救世日記~世界を救うだけの簡単なお仕事です~   作:カペリン

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 さてさて、無事に世界転移は終わったけど、なんかこの世界ちょっとおかしいいような?

まあいいや、それではいってみよ~


第1話   (世界を繋ぐ)トンネルを抜けると、そこは……

 

 

 

 

 さて転移完了したわけですが、いきなりこの世界のモンスター(っぽいもの)に囲まれてます。

 

転移場所はその世界を理解できる場所に飛ばされるという規則性があるらしい、ということがこれまでの転移で分かってます。が、このモンスター(仮)達は一体どういうことなんだろう。とてもこれがこの世界の人類とは思えない。

 

 なにせどう考えても自然淘汰の結果生き残ったとは思えない組み合わせの容貌なのだ。異様に巨大な目玉を持っている二足歩行生物はまあまだいい、巨大な単眼を持っている二足歩行生物も他の世界にはサイクロプスみたいな例があるしまだまともだろう。

 

 でも、『バージェス動物群をそのまま保護して育て続けたらこうなった』

と言われたら素直に納得できてしまうような容貌の生物は一体何なのだろう。

 

 まー、この世界ではこれが標準なのかもしれないけれど、正直コレを救済する気にはなれない。

 

 適当に理由をつけてこの世界から去るという選択肢もありかなと考えていると、いきなりモンスター(仮)達が襲い掛かってきた。突然現れた俺を敵だと思って襲い掛かってきたのだろうか。しかし、そうだとしても誰何さえ無しにいきなり実力行使とは。しかし彼らの攻撃が俺に届くことなく、そのまま見えざる壁にでもあるかのように虚空にぶち当たり弾き飛ばされた。

 

「うん、この世界でもちゃんと呪圏(スペル・バウンド)は発動してるんだなー」

 

 そう、俺への攻撃を食い止めたのは恒常展開されている超多重多層結界だった。

 

これが有る限りいかなる必殺の一撃であっても単純な攻撃は俺には通らない。

 

 とはいえ一方的に攻撃されて腹も立ったし、本当にこれがこの世界の人類なのかも分からないわけで。ちょっと世界をぐるっと回ってみて本当にこれが人類なのか確かめる必要がある。よってここで俺が採るべき行動は唯一つ、ここからの脱出だ。

 

「主よ、感知したところによると、この集団の規模はおよそ2万程度だと思われます」

 

「そうか、その程度なのか。それならこの中を突っ切っていってもそれ程時間はかからないな。

何かあったら呼ぶ、それまでステルス(光学・電子迷彩)を維持しろ」

 

「御意」

 

 俺の命令に従い、彼女はその場から居なくなった。いや正確には居るのだが、周囲から感知されなくなったと言ったほうが正しいか。

 

 あのグロリアの姿は物質化する寸前にまで高密度に構成された情報映像である。つまりは、明確な物理干渉力を持った映像だ。本体は位相空間に格納されている本体とは別に、それを対人用インターフェイスとして用いているに過ぎない。

 

 

 彼女の意思で消し去ることも出来るし、今のように完全に隠蔽することも出来る。もし俺に危害が及ぶような何かがあったら、彼女が警告してくれるだろう。そして俺は、目の前の生物群(モンスター達)の中に突入した。

 

 

 

 

 

 

 

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「BETAの上陸を確認した。火砲支援後残存BETAの掃討に移れ。決して後ろへは行かせるな、ここで食い止めろ!」

 

 指揮官の檄が飛ぶ。ここを抜かれたら次は甲信越絶対防衛線だ。だが、はたしてこれだけの数を相手にどこまで持ちこたえられるか。私達A-01にも出撃命令が発令され、ここで応戦することになっている。しかしそれは表向きの話、本当の目的はBETAの捕獲である。そうでなければ特殊任務部隊であるA-01が通常の防衛戦に加わることはない。

 

「ヴァルキリー1よりヴァルキリーマム。BETAの上陸を確認、これより交戦に移る」

 

「ヴァルキリーマム了解。決して犬死にするな」

 

