救世日記~世界を救うだけの簡単なお仕事です~   作:カペリン

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さて、ついに佐渡島のハイヴ攻略戦です。


第4話   一人ぼっちで佐渡島

 

 

 

 

 

件の会見から1週間後、―――――

 

 

 

 

 

 さてさて、今日も動向を監視する人物が俺に張り付いているようだ。会見翌日には既にマークされていた。それから日一日と経つにつれ監視の目が増えていった。彼らには分からないだろうが、常駐型警戒用魔法結界【楽園(アスガルド)】を起動している。意識の片隅にあるのは自分を中心とした半径1キロに及ぶいくつもの同心円。それと重なるように無数の六角形を敷き詰めて構成された探査範囲。この範囲内に何らかの生物、―――この場合は人間だが―――が侵入した場合、その地点に異常有りとしてそこが明滅する。

 

 更に詳しく情報を知る為にその場所に意識を集中させるとそこにいる人物の特徴、つまりは身長、体重、脈拍、歩幅、人相といった情報が瞬時に取得できる。同時にその人物を要注意人物として登録しておけば、警戒範囲内に侵入した時点で警告が発せられる。同様に、探索対象外として登録することもできる。昆虫や小動物等も同様に把握できるが、俺はこれを主に明らかに生物ではない反応のみ登録している。昆虫や小動物に偽装したカメラや電子機器等も無いとは言えないからだ。

 

 そんな【楽園(アスガルド)】には要注意人物・物体として登録されている反応が既に30ほどあった。探索範囲外から監視している人物もいると考えると50人は居るのではなかろうか。俺1人の警戒のためにご苦労なことだ。この【楽園(アスガルド)】であるが、厳密には『魔法』ではない。時空定義エンジンに介入し、その『裏技』とも言うべき方法で人為的に『誤作動』を起こさせ結果として世界に影響を与え、現象を発生せしむる技法、それがこの技術の正体である。そもそもこの世界には時空定義エンジンなど存在しないから、こういった技術は使用できない筈である。本来は。

 

 だが、形相干渉能力とは特定支配空間内の物質の状態を自由に操作する力のことであり、時空定義エンジンとはその超拡大版であるとも言える。無論干渉密度や規模の差こそあれ、原理的には同じなのである。つまり、グロリアを時空定義エンジンと魔法増幅器であるフィンブルヴェトルを兼ねた装置として使用して、魔法を発動させることが可能となる訳である。しかも、そもそもの魔法はシステムの『誤作動』であるわけだから、通常それは『不正な処理』として速やかに修正される。

 

 事実、元々この【楽園(アスガルド)】は約1日の間動作し続ける訳だが、それは1回の魔法が1日中続くわけではなく、ごく短い間だけ作動する魔法を連続起動させ続けることにより成立していた。 だが、現状はそれとは異なる。

 

 俺の起動させた魔法はグロリアにとっては修正する必要がない、むしろ主からの命令であり最優先で実行すべき処理となる。また、俺にとっては一度起動させた魔法を継続しさせる意識を払う必要は存在しない。グロリアの処理能力が許す限りにおいてではあるが、無限に近い数の魔法を重複起動させることができる。さらにその上、起動させた魔法を自分の脳内で管理する必要すらない。通常であればあまりの情報量に対象となる生物を人間など大型哺乳類のみを対象として起動させる【楽園(アスガルド)】で、こういった昆虫や小動物などをもその対象と出来るのはひとえに、その圧倒的な情報処理能力を持つグロリアのおかげである。

 

 また、彼女には現在軌道上の衛星の監視も勤めてもらっているが、やはりというかいくつかの監視衛星が連携して俺を補足していることもわかった。魔法は彼らの興味を惹くのに十分な技術だったようだ。しかし、世界のために魔法を普及させようという接触は今まで一度も存在しない。

 

 この世界もやはり今までので世界と同じなのだろうか。自分の部族や民族、或いは国家や主義主張の違いの為に世界を救うということで未だ人類が団結できていないのだろうか。香月博士の下から去った後、そう考えこの世界の情勢についてさらに詳しく調べた。

