「ただいまなのだゲールマン!お魚捕ってきたのだ!」
「かえったよー」
我々が茶を飲みながら話していたら、二人のフレンズがやってきた。
灰色の獣のフレンズと、明るい黄色のキツネのようなフレンズだ。
「ああ、おかえりアライさん。魚は夕食に食べよう。
それまで、庭の水盆に入れておきたまえ」
「わかったのだ!」
かつて使者達がいた水盆はいまや生け簀として使われているようだ。
アライさんと呼ばれたフレンズはバケツに入った魚を水盆に放つ。
「あれ?そっちのフレンズはだーれー?ゲールマンに似てるねー」
もう一人のフレンズが眠たげな目をこちらに向ける。
「ああ、彼は……私と同じ、ヒトの一種、ハンターのフレンズだ。
名前はルドウイーク。仲良くしてやってくれるとうれしい」
私は立ち上がり、教会の一礼をする。
「ご紹介にあずかった、狩人のルドウイークだ。
ここに来たばかりで右も左もわからないが……よろしく頼む」
二人のフレンズが元気に名乗る。
「アライさんなのだ!かばんさんに続いて三人目のヒトなのだ!」
「フェネックだよー。めずらしいねー。
こんなに同じ種類のフレンズが生まれるなんてさー」
よく分からないが、獣たちの楽園においてはむしろヒトの方が奇異なのだろう。
なにしろ、たった3人しかいないのだから。
「すごく大きな剣なのだ!ルドウイークもセルリアンを狩るのか?」
「ああ、その手のものは良く狩っていたとも。微力ながら、手を貸そう」
アライさんは無邪気に目を輝かせる。
「かばんさんもゲールマンさんもすごく強いのだ!
むかしゲールマンはすっごく大きなセルリアンとたった一人で戦い続けたのだ!
かばんさんもすっごいのだ!
それでそれでー、二人ともいろんなものを作ったり、
フレンズの困り事をあっという間に解決してしまうのだ!」
ああ、やめてくれ。私はヤーナムで結局は何もできなかった。
最初はそういう輝く目で見られた。しかし結局は嘲りと罵倒に沈み……
そしてそれは事実だった。
私は愚かにも教会に騙されてしまった。彼らの片棒を担いでしまったのだ。
人々を率いる責任があるならば、決して騙されてはいけなかったのに。
「……すまない、私はそんなに大したものではないのだよ。
私は大きな間違いをした。皆、私に失望したのだよ……」
フェネックはゲールマンと私、アライさんを見渡し、こちらに近づいてきた。
「まーまー、かばんさんだって最初は何もできなかったって言うじゃないさー」
「そうなのだ!いろいろ試してからでも遅くないのだ!
ゲールマン、粘土はあるのだ?」
ゲールマンはうなずき、立ち上がった。
彼は立ち上がれたのか……
「ああ、残り少ないが今日使う分くらいはあるだろう」
「私も手伝います!道具箱に寝かせてありますよ!」
黙って成り行きを見守っていたイエイヌとゲールマンは道具箱から一抱えもある粘土を取り出す。
「じゃあアライさんは道具を用意するのだ!」
「水くんでこようかなー」
どうやら何かが始まったらしい。私はどうしたものか……
「私も何かできるだろうか?」
「できるのだ!えっと……ゲールマン?」
アライさんはゲールマン老の方に目線を送ると、彼はうなずく。
そこには確かな信頼と絆があった。
あのゲールマン老がだ。少しは彼女らを信用しても良いのかも知れない。
「ああ、ルドウイーク。
この粘土をレンガほどの大きさに切って、よくこねたまえ。
場所は……裏手の洞の使者が居た場所を使うと良い。机と椅子がある」
「わかりました」
墓暴きのたしなみとして、ハンティングナイフくらいは持っている。
家の裏手に回ると確かに大きめのテーブルと椅子があった。
アライさん達は手慣れた様子で用意を始めている。
「さあ、この粘土を切るのだルドウイーク!」
「ああ、任された」
一抱えもある粘土をレンガ状に切っていく。
こういう作業は良い。心を無心にしてくれる。
そういえばかつて、いろいろな狩り道具を作ったものだ。
長銃に聖剣、狩り装束……
なんだ、少しは出来ることがあるじゃあないか。
「ではこねるのだ!こねるのは楽しいのだ!」
「ああ、しかし……何を作ったものかな」
「何でも良いのだ!壺でもお皿でも笛でも……
ジャパリパークではなんかの役に立つのだ!」
「そうかね」
短い間だが、アライさんは良い少女だと分かる。
ごく善良で……こちらを気遣ってくれている。
打算のない善意とは、こんなにも心地よいものだっただろうか?
「でもその前に剣をしまうのだ!作るときにはあぶないのだ」
「ああ、そうしよう」
あっはっは、と皆に明るい笑いが広がった。
そこには他者を嘲る要素はない。
こんな朗らかな笑いを聞くのは一体どれほどぶりか。
「では、壺でも作ろうか。
かつて香炉として使われたものだが……
ジャパリパークに香はあるまい」
「そうでもない。最近、除虫菊を見つけてね。
虫除けの香ができるだろう。あるいは、単に壺としても有用なものだ」
土をこね、縄状にして積み上げ、形を整えていく。
気づけば、無心になっていた。
もう遠い昔に、こうやって土遊びをしたこともあっただろうか。
「こねるのだ!もっともっとこねるのだ!
