絶望的な仮説が立ち上がった翌日、俺は行動を開始していた。もしも相手が
この宇宙における真の造物主であり、かの者が思考することによってあらゆる存在が創造され、あらゆる『存在』を『定義する存在』である。ここはそういった世界である可能性が出てきたのだ。幸いにしてその存在は地球という惑星のことなど何の気にもかけていない、というよりも太陽系という恒星系を『生み出した』ということすら分かっていないのであろう。あれはただ其処にあるだけの存在であり、そしてそれが全てでもある。
この宇宙というものはかの『
この状況で他の旧支配者やら
つまり
ただし、ニャルラトホテプというやたらと人類にちょっかいを出したがる困った神も一柱存在するのだが。
未だ全て推測の段階を出ていないのだから、全く違う可能性もある。そうであったのならどれほど救われるだろうか。まずは不可思議な現象や、怪しげな儀式等が行われていないかを調査する必要がある。その調査のため、自身の持てるすべての技術を用いる。グロリアももちろん同行させる。彼女を切り札として温存しておく余裕などないのだ。幸いにして発注された戦術機改造用の素材は未だ届いていない。すべての資材が搬入されるのは五日後の予定らしい。その五日の間に俺は世界中を駆け巡った。
まず俺はアフリカを訪れた。未だ多数の秘密の部族が存在するアフリカで、怪しげな儀式が行われていないかを知るためである。そしてそれが彼らを呼び寄せるものであったとしたならば、力ずくでも止めさせねばらない。場合によっては部族ごとこの地球上から消し去る必要もある。
別の世界の出来事だが、
グロリアのセンサー類を最大駆動させ、同時に俺も魔力感知の術式を使い、過去に魔力が流れたと考えられる場所も含めて徹底的に洗い出しを行う。その結果として、なにやら怪しげな祭祀を行う部族を見つけることには成功した。
怪しげとは言っても、単純に肌の白い人間を生贄に捧げるだけであり、それが『
次に向かうのは未だ手つかずの自然が残るインドネシア・ニューギニア・オセアニアである。こちらでもアフリカと同様の独自の自然崇拝のようなものが存在していたが、『
最後に訪れたのが南北アメリカ大陸である。特にこの地は他の世界ではマサチューセッツ州アーカムに存在するミスカトニック大学とその附属図書館が存在し、怪異の宝庫といっても良いし、南アメリカ大陸には未だ文明未接触部族が存在している。彼らの中にそういった行為を行う者がいるのではないかと考えたのだ。鬱蒼と茂るアマゾンの密林の中で暮らす部族に目を光らせる。するとやはり、ここにもまた(文明人から見れば)奇怪ともうつる祭祀を行なっている部族が存在することが判明した。
双子が生まれた場合、先に生まれた赤子をアマゾン川に浸し、頭から股まで二つに切り分け、半身をアマゾンの川の神へと捧げ、もう半身を森の神の化身であるジャガーへと捧げるというものだ。三つ子の場合には、一番先に生まれた赤子の首を撥ね川の神へと捧げ、二番目に生まれた赤子は足を撥ね
確かに見ていて気持ちの良い画では無いが、問題はその祭祀が外なる神々や旧支配者、その眷属に繋がる物か否かという点である。彼らの祭祀を具に観察した結果、その他の原始宗教と同様であり、少なくとも
最後に訪れたのは北アメリカ大陸である。この世界でも超大国として君臨するアメリカ合衆国は無論のこと、北方の地に生きる少数民族に変わった動きがないかを確かめるためである。先住民族に関してはグロリアに命じて彼らの思考を読ませ、奇妙な足跡や気味の悪い声等、特にミ=ゴやそれに類する伝承などが残っていないかを確認する。その後に、G弾と呼ばれる核を凌ぐ破壊兵器を作り上げたアメリカ合衆国の首脳部やその開発に携わった人物の記憶を徹底的に洗う。
そこに何か不審な動きはなかったのか、その作成を唆す誰かが居たのではないかと考えたのだ。そういった人物が実際に居たとしても、それが即ち
少しでも世界の滅亡を回避することができるよう、ニャルラトホテプと対立する
とりあえず、先住民族の調査では怪異に類するものは発見できなかった。G弾開発者や政府首脳部の周辺にも魔の気配は存在しなかったので、一先ずは安心といえる。また、この世界にはミスカトニック大学とその附属図書館も、そもそもマサチューセッツ州にアーカムなどという街は存在していなかった。これはもしかするとという一条の希望が生まれた。この世界には外なる神々は存在していないのではないか、という淡い希望が。だが、それを裏付けるために、旧支配者や外なる神々の召喚の儀式や呪文を唱えて、もし本当に降りてきたら世界中で交感能力のある者たちは発狂し、或いは魔の落とし子が世界中で誕生するだろう。考えただけでぞっとする。ここは一度、南極大陸まで足を運び、其処に眠るジョゴスがいるかどうかを調査する必要がありそうだ。そう結論付け、俺は日本帝国への帰路に着いた。
