「……………暇だ」
俺は今執務室にいるんだが、猛烈に暇だ。
この執務室は本来モモンガーーじゃなかった、アインズさんがいるんだが、訳あって外に出ている。なので俺が代理としてこの席に座っているんだが……暇だ。
というのも、俺の仕事はアルベドからの報告に「なるほど」「うむ」「頼んだ」と返すだけだからだ。
アルベドが優秀過ぎて何一つ問題が起きない。
まさに問題が無い事が問題…という状況だ。
で、この状況を作ったアインズさんだが、現在は王国領土の城塞都市エ・ランテルでプレアデスのナーベラル・ガンマと共に冒険者として潜入調査を行なっている。
行きたいのは山々だったんだが、俺は人型を取れないので人間の街に潜入する事が出来ない事、ナザリックの警備が疎かになる事が理由で行くことが出来なかった。
まあその理由には納得している。
納得はしているが……何もやる事がない。
何かやろうとすると、シモベたちが代わりにやってしまうし、ちょっとした問題が起きたと思ったら瞬時に解決してしまう。
俺がやっていることと言えば寝て起きて、これっぽっちも分からない書類を見て飯を食って、そして寝るだけ。
この様子だとやっぱり人の上に立つのには向いていなかったんだなと思わざるを得ない。
余りの暇さに脳内で1人しりとりを始めようかと思ったら、扉がノックされた。
どうやらデミウルゴスが来たようなので入室を促す。
「デミウルゴス、どうした?」
「は。アインズ様のご命令に従い、そろそろ出立しようかと思いますのでその報告を」
そっか。デミウルゴスは外に出れるのか…良いなぁ……。
俺も出たいなぁ……。
「なるほど。頑張って来てくれ」
「ご期待に添えるよう努力させて頂きます」
「そうだ、奥の部屋にアルベドが居るから彼女にも報告していってくれないか?」
因みに奥の部屋はアインズさんの寝室だ。
「アルベドが…?かしこまりました。……では、失礼致します」
アルベドは俺がこの部屋に来た時から寝室に篭りっきりだ。
どうせろくでもない変態行為を働いているんだろうが止める気はない。俺にこんなに退屈な思いをさせてるんだからその仕返しだ。
ついでにあの2人引っ付けてやろうかな……。
デミウルゴスが退室してしばらくするとアルベドが出てきた。
少し息が荒いことから察するに、思った通りろくでもない変態行為をしていたんだろう。
(……でも俺はそんなアルベドを応援してるぞ!)
心の中でエールを送りながら、報告書の文字をただただ眺めていた。
同じ資料を10回以上も見ていると流石にもう眺める気にもなれなくなったので、適当に
…と言っても見るのはカルネ村ぐらいだ。
何の関わりもない赤の他人の生活を眺めていられるような精神は持ち合わせていない。ま!カルネ村の人と面識がある訳じゃないんですけどね!
パーっと眺めて見た感じ、どうやらアインズさんが渡したというゴブリンを召喚する角笛を使ったらしい。村の至る所に普通に暮らしているゴブリン達がいる。
一見すると不自然なようにも見えるが村の人は至って自然なので、人間の適応力の高さには舌を巻く。
そういえば、アインズさんが「人間を同族であると思わなくなった。精神も肉体と同じように変化しているのでは」と言っていた。言われてみれば確かにそんな気がしてきたが、リアルで人間以外の知的生物と会った事がないからコレが他種族に向ける感情なのかイマイチ分からない。かと言って特にコレといって思うことがあるわけでもないんだが。
そろそろ村を眺めるのも飽きてきていたんだが、何やら冒険者と思しき一団が村にやって来た…………あれ?アレってアインズさんじゃないか?黒い鎧を纏った姿だがなんとなーくアインズさんと分かる。テレパスでも感じてるんですかね?
確か……モモンって名乗るって言ってた気がする。
どうやら依頼でこの村に来ていたようだ。
〈
実際、このクソでかいハムスターに跨っているアインズさんは結構間抜けで見ていて楽しい。
…………………ハムスター?
………え!?でっっっか!?
ハムスターってこんなデカかったっけ!?