丸めてー丸めてー……楽しいのだ!ルドウイークは楽しんでるか?!」
「ああ、楽しんでいるよ。アライさんは何を作っているのかね?」
丸っこい球体とオカリナらしき笛ができあがっている。
フェネックの方は水筒にでも使うのだろうか?小さめの壺があった。
「土団子と笛なのだ!最近フレンズの間で土団子が流行っているのだ!」
「ボールにしたりー、ベアリングにしたり-、飾りにもなるからねー」
「なるほど……いろいろと、工夫しているのだね」
アライさんはにこやかに胸を張る。
「ふっふーん、それもこれも!
かばんさんとゲールマンがとしょかんで調べて教えてくれたのだ!
だからルドウイークもきっとなんか出来ることあるのだ!胸を張るのだ!」
「……ありがとう。きっと、君達の役に立つことを見つけよう」
ゲールマン老の方を見ると、イエイヌとなにやら料理をしていた。
どうやらお菓子らしい。あのゲールマンがだ!
ここはやはりごく平和な所なのだろう。
「さーて形ができたら乾燥だねー」
「そーっと持って行くのだ!」
我々は作品を持って裏手に行くと、簡易的な納屋と、工房の二階に上がる階段があった。
どうやら二階は住居らしい。全てが過去の夢と同じではないのだ。
フェネックとアライさんはそっと作品を納屋にしまう。
「それでー、前に乾燥させたやつをー」
「持って行って焼くのだ!でも火は怖いからゲールマンに任せるのだ!」
なるほど、どうやら一つは出来ることがあった。
「火ならば、私も扱える。
とはいえ、陶器の焼き方などよく分からないのだが……」
「それならもう準備してあるのだ!こっちに行くのだ!」
「アライさーん、つくったやつ持って行かないとー」
「そうだったのだ!」
フェネックとアライさんがウフフ……と笑う。
陰気なヤーナムとは大違いだ。ここには笑顔がある。
彼女らを守ろう。
少なくとも、ここにいる者たちは我が剣に賭けて守る価値がある。
守るべき人が居る。それだけで狩人は救われるのだ。
■
やがて日が暮れ、私とゲールマン老は燃える篝火を囲んで座っていた。
カップや壺といっしょにアライさんが捕ってきた魚も串刺しにして焼かれている。
「……良い子たちだろう。ルドウイーク」
「ええ、守り甲斐がある……本当に良い子たちです。
しかしゲールマン老、ここで、この場所で私に何ができるでしょう。
私には狩りしかない。しかし、あなたは……」
ゲールマンはうなずき、魚の串をひっくり返す。
「我々は狩りの中で血に酔い、人間性を捨てていった。
他にもいろいろな可能性があったのを忘れていったのだ。
だがルドウイーク。ここはそれを思い出させてくれる。
……そうだろう?」
今日の一日だけでも、私は狩り道具を作っていた過去を思い出した。
まだ、出来ることを思い出せるだろうか?
「私に、出来るでしょうか?」
「きっと、できるとも。もし思い出せることが少ないのならば……
いつか、図書館を訪ねると良い。技術書もある。
我々はかつての自分より、ヒトの器用さと善性が引き出されてるはずだ。
……サンドスターの導きだよ」
私は己の手を見る。獣ではない、人の手だ。
そういえば、今日はいやに器用に壺を作れた気がする。
そして見知らぬ文字を読めた。
これがサンドスターの導きか。
今度こそ、それが何者かなど知らぬ方が良いのだろう。
「導きですか。私は、それが何かなど知りたくありません」
「……そうか、そうだろうな。それで良い。
これはヒトが手を触れてはならないものだ」
ヒト、人か……そういえば。
「ところで、かばんとは何者ですか」
「ああ、彼女もまたフレンズだ。
ヒトの善性と知性がサンドスターにより具現化したもの。
ヒトの可能性のライトサイド。そういうものだよ」
ヒトの善性か……我々はそれを求めたが、そんなものは実在したのだろうか?
「信じがたいことです、ゲールマン老」
「……そうだろうな。私もそうだった。
だが、あの子が善良であるというのは本当の事だ」
ずいぶんとゲールマン老はかばんとやらを買っているらしい。
たしかに、フレンズ化により獣性を克することはできるのだろう。
だが、しかし……
「ヤーナムの悲劇も元々は善を目指す動機から生まれたのをお忘れですか」
「忘れていない。
だからこそ、彼女が道を誤りそうになったのであれば……君が止めたまえ」
獣狩りか……こんな場所を血で汚したくはないのだが。
「あなたはなさらないのですか、ゲールマン老」
「老い先短い者が若人を止めるべきではない。故に君に託す。
あの子ならばきっと道を誤らないと私は信じているが……
私が信じられないのは道理だろう。故に自分の目で判断したまえ」
かばんか。いずれ、会わねばならない。
ヤーナムの悲劇を繰り返さないためにも。
「わかりました。いずれ、必ず」
「そろそろ良いだろう。行こうルドウイーク」
アライさん達が手を振っている。
「良い匂いがするのだ!おゆうはんなのだ!」
「こっちはすっかり準備ができてるよー」
「お帰りなさい、ゲールマン、ルドウイーク!」
家の灯りとは、こんなにも暖かかっただろうか。
焼き魚は、ひどく甘かった。
アンケートありがとうございます!
このまましばらく、まったりフレンズ達と過ごす方向にします。