醜いフレンズルドウイーク≪完結≫   作:照喜名 是空

7 / 17
けんきゅうじょ

バスに揺られて1時間もかからなかった。

 

「これが研究所かね?」

「そうなのだ!かっこいい建物なのだ!」

 

研究所は想像していたおどろおどろしい実験場でもなければ、無機質な建物でもなかった。

かわいらしいキノコをかたどった塔に、清潔感のある明るい建物だ。

手入れが行き届き、住む物の素朴な人柄を思わせる。

 

「かばんさーん!アライさんとフェネックが来たのだ!」

「ヒグマたちもいるよー。それから、新しいヒトもねー」

 

アライさんたちは呼び鈴を押してそこに話しかけている。

はーい、と若い女性の声がしてドアが開いた。

 

「かばんさん!ひさしぶりなのだ!」

「あははアライさん久しぶり!」

 

かばんとアライさんは抱擁をかわし、後ろから黄色い猫科のフレンズが現われた。

 

「あれっ、見かけないフレンズがいるよ!

あなたもヒトのフレンズ?私はサーバル!

かばんちゃんのじょしゅをしてるよ!よろしくね!」

 

まさにその笑顔は太陽のようだ。

後ろ暗い所のある者にはあんな笑顔はできない。

私も一礼をして名乗った。

 

「ああ、ゲールマン老と同じ、狩人のルドウイークだ。

今日は顔見せと、ゲールマン老からのお使いを頼まれてね」

「かばんです!よろしくお願いします!」

 

かばんは快活そうに手を差し出し握手を求めてきた。

立ち居振る舞いからして、狩人のクセがわずかにある。

歩き方や重心もブレがない。彼女は強い狩人でもあるのだろう。

 

「ああ、よろしく頼む」

 

握った手は、頼もしかった。

 

「それじゃあ、あたしらは荷物を置いておくよ。セルリアンについては後で報告する」

「ありがとうございますヒグマさん!こっちからのおすそわけはいつもの場所に置いてますから!」

「いつも悪いっすねー」

 

リカオンの笑顔にかばんは堂々と答える。

 

「いえ!ハンターの仕事をしてもらっているんですから、このくらいはさせてください!」

「たまには狩りに出なよ。じゃないと鈍っちまう。あんたはハンターとしても強いんだからな」

「もう、ヒグマったら……すいませんねかばんさん」

 

ヒグマの激励は、嫌みではなく心から気遣ってのものだと感じさせる。

やはりフレンズとは善性を引き出されているのか。

まともな者同士の会話とはこんなにもスムーズなものなのか。

 

「いえ、じゃあ次の報告会までに来て下さい。私も狩りに加わりますから」

 

それから社交辞令的な挨拶と雑談があったが、実に和やかな物だった。

 

「じゃあ、立ち話もなんですから会議室に入りましょう!

例の火山と新型セルリアンの動向について打ち合わせます。

その後、食事にしましょう」

「わかったのだ!かばんさんのりょうりはおうちとはまた違った味わいでおいしいのだ!」

「会議中は静かにしてようねーアライさーん」

「もちろんなのだ!アライさんはそのへんばっちりなのだ!」

 

ウフフ……と一行は歩きながら笑いに包まれた。

そして会議室もまたさわやかだった。

楕円型の円卓に、正面には白い黒板。壁際には資料棚がある。

 

「さて、では定例の報告会を始めます。まずは新型セルリアンについてヒグマさんお願いします」

「ああ、あれから出現した位置は地図だとこことここ、日付と特徴は……」

 

ヒグマが黒板の中心に貼られた地図にバツ印と日付を書き加えていく。

なるほど海から上がり遡上していっている。頻度も日に日に高くなるようだ。

 

「やっぱり、ゆうえんち前の火山島から出現してますね。

私の観測でもセルリウムの濃度が上がってました」

「やっぱりあれか……かばん、あんまり気に病むなよ。

まだ全てが終わると決まったわけじゃない。

セルリアンは山火事と同じだ。立ち向かおうと考えるな。

長い戦いになる。うまくやり過ごすんだ」

 

ヒグマがかばんを気遣い、かばんは悔しそうに考える。二人の瞳には確かに知性があった。

 

「一つ、試したいことがあります。

うまくいけば、犠牲なしにフィルターを再現できるかもしれません」

 

そしてかばんがポケットから出したのは、おおなんということだ。

あの半透明の葉ではないか。色こそ青だが、同じ系統のものだとわかる。

かばんがその葉を触り、指を動かすと六角形の青いガラスのようなものが出現した。

 