 

 その結果として分かったことであるが、表面上はBETAという人類の敵に対して一丸となってこれに当たるとそうなっている。しかしその裏では俺の予想をさらに上回る状況であった。

 

 なんとこの状況で、BETAとの戦争終了後の主導権を握るための国家間やの争いのため、人類という同じ種族の中でさえも意思の疎通ができていない状況だったのだ。まずはアメリカとソ連。この二カ国を中心とした自由主義と共産主義という主義主張の派閥争い。それと並んで酷いのが、日本帝国やアフリカ大陸諸国家と国連の対立。

 

 確かに調べた限りだと国連はかなりアメリカ寄りの姿勢を見せているし、アメリカの戦略を擁護する動きも見られる。確かにそれに反発するのはある程度頷ける。しかしいま人類が置かれている状況は内輪揉めを許して置けるほど余裕などないはずである。それにも関わらずアフリカ諸国ではこの状況でも部族間対立が絶えないし、EU各国の臨時政府との確執も見られる。

 

 日本帝国では未だに封建制の名残のような身分制度がある。それはどうでもいい。だが問題なのは、それがあるが故に武家や摂家といった昔から権力を持っていた勢力と世界大戦後に急速に力をつけてきた議会との対立があるということだ。BETAという人類全てに対する驚異が迫っている中で、国民の大半を失いBETAの巣(ハイヴと呼ぶらしい)を佐渡島に作られているにも関わらず、内部抗争を未だ続けている始末。

 

 その皺寄せか、余裕のない軍体制にも関わらず、指揮命令系というの全く異なる斯衛軍と帝国軍という二本立てになっている。整備や修理補給の効率などガン無視である。この世界の人類には、自分たちに残された時間がどれほど貴重なものか分かっているのだろうか。

 

 確かに自己が帰属する共同体の利益を守ろうとするのは分かる。だが、その前に人類という最も大きな共同体が滅んでしまっては何の意味もないだろうに。恐くこのまま彼らと交渉を重ねたとしても、それは今までの延長線上から出ることのないものとなるだろう。なに今までの世界でもこういったことはよくあった。こういった方法は好きではないのだが、事、此処に至っては致し方ない。

 

 現状では彼らが人類の存続のため、国家や価値観の隔たりを越えて平等な交渉を持つことはない。これは間違いないだろう。ではどうすればよいのか。決まっている。まずは絶対的な力を彼らに認識させる。それにお誂え向きの場所がこの地球上には26箇所もある。そう、BETAの巣とでも言うべき場所、バイヴだ。ここの1箇所をBETA諸共完全無欠に殲滅すれば十分だろう。場所は今いる場所から一番近い佐渡島ハイヴ(H21)がいいだろう。島という限定された空間であるため、広範囲殲滅魔法を使えばBETA群も根こそぎ殲滅することが可能だ。

 

 国連法やら帝国法を調べてみたが、『BETAを殺してはいけない』『ハイヴを破壊してはいけない』という規定は存在しない。『~してはならない』と規定されていないということは、反対解釈により『~してもよい』ということになる。

 

 歴史上、地球人類はBETAから一つだけハイヴを奪還することに成功している。それが一週間前俺がいた場所、あの横浜基地だったようだ。だが、横浜ハイヴ攻略にあたって人類は決して少なくない損害を出している。帝国軍・斯衛軍・大東亜連合軍・アメリカ軍を主体とした国連軍の連合作戦である明星作戦で、帝国軍・斯衛軍・大東亜連合軍・国連軍の多大なる犠牲と、アメリカが友軍に対し投下30分前に新型爆弾の投下を通告。

 

 その後G弾と呼ばれる新型爆弾を2発使用し漸く勝利を掴んでいる状況だ。その後、彼らをこちらが用意した平等な交渉のテーブルに付かざるを得ない状況にする。理想を言えば彼らからそういった場を設けるように動くのならば良いのだが、それは無理だろう。それでも彼らが駄々をこねるようであれば、もはや処置なしだ。彼らは滅びるべくして滅びると考えよう。まぁ、そんな最悪の選択はしないと考えたい。

