醜いフレンズルドウイーク≪完結≫   作:照喜名 是空

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しあい

「今日の朝ご飯はジャパリパンのハニートーストに、ポテトサラダですよ!」

 

庭に出された食卓に美味しそうな蜂蜜とチーズの乗ったジャパリパン。

ポテトサラダ、紅茶が並ぶ。

 

「わーい!イエイヌの作るごはんはいつも美味しいから楽しみなのだ!」

「蜂蜜が出るなんてごうせいだねー。今日は誰かくるのかなー」

 

ゲールマンはうなずくとハニートーストに手をつける。

 

「ああ、ヒグマたちがね。彼女はいつも蜂蜜を持ってきてくれる。

それに、狩りには甘い物が必要だ。脳も身体も酷使するものなのだから。

さあ、皆も食べたまえ」

 

ゲールマンの声と共にフレンズが食べ始める。

おそらく、イエイヌのために待っていたのだろう。

犬とは目上の者が食事に手をつけるまで待つものだ。

つまり、犬には『待て』が必要なのだ。

 

「わーい!」

「いただきまーす」

「はい!」

 

私もハニートーストをいただく。

チーズと蜂蜜がとろけて絡まり、火であぶられた香りがまた良い。

渋めの紅茶ととてもよく合う。

とても暖かい食事だ。

皮肉と冷笑と悪口の飛び交うヤーナムの食事とは天と地の差だ。

 

「おっ、やってるな」

「良い香りがするっすよー」

「おはようございます、ゲールマンさん」

 

森の向こうからハンター達がやってきた。

イエイヌは立ち上がって食卓の余った場所にトーストの皿を並べる。

ヒグマというのは彼女だろう。私は立ち上がって教会の一礼をした。

 

「ゲールマン、そいつは?」

「彼はルドウイーク、私と同じ古い狩人だ」

「ご紹介にあずかったルドウイークだ。君はヒグマだね?

いずれ狩りを共に出来ればうれしい。よろしく頼む」

「ふーん、ガタイはいいな。お前、どれくらい使える?」

 

どれくらい、か……人の身体である今ならば冒涜アメンでも問題ないだろう。

 

「自分よりずっと大きい相手を狩り続ける事くらいならば何も問題は無い。

このルドウイーク、狩りの中でならば決して折れぬ」

 

ヒグマは値踏みするような目でじっとこちらの目をのぞき込んでいる。

 

「……そうか。根性はあるみたいだな。

だけどやってみなくちゃ狩りはわからない。

後で力くらべ、いいか?」

「喜んで。最近少し勘が鈍っていた所だ」

 

ここで残りの二人が自己紹介をして食べ始める。

 

「ふえー、おなかすいたっすよ……

あっ、私はリカオンっす。よろしくっすルドウイーク」

「私はキンシコウです。

ごめんなさいね、ヒグマったら口が悪くって。

よろしくお願いしますね」

「ああ、よろしく頼む。気にしてはいないよ。狩人とは、そんなものだ」

 

キンシコウは苦笑するが、おおむね和やかな食事だった。

 

「ごちそうさまなのだ!さあみんな食べ終わったお皿を出すのだ!

アライさんが洗ってやるのだ!」

「ああ、ありがとう。私も何か手伝おうかね?」

「いーよー、ヒグマと力くらべしてきなよー。

ハンターの仕事も、大事な事だしさー」

「ありがとう」

 

私は紅茶を飲み終え、ヒグマと共に庭に出て行く。

かつて、私が介錯を受けた大樹の庭と同じ場所だ。

今は坂も大樹もない。畑と花畑がずっと広がっている。

とてものどかだ。

 

「さて、どんなルールでやったものかな……」

「ヤーナム式でいこう。たしか、鍛錬では血が出たら終わりなんだろう?」

 

ああ、そういえば古い作法では輸血剤を使ったら負けというのもあったな。

 

「解った。武器は真剣でかね?」

「いや、こういうときのためにこれがある」

 

ヒグマが指さすと、小さな倉庫に様々な大きさや形の木剣があった。

中には、ノコギリ鉈や葬送の刃、果ては慈悲の刃の形の木剣もある。

私の聖剣の形の木剣もそこにあった。

 

「これが良い。私は普段はこれと同じ形のを使っているんだ」

「聖剣を?