「これは……」

「ハカセたちがとしょかんに来たフレンズからもらったものです。

最近、たまに生えてるそうで、不思議に思ったフレンズさんが調べに来たそうなんです」

 

リカオンがこわごわとそれを見つめる。アライさんは目を輝かせていた。

 

「これ、なんっすか……?さわっても大丈夫なものなんですか……?」

「すごいのだ!かばんさんはとうとうまほうをつかえるようになったのだ!」

「あ、はい。触っても害はないと思います。他にも色々種類があって……」

 

もう我慢できない。私は立ち上がる。

 

「かばん、私は反対だ。君も狩人ならばヤーナムを知らぬ訳ではないだろう。

そうやって訳の分からないものでも有用だと使っていった結果があれだ」

 

かばんは真剣な目でそれを聞き、何かを覚悟した目で答えた。

 

「はい、ゲールマンさんから聞いてます。安全性は十分確かめてから使うつもりです。

もちろん、生き物を使った実験はしません。でも、私たちにはもうあんまり時間はないんです」

 

なにやら根拠があるようだ。私は座り続きをうながす。

 

「どういうことかね」

「私は外の世界、本土を見てきました。

今の新型セルリアンと同じ、輝きーヒトの想いーに反応するセルリアンでそこは滅びました。

この新型セルリアンがさらに進化すると……

ヒトやフレンズが作ったもの、大切に思う物ならなんでも取り込むようになります。

そうしたら、パークそのものが維持できなくなるんです。

そして、この新型セルリアンは外の世界にひしめいてるんです」

 

私はうなってしまう。人工物が全て駄目となれば確かにそれは文明は崩壊してしまう。

しかし、それで上位者の神秘に頼り、滅ぶよりおぞましい事態になってしまうよりは、と考える自分も居る。

 

「なるほど、現状は理解した。つまりこれは外のセルリアンからの侵攻だということかね。

君は全人類が避けられなかった滅びをたった一人で回避しようとしていると」

 

思わずヤーナム人めいた皮肉が出てしまった。浅ましいことだ。

 

「……それでも、私は諦めません。無茶なのも怖いのも承知の上です。

私は、パークのみんなのために出来ることをしたい。

たとえ滅ぶとしても、出来るだけのことを!」

「それであがいてパークをヤーナムのようにする気かね?

おぞましい実験の果てに生き延びて何が残るという!」

 

ここでヒグマが立ち上がり我々を制した。

 

「落ち着け、二人とも。熱くなりすぎだ」

 

我々は全員着席した。周囲を見渡してみる。

アライさんはおろおろと涙目で我々を見ている。

リカオンもキンシコウも心配そうに。

フェネックは静かに両者を見ていた。

私は自らを恥じた。勝手に悲観的になって勝手にかばんを医療者のように扱ってしまった。

私は彼女のことをほとんど知らないというのに。

 

「……すまない。言い過ぎた。無礼を許したまえよ」

「いえ、私も熱くなりすぎました」

 

我々は頭を下げあい、しばらく議場は沈黙に支配された。

そこで、アライさんが静かに口を開く。

 

「アライさんはヤーナムのことはあんまり知らないのだ。

でも、何か大きな間違いをしてひどいことになったのは知ってるのだ。

ルドウイークはかばんさんが同じような間違いをすると思うのも仕方ないのだ。

でも、アライさんはかばんさんを信じてるのだ!

かばんさんは間違ってもちゃんとごめんなさいができるひとなのだ!

アライさんは、アライさんはたとえ間違ってでも生きてパークのみんなと……みんなと……

う、ううー!アライさんはこれいじょう上手く説明できないのだ……

でも、ルドウイークにもかばんさんを信じてもらいたいのだ!」

 

アライさんは涙を流し鼻水をすすりながらも私を見る。

フェネックはその涙をハンカチ用の布で拭き、静かに言った。

 

「まーまー、残り時間もまだあるんだしさー。やるだけやってみようよー」

 

私は、どうすればいい。

本心を言えばかばんを信じたい。しかしどうやって信じれば良いのか解らないのだ。

 

「かばん、君を信じたい。だがどうやったら君を信じられるだろう?」

 

私の声はひどく弱々しかった。

 

「それは……もし、私が道を誤ったときは、そのときはお願いします。ルドウイークさん」

「狩人狩りか……そうならないことを祈るよ。だが、君の覚悟は受け取った」

 

