【完結】僕は、ポケモンを燃やした   作:@早蕨@

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【四十九】

 カツラさんと警察が事情聴取にやって来たり、親が様子を見に来たり、綾子とケーシィが一緒にやって来て他愛もない話をしたりと、やって来た人に応対する生活が数週間程も続いた。頭をしこたま殴られた影響があるかもしれないと言う事で、仰々しい精密検査が行われ、随分とあちこち調べてもらっているようだ。

 今のところ問題ないが、右耳の聞こえがすこぶる悪い。不便極まりないのだが、僕は例の事件を象徴する、ポケモンを燃やすという行為を行った者の罰として、この右耳と付き合って行く覚悟が出来ている。特にショックも落胆もなかった。

 綾子はやたらと自分を責めて謝ってくるが、本当に恨んでも怒ってもいないし、むしろ僕で良かったと思っているくらいだ。

 右耳の聴力一つで皆が生きて帰って来られたなら、儲けものだと思った方が良い。

 店長とだけはまだ一切話していなかったが、僕があと数日で退院だというところで、松葉杖姿の店長が僕の病室へやって来た。

 お前とは回復力が違うんだ、と豪快に笑い、事情は聞いた、無事で良かったと言い、痛いと言っているのに頭をぽんぽんと叩く。どこをどう見たら無事だと言うんだ。相変わらず大雑把な人だ。

「来ていただいて、すいません。良くなったらこちらから挨拶をと思っていたんですが。もう、大分体調はいいんですか?」

「まだまだお前に心配されるような俺じゃない。先に退院して店で待ってるから、早くお前も出て来いよ」

 この状態で店に出るつもりらしい。豪快というか、最早馬鹿だ。

「里中が犯人で良かった訳ではないが、お前が犯人じゃなくて良かったよ」

「お互い様、ですね」

「そうみたいだな」

 綾子からは店長へ話したと聞いているし、店長が最初は僕に疑いを掛けていたという話も聞いた。

 互いに的外れな事をしていた訳だ。両成敗として謝り、僕等は元通りただの店長とバイトに戻った。

 もう一つ聞いてみたい事もあったが、それを口にするのはやめた。これもきっと、お互い様。

 結局店長が犯人ではないと信じ切れなかったのは、タマムシで僕を後ろから追いかけた不審人物が、店長その人かもしれないと思ったからなのだが、話を聞いたらどうやら本当にそうだとの事だった。

 紛らわしい事をしてくれる。

 店長は店長で事件の不審さに気付いて、こそこそ調べ回っていたそうだ。

「じゃあ、今度は店でな」

「来ていただき、ありがとうございます。また、お店で」

 会話もそこそこに、店長は松葉杖をついて去っていった。あれで厨房に立つのは不可能な気がするが、どうする気だろうか。

「行けば分かるか」

 早く退院したい。病院生活も、飽きて来た。

 

 

 退院後、まだ店では働けないものの、挨拶しようと思い、同じ松葉杖姿で開店前の店に顔を出した。久しぶりに戻ってみれば、随分賑やかに皆が歓迎してくれる。

 綾子は珍しく笑っていたし、他のバイトも騒がしい。店のカウンター席に座っていた店長の元へ挨拶へ向かうと、よう、と手を上げ「働けるな?」と無理を言う。

「馬鹿言わないで下さい。悪化しますよ」

「いやあ、そればかりはお前の言う通りだ。俺もしばらくは座って出来る仕事に専念するさ」

 何故家でゆっくり休んでいないのか。どうやら店長は本当に数日間店で働いたそうだ。

 皆は賑やかにしてくれるし、店の皆も明るい。でも、この店の賑やかさが、僕には少しばかり空元気に思えた。里中が犯人だったのだ。色々暗くなる話題も多いだろう。何より皆、明るく人当たりの良いあの人しか知らないんだ。僕でさえ、この店にいた時の”里中さん”がいないのは、寂しく思う。

 こうして目の当たりにすると、本当にあの人が犯人なんだと実感が湧いて来る。頭では分かっていたのだが、店にいた時の”里中さん”は、本当に親切で、店長の扱いがうまい良い人だった。

 人は何をしでかすか分からない。自分も含め、身に染みて理解出来た。

「おら! 開店までもう少しだぞ! 働け働け!」

 店長の声が店に響く、ああ、この声だ。これがなくちゃ締まらない。


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