救世日記~世界を救うだけの簡単なお仕事です~   作:カペリン

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この世界の人類とファーストコンタクトを果たした田中太郎。さて、気のせいか彼女たちは少し手荒なようですが……


第2話   何故か連行されました

 

 

 

 

 

 

 国連軍横浜基地 そう呼ばれる場所に俺は居た。

 

 

 いやそれだけなら特に問題はないのだが、なぜか周りにいかにもな軍人さんたちが物騒なもの(小銃)を持って監視しています。

 

 

 なぜこんななことになっているかというと、先のよくわからないモンスター群を殲滅し終わったときに、俺にとってこの世界での人類との初接触となった女性が、聞きたいことがあるから自分達の所属する基地に来て欲しいという旨の要請を受けたからだ。

 

 

 俺にとってもこの世界を救済するために情報を集めたかったことや、救済するにあたってこの世界での生活基盤を確保するために好都合だったこともあり、ほぼ即答に近い形で承諾の返答をした。

 

 

その後、彼女の仲間だろうロボットと一緒に横浜基地へ行くことになった。あ、もちろんロボットに乗っていくわけではなく、装甲指揮車という車に乗せられて向かいました。

けど、このあたりからなんか様子が変だなぁとは思っていました。

 

 

 車の中へ乗り込むと小銃を持った女性が2人ほど居たから。

 

 

 なんで車の中で銃器が要るのかなとは思っていたけれど、今考えればあれは俺への警戒だったのだろう。

 

 

 妙に緊張感の張り詰める車で基地に着くと、彼女の仲間と思しき数人の軍人さんが付かず離れずの距離で一緒に彼女たちの直属の上司の許へと移動。

 

 

 話を聞いている限りだと普通の軍隊と違う、特殊部隊のような扱いなのかなという印象を受けた。そしてある部屋に入って、舞台は冒頭に戻る。

 

「率直に聞くわ。あなた人間?」

 

(この女、我が主に向かって!)

 

(いい。グロリア、抑えろ)

 

 

 目の前の女性があまりに直球過ぎる質問をぶつけてきた。

 

 

 年の頃は30手前といったところか、なかなか気の強そうな女性だ。隣にはウサミミっぽいものを装着した少女が居た。

 

 

グロリアが物凄く怒っているが、まあ仕方ない。普通の人間ではあまり出来ないことだろうから。

 

「ええ、勿論。正真正銘、人間ですよ」

 

 神様の子供(達)認定されて、時の流れから隔離されて、庇護者のアシスタントしてるけど、人間のはず。

 

 

きっと、たぶん、おそらく、めいびー。あれ? なんかちょっと自信がなくなってきたかも。

 

「へぇ、ただの(・・・)人間にこんなことが出来るとは思えないのだけれど」

 

 おばさ……訂正、お姉さんの言葉と共に俺が次元切断で大型モンスター達を切り飛ばし、マキシ・ブラストで小型のモンスターをまとめて炭に変えたときの映像をスクリーンに映し出した。どこかで録画していたのだろう。

 

 

 先ほど訂正したのはなせか恐ろしい殺気を感じたから。あれほどに禍々しい気配を覚えたのは一体いつ振りだろう、二つ前の世界で相対した大魔王とか名乗る生命体と同じぐらいか。それほどまでに強烈な殺気だった。この世界にも恐ろしい存在が居るのかと、俺は改めて気を引き締めた。

 

「それで、あなたはPK能力者(サイコキネシスト)だとでも言うのかしら?」

 

 PK能力(サイコキネシス)って何ぞ? 聞きなれない単語に暫し頭を悩ませたが、その単語を以前に聞いたことがあったことを思い出した。

 

「念力能力保持者か、ということですか?」

 

 どうやら当っていたらしいが、女性は少し怪訝な様子を見せた。

 

「念力とはまた古風な言い方をするわね。それでどうなの?」

 

 

 なるほど、能力者のことだったのか。念力能力なら最初からそう言ってもらえると非常に有り難かった。

 

 

 しかし、俺は魔法使いであるため能力者にはなれない。たとえ神っぽい存在の加護を得て、あらゆる魔法やそれに類する力《不可思議現象》を使いこなすことが出来るようになっているとはいえ、そこにはやはりというべきか当然制限は存在する。それが能力者は魔法を使えないというルールだった。

 

 

