【完結】僕は、ポケモンを燃やした   作:@早蕨@

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【三十六】

 沙穂さんは、ガーディを簡易ポケモンセンターへ預けに行った。

 上の階と同じ作りなので、僕等は彼女を待ちつつ再びフードコートに腰を落ち着けていた。

 びびりの癖して無理したのだろう。ケーシィは今更怖くなったのか、注目を浴びてしまった事に驚いてしまったのか、僕に抱き着いて離れない。

 友達を守ろうと身を乗り出していった勇気と気持ちは褒めてやりたいが、無理はやめて欲しかった。

「ケーシィがあんな事するなんてね」

「本当、驚いた」

 綾子も、ケーシィの行動には驚いている。

 あんなに速く、衝動的に動けるなんて知らなかった。

 僕の手から無理矢理離れた時、小さくてもやっぱりポケモンなんだと思った。

 このバトル場を少し見ているだけでも、ポケモンという生き物がいかに人間よりも優れた能力を持っているか分かる。力もそうだが、使う力は最早超常だ。

「ガーディと、本当に仲が良いんだね」

 綾子が頬杖をついて、愛しそうにケーシィを眺める。

「そうなんだ。あのガーディと燥いでいる時は、僕等と一緒に居る時とはまた違った顔をするんだよ」

「私も見てみたくなってきたな」

「今度一緒に行こうか」

「そうする」

 驚いたのは、綾子と沙穂さんが知り合いだったという事だ。

 僕がバトル場からそそくさと去ろうとした時、沙穂さんは僕等を心配して駆け寄って来たが、一緒にいる綾子に気づき驚いていた。

 あれ、綾子? と沙穂さんの驚いた顔は、彼女がここにいる違和感からだ。

 バトル場に来る事自体、やっぱり珍しいのだろう。

「でもまさか、沙穂さんのバトルだとは思わなかった」

「私も驚いた。ぼんやりと見ているだけだったから、沙穂だと思わなくて」

 綾子が沙穂さんと親し気に話している様子もまた新鮮だった。僕と一緒にいる時とはまた違う、友達と一緒にいる時の顔をしていた。

 ケーシィがガーディと一緒にいる時に見せる顔だ。

「お待たせしました」

 綾子の後ろから、ガーディを預けに行っていた沙穂さんが戻って来た。僕と綾子が向かい合い、綾子の横に沙穂さんは腰掛ける。

「ガーディは、大丈夫ですか?」

「ええ。別段問題はないそうです。ここの回復装置だけで十分間に合う程度だと」

「良かった。ケーシィも、喜びますよ」

 ふふ、と沙穂さんは笑って、綾子と同じようにケーシィを眺める。

「格好良かったですよ、本当に」

「いやあ、飛び出しても何も出来ないのに、無理はして欲しくないですね」

「あ、先に褒めてあげなきゃ駄目ですよ? この前教えたでしょう?」

 沙穂さんは人差し指を立てる。

「そうでした」

 後でたくさん褒めてあげよう。

「それにしても、二人が友達だとはびっくりしました」

「私も、綾子がこんなところにいるなんて思わなくて、びっくりしましたよ」

「別にいいでしょ来たって」

 綾子はなんだか照れ臭そうにしている。気持ちは分かる気がした。

「沙穂さんはよくこちらへ?」

「ほとんどバトルなんてしないんですが、元気が有り余っちゃって大変で、齧ってみようかなと思いまして」

 初心者トレーナーのお話は是非聞きたい。もしかしたら、今後僕とケーシィだってやる事があるかもしれない。

「やろうとして、すぐ出来るものですか?」

「うーん。上手くは出来ないですけど、一応スクールでの知識とバトルの授業で経験はありますし、なんとかなるもんですね」

 もちろんバトルの授業やポケモンに関する成績はは、軒並み壊滅していた。

 授業なんて寝ていたし、碌に聞いていない。

「やっぱりある程度経験や知識がないとしんどいですよね」

「とっかかりがないんで、難しいでしょうね。でも、別に最初は相手がいなくたって、技の練習だけしていても良いですし、初心者用のレッスンスクールとかもありますから、そういうの利用すると良いですよ」

