「ようこそおいで下さいました、私の創造主たるモモンガ様!」
「……お前も元気そうだな」
このドイツっぽい軍服に身を包んだ、埴輪みたいな顔をした仰々しいドッペルゲンガーはパンドラズ・アクター。
アインズさんが造ったNPCで、宝物殿の領域守護者という設定だ。
「はい。元気にやらせていただいています!いちごパンチー様も、お久しぶりでございます!」
「おう」
「ところで、今回はどうなされたのでしょうか?」
「ああ、世界級アイテムを取りに来た」
「なんですと!最奥に眠る秘宝、あれらが力を振るうときが来たと?」
仰々しくカッコつけながら言った。
アインズさんが「だっさいわー」と小さく漏らしたのが聞こえてしまった。
うんうん。これは恥ずかしい。
まだ容姿がカッコよければ様になってたのに、顔が埴輪みたいなせいで滑稽なナルシストみたいになっている。
とりあえず、モモンガからアインズ・ウール・ゴウンに改名したことを伝えた。
「…………行くぞ」
アインズさんの素っ気ない声から、すぐにでもここを離れたいという気持ちが良く伝わる。
「いってらっしゃいませ。アインズ様、いちごパンチー様、そして、可憐なお嬢様方」
「……お嬢様?私は守護者統括、ユリはプレアデスの副リーダーよ。そのような軽々しい呼び方は謹んでもらえる?」
「私からもぜひお願いします」
「おぉ…大変失礼致しました。美しくも可憐なお姿に、つい」
「ハイちょっとこっち来ようなー」
……うん。あれは流石に耐えられ無い。
アインズ様がパンドラズ・アクターを端っこに連れて行った。
おそらくこれ以上自らの黒歴史を抉らないようにお願いしに行くんだろう。
「アインズ様はどうされたのでしょうか?」
「まあ………色々あるんだよ」
色々って言っても黒一色なんだけどな!(上手いこと言ったつもり)
そんな訳で、いくつかの世界級アイテムを持って行った。
「……後はアインズさんの指示に従ってくれ」
「…はい」
「は、はい」
シャルティアが居る場所から2キロ程の場所で、付いてきたアウラとマーレに指示を出す。
離れた場所に転移したのは、未知の勢力を警戒してのことだ。
しかし、付き添いの内の1人は未だに返事を返さない。
「分かったか?ペトラ?」
「……………」
通常であれば、このペトラの態度に『不敬だ』と言って咎めるであろうアウラ達も今回ばかりは何も注意しない。
やはりアウラ達も心のどこかで行かせたくないと思っているのだろう。
はぁ…と溜息をついてからペトラに優しく諭すように語りかける。
「あのな、ペトラ。俺がシャルティアに負ける訳が無いだろう?」
「それはそうですけど……。万が一の事もあります!」
「……なるほど。お前は万に一つ、0.01%
「……………………」
「でもシャルティアを洗脳した人達だっているんじゃ無いですか?」
言葉をつぐんだペトラと変わってアウラが聞いてくる。
「それに対抗する為に俺達はこうして世界級アイテムを持っているんだろ?」
「…………」
「お前達は心配しすぎなんだよ。何かあればアインズさんが〈転移門〉でここに来る予定だし、一緒に守護者も来るはずだ。そうなれば確実に勝てる。第一、俺がどうにか出来ない問題なんてこの世界には無い」
実際にはそんな事ないと知っているし、そう思ってもいない。だがこの場を納得させるにはそう断言する事の方が良いと判断した。
「そして何より、俺は退屈なんだよ」
「……え?」
これは別に相手を理屈で納得させるような言葉ではない。
「この世界に来てからずっと手応えの無い生活で鈍ってたんだよ。命を削り合うような戦いもない。誇りとアイテムと経験値をかけた戦いもない。俺は戦いたいんだ。俺がどれだけ強いのか知りたいんだ。分かるか?」
この体になってから、いわゆる戦闘狂になったのではないかと思う。いや、なっているという進行系が正しいか。
「…………わかりました。もう止めはしません。だから必ず戻って来て下さい」
ペトラが諦めたように言う。いつもペトラに折れてもらっているような気がする。今度何か褒美じゃないけど、そうゆう品を渡してあげたいなと思う。
ペトラが納得したようなので、背を向けて片手をあげて応えた後シャルティアの元へと向かう。
シャルティアは、まさにアインズさんが言っていた通りの状態だった。
俯いているが、その瞳に何も写してはいない。
ユグドラシルで洗脳を受けて命令が無いまま放置された状態と酷似している。
ならば、敵対行動を取らない限り動き出す事はないはずだ。
さて、どうするか……。