……ああ、どこかで聞いたことがあると思ったら、聖剣のルドウイークか。

使えると聞いてるぞ。私はこれでいい」

 

ヒグマは獣狩りの斧ほどの長さの棒を持つ。

先にメイスのように丸い布が巻かれている。

 

「範囲は花畑の中だけだ。畑に入ったら迷惑になるからな」

「ああ、いつでも来たまえ」

 

私は教会の一礼をするとヒグマは武器を構える。

なるほど、様式美ではなく機能美を愛するタイプか。

 

「たあああ!」

 

牽制だろう、横降りの一撃。

私はすれ違うように前に出て避け、さっそく木剣を振るう。

しかしヒグマは避けるのではなく防いで対応してきた。

きらきらとサンドスターの輝きが舞う。

 

「うおお!」

 

私が木剣を引いてもう一撃加えようとすると、

すぐさま体勢を立て直し回転切りを放ってくる。

私は2歩ステップで引いて回避した。

しかしヒグマの猛攻は終わらない。

 

「たりゃあ!」

 

ジャンプからのたたきつける一撃!

私は歩いて3歩横に避けてヒグマの脇から振り下ろす一撃を3度加える。

 

「フン!フン!フン!」

「たあ!」

 

ヒグマもまた横に避けて突きを放つ。

まともに喰らってしまうが、さらに続くラッシュはローリングで回避した。

獣の突進力に狩人の回避力か。

やっかいな相手だ。

だが、こういう相手こそ聖剣の重打とリーチが効く。

 

「おっ、もうやってるのだ?」

「やってるねーアライさーん」

「ふたりともがんばるのだー!怪我したらアライさんが洗ってやるのだ!」

 

応援か。ありがたいことだ。

しかしヒグマも私も相手から目を外さない。

良い狩人だ。狩りに優れ、冷静で、尊厳を忘れない。

こんどは私から仕掛けてみる。ダッシュからの横薙ぎ。

 

「ヌウン!」

「はっ!」

 

ヒグマは下がって、力を貯め始める。

神秘の青い光とは違う、サンドスターの朝焼けのような光が輝く。

 

「うおおお!」

「ヌオオオ!」

 

ここが勝負だ。

だが避けずにあえて全力で受けたくなった。

私も神秘の力を貯める。

 

「たあーっ!」

「ヌンッ!」

 

距離良し、タイミングよし。

ヒグマのジャンプからの叩きつけと私の突きが重なる。

激しい衝撃が腕に走る。

だが、私は剣を離さない。

このルドウイークは心折れぬ。ただ狩りの中であれば。

 

「……やるな」

「君こそ、良い狩りだった」

 

結果は引き分けだった。

ヒグマの武器の布は裂け、私の木剣も欠けてしまった。

 

「お前の武器を見せてくれるか?狩り武器だ」

「ああ、構わない。どうぞ見たまえ」

 

私は聖剣を私の中から取りだして見せる。

ヒグマは受け取ると刃をじっと見る。

 

「良い武器だな。バランスが良いし、振りも素直だ。

……それに相当狩ってる。

おまえ、あの家より二回りくらい大きいのを相手にしてたんじゃないか?」

 

ヒグマは工房を指さす。あれより二回り大きいとなるとアメンドーズか。

ああ、良く狩ったものだ。

 

「ああ、よく分かるものだ。君も良い狩人なのだな」

「……ま、まあな。お前の実力はわかった。よろしくたのむ」

「ああ、君と狩りを共に出来ることを楽しみにしているよ」

「……そのときは、お前の本当の武器を見せてくれよ」

 

聖剣を返したヒグマは私にささやく。

見破られていたか。

 

「……ああ、本当にどうしようもなくなったときはね。

あれはおいそれと見せて良いものではないのだよ」

「ふーん、やーなむちほーの狩りってリスキーなものばかりなんだな……」

「否定はしない」

 

私たちは笑い合い、工房に戻った。

 

 

工房に戻った私たちをフレンズ達は賞賛で迎えた。

 

「すっごかったのだ!ルドウイークもやっぱり狩人なのだ!

