どうしても近接戦闘ばっかりやとそうなってしまうんですよ。
(裁きの礫…そうおっしゃっていましたね。本来なら一笑に伏すところですが…)
笑い飛ばす事が出来ないのは、先程の話に多少納得してしまった自分がいるからだ。
(スキルか……アイテムか……装備か……)
すると、いちごパンチーの両腕についている腕輪が光を灯した。
別に綺麗な腕輪でも無く、高価な感じもしない至って低位の魔法道具。
「ーーーーいくぞシャルティア。懺悔の準備は充分か?」
そう言うと、いちごパンチーは握った右手を左手で包み両腕を高く挙げた。
いわゆるワインドアップ。野球の投球フォームなのだが、シャルティアがそれを知る由もない。
そして太腿をあげ、足を踏み出し、肩、肘、手首、指先へと力が伝わって行く。
そしてその手から無数の礫が発射された。
…………………
一言で言えば、シャルティアは油断していた。
間合いから遥かに遠い距離。相手の魔法は効かず、接近してこようものならすぐさま下がって魔法を打ち込める。
笑い飛ばしはしなかったが、それほど警戒の必要性を感じなかった。何をしようとも対応出来るという自信があったから。
それが不味かった。
そもそもステータス的に初めからこちらが挑戦者だったのだ。
それを忘れ、自分が優位に立った事で相手が挑戦者であると思ってしまった。
だから、あれが投擲の構えだと気付かなかった。
気付いたのは踏み込みが終わり、まさに投げる瞬間だった。
油断と慢心による後悔に心が一瞬占領された。
だからその攻撃にすら反応が遅れた。
気付けば無数の飛び礫は眼前にまで迫っていた。
いや、眼前に迫ってから気付いた。
回避も不可能、防御も不可能だと。
その飛び礫は眼前から姿を消した。
続いてやって来たのは痛み。アンデッドであるシャルティアにも少しは痛みを感じることだってある。
だが、何故か視界が狭い。視界の左半分が無いようだ。
ようやく、自分の体の状態を把握した。
穴が空いている。一つや二つでは無い。
左目の部分、土手っ腹、右肩、そして左胸。
端からえぐれているものも含めれば両手でも足りないほどの傷だ。
どうやら、彼が投げた飛び礫に体を貫通されたらしい。
体は穴だらけだろうと、アンデッドであるシャルティアが死ぬ事はない。
体力は危ない。だが眷属を召喚してスポイトランスで回復すればーーーーーー
そこでシャルティアが目にしたのは先程と同じ動きをするいちごパンチー。デジャブでは無い。第二投だ。
左目と共に脳を損傷していてはまともに判断を下すことも出来ずーーーーー
シャルティア・ブラッドフォールンは死んだ。
_________________________________
倒れたシャルティアを一瞥し、視線を外して呟く。
「……つまらん」
つまらなかった。弱かった。
もちろん戦闘能力としては高い。それは魔法を直に受け、槍を交えた俺がよく分かっている。
だが油断、慢心、軽率、経験不足。
これらの要素が絡み合って、ほぼ瞬殺という結果に終わってしまった。
予定では後一つ二つ確かめたい事があったんだが……。
まあ、また今度確かめれば良いか。
振り返りアウラ達のいる場所へ戻ろうとするが、その足は止まった。
焼けるような痛み。その出所は左胸とその背中辺りだ。
そこに視線を向けると、白い槍のようなものが俺の背中から突き刺さっているようだった。
「あはははははは!!危なかったですよいちごパンチー様!」
シャルティアが生きていた。いや、死んでいたはずだ。
いくら
「蘇生アイテムか」
「その通りです。もう油断なんてしませんよ。全力で殺させて頂きます」
「……フフ、フハハハハハハ!!そうか。いいぞ、いいぞシャルティア!俺をもっと楽しませろ!」
嬉しそうに笑ういちごパンチー。その笑顔はこの世界に来てから一番大きく、美しく、そして凶悪な笑顔だった。
_________________________________
「アインズ様、いちごパンチー様が投げておられたのはなんなのですか?」
ナザリックの一室でアルベド、コキュートス、デミウルゴス、そしてアインズは戦いを観戦していた。
デミウルゴスがアインズに問いかけたのは、先程の投擲の事だ。
アインズは「ふむ……」と言って少し考え込む素振りを見せた後、アイテムボックスをゴソゴソと弄り始めた。
やがて目当てのものが見つかったのか、取り出してデミウルゴスに渡すが…………
「あの、アインズ様、これは……?」
「ああ、見ての通り“石ころ”だ」
一見なんの変哲もない灰色の石。
何かの宝石であったり魔法道具という訳でもない。
一見どころか誰がどう見てもRPGの定番、ただの“石ころ”だ。
先程、デミウルゴスは『いちごパンチーは何を投擲したのか』という質問をしたはずだ。
その問いの答えはこの何の変哲も無いただの『石ころ』であるという。
「し、失礼ながら申し上げます。流石に石ころごときでシャルティアを蜂の巣にする事は不可能では…?」
アルベドが戸惑いながら言った。
「だがこれはただの石ころでは無いぞ?」
そう聞いて、守護者達は少し安堵した。
『そうだよな、流石にただの石ころでシャルティアの体を貫くことなんて出来ないよな』と。
「これはユグドラシルの石ころだ」
????
