【完結】僕は、ポケモンを燃やした   作:@早蕨@

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【三十四】

 里中さんはドクロッグを連れてバトル場から出て来ると、興奮気味に胸を叩き、もうちょっと続けたかったなあ、と呟いた。もっと差し込めたよなあ、最初にどくを打っても良かったかなあ、と続けてぶつぶつ言いながら歩き続ける姿に、僕と綾子は顔を見合わせた。

 あれ以上続けたらオーダイルを殺してしまいそうな勢いだったと思うが、そうじゃないのだろうか。

 随分興奮気味でバトルに没入し、周囲が見えていない様子だ。勝ったり負けたりするのは日常茶飯事だと思っていたが、そんな人でも一回のバトルでこんなに感情を揺さぶられるんだと思うと、ポケモンバトルというのはそんなに興奮するものなのかと、興味どころか少しばかり恐ろしささえ覚える。

 綾子と二人里中さんを追いかけ、再びフードコートの一席に座った彼の前に僕等も腰を落ち着けた。

 瞬きも碌にせず、爪を噛みながらぶつぶつ呟く姿はなかなか衝撃的な光景だったが、僕ら二人が目の前に座った事で、どうやら我に返ったらしい。

「あ、いやあ、興奮しちゃって。ごめんごめん」

 やっちまったとばかりに頭を掻いて、里中さんはにへらと笑った。隣に仁王立ちしているドクロッグは、主人が表情を崩した事に安心したのか力を抜いてその場に座り込んだ。

「ドクロッグ、よくやった。練習通りだな」

 頭を撫でられ、仏頂面のドクロッグは満更でもなさそうな顔だ。

「お疲れ様です。凄かったです、本当に」

「私もびっくりしました。里中さん、凄く強いんですね」

 綾子も珍しく素直に思った事を口にしている様だった。本当に凄いと思ったのだろう。

「こいつを褒めてやってよ。あのどくづき、凄いだろ?」

 胡坐をかき、腕を組んだドクロッグは得意気だ。バトルを通して里中さんと良い関係を作っている。僕も何かケーシィと一緒に始めれば、もっと仲良くなれるのかもしれない。

「あの、里中さん」

「ん? 何だい?」

 綾子が興味深々に質問を投げかける。

「ドクロッグに、ハイドロポンプは効いていなかったんですよね?」

「お、良く分かったね。相手のオーダイルが、ハイドロポンプで特性を判断しようとしたのが分かったから、ドクロッグには演技をさせていたんだ」

「なるほど。効いたと思わせ攻撃を誘い込んでいたという事なんですね」

「特性かんそうはだとは言え威力を見誤ると、まともに食らったドクロッグが反撃出来なくなっちゃうから、見極めが難しいんだ」

 言っている内容はだいたい理解出来た。

 あのバトルの一瞬一瞬で、色んな事を考えているんだなあと感心した。自分のポケモンだけでなく、相手のポケモンの知識や状態、強さ等を瞬時に見分けて指示を出さなければならない、という事だ。なんて高度なスポーツだろう。

 まだ理解の浅い小さな子がやるサッカーと、ある程度理解した子がやるサッカーを思い浮かべた。前者はボールに向かってただ全員で集まっていくだけだが、後者は味方や相手の動きを考え、先を読み、連携を取ってボールを前に進めていく。その様は、まさにポケモンバトルの様に思えた。

 今から僕がやるには大変だ。知識が無さすぎる。

 サッカーだってほとんどやった事ないが、サッカーより始めるハードルが高い気がした。

「久々にバトルが見られて楽しかったです。ドクロッグも生き生きとしていて、格好良かったです」

「ありがとう。楽しんでくれたみたいで良かったよ。俺も気合い入っちゃった」

 綾子もやたらとポケモンに詳しい。店での対応で分かってはいたが、今こうやって見たり話している様子を見ても、ポケモンが好きなのだ。やっぱりそれは間違いない。どうして新しいポケモンを持たないのだろう。世話をするのも慣れているし、もしもう一匹家にポケモンがいたら、ケーシィの友達も増える。

 良い話だと思うが、新しいポケモンを持たない事情があるのだろう。まさか僕のような理由ではないと思うが、例えば、大切にしていたポケモンを何かで亡くしてしまったとか。

 そういう理由だったら、もう二度とポケモンは持たないというのも分かる気がする。

「次もまたドクロッグで戦うんですか?」

「そうだね。今日はそうしようかな。でも、俺らは一旦休むよ。同じポケモンでの連続バトルはポケモンの体調を考慮して原則厳禁なんだ」

 特にダメージを負っていたとは思えなかったが、目で見るよりもドクロッグのダメージは大きいのかもしれない。かんそうはだとは言えあの水圧だ。ダメージ無しと言う訳にはいかないのだろうか。

 一対一のバトルみたいだし、他のポケモンですぐに参加すればいいんじゃないかと思う。

「ゴーストで参加はしないんですか?」

「それでもいいんだけど、今はお休み。この前、結構激しくバトルをさせたばっかりだしね」

 なるほど。それならドクロッグと休みつつ参加するしかないだろう。

「二人はどうする? 一回このバトル場を見て回ってくるのも面白いと思うけど。どのフロアもほとんど同じ作りだから、歩きやすいと思うし」

「そうですね。色々見て回って来ようかなと思います。綾子はどうする?」

「私も行く。探したいものもあるし」

 探したいもの? 

 ただの気分転換に連れ出したつもりだったが、目的があるとは知らなかった。

「それじゃあ、ちょっと行ってきますね」

「こっちは気にしなくていいから、ゆっくり見ておいで。何か困ったら連絡頂戴」

「ありがとうございます」

 一体何を探すんだろう? 

 立ち上がって歩き出した綾子の背中を、僕は追いかけた。

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