 どこかの世界にある学園都市で超能力の開発を行っていると小耳に挟み、こっそり進入してみたところ、アロハを着てサングラスを掛けた金髪の少年が『能力者は魔法を使えない』云々と言っていたので、アカシックレコードに接続して調べてみたところ、事実であることが判明した。非常に残念だったが超能力の修得は泣く泣く諦めた。

 

 

 アカシックレコードに接続できるのは【森羅の大魔法】と呼ばれる魔法を使っているためである。

 

 

 これを使うことにより使用者は過去から現在に至る全ての情報を知ることが出来るという優れものだ。

 

 

 そういえばあいつはどんな道を選んだろうなぁ。いけない、また思考が逸れた。

 

「いえ、俺は念力能力保持者(サイコキネシスト)ではありませんね。俺は魔法使いですから、能力は使えないんです」

 

「は?」

 

 なぜか目の前の女性が驚いている。ひょっとしてこの世界には魔法が存在しないのか。

 

 

 精霊さんはいたし魔法が存在してもおかしくない下地はあるんだが、そちらの方面には発展しなかったのだろう。

 

 

 念のため例の魔法でアカシックレコードにアクセスを試みるが、やはりこの世界では魔法の(たぐい)は確認できなかった。

 

 

 この魔法の不便な点として調べたい情報を限定してやらないと際限なく情報が流れ込んでくるという点が挙げられる。よってあのモンスター群が何なのか分からない状況では使いようが無かった。

 

 

 もし【人類】というキーワードで調べようものなら一体どれだけの情報が流れ込んでくるものか分かったものではないし、ここがどういった世界か限定してやらないと調べようが無い。これがあの生命体群が人類なのかとか確認することはできなかった要因だ。

 

「博士、彼は最初から嘘を吐いていません」

 

(主よ。この少女はやはり……)

 

 

 固まっている女性に対し、隣のウサミミ少女がそんなことを言う。ああなるほど、俺の頭の中を読んだのか。読心能力者(サイコメトラー)かな。

 

そういえばここに入るにあたって呪圏(スペル・バウンド)は一時的に解除した状態だった。

 

 

 一応の礼儀として、話し合いをしたいと言ってきている相手に最初から臨戦態勢というのはさすがに気が引けた。しかし向こうがこちらの頭の中身を覗いてくるような状況ならと、呪圏(スペル・バウンド)を復活させる。

 

 

 ウサミミ少女はいきなり思考を読めなくなったことにかなり驚いているようだ。

 

 

(ああ、恐らくは読心系の能力者だろう。呪圏(スペル・バウンド)を解いていたのは失敗だったな)

 

「俺は頭の中身を読み取られるような趣味は持ってない、悪いけど防がせてもらったよ」

 

「魔法が実在するというの? まあいいわ、それで聞きたいのだけれど、このBETAを切り裂いたのも、焼き殺したのも、霞のリーディングを防いだのもその魔法というわけ?」

 

 やはりというか、やっぱり信じ切れていないようだ。それは仕方が無い。

 

 

 今まで魔法が存在していなかった世界に突然、『魔法使い』を名乗る人物が現れたら頭がおかしいと思われるだろう。

 

 

 一応ではあるが、聞く姿勢は持っている目の前に居る女性の聡明さには驚かされた。

 

「魔法は実在します。ただ、この世界ではその技術が発達しなかっただけの話です」

 

 俺の言葉に女性が強く反応する。

 

「この世界? まるで他に世界があるみたいな言い方ね」

 

 うん? この世界では多次元世界説は存在しないのか、それとも空想の絵空事と捉えられているのか。どちらにしろあまり一般的な考え方ではないようだ。

 

「ええ、存在しますよ。現にさきほどあのBETAと言いましたか、あれらを切断したときに用いた限定礼装は、無限に連なる平行世界に穴を開けてそこから魔力を汲み出す機能を持ってますからね。

 その大魔力で次元切断、つまり世界そのものを武器と使用した攻撃を行ったんです。残った小さな敵を焼いたのは別形式の魔法ですけどね。そちらの読心能力(サイコメトリー)を防いだのは呪圏(スペル・バウンド)と呼ばれる一種の結界によるものですよ」

 

 次元切断云々のくだりに相当驚いたのか、周りの軍人さんたちは顔を引き攣らせている。

しかし目の前のこの女性は別のところに驚いたようだった。

 

「平行世界、つまり多元世界が実在する。私の因果律量子論は正しかったのね!!」

 

 どうやら平行世界が実在すると分かったことがよほど重要だったようだ。

 

「その魔法という技術も興味深いわ。誰にでも使える技術というわけではないのかしら?」

 