 そして戦闘が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

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 87式突撃砲から打ち出された弾が要撃(グラップラー)級に連続で命中し、その息の根を止める。直後に別の場所から戦車(タンク)級が飛び掛ってきたが、緊急回避でそれを凌ぐ。戦術機にとって真に恐ろしいのは突撃(デストロイヤー)級でも要塞(フォート)級でもない、この戦車(タンク)級なのだ。数が多く更に機動力に長けたこの種に(たか)られたら最期、中の衛士(搭乗員)ごと喰い殺される。

 

 

 緊急回避により一時硬直状態が発生するが、エレメントの相方から支援が入った。戦闘を再開しようとしたそのとき、ありえないものを見た。そしてこういう場合どのような対応をしたらよいのか分からない。指示を仰ぐため私は回線を開いた。

 

「ヴァルキリー2よりヴァルキリーマム。BATA群を割って人間が出現、指示を請う」

 

「ヴァルキリーマムよりヴァルキリー2。一体何を言っている、気は確かか」

 

 私の通信内容があまりにも突飛だった為か、遥から確認の通信が入った。正気を疑われたが仕方がない。私だって現実を否定したいぐらいなのだ。今頃CP(コマンドポスト)では私のバイタルデータ(生体情報)を確認していることだろう。

 

「ヴァルキリー2よりヴァルキリーマム。私は正気よ。繰り返す、BETA郡を割って人間が現れた……訂正する。生身の人間がBETA群を撃滅し始めた。そちらに映像を廻すわ」

 

 確実に気が狂ったと思われただろう。しかし、それが現実なのだから仕方がないではないか。

 

 映像回線を繋いでCP(コマンドポスト)に現実を直視させる。多分今頃、あちらは大混乱だろう。

 

 

 

 

 

 

 

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 ヴァルキリー2から通信が入る。BETAの捕獲に入る旨の連絡かと思ったが違うようだった。

 

 そうでないのならBETAの捕獲は難しいという連絡かとも考えたが、その通信内容は想定の埒外(らちがい)だった。

 

「ヴァルキリー2よりヴァルキリーマム。BATA群を割って人間が出現、指示を請う」

 

 は? 一体何を言っているのか。過度のストレスで正気を失ったのかと考え、彼女のバイタルデータ(生体情報)をチェックするが全て正常値の範囲内だった。一体どうしたというのだろう。

 

「ヴァルキリーマムよりヴァルキリー2。一体何を言っている、気は確かか」

 

「ヴァルキリー2よりヴァルキリーマム。私は正気よ。繰り返す、BETA郡を割って人間が現れた……いや、訂正する。生身の人間がBETA群を撃滅し始めた。そちらに映像を廻すわ」

 

 生身の人間がBETA群を撃滅し始めた? そんな馬鹿な。確かに闘士(ウォーリア)級や兵士(ソルジャー)級のような小型種ならば歩兵携行火器でも対処可能だ。

 

 

 しかし、リンクによって送られてきた映像では、生身(・・)闘士級や兵士級(小型種)だけでなく突撃(デストロイヤー)級や要撃(グラップラー)級さえも倒しているように見える。ありえない。修正モース硬度15以上である要撃(グラップラー)級の前腕がへし折られ、突撃(デストロイヤー)級の前面装甲が切断される。戦術機でさえ不可能であるそれを生身でやってのける人間。いや、そんなことが出来る存在を人間にカテゴライズしてよいものだろうか迷うが、少なくともBETAの仲間ではなさそうだ。

 

 

しかし一体どうしたらこんなことができるというのだろう。敵の敵は味方という言葉もある、アレと共闘可能であるのなら喜ばしい。即座に副司令への通信回線を開き状況を報告する。

 

「副司令、緊急事態です」

 

 

 

 

 

 

 

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 新潟沿岸部に対する防衛基準態勢2の発令による召集のため、司令室に詰めていた私にA-01から通信が入った。想定していたよりもあまりに早い報告に何かトラブルがあったのだと推測する。

 

 果たして私の想定は現実のものだった。

 

「副司令、緊急事態です」

 

「状況の報告を。残存人員はどれだけ? 任務達成不可能の場合は、席次により引継ぎを行い帰投しなさい」

 