 小さい子ばっかりのレッスンスクールを想像した。そこに入って行くのは、中々難しそうだ。

「大人って……います?」

「いますいます! 大人になってから始める方も多いので、全然気にしなくて大丈夫ですよ」

 僕等の会話を聞いていた綾子が、「やる気なの?」と呟き怪訝そうな顔を浮かべる。

 僕がどれだけポケモンと触れ合った事がなくて、どれだけ知識がないかよく知っているし、テレポートすら出来ないケーシィでどうしようと言うんだと言われたら、その通りだ。

「ケーシィが元通りになって、運動に良いっていうならありかなとも思うけど」

「無駄に傷つけるだけになるのは、許さないからね」

「分かってるよ。そもそも、ケーシィがやりたがるかどうかわからないし」

 綾子も大概過保護だ。ケーシィを大切にしてくれるのは、とっても嬉しいが。

「ケーシィちゃん、どこか悪いんですか?」

「あ、いや、体調が悪いという訳ではないんですけど」

 ちらと綾子に目線を配ると、こくんと頷いた。

 言っても特に問題はないだろう。

「テレポートが使えないみたいなんです」

「……なるほど、それは珍しいですね」

 沙穂さんはうーんと唸って考え込んだ。言っても返答には困る話だろうなと思う。

「色々試していけば、いつか使えるようになるかもしれないって話です。まずケーシィが落ち着いて、平穏に暮らせるところから始めているところです」

 悩み顔の沙穂さんだったが、ぱあ、と顔を明るくして手を叩いた。綾子と違って、アクションの多い人だ。表情豊かだし、感情をストレートにぶつけて来る。正反対だ。

「だったら、私とガーディがもっとケーシィちゃんと仲良くして、楽しく落ち着いた生活のお手伝いをしますね」

「是非是非お願いします」

 僕と一緒にいる時と違う顔を見せているという事は、沙穂さんといる時はもっとオープンなのだろうか。嬉々として自分の話をする綾子は想像出来ないが、そうなのかもしれない。

「仲良くと言えば、二人の付き合いは長いんですか?」

 綾子の交友関係なんて初めて知ったので、僕は興味津々だった。

 沙穂さんに視線を配られた綾子は、今度は首を横に振った。なんでよ。

「それなりですよ。細かい事は、ヒミツです」

 人差し指を口の前に立てて、沙穂さんは言った。まあ可愛らしい。でも、教えてはくれないようだ。

「余計な事は聞かなくていいの。ただの友達」

 仲の良い友達でしょ、と沙穂さんが訂正して、そうだね、と綾子が返す。

 うーん、入り込める隙はない。何を聞いても答えてくれなさそうなので、僕は諦める事にした。

「それより、里中さんをずっと一人にしておくのもまずいんじゃない?」

 確かに、連れて来てもらっておいて、一人にしておくのも失礼か。きっと里中さんなりに僕等へ気を遣ってくれたのだと思うけど、もう一試合くらい彼のバトルを見たい。

「戻ろうか」

「それがいいと思う。沙穂、今日はまだ連れがいるの。ずっと待たせているのも悪いし、私達戻るね」

「分かった。意外なところでお話し出来て嬉しかったよ。貫太さんもデパートで会ったら、またお願いしますね」

「こちらこそ、お願いします」

 里中さんはまだバトルをしているだろうか。今どこにいますかと連絡を入れて、僕と綾子は上階を戻ろうと立ち上がった。

 あのドクロッグがまた活躍するところが見られるのは、楽しみだ。

「あら、何か用?」

 僕ではなく、背後に向かって沙穂さんが言う。

 誰かいるのかと後ろを向けば、まだ年端もいかない少年が立っていた。なんだか随分着ている服がボロボロな気がするが、大丈夫だろうか。迷子センターとか、あるのかな。

 どうしたの? お父さんとお母さんは?

 そう声を掛けようとしたが、少年は僕の顔をきっと睨み、指を刺す。

「そいつ」

「そいつ?」

 指を刺されているのは、胸に抱いたケーシィらしい。

「ケーシィが、どうかしたの?」

 少年はもう一度強くケーシィを指さして、僕を睨みつけたまま言った。

「僕のケーシィ、返してよ」

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