ナザリックの鬼(仮)   作:たーなひ

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誤字報告たくさんありがとうございます。
中々見慣れない言葉ばっかり並んでるから確認が疎かになってるんですかね?(言い訳)


鬼の自傷

午後からの予定は“自動回復”に対する影響の調査。

 

それを確かめるには傷をつけて貰うのが一番手っ取り早いんだが………

 

「…?」

 

ペトラに視線を向けると「何か?」と首を傾げたので「なんでもない」と返す。

 

やはり彼女達が邪魔だ。彼女達に傷をつけて貰うことも出来ないし、自傷行為なんかが許されるはずもない。

そもそもプライベートな時間がほとんどないからリラックスも出来ない。

加えてモモンガさんに至っては支配者ロールで精神をすり減らしているはずだ。

 

(邪魔だからどっか行けって言うのもなぁ…)

 

こんなに…言って見れば尽くしてくれているヤツにおざなりな態度を取ってしまうのは忍びない。

 

 

……試しもせずに考えても時間の無駄か。とりあえず言ってみよう。

 

 

「なあ、ちょっとお願いがあるんだが…」

 

「はい、なんでしょう?」

 

「俺に傷をつけてくれない?」

 

「……………………もう一度お願いします」

 

「俺に傷をつけてくれない?」

 

「…………………もう一度「聞き間違いじゃないぞ」…理由をお聞きしても?」

 

「俺の再生能力の実験をしたい」

 

そう言うと、少し考える素振りを見せる。

 

「…………申し訳ありませんが、それは私には出来ません」

 

だよなぁ……。

 

 

「…じゃあ自分でつけるか」

 

「お、お待ち下さい!それは私にも看過出来かねます!」

 

「しょうがないだろ。手伝ってくれないなら自分でやるしか無いんだし…」

 

「し、しかし……」

 

ペトラの悲しそうな顔を見て少し揺らいでいる自分がいるが、こればかりは譲れない。

命の懸かった場面で自分の体の事知らなくて負けました〜なんて笑い話にもならない。

だからこれは確かめない訳にはいかないのだ。

 

 

「わかり……ました……」

 

議論は平行線を辿っていたがこちらに折れる気が無い事を悟ったのか、渋々と言った様子で納得してもらえた。

なんとかゴリ押しでいけたか。

 

礼を込めて頭をポンポンした後、この部屋を血の海にするわけにもいかないので風呂場へ向かう。

 

 

 

 

さて。

まずは普通に切り傷を作る。

刃物なんてほとんど持ってないので午前中に使った大太刀で切り傷を作る。

腕に刃を押し当てて薄ーく斬ろうと思ったのだが、刃が通らない。

こうゆう時は不便な事この上ないな。

 

 

勢い余って切り落とさないか心配だが仕方ない。

今度は少し力を入れて刃を滑らせると、ザックリと切り傷が出来た。

すぐに傷は塞がっていき、30秒も経たずに完全に塞がった。

 

今のところ空腹感はなく、ちょっとでも回復すれば空腹感が襲ってくる〜って感じでは無いみたいだ。

 

となると、たくさん傷を作ってどれぐらいで腹が減るのか確かめたいんだが、再生の限界についても確かめておきたい。

 

 

気は進まないが、今度は手首ごと切り落として見ようと思う。

確かめておかないと、今後あるかもしれない強敵との戦いに備えられない。

 

念の為ポーションと包帯を用意してもらって、万が一の時に備えておく。

 

 

「ふぅぅーー…」

 

当たり前だが、自分の手を切り落とすなんて初めてだ。

めちゃめちゃ緊張するし、めちゃめちゃビビってる。

人に斬られるならまだしも、まさか自分でやることになるとは……いや人に斬られるのも嫌だけどさ。

 

だが、再生するという事が分かれば腕一本犠牲にして勝利を掴むなんて事だってしやすくなるし、少なくとも部位の損失程度なら直せるという証明にもなる。

 

 

怖いという感情を振り切り、意を決して刃を手首に振り下ろす。

 

 

 

 

 

 

「な、何やってるんですか!!??」

 

「い、いやー、これぐらいなら治るかなー…と…」

 

「治るかもしれませんけど!本当にやめてください!」

 

「分かった、分かったって!もうしねえよ!」

 

ペトラにお叱りを受けているが、結果から言えば治った。ついでにお腹も減った。流石に手首から先を丸ごと再生すればエネルギーを使う…ということみたいだ。

あと、俺ぐらいの力があれば俺の肉体を切り落とす事は容易らしいという事も分かった。俺以上の攻撃力を持つヤツなんかそうそう居ないから、まあ当然っちゃ当然の事なんだが。

 

