醜いフレンズルドウイーク≪完結≫   作:照喜名 是空

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かふぇ

バスはがたごとと不整地を走る。

そろそろ、森が増えてきた。

優しい木漏れ日にむせかえるほどの木と土の匂い。

 

「アライさん、フェネック。せっかく貰ったものだ。3人で分けるとしよう」

 

おおー、と二人は目を輝かせる。

私も正直楽しみだ。ジャパリチップスとはどんなものだろう?

フィッシュアンドチップスのチップスが食べられるならばうれしいが。

 

「おおー、ルドウイークは器が大きいのだ!

かつてかばんさんは言ったのだ!

『群れの危機はみんなで分け合え』と!

なら、収穫もみんなでいただくのだ!」

「アライさーん。それはたぶん別の子だってばー」

「あれ?そうだっけ?でもかばんさんならそういうこと言うのだ!」

 

ほう、かばんという人物はずいぶん好印象を残しているらしい。

ヒトの善性か……もし、そんな人物がいるのであればぜひ会ってみたいものだ。

 

「まーねー。かばんさんはかしこいしー、やさしいからねー」

「なるほど……いつか会える日を楽しみにしているよ。

コップはあるかね?ないならば私が用意するが」

 

フェネックは首を振る。私は私の中から金属製のカップ3つを出した。

墓暴きたるもの、このくらいのサバイバル用品はなくてはならぬ。

 

「わっ、ルドウイークもそれができるのだ?

ゲールマンといい、かりゅうどのわざは不思議なのだ……」

「昔取った杵柄、というものだよ。ソーダは……なるほど炭酸水か。

これも貴重なものだ。よく味わうとしよう」

 

炭酸水はミネラルウォーターとしてごくまれにヤーナムにも入ってきた。

これで血の酒を割って飲むのがご婦人のたしなみだ。

我々はソーダをカップに注いで分けた。

 

「ルドウイーク!かんぱいはしないのだ?

ヒトはよくかんぱいのおんど?っていうのをやるのだ!」

「乾杯の音頭か……そうだな、何が良いか……」

 

そういえば私も古狩人の皆で宴会をしたとき、よく音頭をとらされたものだ。

あのときは『血の加護のあらんことを』か『この街を清潔にしましょう』で良かったが。

ここではあまりに似合わない。さて何が良いか……ああ、これが良い。

 

「では……フレンズの優しさと、我が剣、そしてジャパリパークに!太陽あれ!」

「たいようあれ!なのだ!」

「たいようあれ……おもしろい乾杯だねー」

 

我々はカップを上げて乾杯した。

 

「ああ、これはとても、とても古い乾杯の音頭らしい。

私の住んでいたところができるずっと前、古い遺跡の番人の言葉だ」

 

ソーダを飲んでみる。何という甘さだ!そして香りの良い清涼感。

これは炭酸への認識が変るな。

 

「そういえばゲールマンも遺跡がどうとか言ってたねー。

あんまり良い思い出じゃないみたいだけどさー」

「ああ、良い思い出ではないな……それでも、懐かしいものだが」

「なら、これから思い出をたくさんつくるのだ!

さあジャパリチップスを食べるのだ!」

 

アライさんが開けたジャパリチップスはチップスではなく、クリスプスだった。

ああそうだ。アメリカではこれをポテトチップスというのだったな。

だがそれでも、懐かしいものには変わりない。

 

「なるほどクリスプスか。おお、これはなかなか……

少し塩味が足りないが、それでもこんなに美味いクリスプスは食べたことがない」

「あー、それもゲールマンが同じ事言ってたねー。

やっぱり同じ所からきたんだねー」

「ああ、ろくでもないところだ。彼もきっとそう言っただろう」

「まあねー」

 

我々がおやつを食べ終わる頃には、周囲はすっかり密林になっていた。

それでも、道が確保されているのはゲールマンがよく行き来しているからだろう。

 

「この橋はかばんさんが作ったのだ!

これのおかげでアライさんは命拾いをしたのだ!」

「さいしょはもっと小さな橋だったけどねー。

セントラルから帰ってきてからかけ直したのさー」

 

浮き橋だが、とても頑丈だ。このバスが通れるほどなのだから。

しかしかばんはまるで一人で開拓をしているかのようだ。

 

「これもかばんさんがか……一人でかね?」

「かばんさんにはいつもサーバルが隣にいるのだ!

