【完結】僕は、ポケモンを燃やした   作:@早蕨@

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【十七】

 カツラさんは電話には出なかった。留守電は残しておいたので、連絡を返してくれるのを待つしかない。

 きっと忙しい方だろうから、一民間人の願いなんて片っ端から聞いていたらいくら時間があっても足りないだろう。ここに行ってくれ、と最初から突き放されるかもしれない。

 それならそれで良い気はしていた。

 やっぱりどこかで躊躇している僕がいるのだ。あの時の事を思い出してしまうと、どうも警戒してしまう。ケーシィの事を思うと、会わない方が良いのではないかと思えてしまうが、綾子が言っていた通りでもある。

「そわそわしていてもしょうがないでしょ。大人しく待ってな」

 お店の開店準備をしていると、どうも落ち着かない様子の僕を見て、綾子はまた呆れ顔だった。

「何か進展あるかもしれないと思うと期待しちゃうから、どうしてもね」

「気持ちはわかるけど、ちゃんと働いてよね。貫太がその感じだと私が忙しくなるんだから」

「わかってるよ」

 ポケットの携帯はとっても大人しい。

 この店が入っている雑居ビルのエレベーターがせわしくなく動き続けて、客が雪崩れ込んでくるいつもの様子を想像すると若干げんなりする。開店すれば気にする余裕がないくらい忙しくなるだろうから、どうせなら早くそうなって欲しい。

 今か今かと時計を見つめ、いざ開店。時間はピッタリ。店に響く来店音。そら来たと入口へ急ぐ。

「あれ? 君、ここで働いているのか」

 スーツ姿のカツラさんその人が、そこに居た。

 

 

 カツラさんは、ジムトレーナー達を引き連れて来ていた。

 タマムシに来ると同業のタマムシジムにも顔を出すようで、お話を聞いて勉強してきなさいとジムリーダーからジムトレーナー達を任されているんだ、との事だった。

 だけど僕には、カツラさんの相手をジムトレーナーに押し付けているんだなとしか思えなかった。タマムシジムの女性トレーナー達がカツラさんを接待しているようにしか見えない。講釈を垂れるような人ではないし、そういうのは断りそうな程紳士そうに見えるのだが、うちの店で座って酒を飲んでいる姿を見ていると、その辺のおっちゃん達と同じ様に見えてしまう。

 ジムリーダーとはいえ、男だし、おっちゃんには変わりないんだな、とむしろ少し親近感を覚えた。

 里中さんは最初から興奮しっ放しで、店長はこれを機にカツラさんにどこかでうちの店を宣伝してもらおうとサービス満点だ。

 他のバイトもそわそわしている。綾子は綾子らしく毛ほども興味を示さず、いつも通り働いていた。

 そして当の僕は、薄気味悪くて仕方なかった。

 何で僕がここで働いているのを知ってるんだ?

 あの時、カツラさんに自分の話はしていないはずだ。言葉通り受け取るなら本当に偶然なのかもしれないが、先日の事もあってとてもそうとは思えない。

 だが陽気にハイペースでお酒を飲んでいるところを見ると、僕に探りを入れに来ているとも思えない。

 ジムトレーナー達は熱心にカツラさんの話を聞いている様子だし、ただ単に楽しんでいる。少なくとも、今は。

「おい貫太、なにぼやっとしてんだ」

 片手で盆を持った店長が僕を小突いて客のところへ向かった。

「気になるのは分かるけど。仕事して仕事」

 綾子にも小突かれる。

 迷惑をかけてはいけない、と気にしないよう動き回ったが、その日のバイト中、僕はどうしても集中出来なかった。

 

 ようやく閉店だという頃、カツラさんは席を立った。レジの前に陣取った僕の元に、しっかりとした足取りで現れる。顔を赤くして、上機嫌だ。

「やあ、賑やかでとても良いお店だね。タマムシらしさが出てるよ」

「ありがとうございます」

 提示された金額に、カツラさんはカードを出した。

「よろしければまた来て下さい。お店の皆も喜びますから」

「ああ、是非」

 処理を終えて、カードを返す。会計は済んだ。そのまま卓へ戻るのかと思いきや、カツラさんは一歩レジへ詰め寄る。

「連絡をもらっていた件だけど、明日は時間あるかな? 昼過ぎ、十四時くらいから一時間程なら時間を取れるのだが」

 随分と酔っ払っているように見えるが、頭の中はきっちり冴えているのかもしれない。その突然の言葉に僕は面食らってしまったが、

「お時間、ありがとうございます。是非、お願いします」

 と、間髪入れずに返答する。僕が変な事を気にしているのを、僅かでも悟られたくはなかった。

「それじゃあ、十四時に架け橋ってお店に来てくれ。今日はとても満足したよ、ありがとう」

 ジムトレーナー達を引き連れ、お礼を言われながらカツラさんは店を出ていった。勝負をしている訳でもなんでもないが、とても敵わない。話していればいるほど、僕が気にしている事なんか掻き消えていくだろう。対面して話すと、どうもそんな気にさせられる。

 ただ、ジムトレーナーの姉ちゃん達にちやほやされながら帰っていく様子が、どう見ても鼻の下を伸ばしたおっちゃんにしか見えなかった。

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