 

「ほんとに……ほん………とに……グスッ…」

 

見ると、ペトラが泣いていた。

 

「ちょ、悪かったって!ホントに!いい子だから!泣かないでくれ、頼む!」

 

「……もう…グスッ……こんなことしませんか?」

 

「やらない、やらないから!…な?」

 

「……じゃあ……許します」

 

 

……美少女を泣かすのは罪悪感一杯だったんだが、なんか負けた気がして釈然としない。

 

 

それから、その日はずっとペトラのご機嫌取りに費やされることとなったのだった。

 

 

 

 

 

「ーーーーってな事があったんですよ」

 

「うわー…それはまた……」

 

現在はその日の夜。モモンガさんとの情報交換の時間だ。

 

「でも仲良いみたいで良いじゃないですか」

 

「まあそうですね。結構気楽ですし」

 

確かに言われてみれば、ほかのNPC達と比べると距離が近いような気がする。

無邪気になるように作ったからか分からないが、結構気楽なことには違いない。

 

「モモンガさんはどうですか?」

 

「……………しんどい」

 

「あはは……」

 

モモンガさんは部下の前では支配者としての立ち振る舞いを常に徹底せねばならず、俺と比べ物にならないほど精神を張り詰めているのは想像に難くない。

 

 

「一番辛いのは常にメイドとかが付いてくることなんですよね…」

 

「うわー、分かりますそれ」

 

俺には基本的に付き人のペトラともう1人メイドの2人がついている。

2人の様子を見ていると、ペトラは普通のメイドよりも立場は上ということが分かった。プレアデス達との上下関係も気になる所だ。

 

「息抜きも出来ないですし…」

 

「あー、モモンガさんはそうですよね…」

 

「……代わりません?」

 

「結構です」

 

「ですよねー」

 

絶対嫌だし、多分俺には無理だ。すぐボロが出るだろうし、そもそも支配者なんてキャラじゃない。

 

 

「それにしても、いちごパンチーさんと一緒で良かったですよ」

 

「そうですか?」

 

「はい。僕だけならきっと今日でギブアップしてましたよ」

 

「そう言われると嬉しいですけど…モモンガさんに辛い役回り押し付けちゃって申し訳ないです…」

 

「いえ、気にしないで下さい!みんなの子供達が手伝ってくれてますし、結構楽しいですよ」

 

「…なら良かったです」

 

モモンガさんに申し訳無い気持ちで少し罪悪感があったが、そう言って貰えて少し楽になった。

 

 

 

 

 

 

 

転移して3日目、モモンガさんが無断外出をしてセバスに叱られるという事件があったが、モモンガさんの気苦労を知る俺としては同情せざるを得ない。

 

 

そして今俺達は大きな鏡の前で四苦八苦している。

鏡には俺達ではなく、外の草原が映っている。

その鏡は“遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)”。要はドローンみたいなものだ。

鏡の前で2人の大男(それも骸骨と鬼)が手を振ったり回したりしている絵面はとてつもなくシュールだが、その顔は晴れない。

 

(こう?……じゃあこうか?………こうでもないしなぁ…)

 

操作の仕方が分からない。別に全く分からない訳ではなく、今模索しているのは俯瞰を高く変える方法だ。

 

横に控えているセバスなんかに頼んでも良いはずなんだが、モモンガさんが自分でしたいと言うので俺も手伝っている。

 

しかし一向に視点が変わらず、疲労しないアンデッドの2人も気分も段々下がっている。

 

 

しばらくテキトーに弄っていると、不意に視点が大きく変わった。

どうやらモモンガさんが当たりを引いたようだ。

 

「はぁー…やっとかぁー」

 

「おめでとうございます」

 

 

モモンガさんが特定した手の動きを使って人のいる村を探す。

 

 

 

「……祭りか?」

 

村を見つけたらしいので、俺もそれを覗き込む。

すると、横から覗いていたセバスが口を開いた。

 

「いえ、これは違います」

 

 

モモンガさんが拡大すると、村人と思しき粗末な人々を全身鎧(フルプレート)の騎士風の者達が剣で斬り付けている。

 

いわゆる殺戮だ。

 

「ちっ!」

 

モモンガさんが不快そうに吐き捨てる。

 

 

さて、この人はどうゆう判断をするのか…。

 

俺としては助けても良いかなと思っている。

大した理由では無い。どちらかといえば、力があるなら目の前で女子供が襲われていれば助ける方だからだ。もちろん状況によりけりではあるが。

ただ、助けないという判断も正しい判断だとは思っている。

 

要はどっちでも良いのだ。

 

 

「どう致しますか?」

 

セバスの問いにモモンガさんは俺の顔色を窺うが、俺は目を瞑って「そちらに任せますよ」と判断を促す。

 

 

「見捨てる。助けに行く理由も価値、利益も無いからな」

 

「ーー畏まりました」

 

モモンガさんは何気なくセバスに視線をやり、ふと溢した。

 

 

「なっ……たっちさん……」

 

…え?たっちさん??

