【完結】僕は、ポケモンを燃やした   作:@早蕨@

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【零・一】

 僕は、ポケモンを燃やしたことがある。

 動いているものを燃やすとどう反応するのか見たかった。動いているものを見ると襲いたくなる子どもだった。小さな生き物を理由なく殺す征服感が堪らなかった。道徳心のかけらもない浅はかな子どもだった。

 半ば他人事のように、客観的な言い訳はいくらでも並べられる。ただ、当時の自分を顧みて、何故ポケモンを燃やしたのか正確に説明することは、今の自分には不可能だった。

 記憶の中にはその光景が油汚れのようにベトついていて、まるで神になったかのように、俯瞰した光景が記憶の中に現れる。その状況を説明出来ても、何故そうしたのかは説明出来ない。

 あれは幼い自分が行った事で、今の僕とはなんの関係もない。言ってしまえばそんな気持ちが強かった。ひどい事をしてしまった。それは理解できるのだが、ひどい事をしてしまった、という罪に苛まれるような、自己嫌悪に陥るようなことは決してなかった。正直に言えば、反省していないんじゃないかと思う。気持ち悪い、楽しい、悲しい、いろんな気持ちが撹拌され、言いようもない、何かを超越した感覚に陥った。燃やす前、その感覚が手に入ることだけは、わかっていたような気がする。どうしようもなく抽象的だが、そんな気分を味わいたかったのかもしれない。僕が出来る説明は、これで精一杯だった。

 

 僕は、ポケモンを燃やしたことがある。タマムシシティにある大きな公園の林の中で、キャタピーを燃やした。ゆらゆらとした赤い炎に包まれ、ぐにゃりぐにゃりとうねる姿は、二十歳になった僕の記憶から、未だ消えない。

 

 

 

 

 

 高校卒業後、やりたい事も目標も何もない、ただ飯を食って寝ているだけの、自堕落な生活を過ごしていた。

 親は特に何も言わなかった。好きにしなさい、とそれだけ。ただ家に居るなら金は入れろと口酸っぱく言われたので、僕はバイトを始めた。

 大都会タマムシのサラリーマンや、大騒ぎする大学生、カップルなど、皆が鬱憤を晴らす大衆居酒屋だった。

 ポケモンを連れて入店出来る居酒屋なので、それはもう毎日めちゃくちゃだ。退屈したポケモン達が暴れる事もあったし、トレーナーが酔っ払っているものだから、ポケモン同士喧嘩を始めても誰も止めなかったり、トレーナー同士酔っ払って喧嘩を始めるもんだから、バトルかバトルか、と勘違いしたポケモンが暴れだしたり、果てには酒を飲んで酔っ払うポケモンが居るほどだ。とにかく賑やかで、うるさくて、基本的には一人一人のモラルが全て。

 近年厳しくなってきた未成年飲酒以外については、基本的には何が起きても店側があれこれ口を出すこともなく、ただどんなポケモンなら連れてきて良いかとか、汚したり壊したりは全て自己責任で、そんな荒れ果てた無法地帯な雰囲気を気に入って、僕はなるべく多くシフトを入れてもらった。生まれて初めてもらったバイト代には感動したものだし、毎日毎日入れ替わりいろんなポケモンが見られるのも面白いもので、全く飽きもしない。

「貫太、もう入って二年だよな。このまま続けてくれるのは俺としては大助かりなんだけど、なんか他にやりたい事とかないの? ないんだったら、正社員になっちゃう?」

 深夜一時前、店の閉店作業で机を拭いている僕の背後から店長の声。一旦作業を中断し、一応、認めてくれている店長へ僕は居直った。

「お話は大変ありがたいのですが、御断りさせていただきます。お店は好きですし、仕事も好きですけど、お店の看板を背負う社員になるのはちょっと」

「アルバイトだって、お店の看板背負ってる気でやってもらいたいもんだけどな」

 恰幅の良い身体で肩を怒らせ、両手を腰に当てた店長は、随分と不満気だった。この人はすぐやめてしまうかもしれない僕のようなバイト相手にも、徹底した教育を欠かさない人だった。

「わかってますよ、この会社のお店に雇われてるんですから、一応わかってるつもりです。でもほら、正社員となると、アルバイトの面倒も見なきゃいけないでしょうし、お店の売り上げのためにあれこれ考えたり、僕には荷が重いですね」

「そうすんなりうんと言うとは思ってないよ。とりあえず、今日は伝えるだけ伝えたから、今もう答えが決まってても、またどこかで考えてみてよ。その気になったら、俺に伝えて」

 掃除しっかりな、と店長は片腕をひらひらさせて厨房へ戻っていった。

 正直、タマムシの繁華街にあるこの店は、アルバイトが学生である事も多く、出入りも激しい。僕のように、学校へ通いながらとか仕事の副業ではなくアルバイトをしている人を、店長や社員はよく可愛がってくれる。シフトに入る回数も多いから、仲良くなってしまうというのもあるだろう。ぼけっとした僕なんかを雇ってもらって、ポカをやらかして怒られながらも、決して僕自信を否定せず使ってくれた店長には感謝していた。特に人に自慢できる人生ではないが、こうやって一つの店で仕事を続けられることは、僕にとって一つの自信になっている。

「作業終わりました、お先上がります!」

 店長はまだ厨房で仕事をしている。社員と二人、明日の仕込みだ。もう時間も深いのに、本当によく働く人達だ。

「おう、お疲れさん!」

 二人に挨拶して、僕はバックヤードで着替え始める。明日はお店が休みなので、ゆっくり家で寝てるか映画でも見るか、とにかくゆっくりしよう、と思っていると、バックヤードの扉が乱暴に開いた。店長だ。何か急いでいる様子。

「着替え中すまんな」

「どうしたんですか」

「明日暇か?」

「え?」

「明日暇かって聞いてんの」

 何故か若干怒り口調。

「暇、ですけど」

「よし、じゃあ十三時にゲームコーナー前な」

「ちょ、ちょっとどういうことですか? ゲームコーナーって、僕スロットとかパチンコしないですよ」

「いいんだよ、教えてやる」

 店長が何をしたいのかよくわからなかった。そもそも店長と店以外にどこかへ行ったりした事なんて、この二年間で数回程しかない。それが突然ゲームコーナーというのは、どういうことだろう。

「お前の分も出してやるから、勝負しに行こう。その後酒でも奢ってやる。大手を振って飲みにいけるんだからな。いいな!」

「わ、わかりました」

 僕の返答を聞いたかどうか、店長は自分の言いたいことを言って去っていった。相変わらずバタバタしている人だな、と思いながら、僕は机に貼られた名簿に載っているバーコードから、退勤処理を行った。モニターで正常に処理された事を確認する。

「あ、なるほどね。そういうことか」

 表示された日付。自分でも忘れていた誕生日。めでたく成人を迎える日だった。

 基本的に雇い雇われの関係だから、普段からお店以外で会う事もない。忘年会や何かのタイミングがあれば、外へ食事しに行くか、店でパーティをする程度だった。

「素直じゃないんだから」

 まったく、とぼやきながらも、照れくささがぬぐい切れず乱暴な口調になってしまう店長は嫌いじゃない。そんな店長の珍しい誘いなら、特に誰かに祝われる予定もないし、行ってみたいと、僕は思った。

 

 

 

 

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