 やはりそこを聞いてきたか。残念ながら誰にでも使えるという便利なものではない。

 

 

 確かに『聖シューマンの実験』により世の中に公開された一連の魔法技術は万人が扱うことの出来るものだが、呪素の発生という問題が付きまとう。

 

 

 源流魔法使い(ルート・ソーサリアン)のように呪素を体外に排出するようなことをするには、長年の修練と強靭な精神力、そして人間を辞める(理性ある魔族となる)ことが必要となる。

 

 

 そういった対策無しで魔法を使い続ければ待っているのは無秩序な魔族化だ。

 

 

 体内に蓄積された呪素によって一気に肉体が変質し、その結果として感覚が狂い理性が破壊され化け物のような姿と成り果てる。その異形さはBETAといい勝負だろう。

 

「万人が扱える魔法技術は確かに存在します。

だがそれは使いすぎれば人間を辞める(魔族化する)ことになる技術、故に提供は難しい。

宝石剣はそもそも(この世界では)俺以外には使えないし、高次世界とのチャンネルを開くことによって扱う魔法は、魔力と才能を持った人間が数十年の歳月を掛けて身につける代物です。

 それに世界を満たす精霊との契約によって発動する魔法は、そもそも精霊とコンタクトを取れることが絶対条件です。

更に言うならばあのBETAに有効なほどの出力を得られる魔法となると、よほど精霊に愛されている人間にしか無理でしょう。

魔法体系は他にもいくつか存在しますが、何れも貴女方では扱えません」

 

 詰まる所、彼らには扱うことが出来ないということだ。

 

 

 この星のBETAについてというキーワードでアカシックレコードを検索したところ、人類は長年の修練を待てるような状況には無いようだった。

 

 

 だが、問題なのは、あの魔法体系の魔法を既に使用してしまっているということだ。恐く、魔法実験として無秩序に魔法を試す勢力があるだろう。その勢力が人間を辞める(魔族化する)という危険性を無視してでも運用することは否定できない。もしそんなことになってしまえば、その果てに待っているのは、魔族の大量発生。これは阻止しなければならない。

 

 

 竜機神であるグロリアは確かに絶大な出力を誇るが、いくつかの制約が存在する。

 

 

 その一つが『人間に対して攻撃できない』というものだ。

 

 

 人間が呪素の蓄積によって『効率よく魔法を使うために進化した存在』である魔族に対しては、その制約上彼女の能力を用いることが出来ないのだ。

 

 

 つまり俺の魔法、若しくはその他の物理的手段によって対処しなければならない。

 

 

 しかし、魔法はともかく、物理的手段での対抗は効果が疑わしい面があるのも事実なのだ。

 

「私達には時間が無いの、どんなものでも使えるものは使わないといけないのよ」

 

「どうやら魔族というものをよく分かっていないようですが、あれは世界の法則を捻じ曲げる。

高位の魔族が発生したのなら、核兵器や燃料気化爆弾(サーモバリック爆弾)の集中運用で対処する他無いでしょう。

ただし、それで高位の魔族を滅せるという保証は出来ませんがね。俺の知る限り(・・・・・・)においての高位魔族に対しては、それで対処可能であるというだけです。

俺が知る以上の高位魔族が誕生するかもしれません。そのとき滅ぼす手段があるのかと言われれば、酷く怪しいと答えざるを得ませんね。

それでも魔法を欲するのですか?」

 

 核の集中運用という言葉に、その場に居た全員が表情を変える。

 

 

 いや、終始無表情だったウサミミ少女は除くが。

 

 

 どうやら核兵器による焦土作戦を既に展開して、その結果がどうなったのか知っているようだ。

 

 

 新しい技術が手に入ったとしても、それによるデメリットがメリットを上回るのなら使うことは出来ない。

 

 

 それでも尚使おうとする者が居るのならばよほどの楽天家か馬鹿だろう。

 

「それじゃあ次の質問、あなたはどこからやってきて何が目的なの?」

 

「どこからやってきたか、という問いには正確に回答することができません。

もう数えることが嫌になるぐらいには多くの世界を巡ってきましたから。

 生誕の地という意味であれば『生誕時には』銀河系オリオン腕に位置していた太陽系第三惑星地球に存在する日本国ですね。

直前に暮らしていた世界という意味では、アル・カウラと呼ばれる世界でした」

 

 生誕時には、と付け加えたのはもう16億年以上も前のことだから。

 

 