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ナザリックの一室では、アルベド、コキュートス、デミウルゴス、そしてアインズの4人が
任務で外に出ていたため、少し遅れてやって来ていたデミウルゴスがアインズに問いかける。
「アインズ様、どうしていちごパンチー様をお一人で行かせたのですか?」
「それはーー」とアルベドが反論しようとしたのをアインズが手で制した。
「心配か?デミウルゴス」
「至高の方々の盾となるべく生まれた我々からすれば当然の事です。守護者を1人……いや、せめて付き人であるペトラぐらいは同行させるべきでしょう!」
珍しく怒ったような声音のデミウルゴスだが、この場ではそれを咎めない。
アインズが「我々を信用出来ないのか?」と問えばデミウルゴスは忠誠心から黙らざるを得ないということは分かっているが、その手は使わない。
「彼がシャルティアに負けると?」
「万が一ということもあります!」
「
偶然だが、全く同じ言葉をいちごパンチーが言っていたことを知っている者は誰もいない。
「…………………」
誇らしげに語るアインズに、デミウルゴスは口をつぐんだ。
そしてアインズは、話の矛先を変える。
「時にコキュートス、いちごパンチーさんの勝率はどれぐらいだと思う?」
驚き、質問の真意を図りかねたコキュートスがアインズの顔色を伺う。
「別にこの質問に意味は無い。お前の考えを偽りなく正直に言えばいい」
少しの逡巡の後、コキュートスは正直に思った答えを口にする。
「4対6…いちごパンチー様ガ4デス」
「ふむ…その根拠は?」
「ハイ。マズ、シャルティアは信仰系
冷静な分析だ。
近接特化の鬼と進行系魔法詠唱者の
普通であれば。
「……なるほどな。やはりお前達が知っているのはデータのみということだな」
言葉の意味が分からず、3人の守護者は目を瞬かせる。
「お前達は『いちごパンチーは最強とされている』というデータは把握しているが、その内容までは把握していないということだ」
分かったような、分からないような……という表情を浮かべる守護者達だが、アインズは続ける。
「なぜ、いちごパンチーさんが『最強』と呼ばれ、自称していたのか分かるか?それを裏付ける実績があったからだ」
そう言われると理解出来てきた。
要は、最強と呼ばれていることは知っていても、何を持って最強と呼ばれていたのかは知らない…ということだ。
「実績……ですか?」
アルベドがアインズに聞く。
「いちごパンチーさんのPVPの勝率は、7割強を超えている」
守護者達に衝撃が走る。
PVPというものはほぼ同格の間で行われるものであって、その勝率は半分ーー5割を超えれば『そこそこ強いプレイヤー』として認識される。
どんなに強いプレイヤーであっても大概は6割、多くて6割強だろう。
因みに、その敗北の殆どがたっちみーによるものだと言うのはいちごパンチー本人しか知らないことだ。
「つまり……魔法詠唱者への対策は充分だと……?」
「むしろ絶好の餌とも言えるな」
「「「おぉ………」」」
守護者達が感心の声をあげる。
「よく見ておけ。アレが『最強』だ」
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シャルティアを前にしている俺は、愛武器の鬼金棒ではなく“
名前の通り神聖属性を持った武器だが、攻撃力自体は鬼金棒に大きく劣るもののアンデッドであるシャルティア相手なら鬼金棒よりも有効だ。
また、いつもは付けていない腕輪を両手に装着しているが………この効果は使う時になったら説明しよう。
後は特に武装していない。そんな事をしなくても勝てるだろうからな。
さて、まずは最初の攻撃だ。
敵対行動を取らない限り動かないということは、ほぼ確実に初撃を当てられるということだ。
だが、俺は今回ただシャルティアを殺す事だけで終わるつもりはない。闘いを楽しむことはもちろん、自分の力を確かめることも目的に入れている。
つまり、ほぼ不意打ちの初撃で仕留めたりするつもりはない。
「シャルティア、構えてくれないか?俺は闘いに来たんだが?」
シャルティアは答えない。
(やっぱり反応無しか。どこからが敵対行動と見做されるのか実験しておきたい気持ちはあるが……)
いちごパンチーは足元に転がる石ころを適当に拾い、それをシャルティアに投げ付けた。
それをシャルティアは避けない。
攻撃として認識していたが、その速度が余りにも遅く威力が弱いため避ける必要すらなかったのだ。
「いちごパンチー様!どうして普通に攻撃しなかったんですかぁ?」
顔を喜色に歪め、いつもの「〜でありんす」みたいな変な口調は影も形も無い。