セバスの後ろを見るが、たっちさんがいる訳では無い。

セバスと顔を見合わせ首を傾げる。

そう言えば、セバスを作ったのはたっちさんだったか。

 

 

「恩は返します。……どちらにせよ、この世界での自分の戦闘能力をいつか調べなくてはならないわけですしね」

 

恩……?

昔、異形種狩りに遭っていたモモンガさんをたっちさんが助けたと言うのは聞いた記憶があるが…。

 

「セバス、ナザリックの警備レベルを最大限引き上げろ。隣の部屋で控えているアルベドに完全武装で来るように伝えろ。ただし、真なる無(ギンヌンガガプ)の所持は許可しない。次にーーー」

 

どうやら助けに行くようで、どこかホッとするような感覚を覚えてしまった。

 

 

「いちごパンチーさんはどうしますか?」

 

「あー……まあ俺こんなですし…今回は見送ります」

 

どこからどう見ても凶暴なモンスターが来たら村人も不安になるだろう。と自身の容姿を指差しながら遠慮する意思を伝える。

 

「…そうですか。では、行ってきます」

 

「いってらっしゃーい」

 

モモンガさんが〈転移門(ゲート)〉で村へとヒーローしに行った。

 

 

「……では、私は連絡を伝えて参ります」

 

「おう」

 

失礼します。とセバスが退室したのを確認して一息をついたところで大事な事に気がついた。

 

………あれ?骸骨でも人に恐怖心与えないか?

 

 

 

 

 

遠隔視の鏡でモモンガさんの無双を眺めながら相手の様子を観察するが、レベル35の死の騎士(デスナイト)に手も足も出ないようなのでかなりレベルが低い。

これを戦闘を仕事にする騎士の基準にするとしたら余りにも弱すぎる気がする。………と思ったが現実の世界であんなものが出てきたら、兵器を使わなければ自衛隊ではどうにもならないだろう。

 

 

懸念していたモモンガさんの外見だが、仮面とガントレットを着けることで隠したようだ。

因みにその仮面はクリスマスイブの19時から22時までの2時間以上ユグドラシルにログインしていると問答無用で手に入ってしまう、ある意味呪われた一品だ。

“嫉妬する者たちのマスク”。通称“嫉妬マスク”。

 

 

助けたお礼として村長が教えてくれたこの世界の地名は聞いたことの無いものばかりだった。

周辺の国家としてはスレイン法国、バハルス帝国、リ・エスティーゼ王国が挙げられ、このカルネ村は王国の領土らしい。

 

 

しばらくすると王国の騎士団がやって来て、その戦士長“ガゼフ・ストロノーフ”を狙うスレイン法国の者達が追って来た。

 

戦士長達とスレイン法国の者達の戦いを観戦していたが、やはりレベルが低いと思わざるを得ない。

戦士長は……見た感じではレベル30前後…辺りだろうか。

モモンガさんが聞いた所によるとアレがこの世界の人間としては最強クラスらしい。

ただ気になったのは、スレイン法国が使っていた天使だ。

第三位階の魔法で召喚できる炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)を使っている。つまりユグドラシルの魔法を使っているということになる。

まあその辺はモモンガさんが確かめてくれるはずだ。

 

 

ボコボコにされていたガゼフとモモンガさんが入れ替わり、今度はモモンガさんが無双してスレイン法国をケチョンケチョンにしていた。

因みにその時向こうが使っていた魔法もユグドラシルのものばかりだった。

 

 

追い詰められた向こうのリーダーらしき人物が魔封じの水晶を取り出した。

モモンガさんによると「最高位天使が〜」とか何とか言ってるらしいので念の為シャルティアに転移門(ゲート)の用意をしてもらっていたんだが、出て来たのは第7位階で召喚できる程度の威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)。最高位というから一応警戒していたのに拍子抜けしてしまった。

 

当然瞬殺されて、スレイン法国の皆さんは拷問室送りになりましたとさ。

 

 

 

 

 

そしてモモンガさんは名前を変えた。

“モモンガ”から“アインズ・ウール・ゴウン”へと。

この世界に来ているかもしれない仲間達が見つかるようにと願いを込めて。




はい。
再生能力については「流石にデメリット無しで永遠に再生し続けるのはズルすぎん?」って思ったんで、再生にはエネルギーを使う…みたいな感じにしました。
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