【完結】僕は、ポケモンを燃やした   作:@早蕨@

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【四】

 ビギナーズラックというのは本当にあるものなんだと僕は痛感した。昨日はあれよあれよと箱が増えていったのに、今日は稼いだはずのお金が焚火で燃やす紙みたいに消えていく。欲を出しすぎてはいけないとは言うが、そんな多くを求めているわけではない。僕が求めているのはあのケーシィを交換できるだけのメダルだ。

 やっと出始めたと思ったら、今度はやめるタイミングがいまいち分からず、次第にまたメダルが減っていく。時間を潰せるのは良いが、自分のお金でやるとひやひやしてしょうがない。

 結局、バイトが一時間後に迫ったところで、僕は切り上げることにした。本当にケーシィを交換出来る枚数と、プラスアルファだけだった。途中、本当にマイナスが続いて焦ったが、どうにか持ち直してよかった。こんなゲームを続けていたらどうにかなってしまいそうだった。

 とにかく、枚数を確保出来たので僕はゲームを終え、コインと交換し、すぐに交換所へ出向いた。

 ラミネート加工された紙をもう一度上から追っていくと、やっぱり見間違いはない。一番安い値段でケーシィが景品として並んでいた。隣に用紙と鉛筆があったので、欲しい景品に丸を付け、メダルと一緒に提出する。そうするよう、フローを示すぼろぼろの紙が壁に貼られていた。

「……本当に出てきた」

 余ったメダル分のお金と、モンスターボールがトレイに乗っていた。こんな簡単に、ポケモンが僕の手元に。

 その小さなボールを手に取るだけなのに、随分遠くにある気がする。まごまごしていると、後ろに人が並んでしまった。

 僕は意を決して、モンスターボールを掴んでポケットにしまい込み、まるで万引き犯が店から出て、誰かに追いかけられないか気にするかのように、バイト先へ走った。

 

 

 今日も、バイトが終わるとすぐに綾子の家へ向かった。

 彼女は友達と朝まで飲んでくるとのことなので、部屋には僕だけ。冷蔵庫には朝作ってくれた味噌汁の鍋が冷蔵庫に入っていた。明日の朝、また飲みたい。

 僕はベッドへ腰掛け、ポケットからモンスターボールを取り出した。学校の授業で手に持って以来だ。使い方は、うろ覚え。

「えっと、確かこのボタンを押して、と」

 小さかったボールが、手のひら大に収まる。

「この状態なら、投げるか、手で開けられたはず、だけど」

 部屋は狭く、下手な事はできない。僕はボールの上下をもって、ゆっくり力を入れてみた。有名なトレーナーが、かっこよく片手で掴んだままボールを開けていたのを思い出す。卵を片手で割るようなものだ。

「お、おお」

 赤い光がぐにゃぐにゃと揺れ動き、やがてポケモンの形に形成されていく。

 ケーシィが、丸テーブルの上にポトりと落ちた。足を延ばした態勢で、どさっと座っている。

「こ、こんばんは」

 咄嗟に挨拶してしまったが、特に反応はない。寝ているのかと思い、おそるおそる触ろうと手を伸ばしてみると、ケーシィはびくりと身体をビクつかせる。その反応に僕の方がびっくりしてしまって、思わず手を引っ込めてしまった。

「ごめん。いきなり、怖いよね」

 深夜だというのに、外に出すのはまずかったのだろうか。そういえば、今日はケーシィに何も食べさせていない。

 僕は絶望的なまでにポケモンのことを知らなかった。とりあえず、触れ合うにしても何かきっかけが必要だ。

「綾子が料理をする人でよかった」

 男の一人暮らしみたいな、ビールとお茶しか入っていない冷蔵庫ではなく、それなりに生活感のある冷蔵庫。何かケーシィが食べられそうなものはないかと漁っていると、ビニール袋に入ったモモンがあった。