再び守護者達の頭に疑問符が浮かぶ。
「ユグドラシルのものだと…何か変わるのですか?」
「ふむ…。アルベド、ユグドラシルにおいてアイテムの一つとして石ころがあるという事は知っているな?」
ユグドラシルにもRPGの定番、石ころは存在する。
「はい、存じ上げております」
「ならその効果は?」
「こ、効果でございますか?…………申し訳ありません、私は石ころの効果というものを存じ上げておりません」
「む?そうなのか…。石ころが投擲武器というぐらいは知っていると思っていたんだがな……」
「そ、それでしたら、私も存じ上げておりますが…」
誰でも「石ころに効果あるか?」と聞かれたら「無い」と答える。「投擲武器」と答えられなかったアルベドは悪くないだろう。
「そうか。ならば分かるだろう?」
「つまり……ユグドラシルの石ころは投擲武器として生まれたもの、だからシャルティアを貫ける……と?」
「そうだな。例えば苦無を投げたとして、その苦無は体に刺さるだろう。同じように石ころを投げたとしても貫通することはない。だがいちごパンチーさんほどの力があれば石ころですらが苦無を超えるに凶器に変わる」
「なるほど!だから投擲武器であるユグドラシルの石ころならばシャルティアを貫く程の衝撃にも耐え切れるということですね?」
「そうだ」
「そうなると、あれらの石ころがどこから出てきたのか……そうか!それがあの腕輪という訳ですね?」
「正解だ、デミウルゴス。あの腕輪は“石ころの腕輪”。低位の魔法道具で、石ころを無限に生み出せるという効果を持つが……まあ普通なら誰も見向きもしないだろうな」
「なるほど!流石は至高の御方、着眼点がその他の愚民どもと一線を画していらっしゃる!」
おそらくいちごパンチーほど石ころに世話になったプレイヤーは居ないだろう。それは絶対に断言出来る。
_________________________________
「…くっ!」
「ちょこまかと動きやがって…!」
また石ころがシャルティアの体を掠めるものの、致命傷に至る事はない。
「清浄投擲槍!」
「ぐっ!」
スキルによる召喚で、神聖属性の魔法扱いの武器だ。既に二回使ったので今回はこれ以上打てない。
MPはともかく、スキルは早めに削っておく必要がある。
特にあのめんどくさいスキルは終盤に煩わしく感じてしまうからだ。
だが、向こうは完全に避けきるのに〈
(やはり、ラチがあかないわね。清浄投擲槍のダメージも石ころを避けている間に回復してしまったし…。MPが切れるより前にケリをつけないと…!)
「………来たか。エインヘリヤル」
シャルティアの前に白い光が集まって人の形を作り出している。
シャルティアと瓜二つだが、似ているのは外見だけではない。魔法やスキルの一部は使えないが、それ以外の能力は全てシャルティアと同じだ。
単体なら敵にはならないが、シャルティアと連携してこられると少々めんどくさい。多少のダメージを覚悟してでもエインヘリヤルを先に倒すべきだな。
「人形が…スクラップにしてやる!」
エインヘリヤルが突撃してくる。
金棒で叩くつもりだったが既に間合いが近すぎている。
ここから金棒を振っても当たらないだろう。
なら……!
「〈
シャルティアが牽制の魔法(なお威力)を使ってくるが、それに対応するよりもエインヘリヤルを倒すべきなので気にせずエインヘリヤルを迎え撃つ。
エインヘリヤルが槍の届く範囲まで来たが、槍が届く範囲は俺の手が届く範囲ということだ。
槍が肌に届く直前、エインヘリヤルを殴り飛ばすべく拳を振るった。
だが、エインヘリヤルはそれを狙っていたようだ。俺の拳をしゃがんで避け、そのまま足元から肉薄してくる。
遅れて正面からシャルティアも接近しているが、優先順位は変わらずエインヘリヤルだ。
下から首元に向けて槍を伸ばすエインヘリヤル。
そこでエインヘリヤルを俺は膝で思いっきり蹴り飛ばす。
体がくの字になりながら吹き飛んで行く。
シャルティアの横をすり抜けて飛んで行き、そのまま俺は正面にいるシャルティアに金棒を振るう。
シャルティアも少し焦ったらしく、〈
だが俺はシャルティアを追撃せず、エインヘリヤルを片付けに向かう。
エインヘリヤルは体の殆どが損傷しているものの、消えるような雰囲気は無い。
金棒で潰してシャルティアの元へと戻るが、そこでまた〈輝光〉を食らってしまった。
弱点属性を連続で食らえば流石の俺も少しキツい。
体力的には後2発…いや3発は耐えられそうだが。
俺が使える数少ない魔法の一つである〈
……〈輝光〉を後3発は撃たれそうだな。
少しシビアだから回復したいが……。!?
