【完結】僕は、ポケモンを燃やした   作:@早蕨@

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【四十】

 ケーシィが、晴れて僕のポケモンとなった。特に今までと変わりはない。

 ただ、自分がトレーナーだという意識が高まったからなのか、ケーシィを店に連れて行くのが少し怖くなった。綾子の話は僕の記憶にきちんと残っていて、そんなまさかと思いながらも、そうなのかもしれないと思う時がある。

 店長はあれから何も動きはなく、怪しい様子もない。姪相手の対応も一切出さず、いつも通りだ。綾子も以前と同じように振舞っている。

 里中さんには、先日のバトル場での上の空を謝って、また連れて行って下さいと約束した。

 端的に言えば、今まで通りの、変わらない日常がある。

 キャタピーの焼死体を目の前にした後は一体どうなるかと思ったが、落ち着いた日々が今あるなら、このまま何も起きないで欲しい。

 店長が犯人だなんて、僕は嫌だった。恩もあるし、人として尊敬している。いつだったか社員にならないか? と言われた時だって、本当は飛び上がりたい程嬉しかったのだ。認められたい人から認められるというのが、あれほど嬉しいものだとは知らなかった。

「貫太! もう上がっていいぞ、明日もよろしくな!」 店長の大きな声を聞いて、僕は今日も一日を終え

る。ここ数年、一日をあの声で締めるのが日常だ。休みの日は逆に締めの言葉がなくて落ち着かないくらいだった。

 綾子のアパートとこの店の往復が僕のライフワークで、そこにケーシィとの暮らしが加わった今、充実している。

「お疲れ様です!」

 手早く着替えて店を出て、先に上がっていた綾子と一緒に帰路へつく。

「やっぱり、少し変わったよね」

 毎日懲りもせずタマムシは賑やかだ。横に並んで歩く綾子が、ポツりと呟いた。

「変わったって、何が?」

「貫太だよ。明るくなったというか、前向きになったというかさ」

「ケーシィの事があるからじゃないかな。しっかりしなきゃいけない気がするのかも」

 綾子はどうだろう。前とそんなに変わった様子は見られないが、ケーシィを介して僕との距離は少し縮まった気がする。くだらない話をする機会は、増えたと思う。家にいても世間話なんて禄にしなかった。せいぜいニュースを見ながらぽつぽつと喋る程度。

 今はテレビを見ていなくたって、何気ない会話を交わす機会が多くなった。

 これは進展と言って良いのではないだろうか。タマムシ公園での事は忘れていないが、アパート追い出されていない以上、僕はもっと綾子との距離を縮めたいと目論んでいる。

「人間二十歳を超えると変われないってい言うけど、きっと貫太はぎりぎり間に合ったんだね」

「綾子は、変わりたいの?」

「分かんない。私、どうしたいんだろう。分からなくなっちゃった」

 弱気な言葉は珍しい。

 いつもは僕が情けない事を言って、綾子が発破をかけてくれる。逆の立場になると、うまい具合に言葉を掛けるのが難しい。

「何か、やりたい事とかないの?」

 やりたいことかあ、と綾子は反芻し、タマムシの夜を見上げた。

 新しい事を始めると、何かのきっかけになったりするかもしれない。

「やりたい事というか、気になっている事はあるんだけどね」

「え、なになに?」

「事件の事」

「……そうじゃなくてさあ」

 僕が言いたいのは、新しいポケモンを持ったりするのがやっぱり良いんじゃないかという事だ。事件をどうにかしたい気持ちは分かるが、それは僕等の仕事ではない。

 焼死体の件が恐ろしくてもう色々と動く気もないと思っていたのだが、どうやらそうではないらしい。

 あんな危ない事件に首を突っ込むより、他の事をした方が良いに決まっている。

「あれから、どう思ってる?」

「事件の話?」

「うん」

 話すしかないのか。結局そこに行きつくのを、僕は今まで避けていた。出来る事は少ないのに、リスクだけやたら高いのは御免だ。

「権田さんは今まで通りにしか見えないかな、僕には。綾子の話で言えば、確かに疑いたくなる気持ちも分かるけど、僕は権田さんが本当に犯人だとは思えない。いや、思いたくないのかな」

「私もそう。犯人だと思いたくない。でも、分かったでしょ? 権田さんがたまに見せる気味の悪い視線」

 綾子は、店長が犯人だと思い込み過ぎている。色眼鏡で見ているから、店長の視線がまるでポケモンを燃やそうとしている狂人の視線に見えてしまうのではないか。

「それに、私のバッグにモンスターボールが入っていた件だって、犯人は絞られると思わない? どう考えたって、うちの人間だよ」

 分かってる。その通りだ。街ですれ違い様にモンスターボールを仕込まれた、というより店の人間が綾子のバッグにモンスターボールを仕込んだ、という方がしっくり来る。

 でもそうなると、犯人は僕達バイトか、里中さんか、店長という事になる。

 そして必然的にポケモンを誘拐し燃やしている犯人がその中にいる事になるのだ。

 店の人間達を疑いたくない。僕は、あの店が好きだ。

「貫太。やっぱり私じっとしていられない。権田さんが犯人なら、私はその現場を抑えたい」

 本気か。僕達だけでそれをやろうと言うのか。

「具体的には、どうするの?」

「ちょっと考えがあるから、帰ったら聞いて」

 アパートが見えてきた。僕はあまり気乗りしないが、このまま綾子を放っておいたら一人で突っ走って行くに違いない。無理は絶対にさせたくない。

 そういう意味だと、綾子が何をしようとしているのか、きっちり把握しておく必要があった。

「分かった。聞かせて」

 何も起こらないで欲しい。このままであって欲しい。ただそれだけなのに――。

 人は何をするか分かったもんじゃない。

 僕を例とすれば、本当に人は想像を越えて行く事がある。

 ポケモンを燃やしたのは、店長なのか。確認するのも嫌だが、どうやらそうせざるを得ないらしい。

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