 

 まずはBETAについて現在人類が知り得ていることをまとめよう。

1.炭素系生命体である。但し、生物学的に共通する部位や器官は存在しない。そのため外見から種別の判断がなされる。現在、確実にその存在が確認されているBETAの種類は、要塞(フォート)級、重光線(重レーザー)級、突撃(デストロイヤー)級、要撃(グラップラー)級、戦車(タンク)級、光線(レーザー)級、闘士(ウォーリア)級、兵士(ソルジャー)級の8種である。このうち重光線(重レーザー)級と光線(レーザー)級は光線(レーザー)属種と呼ばれ、人類にとっては脅威となっているようである。

 

 なぜ脅威なのかと調べてみたところ、光線(レーザー)属種の照射するレーザーは決して味方誤射をせず、光線(レーザー)級ですら380㎞離れた高度1万mの飛翔体を的確に捕捉可能である。また、そのレーザーは有効射程約30Km、単純射程は2~300kmとされている。重光線(重レーザー)級は光線(レーザー)級よりも動きは緩慢だが、その分レーザー出力が増加しているよだ。こちらは大気などの環境条件によってレーザー出力の減衰を期待できないほどの高出力となっている。また有効射程も約100km、単純射程ならば1000kmである。また両種とも照射から再照射までには一定時間が必要となり、光線(レーザー)級では約12秒、重光線(重レーザー)級では約36秒で再照射可能となる。だが、なぜか有効射程内にあるはずの人工衛星にはレーザー照射を行わないようだ。その理由はまだよくわかっていないらしい。

 

 要塞(フォート)級は確認されている中で最大の種で、全高66mにもなる。動作は緩慢だが、尻節に鉤爪付きの触手がありそれを振り回して攻撃する。触手が何かに触れると強酸性の溶解液が分泌される模様。また、体内に小型種を格納していることもある。また、攻撃力・防御力・耐久力共に高いとされている。

 

 突撃(デストロイヤー)級は前面に強靭な装甲を持ち、確認されている中で最大の防御力を誇る。強靭さは修正モース硬度15以上。進軍速度も最速であり、その速度は最大170km/hに到達する。この速度での衝角突撃戦術が驚異とされている。また、その防御力ゆえ、面制圧時の生存率が高い。

 

 要撃(グラップラー)級はBETA群における大型種の約6割を占める。修正モース硬度15以上の二対の前腕を最大の武器とし、近接格闘能力の高さが特徴とされている。最大全幅は約39mであるが、そのサイズでありながら俊敏であり、旋回能力も高く防御力にも優れる、BETA戦力の中核をなす存在である。攻撃用の前腕はダイヤモンド以上の硬度とともにカーボネードを凌駕する靭性を併せ持っている。

 

 戦車(タンク)級はBETA群中において最大の個体数を誇る小型種。極めて強靭な顎を持ち、戦術機の装甲さえも噛み砕く。また、最大時速80km/hに達する俊敏性と高い対人探知能力を持ち、さらに常に数十乃至は数百の群体で行動するという特徴を持つ。

 

 闘士(ウォーリア)級は小型種の一種で、対人探知能力は極めて高い。拳銃若しくはライフルといった小火器の攻撃でも十分に効果的であるが、非常に俊敏なため照準が容易ではないため、生身の歩兵にとっては脅威となる。

 

 兵士(ソルジャー)級は確認されている8種の中で最小の種。対人探知能力は最も高い。闘士級程ではないが動きは素早く、腕力は人間の数倍とされ、顎の力も強靭で、強化装備と呼ばれる強靭な強化服を着ていてもそれを食い破れるほどの力がある。

2.BETAの能力・習性については詳しくはまだよくわかっていないが、現状で分かっていることは以下のようなことである。

 

 まず『ハイヴ』と呼ばれる地下に広がる巣を作る性質が存在する。

 

 ハイヴで生み出されたBETAが一定以上増えると周囲に進出し、さらに進出地点での数が一定以上増えると新たに『ハイヴ』を建造するという性質を持つ。

 

