「貫太君。君、カツラさんと知り合いなのかい? 一体どういう関係?」
例の如く閉店作業中は、手を動かしつつ唯一店員同士で世間話が出来る時間だ。来ると思っていたが、里中さんは案の定その話を僕に振ってきた。
「一度飲み屋で隣になった程度です。会ったのも二回目ですし、そんな大した関係ではないんですよ」
「そうかあ、でも凄いなあ。グレンジムまでは足を伸ばしていなかったから、僕カツラさんを生で見るの初めてなんだ。老練な感じがかっこいいよなあ。あ、でも老人って訳でもないのか」
本当によく喋る。トレーナーにとってジムリーダーはこういう存在に成り得るということを、初めて目の当たりにした。
「後さ、これはお願いなんだけど」
里中さんは声を小さくして、僕を店の端へ誘った。
「ごめんね。盗み聞きのつもりはなかったんだけど、カツラさんの話、俺も聞いちゃったんだ。明日、何とかって店で話をするんだろう? 失礼なのは分かってるけど、なんとか僕も連れて行ってもらえないかな」
そこまで言ってくるとは思わなかった。どこかでまた会うような事があるなら、サインの一つでも貰って来てくれくらいのものだと思っていた。
「ファンとして、ということですか?」
「ファン、というか、僕がバッジを集めている頃、会った事ないのがグレンとトキワのジムリーダーなんだよ。一度くらいは、カントーのジムリーダー全員と対面してみたくてね」
珍しくおちゃらけた様子のない、真面目な返答だった。
「そういうことでしたら、分かりました。里中さんもポケモンに詳しいでしょうし、是非同席お願いします。事情は、明日話します。十四時に架け橋ってお店なんですが、大丈夫ですか?」
「ありがとう。恩に着るよ。十四時に架け橋だね。絶対に行く」
里中さんは、心底嬉しそうに仕事へ戻っていった。あとは、出来れば綾子にも同席してもらいたい。
「おーい貫太! またぼやっとしてんのか! さっさと片付けろ!」
店長の野太い声が店に響いた。今日は大変申し訳なかった。きっちり、取り返さなくては。
「行くに決まってるでしょ。私だって知らない身じゃないんだから」
僕の遠慮がちなお願いに、綾子は二つ返事で了承してくれた。
二人で店からアパートまで歩いている間、明らかな僕の何か話したい様子に綾子が気付いた。「話したい事があるならさっさと言いな」と大いに気を遣われてしまった。
「ありがとう。助かるよ」
「気にしないで、私も気になっている事だから」
「後、里中さんも来ることになってるんだ」
「里中さんが? どうして?」
「本人がどうしてもって言うから。納得出来る理由ではあったし」
そう、くらいで流されると思っていたが、綾子は黙ってしまった。
「駄目、だったかな」
「いいんじゃない?」
含みがあったが、僕はそれ以上は聞かなかった。
「事情を話す為に、十三時半に架け橋ってお店で先に待ち合わせることになってるから、よろしく」
「わかった」
綾子はそれから、いつものように無口に戻った。
内容は置いておくとしても、綾子と出掛けられる。
ビルやマンションに切り取られた、タマムシの夜を二人で歩いて、碌に星も見えない殺風景な空を眺める。もう何回目かなんて分からない変わらない風景が、今日は少しだけ違って見えた。