 緊急事態であると報告が来た。BETAの侵攻兵力が想定以上だったかと考え、今後の研究に付いて勘案する。BETAの研究サンプルが採れないのは痛いが、不可能ならば仕方がない。そう考えての指示だった。しかし、彼女の報告は私の予想を遥か上に突っ切ってくれた。

 

「現在のところ欠員無し。任務達成に支障はないと思われます」

 

 欠員も無く、任務も達成できる状況で一体何を報告することが……っ! まさか、新種のBETAが確認されたのだろうか。それならはこの緊急報告にも納得できる。

 

「それが……信じがたいことなのですが、生身の人間がBETA群を撃滅しています。それも闘士級や兵士級(小型種)だけではなく、要撃(グラップラー)級及び突撃(デストロイヤー)級も含んでいます。そちらへ映像を中継します」

 

 数瞬の後に映し出された映像には、なるほど確かに生身の人間がBETAを一方的に撃滅している様子があった。正直目を疑った。しかもよくよく見れば、彼は火器を装備していない。つまり素手で戦っているということになる。

 

 

 そんな馬鹿な……いえ、正確には素手ではなく彼が手を動かした後にBETAが倒れているようだ。彼は手を触れていないにもかかわらずだ。ということは、PK能力者(サイコキネシスト)? いえ、でもあんな強力に能力が発現する個体が存在しえるのだろうか。

 

 

そして彼女は本題であろう通信を送ってきた。

 

「副司令、このようにこちらでは判断できない事態が発生したため、指示を願います」

 

 ええ、判断できないでしょうとも。私でさえ一瞬頭が真っ白になってしまったのだから。

 

 しかし、興味深い。もしもPK能力者(サイコキネシスト)なら、ESP能力者(超感覚的知覚)のように量産して戦線に投入できれば、すばらしい戦力になる。BETAを捕獲してデータを収集するよりも遥かに成果を期待できる。

 

「司令部よりヴァルキリーマムへ。先の作戦は現時刻を持って破棄、新規に作戦を伝達する。

 

作戦内容はBETAと交戦状態にある当該人間とコンタクトをとり、横浜基地へと護送せよ。コンタクトは交渉によるものとするが、交渉による横浜基地への護送が不可能と判断された場合の対応は現地責任者の判断で行動せよ。以上」

 

「イエス・マム! 現時刻を以ってA-01中隊は現作戦を破棄し新作戦の実行に移ります」

 

 それにしても面白いことになったわね。さて、どうしようかしら。

 

 

 

 

 

 

 

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 私の報告から数分の後、CP(コマンドポスト)から指示が返ってきた。通常であるならば長くても1分程度であるはずなのだが、やはり報告内容があまりに信じがたいものであったためだろうか。

 

「ヴァルキリーマムよりヴァルキリー各機へ。司令部より通達。

 

BETA捕獲任務は現時刻を以って破棄。新規任務を言い渡された。

内容は現在BETAと生身で交戦中の対象とのコンタクト並びに横浜基地への護送。コンタクトは交渉によるものとするが、不可能であると判断した場合には伊隅大尉の判断で対応せよ。以上」

 

 あの人間? と接触しろということか。副司令もなかなか無茶を言ってくれる。

 

 

そんなことを考えていると、ヴァルキリー1から通信が入った。

 

「ヴァルキリー1よりヴァルキリー2へ。貴機が対象に最も近い。作戦に従い対象とのコンタクトを図れ。各機、ヴァルキリー2の対象への接触を支援せよ」

 

 私がアレと交渉役になったようだ。隊長の指令と共に一斉に支援が行われ、対象への路が開いた。その隙を逃さず、一気に跳躍噴射で対象との距離を詰める。間近で見ると彼が確実にBETAではないと確信できた。その姿形、紛れもなく私達人類だ。

 

 国連軍では英語を標準言語とするが、そもそも彼にどのような言語が通じるのかそれすら分からない。ここは日本だ、という至極単純な理由から日本語で呼びかけた。

 

「こちらは国連太平洋方面第11軍横浜基地所属特殊任務部隊A-01副隊長 速瀬水月です。

 

貴君の所属及び氏名の返答を願います」

 