や、やっべー、アインズさんに確認取りてぇ〜…。
ま、帰ってきたら確認を取りながらからかってやればいいだろう。
ハムスターに跨るアインズさんが公衆の面前で晒されているのを見るとつい爆笑してしまう。
メリーゴーランドに乗ってるオッサンみたいでめちゃくちゃ面白い。
恥ずかしいだろうな〜。
「いちごパンチー様!」
あの日から3日、仕事(書類を眺めるだけ)をした後アインズさんの羞恥プレイを見て爆笑する日々を過ごしていたんだが、物凄い焦った様子のアルベドが入室して来た。
(事件か。やれやれ、これでようやく退屈な日々から抜け出せる…)
なんて考えてしまう自分がいる。
もちろん何も無い事は良いことなんだが、何の仕事もしていない手前親の脛をかじっているような気持ちになってしまっていた。
そんな俺にとってこれはまさに暁光。
アルベドの焦った様子からして、かなり重大な事なのは間違いない。
今ほど仕事に対するモチベーションが高いことなど無いだろう。リアルではあんなに月曜日が……………うん、辞めよう。
とにかく、今の俺は「事件?良いぜ、かかってこいよ!」という状況な訳だ。
さ、どんな事件か聞かせて貰おうか。
この俺が華麗に解決してやるぜ!キリッ
「シャルティア・ブラッドフォールンが反旗を翻しました」
……ヴァっ!!!!????
アインズさんが何か事件に巻き込まれてたり解決したりしていたようだが、そんな事はどうでも良い。
今必要なのはシャルティアに対する新たな契約金での契約と、それに伴うメリットの用意である。
他社に靡いてしまったシャルティアを引き留めるには、他社が提示した条件を超える好条件を示さなければならない。
最悪アインズさんにはシャルティアと結ばれてもらう事になる。今のうちに覚悟を決めておけよ!!
………というのは冗談で、どうやら何者かの精神支配を受けているようだ。
完全耐性を持っているシャルティアには精神支配は効かないはずなんだが、この世界にはユグドラシルには無かった要素が多くあるし、単純に無効化するスキルを持ったプレイヤーがいるという可能性も捨てきれない。
とにかく、コレがシャルティアを狙ったものであるならば敵は一筋縄では行かないということだ。
この精神支配を手っ取り早く解除するには超位魔法程の力が必要だ。超位魔法とは最高位である第10位階を超えた魔法の事で、MPを消費しないためスキルと言った方が近かったりする。パッと思いつくもので言えばアインズさんの〈
既にアインズさんがシャルティアが居る現場に向かったので事件は早々に解決してしまうだろう。
あーあ、重大事件と言えば重大事件なんだがなぁ……。俺が何一つ動けないのは………はぁ…こういう時には魔法が羨ましい…。
どうせなら襲撃とかなら良かったのに……はぁーつまんな。
………………闘いたいなぁ。
なんか最近闘争心?戦闘意欲?みたいなもんが日に日に増していってる気がするんだよね。
これも精神が鬼っぽくなっていってるって事なのかもしれないな。
しばらくすると、アインズさんから〈伝言〉が繋がった。
そして開口一番。
『
「え?」
『シャルティアを精神支配したのは世界級アイテムの力なんですよ!』
ま、待て。流石にそれだけでは状況が把握出来ない。
「ちょ、落ち着いて下さい。一から説明して貰えますか?」
『……………すいません。これから一度ナザリックに帰還するので詳細はそこで』
「わかりました」
そう言って〈伝言〉は切れた。
「いちごパンチーさん」
「説明頼む!」
「はい。実はーーーー」
聞けば、〈星に願いを〉をデメリット無しで三度まで発動出来るアイテム、“
つまり、シャルティアには超位魔法を超える程の力が掛かっているということになる。
超位魔法を超える力はユグドラシルにおいてはたった一つしか無い。それが200個しか存在しない超超希少アイテム“世界級アイテム”という訳だ。
これによって、解決方法はかなり絞られた。
世界級アイテムの効果は同格の世界級アイテムでしか打ち消せないし、防ぐ事も出来ない。
シャルティアの精神支配を解除するにも世界級アイテムが必要…という訳だ。
「……なるほど」
アインズさんから概要を聞いた俺はそう溢した。
「どうしますか?」
「………………解決方法は二つ。一つは俺達の世界級アイテムを使うこと。そしてもう一つは………」
「シャルティアを殺すこと……ですね。」
厳密には『殺して復活させる』だが、俺達は言わずともわかっている。
黙って頷いて、そのまま口を開く。
「復活出来るのかどうか……というのが鍵ですね」
「俺的には復活出来る…とは思うんですけど…」