 またBETAは環境に対する適応能力が異常であり、短期間で水中や真空でも活動可能になる適応力を持つ。地球に襲来する前は火星や月で活動していたことからもそれは明らかであるし、地球襲来後は海底を歩いて進み活動することが確認されている。

 

3.BETA最大の脅威は光線(レーザー)属種ではなく、その物量である。

 

 BETAの基本戦術は大量物量によるゴリ押しである。ハイヴには数十万単位のBETAが存在すると考えられている。また、人類側の攻撃に対してもある程度の適応能力を持っている。これは地球における航空機の攻撃に対し、光線属種と呼ばれる新種を生み出してこれに対応したことから明らかである。 このことから、BETAには学習・進化する能力が備わっていると考えられる。

 

4.BETAの巣である『ハイヴ』はアリの巣のような地下茎構造となっており、その攻略は、最深部に存在するコアの破壊をもってその成功とされる。

 

 コアとは反応炉とも呼ばれ、エネルギー生成機関であるとされる。また、ハイヴの規模はフェイズ1から始まり、規模の拡大に伴い数値が増加してゆく。現在地球上に存在する最大のハイヴはフェイズ6のカシュガルハイヴである。更に、フェイズ4以上のハイヴにはBETAの特殊物質精製プラント である、通称『アトリエ』が生成されるとされており。ここで主に人類未発見元素であるG元素の精製が行われると考えられている。また、ハイヴ内のコアを破壊された場合、BETA達は最寄りのハイヴへと移動する、若しくは別の場所へ進出するらしい。

 

 なるほど。確かにこれは中々の難物だ。人類がここまで追い詰められていることにも頷ける。確かに敵の攻撃を無効化する術が出来たとしても、下手をすれば進化対応してそれも無効化されましたでは話にならない。

 

 一番の理想はBETAに進化対応する時間を与えず一気に殲滅してしまうことだが、あまりに範囲が広いと殲滅しきれないBETAも当然のように出てくるはずだ。BETAの特性として、ハイヴが攻略されたら別のハイヴへ引っ越すか、さもなくば別の場所へ進出するかである。

 

 その結果として、ハイヴは全て潰しました。だけどBETAの群れが世界中に向かって進出を開始しました。自分たちの方へ来ると思っていなかった各地の軍が壊滅、そして世界崩壊などということにもなりかねない。この案は却下。

 

 そうなるとアメリカが開発したG弾と呼ばれる新型爆弾を用いて各地のハイヴを一つづつ潰してゆくという案もあるが、このG弾とは一体なんぞやという疑問に突き当たる。調べてみると人類未発見元素の一つであるG11(グレイ・イレブン)と呼ばれる物質を利用した爆弾で5次元効果爆弾とも呼ばれるらしい。

 

 G11(グレイ・イレブン)の反応を制御せずに暴走させる機構の爆弾。臨界制御解放後G11(グレイ・イレブン)の反応消失までラザフォード場と呼ばれる爆発域は拡大を続け、それに伴い次元境界面が広がり、接触したすべての質量物は重力偏差により物体にスパゲティ化を引き起こす。それだけでなくラザフォードフィールド内のすべての物質はナノレベルで壊裂・分解される。

 

 これだけ見ればかなり有望そうなのだが、世の中早々上手く行かないもので、核兵器と違い放射性物質さえ出さないものの、被爆地後では半永久的に重力異常が被爆跡地に残存するという問題が存在する。これって意外とヤバイんじゃいか? さっきグロリアに計算させたんだが、もしG弾を地球上の全ハイヴに投下すると重力偏差で洒落にならない事態に発展することが判明した。重力偏差の影響で海水がユーラシア大陸側に全て集まるとか、天変地異レベルだぞこれ。下手したらそのせいで人類が滅ぶことも十分に考えられる。

 

 G弾案もダメとなると、やっぱりこの世界の人類に国家間・主義主張の枠を乗り越え、手を取り合って頑張ってもらうしかないという結論に到達した。

 