「ほら、お腹空いてないか?」

 取り出してきたモモンをケーシィの前にそっと置いてみる。すぐに手は出さず、ケーシィはじっとその甘い実を見つめていた。

「もしかして、モモンは駄目?」

 携帯を取り出して、僕はすぐに「ケーシィ」の文字を検索欄に放り込んだ。色々調べていると、どうやらモモンは食べそうだと分かった。ついでにケーシィのことを色々調べてみよう。

「あ、食べた」

 気づけばケーシィがモモンを手に取り齧っていた。咀嚼し、飲み込むと、嬉しそうに一鳴き。その姿に、思わず微笑みかけてしまった。携帯を放り出して次の瞬間をじっと見ていると、ケーシィはモモンを置いてまた眠ったように固まってしまう。恥ずかしがりやか、警戒されているのか。よくわからないが、僕が見ていると食べ辛いのかもしれない。

 携帯を見る僕とケーシィのだるまさんが転んだが何回か続いた頃、ようやくモモンはなくなった。ペロ、と手をなめると、また元のだらんと座った状態で固まる。

「おいしかったのかな。明日もうちょっと色々揃えるから、今日はモモンで我慢してくれよ」

 まだ冷蔵庫にあったモモンをいくつかもってきて、ケーシィの前に置いておく。

 ケーシィの情報をネットから拾えるだけ拾ってみた。エサは木の実でもいいが、基本は好みのポケモンフーズを与えるのが良いらしい。明日タマムシデパートで買おう。

 とにかく睡眠時間は長いようだが、警戒するとテレポートで逃げてしまうため、ケーシィのトレーナーは苦労する事が多いらしい。果てしなく不安だ。

 超能力を使えば使う程睡眠時間も長くなり、バトルもしないのに寝ている時間の長いケーシィ程そのトレーナーの力のなさを露呈するらしい。ケーシィってそんなに難しいのか、と頭を抱えた。

 更には眠っていても警戒状態は続いているらしく、危険が迫るとテレポートしてしまうケースもあるようだ。

 事故ケースの一つに、トレーナーを警戒したケーシィが、テレポート先を誤って家の外に出てしまい、車に轢かれるというケースがあった。これは読むんじゃなかった、と後悔。

 とにかく、いろいろ調べてみてわかったのは、ケーシィは育てるのが難しいということだった。

「僕でごめんな」

 モモンの実をすべて食べ終えて、又元の体勢に戻っている。おそるおそる近づくと、まだ身体をビクつかせる。どうしたらいいのかわからず、とりあえず僕は手を差し伸ばし続けることにした。一体僕はどう映っているのか。エサをくれるいい人、くらいに映っていて欲しい。

 ケーシィが僕の事を何も知らないように、僕はケーシィの事を何も知らない。どういう経緯であのゲームコーナーにいたのか知らないし、どこで生まれたのかも知らない。どういう扱いを受けていて、そもそも誰のポケモンで、

「……誰のポケモン?」

 そういえば、このケーシィは誰のポケモン?

 おや、という意味では僕なのか? それとも、最初にケーシィをボールに入れたトレーナーがおやか? いろいろ考えていると、ケーシィがおそるおそる僕の方へ寄ってきて、その眠そうな顔をペトンと僕の手のひらへ乗せてきた。ああ、よかった。いろいろ考えることはありそうだけど、一先ず考えるのはよそう。ゆっくりと抱き寄せ、僕達は一緒に布団へ入った。弱弱しい力で頭を寄せ、小さく鳴いたケーシィに、お礼を言われた気がする。

 感想は二つ。

 かわいい。

 これは僕の素直な感想。それともう一つ、バイト先で見ているから分かった気でいた。

 ポケモンとは、生き物だ。

 人間にも大して明るくないが、ポケモンにはもっと明るくない僕だからこそ、そう感じる。ケーシィを抱いていると、ざわついていた心が、落ち着いていく気がした。鼓動が聞こえる。生きているんだ。

 眠ったのかどうか、そんなこともわからない僕だが、ケーシィが心地よさそうに寝息を立てているのを見届け、僕も目を閉じた。

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