なんとシャルティアが突っ込んで来た。
魔法による有利を捨てたのだ。
いや、最後に魔法が封じられた状態で戦う方が心理的圧迫感はあるのか。
そう考えると、たしかに選択肢を多く残していた方が良いのかもしれない。
だが、HPの全く削れていないシャルティアと自動回復があるとは言え手負いの俺が戦っても、間違いなく俺が勝つ。それはあのめんどいスキルを使ったとしてもだ。
魔法で削った後に俺を神がかった速度で削れば勝機はあるだろうが……流石にここで近接戦闘をするのは悪手だと思ってしまう。
「どうした?魔法で攻撃しなくて良いのか?」
シャルティアのスポイトランスを金棒で受けながら聞いてみる。
「この状況からなら魔法を使わずとも勝てると思ったんですよ」
いやー……それは無理とちゃいますかねぇ?
どこに勝算があるのだろうか。俺に言わせれば何の根拠も無い自信なんだが…。
まあ良い。さっさと倒してしまおう。
横薙ぎをして少し距離を離し金棒を
そしてこちらから接近する。そして最初と同じ乱打。
だが、シャルティアの反応が悪い。
最初の時は普通に避けれていたはずなのに、今は鎧を削りながら躱している。
リズムが狂っているシャルティアに、ようやくまともに攻撃が当たるかと思ったがスキル“不浄衝撃盾”で弾かれてしまった。
すぐにシャルティアは距離を取り呼吸を整え始める。
手にジーンとした感覚が残っている。
「なにをした!!」
距離を取ったシャルティアが話しかけて来た。
が、特に何かしたという心当たりは無い。
「なにを…とは?」
「惚けるな!私は最初の時、あの攻撃を見切っていたはずだ!なのにさっきは避けきれなかった!なぜだ!」
何故って……君が見誤ってたんじゃ………あ。
「あーー……、すまんな。ついさっき金棒を右手に持ち替えたんだ。最初は左手の練習のつもりだったんだが……」
「…………ぇ?」
シャルティアは信じられないというような顔をしている。
はー…なるほどね。俺の攻撃を見切った!これで勝つる!ってなってたわけね。なるほどなるほど。
だからあんなに自信満々に接近戦仕掛けて来たのか。謎が解けた。
「あー…残念だったなシャルティア。利き手でもない手で相手してたのは悪いと、気の毒だとは思ってるよ」
「…っ!!あぁぁあああああああああああ!!!!!」
ブチギレたシャルティアが突進してくる。
それを武器で受け止めたりしなかったのは、今から決着をつけるからだ。
シャルティアのスポイトランスが俺の胸に深々と突き刺さり、体力を吸収する。
そしてシャルティアは下がろうとして……
「…っ!??ぬ、抜けない!?」
「つーかまーえたー」
両手で腕と胴ごとガシッと捕まえる。
「シャルティアは知らないかもしれないが、体に刺さった物は力を入れる事で抜けないようにする事が出来るんだよ」
「…っ!くっ!離せ!」
「安心しろよシャルティア。俺は見た目と違っていたぶる趣味は無いんだ」
「……ヒッ!」
片手でシャルティアの胴を掴んで、もう片方の手を上に上げる。
「は、離して!お願い!イヤ、イヤ!」
恐怖からだろうか。そう涙を流して懇願する少女は年相応に見える。だが、この場面では無意味だ。
俺は上げた手で拳を作り力を込める。
いわゆるアームハンマーだ。
念の為、確実に殺すために、足までミンチにする必要がある。
だからこのアームハンマーは俺の手ごとシャルティアを押し潰す。
「じゃあな、シャルティア。恨んでいいぞ」
ーー鉄槌は落とされた。
「では、これよりシャルティアの復活を行う。アルベドはシャルティアの名前を見ていること。もし、先ほどと同じ精神支配を受けた状況であれば……」
「アインズ様。その時は僭越ながら私どもで対処させていただきます」
ここはナザリックの玉座の間。
あの後すぐにナザリックに帰還し、シャルティアの復活を行っている。
アインズさんがスタッフの力を使うと、復活に必要な5億枚の金貨が液体となって形を変え、人の形を形成していく。
やがて金色の輝きは無くなり、そこには見紛うことなきシャルティア・ブラッドフォールンが居た。
「アルベド!」
「ご安心下さい。精神支配は解除されたようです」
「そうか……」
「ふぅぅぅ……」
良かったぁ〜…これで復活しないとかだと流石に罪悪感でヤバタクスゼイアンだった。
こうして、なんとか一件落着となった。
はい。
なんかwikiみたらアイテムってデータ量によって強度が決まるって言うやないですか?っていうのをこれ書き上がる直前で知ったんですけど……石ころ………投擲中はデータ量による強度の影響は受けないとか、そうゆう設定ってことにして下さい。