 さてと、それではまずは仕込みと参りますか。とりあえず、最初は彼かな。【楽園(アスガルド)】に要注意人物として登録されている彼のデータを照会する。【森羅の大魔法】で個人を特定し彼の経歴を探る。なるほど、ね。彼はアメリカから態々おいで頂いている訳か。都合の良いことに彼は帝都観光中のフリをしている。まずは彼に挨拶させて頂こうか。

 

「こんにちは。帝都は初めてですか?」

 

「こんにちは。ああ、初めての帝都観光さ。だけど、日本人はあまりアメリカ人のことをよく思っていないみたいだ」

 

監視対象から声をかけられてもあくまでも自然に、本当に観光に来たんですよと言わんばかりに擬態を続ける男。間諜として送り込まれてきているのだから、それが普通か。

 

「へぇ、そうなんですね。私はそういった感情は持っていませんが。……ところで、あなたのことはなんとお呼びしたらよろしいですかね? 『ウィリアム=モリス』さん。それとも『ケーニー=グエン』さん。もしかして、『ジェフ=コリンズ』さん? 三回も名前が変わっているなんて珍しいですね。そして二回も死んで『生き返っている(・・・・・・・)』なんて。【死者蘇生術(ネクロノミコン)】って意外と面倒なんですよ?」

 

 最初の『ウィリアム=モリス』は彼の本当の名前。彼は最初、米国市民権を得るために米国軍に入隊、1990年に国連軍としてアフリカ方面軍へ派遣、そこで『戦死』したことになっている。3年後に難民出身の『ケーニー=グエン』なる人物が、欧州戦線で彼の所属する部隊がBETA群に襲撃され『行方不明』になったとされている。そして最後の『ジェフ=コリンズ』という人物が『現在』の彼の名前だ。出身はアメリカ市民権を持つ、ごく一般的な中流家庭という設定だ。ご丁寧に全て戸籍は改竄済。恐く彼の本当の家族も彼は死亡したと聞かされているだろう。

 

 最初に既に死んでいる『はず』の自分の本名を告げられ、続けて巧妙に偽装された2つの名前を聞かされ、更に二回の死亡が何れも偽装だと見抜かれる。それでも平静を装い続ける彼の胆力は大したものだ。だが、その顔に貼り付けた笑みが僅かに歪むのは抑えられなかったようだ。

 

日本人(ジャパニーズ)はジョークがあまり上手くないらしいね。死んだ人間が生き返るわけがないだろう? それにそんな名前に心当たりはないね」

 

「そうですか、それは失礼を。失礼を働いたお詫びとは言ってななんですが、ひとつ面白い情報がありまして。五日後に佐渡島で興味深いものが見れるかもしれませんよ。お宅の国のプレジデント(大統領)が知ったら喜ぶかもしれませんね」

 

「Hahaha! 俺みたいな一般人が大統領と会えるわけがないだろう」

 

「それもそうですね。俺も変なことを言ってすみませんでした。それにしても帝都はいつからこんなに人気の観光名所になったのでしょうね。『アラスカ』や『台湾』からもお客人が来ている。それでは良い帝都観光を」

 

そう言って彼にひらひらと手を振り、その場を後にする。さて、次は『北の果て(アラスカ)』からいらっしゃった彼女かな?

 

 

 

 

 

 

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 とりあえず主だった間諜さん達にはご挨拶ができてから五日後、彼等に宣言したとおり俺は新潟に居た。ここからは見えないが、グロリアからの報告によれば民間船に偽装した工作船が出航しているそうだ。衛星も俺をトレースしているらしい。同時に佐渡島を監視している衛星も確認済みだ。ここまでは悪くない。

 

 電波ジャックもできないわけではないが、後々それを交渉の材料とされては面倒だ。彼等が自主的に俺の動きを追ってくれ、そこで『魔法(未知の技術)』を目の当たりにする。それが最善だ。では、これから彼等が交渉のテーブルに着きたくなるようにするとしましょうか。

 

「【歪時空間相転移(ア・ルカーラ)】」

 