 するとどうだろう、返答が返ってきた。彼はBETAではないと確証できた。BETAはこちらを生命体と見なしていないし、そもそも言語すら存在しない。それに日本語に対して反応したということは、彼は日本人なのだろうか。しかし、その返答はある意味で私の予想を完全に裏切るものだった、なぜなら……

 

「俺は田中太郎、所属は無い。一つ聞きたい。お前は人類なのか? 人類であるのならその証拠の提示を求めたい。ああ、大丈夫だ。あいつらみたいな異形じゃなければ人類だと認定する」

 

 人間であることの証明を求められたのだから。

 

 しかし、人間であることの証拠、それは自分の姿形に他ならない。それは彼も言っていた。しかしこの状況で外に身を晒す事はほぼ死を意味するだろう。だが例え死すると分かっていても遂行する。それが私の任務なのだ。私の死が犬死にとならないのならば、なんでもやってやろう。

 

 

 決意と共にコックピットブロックを開放し、その身を外気へと晒す。対人探知能力に長けた小型種のBETAは私という標的を容易く発見したのだろう、戦車(タンク)級があっという間に這い寄ってくる。だが、彼に姿を見せることは出来た。

 

 

これでこちらが人間であることを分かってもらえただろう。

 

 

任務完了……そして隊長、後は頼んだわよ。予想通り私はそのまま戦車(タンク)級に噛み砕かれ……なかった。

 

 

 突然見えざる何か(・・)に踏み潰されたかのように、私の近くに群がってきた戦車(タンク)級BETAが一斉に潰れたのだ。そして私を噛み砕こうとしていた戦車(タンク)級も私へ届く目前、真っ二つにされて息絶えた。一体何があったというのだ。なぜ私は生きて居る。

 

 

 不可解なことだらけだが、一つ分かったことがある。それは彼は私を人間と認めてくれた、ということだ。

 

 

 

 

 

 

 

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 俺はよく分からないモンスター(仮)を撃滅しながらその群れを抜けたが、こいつらがまぁしつこい。

 

 群れの中を縦断していく形になったので何らかの抵抗はあるとは思っていたが、まさかここまでとは。小さいのやら大きいのまで俺に飛び掛ってきたり触手を伸ばしてきたり噛み付いてきたり。滅茶苦茶鬱陶しい。群れを抜けてもまだ襲い掛かってくる。

 

 

とりあえずこいつらは敵認定だ。【ハック】で切り裂き【トランプル】で押しつぶす。大量に近づいて来た敵は【カット】で一気に薙ぎ払う。単純作業だが一体こいつらはどれだけ居るんだ。

 

 

正直な話、ちょっと面倒になってきた。これは時空魔法(次元切断)でも使って一気に吹っ飛ばすのが手っ取り早いか。

 

 

襲い来るモンスター(決定)を切り裂きながらそんなことを考えていると、自分の後方に何かが接近してきた。敵を切り裂き押しつぶす作業は継続しながらそちらを見やると、でっかいロボットが。えっと、あれは味方なんだろうか? いや待て、ひょっとしたらこいつらの飼い主とか? でもなぁ……

 

「こちらは国連太平洋方面第11軍横浜基地所属特殊任務部隊A-01副隊長 速瀬水月です。貴君の所属及び氏名の返答を願います」

 

 まさかの日本語でした。いや、嬉しいけどね。

 

 で日本語ということは多分人類。きっと人類。人類だといいなぁ。さっき考えていたこいつらの飼い主説は消えました。だって遠くで、目の前のロボットがこいつらを殺しまわってるからね。となると問題なのは

 

「俺は田中太郎、所属は無い。一つ聞きたい。お前は人類なのか?人類であるのならその証拠の提示を求めたい。ああ、大丈夫だ。あいつらみたいな異形じゃなければ人類だと認定する」

 

 相手が本当に人類なのかどうか、だ。

 

 俺の問いに十数秒の沈黙の後、ロボットの胸部付近が開いて中から人型の生命体が出てきました。はい、人類確定です。よかったーと思ったら、なんか俺を襲っていたのと同じようなモンスターが、ロボットを這い登ってるし。どうも彼女を殺そうとしている予感。女性だと断定できたのは、そのピッチリとした体形に密着した全身タイツみたいな服と、長い髪形から。

