

ゲールマンが髭を触りながら付け加えた。

 

「私の見立てでは獣性を根本的に抑えて善性を付与してるようだがね。

しかし、フレンズ化剤はあれで最後なのだろう?」

 

そうだ。あの最後の一本の残りだけだ。

今から精製してもどれほどかかることか。

夢見る狩人はその晩は死にも獣化もしないが……

一晩で作れるとは到底思えない。

 

「私の血を輸血します。

私の血の中にもサンドスターは含まれているはずだから……

それよりも、キュルルはサンドスターの量であれば十分なはずなんです。

描いた絵にあれだけの輝きを出せるのは、想いの力だけじゃないはず……

だから、あとは切欠さえあればフレンズになれると思うんです」

「なるほど、カコ博士の論文にあったサンドスターの共振反応か……」

「はい、キュルルちゃんさえよければ、すぐにでも」

 

ここでにじみ出すようにキュルルが虚空から現われた。

 

「その話、聞こえてました。お願いします。僕をフレンズにしてください!」

「キュルル……それは、よくよく考えての事なのかね?」

 

私の頭に警句がよぎる。

貪欲に力を求める姿勢はまさに夢見る狩人そのものだ。

故に危ういのだ。

 

「ずっと……ずっと僕がヒトだったのが嫌だったんです。

ずっとフレンズになりたかった……それに、狩人ってそういうものでしょう。

善に憧れながら、血にのたうつしかできない……だから、だからこそ……」

「……解った。そこまで理解しているならば良い。だが、警句は忘れてはならん」

「はい、血を求めるのは今夜が最後です」

 

我々の声が重なった。

 

『かねて血を恐れたまえ』

 

かばんは自身の腕に針を刺し、管を器具に取り付ける。

そして、器具の反対側には同じような針がある。

 

「じゃあ、輸血を始めるよ。大丈夫、きっとこの夜が明ければ悪い夢で終わるから。

血が入って来たら呼吸を合わせて」

「はい」

 

二人は横になり、輸血が始まった。

生理食塩水に血が混じり、そしてその血はキュルルの体内へと混ざっていく。

ぴくり、とキュルルの手が動いた。

 

「大切な人の事を思い出して。奪われた怒りじゃなくって、その温かさを……」

「……はい」

 

やがて、変化は如実に表れてきた。

キュルルの身体からサンドスターの輝きがあふれ出し、髪の色が緑から黒へと変わっていく。

手から黒い手袋が生える。

見開かれた瞳孔はかつてのオッドアイではなく、深く静かな緑がかった黒へと変わる。

 

「フウッ、フウッ……フー……変化が、終わったみたいです。

なにか……何かとても暖かい光が……僕の中の獣を鎮めてくれるみたいで……

これが、フレンズの優しさ……」

「たぶん、これで……」

 

かばんはふらつきながらも針を抜き、キュルルも自ら針を抜く。

かばんは緑のケムリクサを使い、自身とキュルルを癒やす。

そこに、ドアが開いてヒグマたちが入って来た。

 

「大丈夫か!かばん!」

「あんまり大丈夫じゃないですけど、なんとか」

 

そしてかばんやハカセが作戦を説明していく。

 

「騎兵隊の到着、か……ルドウイーク、機会はおそらく一度だ。全力で事にあたるぞ」

 

ゲールマンがほっとしたように呟いた。

 

「はい、我々が倒れたとしても、絶対に」

『狩りの成就を』

 

希望が見えてきた。

さあ、反撃だ。

 

 

我々は青いジャパリバスに乗り、遊園地を目指す。

作戦はこうだ。

相手がどんな罠を貼っているかわからない。

だが車であればある程度は強硬突破できるだろう。

故に敵の目前まで車で移動し、遠距離攻撃を加え続ける。

ヒグマたちは襲ってくるであろうセルリアンからバスを守る。

さらにハカセは、上空からやつの場所を探し。隙を見てサーバルを救出もする。

 

「完璧とは言えませんが、でも今できることは全部やったと思います」

「ああ、やり遂げよう」

「前みたく一人で突っ走るなよかばん」

 

ヒグマが緊張をほぐそうと不敵に笑う。

 

「はい、今回は絶対に……でも、臨機応変に行きましょう!」

「やれやれ、また突っ走る気じゃないか……わかったよ。

そのときは、事前に言えよ」

「はい!」

 

皆に笑顔が戻ってきた。

リカオンが不安そうに月を見る。

 

「月が……赤いっすね……」

「ああ、やつがそうしているのか、それとも火山の煤煙のせいか……」

 