所詮、私は介錯を受ける側だった。だが、彼女はきっと違うのだろう。

私は諦めた。だが彼女は諦めていない。私よりよっぽど強いのだ。

 

「やれやれ、まだかいぎをしていたのですか」

「ヒトは話が長いのです。サーバルはもうとっくに料理をつくってしまったのです」

 

ここで会議場の扉を開けて二人の鳥のフレンズが入ってきた。

おそらく、特徴からしてフクロウのフレンズだろう。

 

「話は聞いていました。われわれ、耳が良いので」

「耳が良いので。とにかく、いったん食事にするのです」

「おなかがすくからイライラするのですよ」

「たとえ明日パークが滅ぶとしても、今日食べるものは必要なのです」

 

なにやら、毒気が抜かれてしまった。

なるほど、確かにそうだ。明日滅ぶとしても、今日食べねばならないのだ。

そうか、彼女たちがハカセか。まさに獣の賢者というわけだな。

 

「みんな-!ごはんできたよ!とにかく、いっしょに食べようよ!」

 

サーバルの声はこんな時でも明るく、まるで暗い夜を照らす月明かりのようだった。

我々はうなずき、会議場から出た。

 

 

「今日はあったかしせんなべだよ!

辛いのが苦手なフレンズにはこっちのあまあまじょーやなべたべてね!

あっついから、おみずのもうね!」

 

鍋の良い香りがする。香辛料をふんだんに使っているのだろう。

香りに誘われて食べてみると、たしかにかなり辛い。

だが、辛さの中にうまみがある。

そして、やはり暖かい。美味い食事を前にしてどうして争い合うことができようか。

 

「やっぱりかばんさんの激辛料理もおいしいのだ!

サーバルもさすがなのだ!力がわいてくるのだ!」

「あはは、ここなら火を使わずにごはん作れるからね!私だって鍋ならできるよ!」

 

うむ、うまい。

皆、先ほどのことを忘れたわけではない。

いや、情報を共有していたのだ。

皆どれほど危機的な状況か知っててあれほど明るく振る舞えていたのだろう。

冷静で、そして心が強い。フレンズとはこういうものなのか。

 

「いやー、おいしいっすよー。これ知ったらジャパリまん食えないっす」

「リカオンったらもう……ルドウイークさん、おなべよそいましょうか?」

「ありがとう、キンシコウ。サーバル、この鍋は君が?」

「そうだよ!最初はかばんちゃんが料理を作ってたけど、私も覚えたんだ!」

 

サーバルが胸を張る。その姿は少女と言うより、成熟を迎えた女性のようだ。

 

「最初もサーバルちゃんがにんじんを切ってくれたからだよ。

いつもありがとう、サーバルちゃん」

「えへへ、そうだっけ?」

 

二人の様子は仲むつまじげだ。心からお互いを信頼しているのが解る。

ちょうど、長年連れ添った夫婦がお互いを身体の一部のようにするかのように。

 

「サーバル、ちょっとお酒を入れすぎなのです」

「味見をしたときに呑みすぎたのではないのですか」

「いや、こいつらはいつもこんな感じだ」

 

ハカセ達にヒグマが突っ込む。暖かい笑いが食卓に広がった。

なぜだろうな、胸が締め付けられる。

だが、苦しくはない。暖かいのだ。眠りに入る前のベッドのように。

ああ、そうか……立身出世や皆を守るという使命、英雄という栄誉。

それらを求めた最初の切欠は……

こんな暖かい食卓が欲しかっただけなのかもしれない。

 

「どうしたのルドウイーク?かなしいの?お水飲む?

大丈夫!きっとかばんちゃんがなんとかしちゃうんだから!」

「いや、ありがとう。ただ、暖かくてね……

ずっとこんな食事が欲しかったのかもしれない」

「えへへ、じゃあどんどんおかわりしてね!張り切っちゃうんだから!」

「ああ、ありがとう」

 

私は、黙々と鍋を食べ続けた。

 

 

その夜、私は眠れずに研究所のベランダから外を見ていた。

会議は長引き、夕暮れまでかかったからだ。

あの葉は使うと煙を出して消え去る事から「ケムリクサ」と名付けられた。

かばんの研究ではあの盾を出すケムリクサ以外にも雷を出すものや、

ただ光を発する物まで多種多様であり、健康上は被害はないとのことだった。

ただ唯一気がかりなのが水さえ与えればどこまでも成長するという性質だけだ。

 

「パークがあれに埋め尽くされなければいいが……」

 