二人はアライさんとフェネックに負けないくらい良いコンビなのだ!」

「ジャガーやカワウソ、それからプレーリーとビーバーもがんばったけどねー。

あのときはすごかったよー。かばんさんが指示をしたらすごくはかどってさー」

「そうか……一人ではない、それは良いことだ」

 

かばんはどうやら人の上に立てる器らしい。

それはアライさんの尊敬をみればよくわかる。

実際、他者のために苦労をいとわない人物なのだろう。

そして、隣に支える友がいるならば、なお良いことだ。

 

「ロープウェイニツイタヨ。ココカラハガンバッテネ、ルドウイーク」

「ああ、ありがとうボス」

 

どうやら、また新たな乗り物らしい。

しかしこれは……自転車か。それもずいぶん洗練されている。

 

「これはアライさん達が見つけてきたのをハカセたちが直してくれたのだ!

今までのやつより、ちょっと沢山乗れるのだ!」

「さーてとー、ルドウイークやり方はわかるー?」

「ああ、この上に乗ってこげば良いのだろう?」

「そうそうー。じゃあ荷物をのせようかー」

 

この大荷物と我々3人を乗せて、山頂までロープウェイを漕いでいくか……

今こそ私のスタミナを見せる時だな。

 

 

山頂へは小一時間でついた。

 

「だ、大丈夫なのだルドウイーク?ソーダを飲むのだ!」

「ああ、ありがとうアライさん。年甲斐もなく張り切りすぎたかもしれないな」

「やーお疲れ様だったねー。荷物はいいよーすぐそこだしさー」

 

アライさんとフェネックはあっというまに荷物を下ろす。

私は改めて山頂を見やる。

地面には地上絵のようなものが描かれ、しゃれた山小屋風のカフェが建つ。

小高い小山の上には太い木が一本育っていた。

奇妙な木だ。幹は普通だが葉が半透明で薄く緑に光っている。

その色は、どこか我が師導きの月光の発する光に似ていた。

 

「これは……」

「あれっ?こんなのあったのだ?」

「前来た時はなかったねー」

「まあいいのだ!おーいアルパカ!のうひんに来たのだ!」

 

軽い鈴の音がしてドアが開く。

明るい黄色のもこもこした服を着たフレンズが現われた。

 

「やーよく来たにぇ!さあさーゆっくりしていってにぇー!

さ、どうぞどうぞー。あれ?そっちのフレンズはどちら様?」

「私はルドウイーク。ゲールマンと同じ狩人だ」

「あらー!そりゃよかったにぇー!みんなお歌が聴きたいってあつまってるよぅー!

るどういーく?さんはお歌できるー?」

 

ずいぶんと親しげで、しかし暖かい方言をしゃべるフレンズだった。

 

「ああ、ギターと歌が出来るが……ポルカを弾けば良いのかね?」

「まあギター!今まで誰も弾けなかったから楽しみだよぅ!

そうそうポルカ!みんな待ってるよぅ」

 

アルパカの案内に従って進む。

鳥のフレンズやサバンナに住む牛や馬の類いのフレンズが大勢居た。

皆、楽しそうにお茶をしている。そして、こちらを期待の目で見ている。

どうやら、お茶の前に一曲せねばならないらしい。

 

「さっ!持ってきたよぅ!ギター!さ、どうぞどうぞー」

「ああ、ありがとう。少々待ちたまえ。調整が必要だ」

 

弦が緩んでいるため、調整が必要だが思ったより状態は良い。

これならばすぐに使えそうだ。

私が音合わせのために弦をならす度にフレンズ達が楽しげな目で見る。

 

「すまない、少々時間がかかるのだよ……」

 

あれは孔雀だろうか?美しい羽を揺らすフレンズがうなずいた。

 

「だ、大丈夫ですわ!長く使っていなかったんですもの!当然ですわよ!」

「そうそう!楽しむために来たんだから気楽にやりなさいよね!」

 