「それで倒してしまっては味気ないだろう?」
「……なるほど、強者の余裕というやつですか。いつまでその余裕が続きますかねぇ?」
シャルティアは微かに苛立ちを見せながらも笑みは崩さない。
激昂させて出来るだけ単調な攻撃にになるよう、俺は出来るだけ癪に触るであろう言葉を選ぶ。
「時にシャルティアよ」
「…なんでしょうか?」
「降参ーー自害してくれないか?そうすれば俺が態々お前と戦う必要は無くなるんだよ。勝てると分かってる出来レースほどつまらないものは無いからな」
そう言うと、さすがのシャルティアもブチギレたらしい。「殺す」と小さく溢して魔法を展開し始める。
成功だ。
「ーー〈
開幕一番の魔法攻撃。それも弱点である神聖属性の魔法を撃ってくることは想定の範囲内だった。
当然弱点であるが故にかなりのダメージを貰ってしまうが、これぐらいどうと言うことはない。
魔法を受け切ったらすぐに大地を蹴って肉薄する。
「……っ!」
シャルティアの反応が少し遅れた。
一瞬の内に間合いに入られ、左手に握られた金棒が縦に真っ直ぐ振り下ろされるが、それをシャルティアは横に回避する。
土煙が舞い上がるが、それで居場所を見失うということは無い。
地面に叩きつけられた金棒をそのまま横薙ぎに切り替える。
その叩きつけ→横薙ぎの動作に淀みは無く、その二つの動作はまるで一つの動作であるかのように素早く行われた。
シャルティアはそれを下がって間合いの外に出ることによって回避する。
その時金棒がわずかにかすめ、少し背筋が凍ってしまった。
躱されたいちごパンチーは少し驚いていたが、それは顔だけ。体は次の攻撃準備に入っている。
横に振った金棒を止めて、間合いの外から攻撃させないように距離を詰める。
叩きつけ、躱された。叩きつけ、躱された。叩きつけ、躱された。躱されようとも何度も何度も金棒を振り下ろす。いわゆる
ほぼ一撃で致命傷だと思われる攻撃だが、当たらなければどうということはない。
振り下ろされる金棒をヒラリヒラリと躱しながらシャルティアは考える。
(…思っていたより攻撃速度が速いですね。もっと鈍重な攻撃かと思っていましたが)
シャルティアが間合いの外で離れながら魔法を撃つ作戦に出ないのは、最初に魔法を使わず少しでも削った方が良いと思ったからだ。
(それにしても……拍子抜けですね。これなら慎重に立ち回れば私でも近接戦闘に勝てそうです……っね!)
ヒラリヒラリと躱していたシャルティアだったが、今度は躱して回り込んで背中を取った。
無防備な背中に
(っ!?硬い!)
「ほぅら!」
金棒が振り回される。
「チッ!」
舌打ちをして距離を取る。
シャルティアは、こちらの攻撃が刺さらないのに向こうの攻撃は致命傷というのはズルいのではないだろうかと思ってしまった。
「なるほどなるほど……。やはり貴方様に近接で勝つのは不可能な様ですね」
いちごパンチーを見据えながらそう溢した。
どれだけ躱しても攻撃が殆ど通じないのなら近接で勝負するのは無意味…そう判断したのだ。
「ならばどうする?」
「鬼が相手ならば当然の戦術ですよ」
それが意味する所は魔法による間合いの外からの攻撃。
魔法による遠距離攻撃が出来ない鬼にとっては最悪の戦法だ。
特に自分の敏捷性が相手を下回っていた時なんて地獄でしかない。どれだけ頑張っても距離を詰められないからだ。
そしてそれは当然、近接特化のいちごパンチーにも当て嵌まる。
耐久力と攻撃力に特化したせいで敏捷性はシャルティアと同程度、眷属を召喚して足止め出来る事まで考えればいちごパンチーは間合いを詰める事が出来ずに終わる……と考える。
「…………何がおかしいのですか?」
いちごパンチーは笑っているのだ。側から見れば鬼は魔法詠唱者に対して圧倒的に不利。なのにこの鬼は笑っているのだ。
「ん?ああ、すまない。そうだな、確かに鬼が相手ならそうするのがセオリーというものだ。」
「………」
「ところで聞くがシャルティア、何故俺がPVPで7割を超える勝率を誇っているか知っているか?何故お前のような戦術を取るプレイヤーがいる中で勝率7割を超えているか分かるか?
対策しているからだよ。誰もがそれを考え俺にその戦術取ってきた。だが、それらのプレイヤーは全て俺の前に倒れ伏した」
「そ、それは一体どうゆう……?」
「見せてやるぞシャルティア!我に仇成す愚か者よ!裁きの礫を受けるが良い!!」
そう言ったいちごパンチーの両腕には腕輪が輝いていた。
勝率7割強って低いですかね?アインズさんが半分を超えているって言って自慢してたからそんなもんかなー?って思ったんですけどどうでしょう?