【完結】僕は、ポケモンを燃やした   作:@早蕨@

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【七】

 翌日、ケーシィを綾子に預けて、僕はタマムシ図書館へ向かった。ネットで調べれば良いのかもしれないが、書籍に目を通して情報が得たい。少しでも信頼性の高い情報が欲しかった。

 エスパーポケモン大全。

 バトルのススメーー今最先端の勝ち方ーー

 エスパーポケモンの技を知れ!

 それっぽいタイトルの本を引っ張り出し、雑誌から学術書まで、色んな本をかき集めてざっと捲ってみたが、どれも違う。多分バトルや技の本ではない。ただ、ケーシィは生まれてから最初に覚える技がテレポートだという事実は、良い情報だった。これは僕の予想でしかないが、あれは育て方の問題だ。だとすると、例えばそう、育成に関する本とかが当てはまるのかもしれない。

「違う、これじゃない。どれを見ればいいんだ」

 ポケモン虐待や暴行の早期発見、防止するための法整備や社会制度の設計。これも違う。今知りたいのはシステムではない。実ケースだ。

 その日の午前中、朝からずっと色々な本をひっくり返し、ポケモンの本を漁り続ると、僕の想像したケースと似た事例をいくつか見つける事が出来た。

 ポケモンの密輸集団や、マフィアなど犯罪集団に捕獲され、酷い扱いを受けたポケモンのケースで、心的要因から特定の技が使えなくなるケースがあるらしい。逃げ出すのを防ぐため行われた精神的支配が原因の例だ。

 野生を知らないポケモンが、トレーナーに従順故きつい躾や教育を受け入れ、技が一部使えなくなるケースも見られた。バトルをするトレーナーの例だった。

 状況やポケモンのタイプ、技は様々だが、どのポケモンも一様に、普通に野生で暮らしていたら考えられない扱いを受けていた。

 ケーシィがそういう扱いを受けていた、とは限らない。ただ、あのゲームコーナーは昔から暴力団やマフィア系列の店だなんて噂は、タマムシの人間からすると耳にタコが出来る程聞いてきた。景品として置かれているポケモン達の扱いなんて、お世辞にも良いなんて言えないだろう。

 あのゲームコーナーに居る前からそうだった、と考えられなくもないが、こういう例があるとわかり、ケーシィが事実テレポートを使えないのだとしたら、どうやって元通り使えるように出来るのだろうか。

 いろいろ調べればいくつか方法はありそうだったが、とにかく今は、ケーシィをしっかり安心させてやる方が先だ。僕が調べたような扱いをケーシィが受けているのだとしたら、これからどう接していけばいいか、そっちを考える方が大事かもしれない。

「……はは、すっかりトレーナー気分だよ」

 ペーパートレーナーは、ポケモンを持った途端すっかりその気だ。調子の良い自分が笑えてくる。ろくに本も読んで来なかった無学な僕が、図書館にまで来て偉そうに書物を広げている。つい先日まで、ポケモンを持つことなんて考えもしなかったトレーナが、だ。トレーナーになるなんて選択肢は今まで僕の中ではありえなかったが、ポケモンを意図的に避けていた訳ではないのだ。綾子に言った様に、避けていたらあんな店で働いてはいない。ただ意識しないようにしていただけ。自分がどうしようもなく非道な事をした事実に、十年以上目を背けていただけだった。

 お互いの事を知らないまま過ごす事に居心地の良さを感じていたのは、嫌な事に、都合の悪い事に目を背けられるからだ。

 そんな僕は、あのニュースで思い出さずには、目を向けずにはいられなかった。綾子に話を振られる前から、僕はネットの記事で知っていたのだ。数が違うだけで、僕はあの犯人と同じ事を行っている。捕まればとても重い罪で裁かれるだろう。しかし、僕はそうではない。少年だった僕はあの時捕まっても少年法に守られて裁かれなかったし、今更自首しても何の罪にも問われない。

 あの事件のニュースを見てもやもやとしていた時、ゲームコーナーの景品交換所で、僕は景品一覧にあったケーシィに目を奪われた。

 野生のポケモンを捕まえる? 人のポケモンを育てる? そんな事僕には出来ない。

 どこ出身かもわからない、どんな扱いを受けているかもわからないケーシィを手元に置き、育てる。僕のポケモンだか誰のポケモンだかわからない、そんなふわふわとした関係性で、ポケモンと接する事が出来る。責任が、軽い気がした。こんな僕でも、トレーナーになれる気がした。それだけで自分が救われる気がした。ケーシィを育てて、僕が助かろうとしている。結局僕は、自分の事しか考えていない。

 自分の腐った魂胆を自覚して、思わず拳が机を叩いた。静かな図書館にそぐわない音が響く。周りが僕を見ているだろう。

 こんなにも自分に苛立っている。仰々しく、偉そうに色んな本を並べて、調べて、だから何なんだ。

 所詮僕は、ポケモンを燃やした人間だ。

 ケーシィを大事に思えば思う程、目を向けてこなかった事実の重さが、今更になって、本当に今更になって、沁み込んでくる。

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