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帝国で俺を待っていたのは搬入された資材達であった。また、この戦術機改造の為に横浜基地所属の整備兵と、資材の加工を手伝うという名目で派遣されてきた帝国技術廠の技術者数名が助手として作業に当たることとなっている。作業は二班に分かれ、事前に用意された設計図に従いパーツを組み上げてゆく班と、出来上がった部品を機体内部へと組込んでゆく班に分ける。俺は強化装備への
あくまでも今俺が作り上げるのはプロトタイプとしての強化装備であり、量産化の暁には工場で大量生産されることになるだろう。この作業自体は俺一人でもできるようなものであるが、そこに封入する図版が非常に細かい為に、そこで時間を喰ってしまう。
そうは言っても戦術機内部に組み入れる配管のような作業規模ではないこともあり、六着の強化装備―――男女ともに三着づつ、S・M・Lとサイズも三種類用意したので合計九着となる―――はその日のうちに完成した。その後、戦術機改造の進捗具合を確かめ、また配管が設計通りであるかを確かめ、俺の初日の作業は終了した。
二日目、本日の作業に入る。今日俺が行うのは、
この世界の戦術機では間接思考制御が取り入れられているようであるので、それを利用させてもらう。つまり、通常の戦術機の操作と同様に使いたい魔法を思考で選択し、操縦桿若しくはフットペダルにより使用する
これも実験が成功すれば手作りではなく、精密機械として工場で生産することになるだろう。この作業はさすがに俺一人では無理なので、何人かに手伝ってもらう。しかし、手伝いを募集したら我先にと群がってくる光景には少し驚いた。確かに未知の技術に触れる機会であるからして、知的欲求が働くことは理解できるがまさかこれほどだとは思っていなかった。
とりあえず適当な人材を選び出し補助に当てる。戦術機の間接思考制御と連動させるため、その為のプログラムを作成してOSに組み入れるのだが、どうもOSによる機体制御、特にジャンプ後の着地や緊急回避後に姿勢を強制的に安定させるための動作など姿勢制御がどうもぎこちないように思えるが、下手に手を入れて『起動しなくなってしまいました』では済まない。これは専門の技術者が考え抜いて組み上げられたOSなのだから、基幹部分はそのまま使うのが良いだろう。
そして俺にしか出来ない仕事として、
翌日俺を待っていたのは彼等だけではなく、さらに大人数の工員達だった。確かに今日からは人数がいればいるほど助かる作業であるので非常にありがたい。彼らの協力もあって、
その日の夜、ささやかながらパーティが催されたのであるが、そこで俺はこの世界の食物を初めて口にした。一緒に作業に当たった整備兵の一人から『どうだい。うちの基地の食堂はなかなかのものでしょう』と声をかけられた。俺は「ええ……非常に個性的な味わいのある料理ですね」と返しておいた。曖昧表現が大好きな日本人であることをここまでありがたいと思ったことはなかった。同席していた帝国技術廠の技術者も『これほどの食事を饗するとは、国連もなかなかやりますね』と同意していたので、この食事はこの世界だとかなり美味しい部類に入るのだろう。
正直に言おう、確かに不味くはない。例えばこの『コッペパン』や『サンマの塩焼き』であるが、その味はよく言ってもそこそこといったところである。だが問題はそこではない。味は確かにそれに近くとも何とも言いようのない違和感が拭いきれない。そう、『コッペパン』や『サンマの塩焼き』の形に固めた『何か』を食べているような……。
そんな不安が心に残る俺とは対照的に、整備班と帝国技術廠からの助っ人の方々も、このパーティを楽しんでいるようだったので、それだけは心から喜ばしく思った。さて、その後であるが、なぜか『俺』が戦術機のシュミレーターに乗るということになってしまった。なんで俺、と思ったが彼ら曰く『アンタしか魔法使えないだろう』とのことらしい。実機試験は日本ではできない。やるのは遥か遠いアラスカの地。そこで彼らは、戦術機のシュミレーターでそれを再現できているかを俺に確認して欲しいそうだ。