 

 

さすがに拙いと判断して、【ディフレイド】を変形させて彼女を対象として発動。彼女を保護して広範囲の【トランプル】で周囲の小型のモンスターを一気に押し潰した。ロボットの腕とかもついでに潰れてしまったが、使用した魔法の性質上それは仕方ないと諦める。

 

 

だが、彼女の極近くまで這い登っていった一匹だけは排除できていない。ディフレイドが掛かっているのでそう心配は要らないと思うが、早めに排除しよう。モンスターを対象に【ハック】を発動。真っ二つにされたモンスターはそのまま地面に叩きつけられた。

 

「なんか話がありそうだけど、危ないからちょっとこっちにおいでー」

 

 とりあえず彼女に注意喚起をしておく。

 

 ここからだと声が届かないので風の精霊に頼んで言霊として彼女へ届けてもらって、ついでに風塊に乗せて彼女を俺の近くへと引き寄せる。【ディフレイド】の効果時間が持つか微妙だし、それに近くにいればすぐに魔法障壁(シールド)で守れるし。

 

 いやー、それにしてもこの世界にも精霊さん居たんだなー。稀に精霊さんとかが居ない世界があるのでイマイチ不安だった。

 

 

俺の言葉が届くと同時に自分の体がふわりと浮き上がり、こちらに引き寄せられるのがよほど不思議なのか、目を白黒させて驚いている。程なくして俺の横へ軟着陸すると口を開きかけたが、質問をうまく言葉にできないのか口をあうあうと動かしているだけようだった。

 

 

さて、この世界の人類と目の前のモンスターどっちの味方をするかはもう決めた。当然人類だ。

 

 それにこいつらいきなり噛み付いてきたしね!

 

(主よ、この程度ならば本体を出すまでもなく、現状の形相干渉出力で殲滅可能は容易です。どう致しますか)

 

(いや、お前は切り札の一つだ。ここでお前のことを明かすのは時期尚早だ、俺一人でやる)

 

(承知致しました)

 

 さて今回は従ってくれたが、あいつもそのうち使ってやらないとむくれるからな。ああ見えて結構可愛いところがあるし、今はなりを潜めているが最初のころは俺が使ってやらないと、見て分かるぐらいにしょぼくれていたし。可哀想になって力を使うと尻尾を千切れんばかりに振りまくっていると幻視できるほどに喜んでいたからなぁ。俺のことが自分の全てだと思っている、もう少し柔軟になってくれると助かるんだが。

 

「さて、久々の御開帳。そしてサヨナラだ」

 

 懐から取り出したるは宝石で出来た刀身を持つ短剣。本来は使うのに条件があるらしいが、そこはそれ。どうも俺の能力で使えるようになっているらしい。

 

 

なんか昔、『幻想郷』とかいう場所へ飛ばされたときに『魔法を使う程度の能力(まほうつかい)』とかいうのが発現したらしい。|布の部分が少ない巫女服モドキを着た紅白の巫女《博麗 霊夢》がそんなこと言ってたはず。

 

 

つまり『魔法』や『魔術』といったもの(魔力を用いた術法)であるのならば、遍く(あまねく)それを使えるらしい。オリジナルの魔法も限定的ながら使用可能だ。といっても既存呪文の効果変更や、使用する力の源を変える程度しか出来ないけれども。

 

 

 もう一人同じ能力持ち(霧雨 魔理沙)が居たんだが、そっちはオリジナルの魔法を自由に使うことが出来る反面、あらゆる魔法を使うことは出来ないようだった。お互い不便な面があるなぁとため息をついたものだった。 

 

 

おっと話が逸れた、とりあえず宝石剣を起動させ世界に穴を穿ちそれを通じて平行世界から魔力を汲み上げる。

 

「大斬撃・二連!!」

 

 その大魔力を以ってとある世界の魔法の一端を発現させ、前方180度を豪快に振り抜き、そのまま飛び上がり返す刀でもう一度ソレを振るう。

 

  