 これほどの時間が経つと太陽の銀河系での位置関係も変化している。

 

 

 その間に巡った世界の数は数知れず。100を越えた辺りで数えるのをやめた。

 

 

 アル・カウラでは人類というかヒューマンとその他の亜人種の対立だったが、しばらく観察した結果どうも人類に世界を任せるのは不安だという結論に達し、亜人種達の連合体である魔王軍と名乗る勢力側に加担した。とりあえず人類の数を程よく減らして亜人種の管理統治下で様子を見ることにした。

 

 

 世界を任せるに足る存在になれば問題はないので、その経過観察をして最終的にどうするかを決めることにした。

 

 

 1000年ほど経って漸く、これなら大丈夫だろうという域まで達したのでそれで俺の役目は終わりである。

 

 

 その後3000年ほどエルフの友人とまったり過ごした。普通ならとっくの昔に精神が破綻してもおかしくないと思うのだが、あの神っぽい存在の加護だろうか、そういった兆候すらない。

 

 

 寧ろ歳を経るごとに権力とか国家の存亡とかが馬鹿らしく思えてきた。

 

 

 権力があってその下に人があるのではない、同様に国家があって人があるのではない。

 

 

 全ては人から始まり、その人は世界から始まる。詰まる所、世界を安定して維持できればそれこそが救済なのではないか、それが俺の考えの根幹になっていた。

 

 

 今回の世界では人類対BETAの構図になっていて、どうやらBETAはごく一部を除いて自意識が存在しない存在のようだった。

 

 

 そんな存在に世界を任せられるかといえばNOである。よって必然的に人類の味方をすることになる。

 

「アル・カウラというのがあなたの言う他の世界のことかしら。それにしても、生誕時とはまた面白いことを言うのね。銀河内で太陽系の位置が変わるほど生きているとでも言うつもり?」

 

「ええ、アル・カウラはこことは別の世界ということになりますね。

それにこう見えても、もう16億7千万年ほど生きていますよ。

太陽系は銀河を6週と少し公転したところだと思うので確実に位置関係は変っていますね」

 

 銀河の内側と外側では天体の公転速度が違う。

 

 

 今、出身の地球に帰ったらあの頃とは全く違った星空になっていることだろう。

 

 

 ベテルギウスやデネブ、リゲルといったおなじみの星は俺の世界ではとうの昔に超新星爆発を起こして消え去っていることだろう。

 

 

 俺の出身世界での時間は通常通り流れるが、他世界に訪問した場合には俺が去った後は、その世界の時間経過は俺から見た場合停止することになる。

 

 

 なぜこんな現象が起こるのか、今のところさっぱり不明である。

 

 

 【森羅の大魔法】は人類の誰かが既知の情報のみを知ることが出来る魔法。

 

 

 逆に言えば未知の現象を調べることは出来ないのだ。

 

「は? 16億7千万年? あんたちょっと何言ってるの」

 

「いえ、事実を述べたまでですが。

なんだったらそこのウサミミ少女に真偽を確かめてもらいますか? 

呪圏(スペル・バウンド)を解けば彼女は頭の中を読めるようですから。

 ああ、廃人になるのはさすがに勘弁したいので、攻撃的な思考操作に対する防御は張らせてもらいます」

 

 そう言って呪圏(スペル・バウンド)を解除する。これでウサミミ少女が頭の中を見ることが出来るようになったわけだ。

 

 

 早速リーディングとやらを始めたのか、少女が僅かに顔を顰めた。

 

 

 それはそうだ、16億7千万年分のデータだ。そう易々と全てを読み取ることはできないだろう。

 

 

 数分の後に少女は額を押さえて隣にいる女性に報告した。

 

「博士、少なくともいくつかの世界を転移して1万年は生き続けていることは分かりました。

でもそれ以上は私の能力では読み取れません。あまりに情報量が膨大すぎて処理し切れませんでした。

これ以上はリーディング不可能です」

 

「そう、分かったわ霞。もうリーディングをしなくていいわ」

 

 ウサミミ少女改め霞という少女に告げ、彼女は俺へと続けた。

 

「世界転移に1万年以上の寿命か……正直ことを言えば、信じろというほうが無理な話だけど、世界転移については私も多元世界の研究をしているし、少しは理解できるわ。

 でもね1万年以上、あんたの話では16億7千万年だっけ? そんなに人が生きていられるとは到底考えられないのよ」

 

 なるほど、確かに通常であれば人間がこれほど生きるなどありえないことであるから、それは仕方のないことだろう。

 