 空間転移呪文で一気に佐渡島の上空へと転移する。それと時を同じくして俺を認識したのだろう光線(レーザー)属種のBETAが俺に照準を合わせレーザーを照射する。俺という単一の目標を目掛けて千を遥かに超えるほどの―――後でグロリアに確認したら2538条だった―――光線(レーザー)が集中する。だが、それは俺が展開する呪圏(スペル・バウンド)には余りにも無力だった。何の痛痒を与えることもなく、俺の目の前でそれらは遮断され、消滅する。

 

「さあ、駆除の時間だ」

 

 心臓のユダの痛み(ジューダス・ペイン)から魔力を取り出し、彼等へと破滅の呪文を紡ぐ。

 

「エゴ・エゴ・ア・ザラゴライ・エゴ・エゴ・ザメ・ラゴン 闇の公子 悪の長子と その王の名に於いて来たれ 悪魔の肉芽よ 汝が贄を食らい尽くせ  【暴凶餓飢地獄(エッド・ツェペリオン)】」

 

 

 佐渡島全土を覆いつくす暗黒結界により外界と分断し、その中を魔界の第一層と直結させて地獄の生物である【餓鬼魂】を召喚する魔法だ。ゴーレムやスタチューなどの無機物から成る存在には意味が無いが、有機質の存在には極めて有効である。結界内に餌が無くなると、結界とともに召喚された餓鬼魂も消滅する。

 

 一見すると特に問題ない魔法のように思えるが、裏を返せば制御失敗は地獄の生物である餓鬼魂の主物質界(プライム・マテリアル・プレーン)への解放を意味する。そのため禁呪に指定されている呪文だ。

 

 それにしてもこいつらは本当によく食べる。ハイヴの中にまで入り込んで喰らっているようだ。通常ならものの数分で終わるはずなのだが、さすがにあれは数が多いのかもう10分もこの光景が続いている。ホント、どれだけいるんだBETAは。

 

「さて、そろそろか」

 

 15分が経過し漸く結界中の餌を全て食べつくしたのか、結界ごとあれらが消滅した。やはり食べられなかったのか、地面から聳え立つ塔はそのままだ。あれも壊すべきだが、どうしたものか。モニュメントをその発動地点と定め、魔導式を展開、発現させる。

 

「魂を虚無に返し 全てを原初に戻すものに力あれ……」

 

 確かにああいったものを破壊する魔法のレパートリーは数多く存在する。単純に破壊するだけならば【死黒核爆烈地獄(ブラゴザハース)】で蒸発させてもいいだろうし、【絶対零凍破(テスタメント)】で原子の塵に還しても問題ない。

 

「……ここに喜怒哀楽を捨て去りし 新たな力求めん……」

 

 だが、これはいわば世界に向けたデモンストレーションだ。ということならばインパクトが重要となる。その点では召喚魔法の【神踏踏(タイタン・フィート)】でもって高位次元の巨神にモニュメントを踏み潰してもらうという構想もあった。だが、彼らにとって一番インパクトのあるものは何か。そう考えたときやはりこれだろうという考えで選択した術式。

 

「全ての存在よ・大いなる奈落に還れ!」

 

発動させたのはかつてライヴァン王国で開発された魔法。

 

「戦略級攻性魔法 【奈落(ギンヌンガガプ)】」

 

 通常であれば、魔道士が数百人単位で連携して発動させる代物であるが、それはそもそも魔道士の意識容量がそれだけ必要であるというだけのこと。俺はグロリアの形相干渉能力を用いて魔法を発言させているのであるから、彼女の処理能力が許す限りどれだけでも魔法は発動可能であるし、この魔法は理論上破壊力の上限は存在しない。つまり、彼女の形相干渉能力の上限と同じだけの破壊力を有する魔法を発動させることも可能となる。尤もそんな魔法を発動させたら地球クラスの大きさの天体なら、軽く惑星ごと崩壊するのではあるが。

 