直後、振り抜いた線を境に世界がずれた。次元切断による一斉殲滅である。

 

 

いくから硬かろうと次元そのものを獲物として扱われてはどうしようもないだろう。俺の隣に居る女性は目を丸く見開いて呆然としている。確かにかなり大規模な魔法だったしそういう反応も頷ける。

 

 

でも、まだ敵は残っているし、気を緩めるのはよくないと思うんだ。先の一撃で小さめのモンスターはほぼ一掃出来たが、斬撃では殺しきれなかった比較的大型の敵はまばらに残っているし、50mはあると思われる超大型の敵はその足を切断するだけに留まったので、そちらの殲滅もしないといけないのが面倒臭い。

 

 

小型のモンスターが居なくなったせいだろう、残った大型のモンスターが一気にこちらへと押し寄せてくる。だが、それは既に想定済み。既に土と水の精霊に頼んで敵の足元を泥濘化してある。

 

 それによって生まれた時間を使い、一気に片をつけるべく対軍団用の少し大きめの呪文詠唱に入った。

 

「我・法を破り・理を超え・更なる力を・欲す者なり・より強大なる事を以って・我が目的を果たさん!」

 

 ただの対軍団用呪文では殲滅しきれるか少しばかり不安だったので、念には念を入れて汎用出力増加呪文を追加詠唱する。

 

「我・法を破り・理を超え・破軍の力・ここに得んとする者なり……

爆炎よ・猛炎よ・荒ぶる火炎よ・焼却し・滅殺し・駆逐せよ・我の戦意を以って・敵に等しく滅びを与えよ……

我求めるは完璧なる殲滅!【マキシ・ブラスト(第三の業火)】    顕現せよ(イグジスト)!!」

 

 トリガーヴォイスをキーとして、物理法則を塗り変えて発生した力の塊が敵群の中央に顕現し、その内に秘められた力を炎という形で解放する。気流制御も組み合わされたそれは容赦なく敵軍を焼き滅ぼし炭へと変えた。さて、邪魔者も排除したことだし、一つお話タイムと参りますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ヴァルキリー2(水月)に対象との接触を図るよう指示し、それは無事に成功したかに思えた。しかし、対象がこちらに対して投げかけた言葉はこちらの想定を大きく逸脱するものだった。まさか人間であることの証明を求められるとは思ってもいなかった。

 

 

現状で接触対象者にこちらが同じ人間であることを示す方法、それはあるにはある。ただし、それは容易に選択できる手段ではない。BETAの群の目前でコックピットブロックを開放するなど自殺と同義だ。彼女もそれを分かっているのだろう、ただ沈黙している。

 

 

その沈黙は実際には10秒程度だったのだろうと思う。しかし私にはそれが数時間かとも思えるほどに重い沈黙だった。彼女は何も言わなかったが、ただこちらを見る目で『後は頼んだわよ』と訴えていることが分かってしまった。ならば私達ができることは唯一つ、それを無駄にしないことだけだ。

 

 

数秒の後、開放されたコックピットから強化装備を身に纏った水月が姿を現し、こちらは予想通りにBETAが彼女を目掛けて殺到する。せめて、自分の指示で散ってゆく部下の最後はこの目で見届けたい。私は水月に敬礼を捧げようとした。だがそれは途中で中断せざるを得なかった。

 

 

なぜなら彼女へと殺到していたBETAの一団が一瞬にして押し潰され、彼女を今にも噛み砕かんと迫っていた戦車(タンク)級が真っ二つに切り裂かれるなど、誰が予想しえただろうか。それに加えてなぜか彼女がふわりと浮き上がり、対象の下へと移動するなど、考えたことすらない。

 

 

あまりに非現実的な出来事が連続して起こり、パニックに陥りそうな思考を強制的に引き戻す水月が対象の下へと到着すると、対象はその懐から一振りの短剣を取り出した。強化装備を相手に短剣で挑もうというのか……いや、対象は水月を助けたように思えるし、だとするとその切っ先が向かうのはBETAか? だが、あんなものでは兵士(ソルジャー)級すら相手に出来ない。相手の行動原理がさっぱり理解できない。分からないことだらけの現状に不安が募る。