おそらく後者だろう。あれが本物の『赤い月』であれば皆こうして平静ではいられないはずだ。

だが、それでもその赤い月は気を引き締めるのには役立った。

 

「そろそろ遊園地です……いきます!」

「おお!みんな、掴まれよ!」

 

ヒグマが言うと、皆そのへんをつかみ、バスに衝撃が走った。

閉じられていた門を破ったのだ。

そのとたんに遊園地の遊具がセルリアン化し、襲ってくる。

 

『見つけたのです!やつは観覧車の前にいるのです!』

『サーバルもいるのです……逆さに吊られているけど、まだ生きてるみたいなのです』

 

無線からハカセたちの声が聞こえた。かばんがギリッと歯をかみしめる。

 

「サーバルちゃん……!ハカセ、アムールトラさんは?」

『観覧車の近くに隠れているのです。うかつにあいつに近づくとやられるのです

それから、サーバルの縛られてる所にも罠が……下手にほどくとサーバルごと死ぬのです』

 

真正面から突っ込むとアムールトラにやられる。実に嫌らしい配置だ。

ヤーナムのやり方を明らかに知っている。

 

「かばん、作戦は?」

「このまま突っ込みます!みんな!衝撃に備えて!」

「わかった!」

 

かばんと黒いかばんの目が合う。

やってみろ、と言わんばかりのとろけた目をした黒いかばん。

対してかばんは冷静に運転に集中している。

 

「あははハ!」

 

はね飛ばすギリギリで横に二歩飛んで避ける黒いかばん。

しかしかばんはそれにも対応する。

直前でブレーキを踏みハンドル操作でスピンして車体の尻で黒いかばんをはね飛ばした。

 

「やった!」

 

キュルルがバスに掴まりながら喜ぶ。

 

「まだだよ!」

 

かばんは冷静にそのまま少し引き返し、十分な距離を取った所でバスを止めた。

周囲は大型セルリアンだらけだ。これも黒いかばんが用意していたのだろう。

 

「じゃあ、ヒグマさんチームはバスを守って援護射撃!後は打ち合わせ通りに!」

「おう!」

「ああ」

 

それぞれが答え、バスから飛び出す。

そこにアムールトラが突っ込んできた!

 

「来ると思ってたよ……おかえり、アムールトラさん!」

「キュルルゥ!」

 

迎撃に出るのはキュルルだ。彼はすでに長銃の引き金を引いていた。

しかし彼は硬直で崩れ落ちるアムールトラに内藏攻撃をしなかった。

抱きしめるような形で引きずり、セルリアンが少ない場所に投げ飛ばす。

 

「話し合おう、アムールトラさん。僕らなりのやり方で……!」

「キュルル、やっぱりきた!もうにがさない……!」

 

キュルルは石鎚からショートソードを分離させると油断なく構える。

その間に、我々もバスから出てそれぞれの持ち場につく。

 

「うん、もう絶対に逃がさない……」

「キュルル、おしおき、いるみたい……!」

 

始まったか。

 

「始めよう、我々の狩りも」

 

ガドリングガンが火を噴く。

ゲールマンとかばんが油壺と火炎瓶を交互に投げる。

 

「避けるか。そうだろうな。だが……」

「これは知らないでしょう?!」

 

かばんがボーラを投げた。これはヒモの両端に石を結びつけたもので、

狩りにおいて獲物を拘束する古典的な種猟具だ。

かばんはバスの中から槍の束を取り出し、アトラトルと呼ばれる投槍器で投げつけていく。

これは古来においてマンモスを狩り尽くした最古の種猟具だ。

あちらの狩りがヒトの悪意の結晶ならば、こちらは古来の知恵と言うわけだ。

 

「ああ、ああああア!」

 

黒いかばんはもがき、ボーラを引きちぎる。

そこに私による感覚麻痺の霧と、油壺、火炎瓶が同時ヒットした。

 

「がああああア!」

 

もはや余裕無く突っ込んでくる黒いかばんにかばんの銃パリィがヒットした。

私は前に出て内藏攻撃を繰り出す。

ああ、やはりおぞましい感触だ。そう思えることを幸福に思う。

 

「くソ……くソォ!」

 

黒いかばんは獣の咆哮を使い、近寄る我々を吹き飛ばすと、逃走を開始した。

 

「させん!」

 

私はガドリングを振りまいて足止めを行う。

10発、20発。

背後ではキュルルとアムールトラの声が聞こえる。

 

「キュルル、きれい、きれい……すごく、きれい」

「アムールトラさんも、すごくきれいだ……」

 

血の臭いが、こんなにも濃厚だとは。

匂い立つな……

 

「この狩りの夜こそ、君は美しい!