 

 それにしても世界転移について多少なりとも理解があるとは。彼女を延いてはこの世界を侮っていたかもしれない。

 

 

 まったく、無駄に永い年月を生きていると、自分の考えこそが正しいという錯覚が固定概念として定着してしまうようだ。

 

 

 少し考えを改めたほうがいいのかもしれない。いい勉強になった。

 

「世界転移に理解があるとは、俺も予想していなかった。

年齢についてだが、俺は時の流れから切り離されてしまっていてね、それが理由ですよ」

 

「時間の流れから切り離される、興味深いわね」

 

「それで、こちらからいくつか提案をしたい。俺が世界転移を続けているのは、危機に陥った世界を救済するためなんだ。

 この世界に於いては世界を安定して維持できるのは人類しかいないと判断したんだが、いくつかの条件を呑んでもらえるのなら、魔法技術について提供しようと思う。

もう魔法は見せてしまったし、あそこから勝手に魔法の模倣を行って高位魔族が大量発生して世界崩壊というのはあまり好ましくないからな」

 

 魔法を模倣され、呪素を撒き散らして魔族の大量発生という最悪のシナリオに比べれば、魔法技術を提供して秩序だった呪素への対処を行うほうが幾分かマシだといえる。

 

 

 それでも処理できない『呪素』という危険極まりないゴミが出てしまうことは避けられないのだけれど。

 

「へぇ、最初に比べたら随分と譲歩してくれたじゃない。それで、その条件とやらを言ってみなさいよ」

 

「条件は3つ。

1つは魔法を使う際は必ず専用の装置を用いて行うこと。

先ほど言った魔族化という現象は、体内に呪素というものが蓄積されることによって引き起こされます。

つまり呪素が蓄積されなければ自由に魔法を使うことができるということですよ。

 そのために専用の装置を用いて、呪素の発生と同時にそれを回収し封印処理を施します。封印された呪素を無害化することは俺の知る限り不可能なので、保管処理するということになる」

 

 そう、この魔法体系を扱う上で最も頭の痛い問題が呪素の処理だ。

 

 

 処理できないので保管する他ない、俺の生まれた世界で問題となっていた高レベル放射性廃棄物と同じである。

 

「2つ目は装置が故障、若しくは何らかの歪みが起きた場合には魔法を極力使わないこと。

呪素を回収する装置は極めて精緻な造りで、回路が歪んだり切れた状態で魔法を使った場合には呪素の回収は行われないと考えていい。つまり肉体に蓄積する。

 その状態で魔法を使い続けると下手をすれば魔族化する。そのための条件だと考えてくれ」

 

「ふぅん、それで3つ目は?」

 

「3つ目は至極簡単なことですよ。人間同士の争いに魔法を使わないこと。

人類、つまり世界を救済するために『魔法』という新技術を提供したのに、それが原因でさらに状況が悪化しましたということになっては本末転倒ですからね」

 

 3つ目の条件でポーカーフェイスだった彼女の顔、正確には右眉毛が一瞬ピクリと動いた。

最後の条件はかなり困難なことなのか。最も簡単な条件だと思うのだが。

 

「3つ目の条件はかなり困難だと思うわ。魔法なんて魅力的な力が目の前にあるのに、それに手を出すなと言っているに等しいもの。

それに魔法を表に出した時点で、あんた自身が狙われることになるわよ」

 

 目の前の女性は俺を気遣ってくれたらしい。なるほど、確かに新しい技術を自分の物にしたい組織からすれば、俺という存在をどうにかして確保したいだろうな。さて、何か上手い手は無いものか。

 

 

 『聖シューマンの実験』は確かに魔法の存在を世に知らしめた。それと同時にその理論の無制限とも言うべき公開を行ったことが、後のイエルネフェルト事変に繋がったのではないだろうか。つまり魔法の存在を世に知らしめ、且つ一定の制限・制約をかけて技術の提供を行う。

 

 

 モールドに関しては魔法の使用には必須であるとする必要があるが、あの世界のようなサイズであれば暗殺やテロに使用される可能性が高まるため、ある一定以上の大きさのもので代用するほうがよいだろう。

 

 

 それにこの世界では賢者石の産出はないようであるし、スタッフによる出力増幅が出来ないことを考えると大きめの素体を用いて呪素の保管容量を増やすことで魔法威力の増加を考えたほうがよいだろう。

 

 