 

 

対象がその短剣を水平に振り払う。相手に届いてすら居ない、一体何の意味がと考えたところでその思考は中断された。ぜなら、その短剣を振りぬくと、そこを境にするように世界がずれたのだから。

 

 

一体何が起きた! さきほど起きた現象は認識できた。しかし全くもって理解できない。さらにそこに何も無い空間に突然火球が出現したのだからたまらない。

 

 

その日私は指揮官であることを心から悔やんだ。こんな状況でも思考を放棄することは許されないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

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 私の周りに群がっていたBETAがよくわからないうちに押し潰されて死に、私を噛み砕こうとしていた戦車(タンク)級は真っ二つにされて死んだ。の理解が追いつかない状態の私にさらに追い撃ちをかけるかのように、今度は『なんか話がありそうだけど、危ないからちょっとこっちにおいでー』という戦場とは思えないような声が届いた。声の主は彼しかあり得ないのだろうが、この戦場の喧騒の中で拡声器も使わずここまで声を届けるようなことがなぜできるのだ。

 

 

そんな疑問が当然のように湧いたがそんなことは次の瞬間に自分の身に起こった出来事に比べれば些細なことだった。何の前触れもなく私の体がふわりと浮きあがり彼の元へと移動し始めたのだから。

 

 

無重力による浮遊ではない。重力をその身に感じたままふわふわと空を漂う。もう本当にどうしたのだろう。彼の言葉が切っ掛けで浮遊したとでも言うのか、そんなものおとぎばなしの世界(夢物語)ではないか。

 

 

程なくして彼の元へとたどり着き、それと同時にあの妙な浮遊感も消えた。聞かなければいかないことは山ほどあるが、最初に何を聞いて良いのかすらわからない。口は言葉を紡ぐことなくただ開閉を繰り返すだけ。はたから見れば随分と滑稽だろう。

 

 

そんな私を尻目に彼はその懐から何かを取り出した。銃器かと考え一瞬身構えたが、そこから出てきたのは一振りの小剣だった。ただし、その刀身が光り輝く宝石で出来ていると付け加えなければならないが。BETAを相手にあんなもので一体何ができるというのだ。たとえその刀身が戦術機の持つものと同じスーパーカーボン製だったとしても、あんな小剣では兵士(ソルジャー)級でさえ倒すことはできないだろう。

 

 

 しかし、その私の常識は目の前で崩れ去った。彼がその小剣で前方を振りぬくと、世界がずれた。

 

 

いや、決して気が違ったとかそういうわけではない。文字通り世界そのものがずれたのだ。それを証明するかのようにそのずれた境界にいたBETAの群れが一斉に崩れ落ちた。さすがに要塞級は健在だが、その他の大型種はほぼ全滅である。

 

 

 あり得ない。戦場での白昼夢だと言ってもらえたほうがまだ信用できる。唯々驚愕することしかできない。だが、そんな私をあざ笑うかのように彼はまだ何かをするようだった。

 

その口から言葉が紡がれる。

 

「我・法を破り・理を超え・更なる力を・欲す者なり・より強大なる事を以って・我が目的を果たさん!

 

 我・法を破り・理を超え・破軍の力・ここに得んとする者なり……

爆炎よ・猛炎よ・荒ぶる火炎よ・焼却し・滅殺し・駆逐せよ・我の戦意を以って・敵に等しく滅びを与えよ……

我求めるは完璧なる殲滅!【マキシ・ブラスト(第三の業火)】      顕現せよ(イグジスト)!!」

 

 その言葉の列が紡がれ、終わると同時にBETAの群の中央に突如として火球が現れた。

 

 それは一瞬で膨れ上がり、敵を焼いていく。火炎旋風も巻き起こっているのか、その炎の勢いは衰えることを知らず、BETAの群を蹂躙する。後に残るのは炭の塊。もはや何がどうなっているのか。

 

 

唯、言の葉を紡ぐだけで奇跡を起こすなど最早魔法ではないか。そんなことを考え、私は思考を放棄した。

 

 

 

 

 




初・魔法登場! BETA一斉殲滅であります。
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