 それはさておき、この魔法の効果であるが重力変調を引き起こし広範囲を崩壊させる。正確には超重力による圧壊であるため、簡単に説明するならば超極小規模での重力崩壊である。その破壊力は相当なものであり、これに巻き込まれた場合耐えられる物質はまず存在しない。BETAという地球外生命体によって築き上げられたモニュメントやその下に広がるハイヴの地下構造も例外ではなく、いとも簡単にその威力の前に崩壊の道を辿った。G弾とは効果は異なるが、発現した魔法の見た目とその後に残される痕跡はそれとほぼ相違ない。違うとすれば、この魔法は使用した後に土地に重力異常が残らないという点か。

 

 今まで佐渡島を構成していた忽然と消滅した光景を眺めながら、俺は主坑と呼ばれる真っ直ぐと地下へ伸びる穴へと飛翔する。情報によれば主坑の一番奥に反応炉と呼ばれるものが存在するらしい。それを探してハイヴの底を歩き回っていると、かすかな光を感じた。そちらへと歩を進めると大広間とも呼ぶべき空間にはうっすらと光る巨大な物体が鎮座していた。なるほど、これが反応炉か。だが、そこには先程 【暴凶餓飢地獄(エッド・ツェペリオン)】で殲滅したはずのBETAが多数確認できた。餓鬼魂の喰い残しかとも考えたが、それは考え難い。あれにあるのは凄まじい飢えだけであるため、喰えるのものなら全てを喰らい尽くす。

 

 となると、ここにいるBETAは先程からの短時間で生まれたことになる。その数だけでなく、増殖能力も桁違いに高いことが推察できるが、こいつらは一体どれほど滅茶苦茶な生態をしているのか興味がわいた。魔眼で星幽体(アストラル)を見ると、ひとつ驚くべきことが分かった。こいつらには星幽体(アストラル)が存在しない。これが意味するところは即ち、目の前の存在は通常の生物ではないということを意味する。

 

 つまりBETAとは神ではない意思在る【誰か】によって作り出された存在なのか。これは思わぬ収穫だった。こから『ある仮説』導き出されるがこれは公表すべきなのか否か迷うところではある。とりあえず反応炉の破壊のために目の前のBETA群の殲滅が先である。こいつらには星幽体(アストラル)が無いという情報が得られたことであるし、この呪文が効くかどうかひとつ試してみよう。それにこの呪文がこの世界で発動するかどうかの実験にもなるわけだし。

 

「【餓竜咬 (ディス・ファング)】」

 

 その呪文とともに、俺の影がにわかに蠢く。それはやがて竜の(アギト)のごとく変形し、BETA達の影へと襲いかかり、影へ食らいつく。しかしその身には何の変化も起こらなかった。

 

「ふむ、『魔法そのものの発動』には成功。しかし効果は現れず、か」

 

 これでBETAに星幽体(アストラル)が存在しないということで説明がつく。今の魔法は術者の影のなかに精神世界(アストラル・サイド)から低級魔獣を召喚する術。竜の(アギト)の形をしたそれが目標の影に食らいつき、噛まれた影の部分と同じ部位の肉体を損傷させる。

 

 この魔法は星幽体(アストラル)と肉体との共感現象を利用した術。精神世界(アストラル・サイド)で敵の星幽体(アストラル)を損傷させることで主物質界(プライム・マテリアル・プレーン)に存在する肉体を損傷させるという仕掛けだ。

 つまりこの術は星幽体(アストラル)が存在しない相手には効果を発揮しないわけであり、BETAに星幽体(アストラル)が存在しないということが実地で検証出来た訳だ。ほかにも【覇王氷河烈(

ダイナスト・ブレス)】やら【獣王牙操弾(ゼラス・ブリッド)】等色々と試したい術があるのだが、そもそも論として俺の魔力が届いたとしてもあちらの魔力がこちらまで果たして届くのか? という点が疑問である。

 

 いくつかの世界では比較的距離が近かったのか、それなりの『触媒』を用意してやれば魔力はちゃんと届いたが果たしてこの世界はどうだろうか。金色の魔王(ロード・オブ・ナイトメア)ならば触媒等関係なくこちらに影響を及ぼせるということは分かっているが、『触媒あり』でも果たして赤眼の魔王(シャブラニグドゥ)の魔力が届くのかは少し疑問が残る。とりあえずこちらに迫るBETA達を【ディスポーズ】で纏めて処理しておく。

