「……暑い」
「そう言っちゃあ、お終いですよ、
「いやー、でも、暑いものは暑いでしょー? あー、もー……」
なんでこんなクッソ暑いのよ、なんて、ブーブー言いながら、涼風様はソフトクリームを舐めていた。
急に誘われ、私は涼風様と近くの公園で木陰にあるベンチに座っていた。
「大盛況の内に『アイカツ☆アイランド』も終わってしまったしさ」
「あ、ああ……。そうでしたね……」
「ホント、この夏は『穏やかじゃない』っていう感じの夏だったね。ユウちゃんにとっても」
「ええ……。『アイカツ☆アイランド』の出来事は……」
――それは、数週間前に遡る。
-☆-★-☆-
真夏のイベントである『アイカツ☆アイランド』。
私たち一年生は、オープニングライブを終わらせた後は、スタッフとして東奔西走していた。
落ち着いた頃、四ツ星学園のトップアイドルが合同で記者会見をしている映像を見た。
私はこの時初めて知ったのだが、トップアイドルを目指す男の子たちも通っている。
こちらのトップアイドル4人組がS4、というように、彼らのトップアイドル4人組はM4、というらしい。
そして、その記者会見の内容は、アイランドが開催されている島に眠ると言われる伝説のドレス。
それを模したスペシャルオーディションをするということだった。
そのドレスは、古くからの言い伝えとして残っているらしい。どんなドレスなんだろうか、という興味は止まらなかった。
しかし、そのオーディションは二人一組が条件。伝説のドレスを着たのは、二人組だったというのも関係しているそうだ。
……だとすると、私は美空と組むことになるのかな、と思ってた。『その時』が来るまでは。
その後、
私の不思議な力らしきものに問題視してるらしい。
それにちょうどよかったし、
期待を砕かれた私は、美空と言い争いをしてしまい、しばらく口を利いていなかった。
(なんかこうして黄昏るの、いつ以来かしら……)
歌うことを捨てたあの日とは景色は違うし、空色も違うけどね。
「夕凪……?」
振り向くと、海来が半袖短パンのレッスン服で立っていた。
動きやすくするためか、それか暑いからか、海来は茶色の髪をポニーテールにしていた。
「どうしたの、ぼんやりと空なんか見ちゃってさ」
「ン……。美空がさ、なんてね」
「ああ、私とやりたい、とかいう話で?」
「そうそう」
「んー……。私はそれでもいいかなー、なんて思ってたけど、夕凪のことを考えたら、二つ返事では出来なくってさ。
まあ、そうなることを前提でレッスンはしてるけど、どうにも気が入らなくってさ。それで私もここに来たってわけ」
「へっ……?」
黒色の瞳がどこまでも広がる青い海を、私の隣に座りながら見ていた。
「――だって、わかってしまうもの。美空の本心は、夕凪なんだって。
私は別に、美空と組んでもいいけど、片方がその気じゃないなら、歯車が噛み合わない気がするの」
「海来……」
「出ちゃえば、夕凪。美空と組んで」
「でも、美空は私を……」
「やれやれだわ」
海来は私の手を握って、立ち上がらせた。
「海来、何を!?」
「何をって。美空のところへ連れて行く! 拒否権なんてない!」
「えーっ!?」
……とまあ、海来がおせっかいを『返して』きて、私は美空とユニットを組んで、伝説のドレスオーディションに参加することに。
あとで海来に聞いたら、お姉ちゃんと仲直りできたのは、夕凪たちのおかげだし、と言ってた。
全く……。情けは人のためならず、っていうことかしらね。
そして、オーディションの結果、私と美空は、S4と同じステージに立つことが出来てしまった。
その時、他のS4とも出会ったんだけど、美空が気になることを言っていた。
『
あと、
美空の目には、S4の面々が様々な種類の鳥に見えたらしい。……涼風様のイメージだけは、教えてくれなかったけど。
-☆-★-☆-
「……と、まあ、あのステージの裏側にはそんなことがありまして」
「なるほどねー。そういうことがあったわけかー。……あの時、少し泣いてたよね、ユウちゃん。
あれは嬉し泣きなのか、感極まったのか、どっちだと自分では思う?」
「両方があったと思います。自分でもどうしてあの時、涙を流したのかはわからないですけど」
私のセリフを聞いた後、涼風様はソフトクリームの包み紙を近くのくずかごに投げ捨てた。
どうやら、ソフトクリームのウエハース部分まで食い尽くしたらしい。
「さてっと。――あ、もしもし」
そして、涼風様は立ち上がって、アイカツモバイルで何処かに電話していた。
「ええ、すいません。急な用事ができまして……。はい――」
予定があったのか、涼風様の口から謝罪の言葉が次々と飛び出す。
あまり聞いたことが無いせいで、涼風様でも謝ることがあるんだなあ、と感心してしまった。
「一生分、謝った気がする」
「あの……涼風様……?」
「――このまま、デートに流れ込むよ、夕凪!」
「えっ? はっ? えっ?」
「せっかく、夕凪といるんだし、もう少し一緒にいたいなって思ってさ! 今日の予定、ぜ~んぶ断ってきちゃった!」
思いっきり良すぎるでしょ、涼風様!?
というか、真面目な話をするわけでもないのに、私のことを呼び捨てにしてませんか、いいのかしら!?
「さあ、夏はこれからだゾ、夕凪! なにをする? どこに行く? アタシはどっちでもいいよ!」
「涼風様、何を!?」
涼風様が目を輝かせて言うものだから、混乱してしまう私。
「――んー、そうだ! お金はアタシが出すから、空いているプールのあるアミューズメントパークに行こうか!」
「は、はい、そ、それはいいですけど……。えーっと、予定は……」
アイカツモバイルのスケジュール帳を見ると私の予定が全て空いている!? なんで!?
「ああ。さっきの電話ね、アタシの予定は自分で消して、夕凪の予定は
えっ、私に断りもなく!? ……って、えっ、結依ちゃんって、先生ですよね!? なんでちゃん付けなんです!?
ちなみに私が自分の予定が消えていることを確認できたのは、ネットワーク上で予定を同期しているからである。
「はぁ………。わかりました……」
涼風様、名前とは違って暴風なことをしてくれますね……。
「ン? どったの、夕凪?」
「いえ、なんでもないです……」
諦めの表情を見せた私を、満面の笑みを浮かべながら、引っ張っていく涼風様。
――そう言えば、私が翼を折ってしまった時も、こんな感じで引っ張って、別の翼をくれたのは、この人だった……。
そんなことを思い返しながら、私は涼風様に振り回されていた。
でも、自然と嫌な感じはなかった。
自分が楽しみたい、私も楽しませたい。
涼風様はそう思っているように見えたのだ。
「小鳥たちは大空を目指して」はこれで終わりです。
次回更新からは雰囲気を大きく変えたストーリーになると思います。