俺も復活出来るのでは無いかと思っている。大概のゲームの機能は使えるから、恐らく復活も出来るだろう。だが、その『だろう』がその手を取るのを躊躇わせる。数々の法則が変化しているこの世界で、確実性の無いものは出来るだけ取りたくない。
「ワールドアイテムを使えば解決は容易だが…って感じですね」
「……ですね」
俺達が懸念しているのは未知の勢力の存在だ。
シャルティアが狙われた以上、世界級アイテムを保持するほどの強大な勢力が俺達を狙っている可能性は充分にある。
その勢力と対峙した際、こちらが保持している世界級アイテムは切り札でもあり、相手の世界級アイテムへの対策でもある。その世界級アイテムをここで使うのは少々勿体ない…となっているのだ。
収支で考えれば、階層守護者最強を誇るシャルティアと11個ある内の1つの世界級アイテムならばギリギリトントンにはなりそうだ。
だが、この世界に対して無知であるが故にその戦略を取ることが出来ない。
「…………殺るしかないか?」
「…ですね」
この世界にプレイヤーが居る可能性もある現状では、世界級アイテムの数はそのまま戦力にも現れる。
世界級アイテムを使わなければならない状況になる可能性と、シャルティアが復活出来ない可能性を天秤にかければその重みは前者に寄る。どちらが取り返しがつかないかと考えればそうなってしまう。
「メンバーはアルベド、コキュートス、マーレ、後は適当なシモベ達って所ですかね?」
俺達が出る事なんて誰も許しはしないはずだ。
少しモヤモヤした気持ちになるが、これがなんなのかは分からない。
「…………………」
「どうしました?」
反応が微妙だ。
「……アルベド達ーーシモベは出したくありません」
「どうしてですか?」
「俺は………みんなが作ったNPC達が殺し合うのは見たくないんです」
そうか…。俺がモヤモヤしていたのはそこか。
「………しょうがないですね」
当然そうなれば俺かアインズさんが出る訳だが、戦闘能力的にも、相性的にも出るなら俺に決まっている。
「辛い役回りかも知れませんけど……お願いします」
「アインズさんに比べれば全然マシですよ。任せて下さい」
ようやくやれそうな仕事が回ってきたんだ。
存分に働かせてもらおう。
「…そうなるといちごパンチーさんを世界級アイテム持った方が良いですよね?」
「未知の勢力の横槍への対策って事ですね」
「はい」
なるほど。確かにそれは必要だ。
物によるが大概の世界級アイテムは世界級アイテムを持つ事で対策が出来る。横槍も充分に考えられるので、気をつけるに越した事はない。
「んじゃあ宝物殿に取りに行きますか?」
「そうですね。……はぁ…」
「……そんなに嫌ですか?」
「いや、だって……あんなのまさに動く黒歴史ですよ?」
『あんなの』とは他でもない“パンドラズ・アクター”の事である。アインズさんが作ったNPCで、特徴は………見た方が早い。ただアインズさんが言ったようにまさに『動く黒歴史』という言葉が相応しい。
ただ、俺はそんなにカッコ悪くないと思ってる。
アインズさんが作ったって言われてなければの話だが。
「そりゃそうですけど…息子ですよ?ム・ス・コ」
「あんなに親不孝な息子嫌ですよ」
「親が望んだ通りに生まれたんですからどっからどう見ても親孝行してますよ?」
「……………確かに」
その点、俺は良かったと思っている。なんてったってただの美少女だからね。人じゃないけど。
俺が別の戦闘スタイルを取っていたりすれば、同じく黒歴史に悶える被害者の1人になっていたかも知れない。
そもそもここのNPCにまともなやつが居ない。
俺が自信を持ってまともだと言えるのはセバスとユリとウチのペトラ。…善属性寄りなら問答無用でまともって言える感じになってしまった。
あ、見た目を除けばペストーニャもだな。
「あ、アルベドも連れて行って良いですか?」
アインズさんが聞いてきた。
「良いですけど、なんでですか?」
「いや、アルベドは会ったこと無いから顔合わせでも…と思ったんですけど…」
「はへー、なるほど」
確かに守護者統括のアルベドが守護者の顔も把握出来てないというのは問題だ。
結局、アルベドとユリを加えた4人で宝物殿に向かう事となった。
はい。
実はついこの前漫画と書籍版買ったばっかりで、読みながら進めてるって感じなんですよね。だからかなりにわか晒すことになるかもなんでご容赦ください。
あと聞いときたいんですけど、ユグドラシルでアイテムとかって壊れたりするんですかね?
例えば石ころを投げたら鎧に当たって砕けてしまってノーダメージ…とか、ポーション入った瓶が衝撃で割れてしまった…とかですね。
アイテムとかを壊したりする魔法がある以上、アイテムが物理的に壊されるってのはどうなのかな…と思ったんで聞いてみた次第てす。