 

 さて、残るは反応炉だがこれを破壊すればハイヴの攻略完了となる。だが情報では尋常ではなく頑丈であり戦術核に匹敵する破壊力を持つS11という爆弾でも複数個を効果的に配置しなければ壊せないらしい。物理的な強度はかなりのものということか。となればそういった要素を無視できる魔法が望ましい。【ヴォルテックス】ですり潰すか、それとも【魔天狼(フェンリル)】の分子崩壊連鎖で塵に返すか。これはそこまで徹底して破壊する必要もないようだし、と【ヴォルテックス】を選択する。ただ対象が巨大なだけあって通常の術式では全破壊は難しいと判断し、増幅呪文を追加詠唱する。

 

「我・法を破り・理を超え・更なる力を・欲す者なり・より強大なる事を以って・我が目的を果たさん! 我・法を破り・理を超え・殲滅の意思を抱く者なり……グロークン・グロークン・エイテ・イム・シーンス!  【ヴォルテックス】  顕現せよ(イグジスト)!!」

 

 増幅呪文を重ね掛けされ、効果範囲が広くなり威力も増した【ヴォルテックス】の力場渦動により反応炉が微粒子にまで分解されてゆく。さて、ここはこれでいい。問題があるとすれば、アトリエと呼ばれるBETAの特殊物質精製プラントだろう。ここに貯蔵されているG元素があるといろいろ面倒な事になりそうである。先程よりもより丹念に破壊すべき場所である。選択する術式は物質を原子レベルで崩壊させるものが良いだろう。ならばと【絶対零凍波(テスタメント)】をチョイスする。

 

「ルーイ・エリ・グレ・スコルビリー 汝 黒き魂にて 我を清めたもう おお冥王よ 至高なる者の強き集いのうちに 我は死の凍嵐を身に纏いたり 今新たなる契りによる氷雪の力束ねん 【絶対零凍波(テスタメント)】」

 

 一瞬にして対象の空間が極低温に変化する。この呪文は冷気を放射して対象を冷却するのではなく、術者の手のひらを向けた空間に、電磁場を作り出す呪文である。作り出された強大な電磁場で原子を一定方向に整列させることにより、一気に極低温に温度を低下させる。目標となった物体・空間の温度は-273.15℃、つまり絶対零度へと瞬時に変化し、あらゆる原子間結合が崩壊する。当然それはBETAの施設でも遺憾なく発揮されるわけであり、アトリエはその原子間結合を断ち切られG元素諸共原子の塵へと還った。

 

 だがここからG元素を抽出しようと試みる者がいないとも限らない。 【絶対零凍波(テスタメント)】 は確かに原子間の結合を崩壊させるが、原子そのものは残る。ならばどうすればよいのか。単純な話である。手が出せない所へと移動させてしまえば良い。それだけである。

 

「全ての命を育みし 母なりしもの無限の大地 我が手に集いて力となれ  【蓮獄火炎陣(ヴレイブ・ハウル)

 

 これは術者の前方一帯を溶岩流のふき溜りと化す術である。たっぷりと魔力を注ぎ込み、地球の地下深くからマグマを呼び寄せる。魔力が切れればただの火成岩の塊となってしまうだろうが、少なくとも1年はマグマの供給が続く程度には魔力を込めておいた。1年もすればマグマとともにG元素もマントルの中へ沈みむだろう。

 

 それ以前に回収しようとしたところで、溶岩中からG元素を回収することは困難を極めるだろうし、これで一応の対策は出来たと思いたい。さて、この状況を見た国々が大人しく交渉のテーブルについてくれれば良いのだが。さて、それでは明後日あたり横浜の彼女のところへご機嫌を伺いに行ってみますかね。ハイヴが破壊されたという情報は遅くとも明日には彼女の知るところになるだろう。

 

ああ、それにしても……良いことをした後は本当に気分の良いものだ。

 

 

 




さて、世界はこのことをどう受け止めるのでしょうね?
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