外部から確認できるからその確認かと思ったが、なぜかその場に居合わせた香月博士がそれに乗っかり、そのまま強化装備に着替えさせられ、俺はシュミレーターに乗せられてしまいました。魔法が無事発動するかどうかは俺が一度実機を固定したまま使ってみれば分かることだと思う。少なくともBETA相手の戦術機動をする必要性は微塵もないよね? 結果……酔いました。なにあれ、操縦者にかかるGを強化装備で無理やり押さえ込むとか……俺が乗ったことのある巨大兵器の類は、大抵操縦者保護を観点に設計されているのであそこまで酷いことになった場合はなかった。
例えば竜機神では機体と融合したり、融合段階が低い場合には操縦室のようなものが置かれていたが、いずれも慣性制御や重力制御によって乗っている人間には影響が出ないように配慮されていた。この世界の戦術機ではまだそういった技術が未発達であるということなのだろう。ああ、ちなみに翌日の起動試験は成功。俺はさっき言ったとおり、固定状態で基礎級魔法を発動して、標的のBETAの残骸? のような物体を破壊することに成功したし、【シールド】の呪文では大和級戦艦から発射された主砲弾の防御に成功した。
実際に動かして大丈夫かどうかはこの時点で確認済みなので、後は初期起動試験だったのだが、ちょうどいいパイロットが見つからなかったので、例の特殊部隊の一人、確か『涼宮茜』とかいう少女が担当してくれることになった。結果として、初期起動試験は無事に終わり、後はこれをアラスカのユーコン基地に搬入するだけの運びとなった。
さて、問題の南極大陸であるが、狂気山脈に相当する地形は存在しないかどうかをグロリアに徹底的に調べさせた。特に南緯82度、東経60度から南緯70度、東経115度にわたって大きな弧を描いて南極を横断する先カンブリア時代の粘板岩で構成された山脈がないかを調査させたが、そういったものは南極の分厚い氷層下にも存在しないという報告が上がってきた。
南緯83度、西経60度から南緯73度、東経165度にわたって直線上に南極大陸を横断する山脈は存在した。念のため確認させたとところ、この山脈は先カンブリア時代よりも新しい地層であり、火山活動によるものを除けば、どんなに古くても4億5千万年ほど前のものであるということであった。その他の地層についても約5億年ほど前のものが最古であり、先カンブリア時代のものは存在しないという調査結果であった。つまりこの世界には『古のもの』は存在していなかった?
いや、楽観しをしてはならない。俺は機体がアラスカに搬入されるまでの間に、香月博士へ「少し気になることがあるので、しばらく留守にします」と告げ、自分で出向いて本当にそこに痕跡がないかを確認した。特に山脈に洞窟の入口が存在していないか、存在していた場合にはその中に不自然なほど整った巨石群など、明らかに自然に出来たとは思えない痕跡が存在しないかを確認する。結果として山脈については特に異常はなかった。
分厚い氷層の下も調べたところ、洞窟は存在した。だが、そこに到達するための手段が問題である。結果として、入ることはできた。だが、そのために形相干渉能力で氷を元素変換したのでバレていないか心配である。すべての洞窟を回ったが、いずれも自然洞窟であり、そこに不自然な浅浮彫などは確認できず、ジョゴスは無論のこと白色のペンギンも存在していなかった。ある意味で助かったが、ある意味では拙いと言える。『古のもの』が居なかったということは、ジョゴスを召喚することもできないということである。敵がミ=ゴであった場合、ジョゴスをこちらの戦力として組み入れることができないことを意味する。だが、そこに楽観視をする自分もまた存在した。もしかすると『創造主』はミ=ゴではないのかもしれない、と。もしそれが事実であるとすればどれだけ救われることだろう。しかしそれを裏付ける事実もまた無いのだ。
太平洋の南緯47度9分 西経126度43分の海底に沈むルルイエが存在するのならば、同様にフォマルハウトに住まう
日本へ帰還すると、香月博士から戦闘用車両の魔法使用改修型実験機のベースが決定したと告げられた。ただし、事前の予測とは違い戦車はソ連製のT-80UM-1を使用するが、多連装ロケットランチャーは米国製のM270を使うことになったそうである。そして搬入される実験機のテストパイロットは欧州連合から選出されるそうだ。魔法技術を何としても手に入れたいアメリカと何とかして計画に関わりたい欧州連合の利害が一致し、今回の決着に至ったとは博士の弁である。また、自走砲というものもあるそうなのだがこれもソ連製の2S19という車両で決定したそうだ。