だから……この夜に僕は君を手に入れる」

「ちがう!キュルルがわたしのものになる!」

「じゃあ、もう言葉はいらない……今夜君は僕のものだ!」

 

なんと甘い血の匂いか。えずくじゃあないかね。

こちらはガドリングで足止めできているものの、まだ倒れない。

血を抜いて25発!

まだか、まだ倒れないのか!

もう一度、もう一度血を抜くのだ。だが、血を失いすぎて手が震える。

 

「が、ああああア!」

 

ここで黒いかばんは意外な行動に出た。

例のエブリエタ―スの先触れもどきの触手でアムールトラをバックスタブし、

そのまま触手を突き刺して何かを吸い取り始めた。

さらに触手を振り回し、大型セルリアンに掴まり、

自らの身体を引きずってセルリウムを取り込もうとする。

 

「あはハ、あははははハ!」

 

黒いかばんの姿が崩れ、何か別の大きなものに変わろうとしている。

あれは……赤黒い巨人か、それとも鎧か。

 

「アレは……もはやただのセルリアンだ……」

 

だが、その進化が叶うことはなかった。

背後に回ったかばんがバックスタブを返し、

内臓攻撃ではなく巨大化する身体から黒いかばんを引き抜いて放り投げたのだ。

その投げた先には……ゲールマンが鎌を構えていた。

 

「さらばだ、血に酔った狩人。死を受け入れ給えよ」

「ア……」

 

そして、鎌が振り下ろされ、首が飛んだ。

 

HANTED(敵対者が死亡しました) NIGHTMARE(別れの時です)

 

黒いかばんが爆散すると、周囲のセルリアンも目に見えて動きが弱り、

あっというまにヒグマたちに倒された。

 

「サーバルちゃん……!」

「かばんちゃん、来てくれたんだね……」

 

かばんは悪辣で複雑な罠を解除し、サーバルを地面に横たえる。

 

「サーバルちゃん、遅くなってごめんね」

「泣かないで、かばんちゃん。私は大丈夫だよ」

 

かばんが緑のケムリクサを用いてサーバルを癒やした。

サーバルはふらつきながらも起き上がり、かばんがそれに肩を貸す。

 

「アムールトラさんが……アムールトラさんが!」

 

キュルルは倒れたアムールトラを抱きしめてかばんの方を見る。

かばんは緑ケムリクサを使いアムールトラを癒やすが、まだぐったりとしていた。

 

「さっきの攻撃……あれでセルリウムを抜かれたのかも。

害があるものとはいえ、セルリウムありきでアムールトラさんの身体は成り立ってたから……

だからゆっくりセルリウムを排出してサンドスターに置き換えてたんだけど……」

 

サンドスターか……あのときの残り、あれがあったはずだ。

 

「キュルル!これを使いたまえ」

「フレンズ化剤……!ありがとうございます、先生!」

 

しかしそれを見たアムールトラが弱々しく手を振り回す。

 

「それ、いや、いや……」

「……信じて!」

 

そこでなんとキュルルはフレンズ化剤を口に含み、キスでアムールトラに分け与えた。

それで効くのか!?大丈夫なのか!?

私はかばんを見る。かばんも、解らないといった様子だ。

 

「……奇跡だ」

 

だが見よ、信じられないことにアムールトラの残った手枷が外れ、

手足が毛皮から衣服へと変わって行くではないか!

 

「キュルル、なんだか私変わったかな?」

「うん、きっと良いフレンズになったんだよ……!」

「うん……キュルル、私の負け。あたしはキュルルのものになる!」

 

アムールトラは起き上がってキュルルに抱きついてキスをした。

 

「『そして王子様は獣となった姫様にキスをして、

人になった姫様と末永くしあわせにくらしました』か……叶ったじゃあないか」

 

ゲールマンがうれしそうに呟いた。

 

「ええ、帰りましょう皆。途中セルリアンを皆退治して」

「ああ、そうだな……」

 

ヒグマが苦笑しながら熊手を担いだ。

 

「帰ろう、サーバルちゃん。僕たちのおうちへ」

「うん、帰ろう。かばんちゃん……」

 

かばんとサーバルは肩を貸しあい、バスへと戻っていった。

この夜のことは、これ以上語るべきではない。

ただ、獣狩りの夜は終わり、我々は夜明けを迎えた。

それでいいじゃあないか……




あふれる想い 抑えきれない
幸せな結末 きっと見つける
今なら言える 素直になれる
いつまでも 愛してる
今夜君は僕のもの

―大瀧 詠一「幸せな結末」
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