かばんさんやゲールマンに勝るとも劣らないのだ!」

「やーおつかれさまー」

「お疲れ様です!冷たい紅茶が入ってますよ!」

 

イエイヌが私たちにコップに入った紅茶を渡した。

 

「ハチミツ入りか。気が利くな」

 

ヒグマはぐいっと飲み干す。豪快な飲みっぷりだ。

 

「ありがとう、美味しいよ。イエイヌよ、いつもすまない」

「いえいえ!ヒトのために働くのは楽しいですから!

狩りのために、そして何よりもパークのために私をお使いください!」

 

人形のような物言いだが、その表情は本当に穏やかで楽しそうだ。

狩人と共にいる犬とはそんなものかもしれない。

ゲールマンやここにいる優しいフレンズたちは、

彼女を本当に大切に扱っているのだろう。

彼女のような支援者は、狩りの夜にあって大切な支えであり、癒やしだ。

 

「やー、ひやひやしたっすよー。野生解放はやりすぎですって。

あ、これヒグマが取ったハチミツです。ゲールマンさんにどうぞ」

「ああ、ありがとう。いつもすまないね。

それから、君達はこれからかばんの元にいくのだろう?

ならば、届けてほしいものがいくつかある」

 

リカオンが壺に入ったハチミツを渡すと。ゲールマンがイエイヌに合図する。

イエイヌは厳重に密封された例の枝と、

いくつかの小さな木箱をリカオンの前に置いた。

 

「オーダー承りました!これは?」

「ああ、それは小さい箱は食糧だが……そちらの細長い箱は注意したまえ。

それは狩りの役にたつかも知れないが、

同時にセルリアン以上の脅威になるかもしれない。

故に扱いには慎重を期すべきだ」

「ふえー!オーダーきついっすよー今でさえセルリアンが増えてるし、

新型も出てきてるのに……」

 

リカオンが不安そうに眉根を寄せる。

 

「ああ、例の新型か……忌々しく、やっかいなことだ」

「ゲールマン老、新型とは?」

「今までのセルリアンは海水に弱く、そして力こそ強いが愚鈍で数も一定だった。

しかし、あれは……

フレンズのもつ輝きー我々で言う遺志ーに強く反応して生まれる。

脆いが弱点となる石がない場合もある。

その強さは想いの強さに比例するようだ。故にこそ、あれはやっかいなのだよ」

 

遺志や想いに反応して生まれる怪異。

それは大切な物ほど敵になりやすいということだ。

実にやっかいで嫌らしい性質といえるだろう。

 

「恐るべき事です、ゲールマン老。大切な物ほど怪異になってしまうとは」

「ああ、痛ましいことだ。故にルドウイーク。ヒグマたちについて行きたまえ。

パークでの狩りを覚える良い機会だろう」

「わかりました。かばんにも例の件はよく言っておきましょう」

 

ゲールマン老は深くうなずいた。

 

「じゃあ、こいつがバスを運転するのか?」

「ああ、彼もまたボスと話ができる。頼めるかね、ヒグマ」

「ああ、わかった。例の件とやらもちゃんと教えろよ」

 

私はゲールマンを見る。

 

「……事は慎重を期すべきだ。かばんが安全を確かめてみるまでは、すまないが……」

「わかったわかった。難しいことはかばんに任せるさ」

 

ヒグマが面倒臭そうに言うと、キンシコウがフォローする。

 

「でも、いつか必ず教えてくれるんですよね。私たちは信じます。

あなたたちが今までにやってくれたことを覚えてますから」

「……すまない。よろしく頼む」

「はい!ルドウイークさんも頼りにしてます」

 

かくして、我々はかばんの研究所とやらに行くことになった。

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