 となるならば素体候補はあのロボットか。少々壊れやすいのが珠に瑕だが封呪素筒(カートリッジ)の保全を十分に増強すれば使えるだろう。

 

「では何か公の場で魔法を公開して、その技術を俺の判断による制限を設けて提供する。呪素に関しては封印及び増幅の回路をあのロボットに搭載する、ということで対処します。

 少々壊れ易いようですが、封呪素筒(カートリッジ)の保護に重点をおけば恐らく大丈夫だと思いますので」

 

 少し壊れ易いの部分で、軍人さん達がなんともいえない顔をしていたが、何か拙かったのだろうか。

 

 

 俺の知る戦闘用兵器といえば汎環境邀撃型自由塑形兵器、つまりAERRIシリーズのみだ。その中でM4と呼称されるのが竜機神(ドラグーン)であり、その後継型M5が戦天使(ヴァルキリー)と呼称されていた。尤も後者とは敵として戦ったことしかないが、少なくともあのロボット達よりは丈夫だったと思う。

 

 

 鏡像物質弾でも叩き込まなければ碌なダメージなど通らなかったし、破壊するには形相干渉能力を流し込む他無い。というかこちらも敵も大気圏内では使えない武装もあった。

 

 

 出力を下限まで落としても地軸がずれるとか、全兵装使用自由状態であってもちょっと怖くて大気圏内で使う気にはなれない。

 

「少々壊れ易い、ねぇ。言ってくれるじゃない」

 

 どうやらあのロボットは、この世界だと丈夫な部類だったようだ。

 

「失礼、俺の認識とは多少違ったようで」

 

「あんたがロボットと呼んだあれは戦術機といって、この世界では主力兵器なのよ。

あと、呪素が体に蓄積されて魔族化するということだったけど、あんたはなんで生身で魔法が使えるのよ。矛盾しているじゃない」

 

 なるほど、自分たちの主力兵器を少々壊れ易いなどと評価されては、彼女たちがなんともいえない表情になるわけだ。

 

「ああ、それは呪圏(スペル・バウンド)によるものですよ。呪圏(スペル・バウンド)は超多重多層恒常結界なので呪素に対する防御も当然入っています。

物理的・エネルギー的・精神的な攻撃にも対応しますよ。(今の)俺でも恐らくは木星程度の惑星消滅規模の攻撃でも完全に無効化しますね。

 それに高位の存在(上級天使や上位魔神族)となると、太陽質量の200倍程度の恒星を消し飛ばすような攻撃でさえ無意味と化しますから」

 

 さらっと呪圏(スペル・バウンド)の説明をしたのだが、周りの軍人さんだけでなく目の前の博士と呼ばれた女性も目を見開いている。やはり呪圏(スペル・バウンド)の性能はこの世界でも相当に優秀なようだ。目の前の人を驚かせられる程度には。

 

「木星規模の惑星消滅……大規模恒星が消し飛ぶような攻撃でも無意味。アハハハハ、なによそれ、何なのよ一体!」

 

「いやそう言われても、そういうものだからとしか返答のしようが……まあそれはさて措き、魔法の存在を世に知らしめたいと考えていますが、あなたの力を貸して頂けませんか?」

 

「あんたの言うように、魔法の公開をお膳立てしたとして、私に何のメリットがあるのかしら?」

 

世界が救われる。これ以上のメリットなど存在しないと思うのだが。

 

「世界を救う、つまりは人類という種の存続、その可能性を上げることができます。それだけでは不足ですか?」

 

「それは本気で言っているの? そうならば私が協力することはない、言えるのはそれだけね」

 

 ああ、なるほど。やはりただ世界を救いたいだけなのに、それを信じてもらえない……か。どこの世界でもとは言わないが、こういった対応をされるのが普通だ。いきなりどこの誰かもわからない人間が現れて『この世界は滅びかかっている。助けてしんぜよう』と言われても信じてもらえないものだ。

 

「そうですか、分かりました。では俺はこれで失礼します、またお会いできる時を楽しみにしていますよ……【歪時空間相転移(ア・ルカーラ)】」

 

 空間転移でその場を去った。交渉決裂か。協力が得られない以上あの場に留まっていても仕方がない。これほどまでに追い込まれているのにも関わらず自己の利益を追い求めようとする、俺も含め人間とはどこにいってもその精神構造はあまり変わらないらしい。その事実だけが救いといえば救いだった。




呪圏、チート能力です、はい。
あと、魔法は中ソがパクって魔族大発生にならなければいいなぁ……。
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