私は月を見る。獣狩りの夜もよくこうして月を見ていた。

夜を照らす明かりに私は救いを見いだし、あこがれたものだ。

 

「よっ、眠れないのか?」

 

ヒグマが隣のテラスから顔を出した。

手には二つのコップ。

 

「ああ、そんなところだ」

「私もだ。少し話そうじゃないか」

「ああ、君さえよければ」

 

私たちはヒグマはテラスを飛び移って私の近くに来た。

渡されたコップはレモンとハチミツの香りがした。

 

「……私はさ、お前達とはまたちょっと考えが違うんだよ。

私は火山はいつか収まると思ってる。理由なんてないけどさ。

そりゃあ、ジャパリパークはいつもギリギリの状態で維持してるのはわかってるよ。

でも、それでも生き延びてきたし、乗り越えてこられたんだ」

 

私はコップの中身を飲み、ヒグマの話を静かに聞く。

 

「だからあたしはパークが続く前提で考える。

……一人くらい、そんなやつがいてもいいじゃないか」

「ああ、そう思うよ。ヒグマ、君は冷静だ。違う視点というのは常に大切な物だよ」

 

ヒグマはふう、とため息をつくとハチミツのレモン割りを呑む。

 

「私は焦りすぎてたのだろうか」

「じゃないかな。長い戦いになるとあたしは思ってる。

楽な戦いじゃない。フレンズからも文句を言われるかもしれない」

 

私は、気づけばこう尋ねていた。

 

「賞賛もなく、嘲りと罵倒に耐えてまでなぜ君は狩りをつづけるのかね?」

「……なんでだろうな。あたしには力があって、できることがまだある。

それに、あたしはパークが好きだ。踏み荒らされたくない。

……それじゃ、答えにならないか?」

 

成すべきを成す、か……

たしかに、私にはやるべきことがあって、それがまだできるのだ。

心折れている場合ではない。

 

「いや、参考になった」

 

ひぐまはフン、と鼻を鳴らして笑った。

 

「かばんと話してきなよ。いきなり会ったばかりで信じろってのは無理だけどさ。

でも、話さなきゃ解らないこともあるだろ?」

「……ありがとう、ヒグマ。ハチミツのジュースは美味しかったよ。ごちそうさま」

「ああ」

 

愛想のないヒグマとの会話はなぜか、とても気が楽だった。

 

 

「かばん、いいかね?」

 

夜中、私はドア越しにかばんと話す。

 

「一つ話し忘れていたことがあった。そのままで聞いてくれ」

「……はい」

「君に渡した物資だが……その中に一つ、厳重に梱包された細長い箱がある。

あれには、物体を修復する作用のあるケムリクサが入っている。

……君に託す。

あれの安全性を、副作用や危険性を調べて欲しいというのがゲールマンの依頼だ。

昼も言ったが、私は君を信じ切れない。

だが、ヤーナムを知っているならば同じ事は避けられるはずだ」

 

ドアの向こうからしばらくの沈黙とサーバルらしき寝息が聞こえる。

 

「……ありがとうございます。ルドウイークさん。

私も、本土でいろんなものを見ました。ヤーナムのようなものも……

フレンズのみんなを、あんなことにはしたくないし、しません。

何よりも安全性を確かめてから研究します」

 

言葉では、どれほど語り合ってもお互いを信じ合うことは難しい。

しかし、行動であれ言葉であれ、触れあわなければ理解は出来ない。

 

「わかっていれば良い。夜中に、邪魔したね」

「……どうしても、助けたいフレンズがいるんです。

サンドスターといっしょにセルリウムを取り込んで生まれた、理性の無いフレンズ。

獣の病じゃないですよ、生まれつきです。

それに、ヒトは実験をしていました。ヤーナムで行われているようなことです。

……私は、助けたいんです」

 

ヒトの善性を背負うが故に、ヒトの罪も背負う者、か……

 

「実験をしたのは君ではない。ヒトの罪を君が背負う必要など無い。

ただ、繰り返さないでくれ。それが私の願いだ」

「……はい。ありがとうございます、託してくれて」

「あまり背負わないでくれ。狩人は君一人じゃない」

「はい……!」

「おやすみ、かばん。君の目覚めが有意であらんことを」

「おやすみなさい、ルドウイークさん」

 

私は自室に戻り、少し眠り、窓から夜明けを見た。

この長い夜も、いつか夜明けがくるのだろうか。




今回は溜め回、シリアス回でした…!
すいません、なんだか深刻な話になってしまって…
出切る限り優しく暖かい話を書きたいですね…
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。