赤い羽根のフレンズは……フラミンゴだろう。

いずれにせよ、ちゃんと待ってくれる聴衆というのはありがたいものだ。

ヤーナムとは民度が違う。

 

「よし……いいだろう」

「アライさんも用意ばっちしなのだ!フェネック-?」

「だいじょーぶだよー。じゃあ、いつものからいこっかー」

「ジョン・ライアンのポルカかね?いいとも」

 

賑やかな音楽が始まり、フレンズ達が踊り出す。

ああ、悪くない。こういう暖かい喧噪もまた、懐かしい。

何曲か演奏して一息入れようか、という空気になった頃。

アルパカが紅茶とジャパリまんを持ってきた。

 

「いやー、よかったよう!

最初はどーなるかとちょっとーはらはらしたけど、

無事に盛り上がってよかったにぇ!

いやー、ルドウイークさんも上手で私聞き惚れちゃったよう!

ギターっていいにぇー」

「そうかね、ありがとう」

 

私は紅茶を飲む。ほう、これはなかなか……

 

「君の紅茶も素晴らしいものだ。

これならばロンドンのカフェで出しても文句は出ないだろう」

「いやー、がんばったからにぇ-!

かばんさんとゲールマンさんと4人であれこれ工夫したからにぇ!

褒められるとうれしいよぅ!」

「ああ、とても素朴で……しかし洗練された暖かい味だ」

「えへへ、褒めてもおかわりくらいしか出てこねぇよぅ!」

 

アルパカが私の肩をぱしんぱしんと軽く叩く。

素直な賞賛と信頼。心地よいものだが、いいのだろうか……私のような者が。

 

「ルドウイーク!せっかくだから何かルドウイークの好きな曲を弾いてみるのだ!」

「そろ?演奏ってやつだねー」

「ソロか……そうだな……」

 

思ったよりも弾けた。これもサンドスターの導きというやつだろう。

この狂騒を締めくくるにふさわしい曲……しっとりとしたものが良いだろう。

 

「ではこれはいかがかな。『ロンドンデリーの歌』」

 

静かに、そして優しくギターを鳴らす。

 

「おお、愛し君よ、遙か遠くへと

君はこの場所を出て行くよ

いつかは帰ってくるからと

薔薇は枯れて夏はゆく」

 

懐かしい、ヤーナムでも流行った歌だ。

比較的新しい歌だが……それでも、私の好みに合っている。

歌は盛り上がりを迎え、私は声高く歌う。

 

「月の夜も晴れの日も、私はここに居るでしょう。

ああ、愛し人よ。あなたがとても恋しい」

 

穏やかに、静かに歌は終わった。ギターの音も優しく消えていく。

 

「……いかがだろうか?盛り下がったのであればすまないが」

 

静かに曲を聴いていたフレンズ達はやがて拍手をし始めた。

 

「……なぜかしら。とても、とても分かる気がするわこの歌……

もしよかったら、続きを聞かせてちょうだい」

 

赤白の羽のフレンズが染みいったように続きを促す。

他のフレンズからもアンコールの声が聞こえた。

この先はあまり景気の良い歌詞ではないのだが……

まあよい、やってしまおう。

 

「全ての花は枯れ落ちて、帰ってきたあなたは

私の眠るところで、どうか、どうか祈りをささげて

小さくても、きっと聞こえる。あの声あの足音

暖かい風が吹き、私は安らかに眠る」

 

ああ、今になってこの歌が身に染みる。

これは鎮魂歌なのだ。あのヤーナムに対する。

私はあの悪夢で死んだ。ならばこれは道理というものだろう。

 

「……ああ」

 

目を上げると、何人かのフレンズが静かに涙を流していた。

だがそれは悲しい涙ではない。暖かさを感じるものだ。

涙が、これほど美しく暖かいものだっただろうか?

 

「ありがとう、ありがとうルドウイーク。

きっと、これが私が歌うべき歌……

こんな歌もあるのね。ありがとう、素敵な歌だったわ」

 

他の何名かのフレンズも、口々に同じようなことを言ってくれた。

やがて拍手が静かに叩かれた。

私は教会の一礼をして下がる。

なぜだろうな、今は静かに酒でも飲みたい気分だ。

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