俺はこれらの車両の設計図を受け取る。これらの車両はコンセプトモデルであるため、配管の埋め込みなどは行わず単なる内蔵だけに留めるが、それにしても設計を生かしつつ実験車両を作成するのはなかなかに骨が折れる。内部スペースに余裕があると改造するのには楽なんだがなぁ。無いものねだりをしても仕方がないので、下の車両をなるべく生かすという制限の範囲内で改装案を作り上げるしかない。また、時を同じくして、アラスカへの機体搬入が完了したとの報告を受けた。起動実験自体は日本ですでに終了しているので、アラスカで行うのはその性能試験と、実験機のデータ収集及び実戦における運用方法の確立、そして量産型を生産するに当たっての改善点の洗い出しである。「成果を期待しているわよ」との博士からのありがたいお言葉を頂戴し、俺はアラスカへはユーコン基地へと発った。
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アラスカへと到着した俺を待っていたのは、どんな凶悪犯が護送されてくるんですかと聞きたくなるような、厳戒態勢での出迎えだった。俺ってそんなに嫌われているんだろうか。無事にユーコン基地へと着けたのでその点では問題ないと言えるのだが……。とりあえずの目的地に到着したのではあるが、実際に改造用として使用する車両の搬入はまだであるらしい。うん、こちらも設計図すらまだ出来ていないのだから、全く問題はない。その後、プロミネンス計画の責任者であるというクラウス・ハルトウィック氏に案内され、実験機のテストパイロットと実験機の整備主任を務める女性を紹介された。
「セシリア・クラレンス少尉です。この度、テストパイロットに着任致しました。人類の勝利の為、身命を賭して任務に臨む所存です。よろしくお願いいたします」
生真面目そうな女性から挨拶を受けた。年の頃は16~7といったところ。こんな年齢の人物でさえ衛士として戦わなくてはならないという現実を改めて突きつけられた。その後を追うようにして彼女の隣に居た少女から声をかけられる。
「私は、マリア・リコリスっす。人類史上初めての魔法を使う戦術機を整備できると聞いて一晩眠れないぐらい興奮したっす。よろしくお願いしまっす!」
こっちはやたら元気がいい。元気があるのはいいことだと思う、うん。彼女たちとの自己紹介が終わると、ハルトウィック氏がこう切り出した。
「親交を深めているところに悪いのだが、我々が貴君をプロミネンス計画に受け入れるに当り、どこかのグループで活動してもらうことになる。その件についてだが、現在我が基地では、三個の戦術機試験小隊があるのだが、機体が日本帝国のものであるということから、貴君はアルゴス試験小隊所属となる。ただし、貴君は車両の改造を行い、これがソ連製であることから、イーダル試験小隊への立ち入りも認めると、ソ連軍から回答があった。ステラ・クラレンス少尉及びマリア・リコリス伍長は既にアルゴス試験小隊と合流している。本日15:00より第三ブリーフィングルームで彼らとの顔合わせを行う予定だ」
「了解しました。では、15:00時に第三ブリーフィングルームへ出頭します」
なるほど、これからしばらくの『同僚』との顔合わせ、ね。態々のご配慮痛み入る。さて、15時まであと2時間程だが、とりあえず与えられた自室で設計図でも見るとしましょうかね。グロリアに頼んでミニチュアスケールの立体投影映像でも出してもらおう。これならば、どこにどの程度余裕があるか分かりやすいだろう。
だが、その前に、部屋の片づけからしなければならないだろう。まあ確実に、何処の誰の持ち物だか分からない『落し物』が散乱しているのだろうし。部屋に入る前から気持ちが滅入るのが自覚できた。はぁ……世界の皆さん、魔法が珍しいのはわかるけれど、もう少しお手柔らかにお願いします。何かやろうとする度に、一々部屋を片付けるのって面倒なんですよ?
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ユーコン基地第三ブリーフングルーム―――
15:00、第三ブリーフィングルームには重苦しい空気が漂っていた。本日付でアルゴス試験小隊に配置される、とある人物と先任である彼らとの顔合わせ、ということに名目上はなってはいるが、その実、とある人物を自陣営に抱き込みたいという、各国の思惑を牽制するためここに配置するという意味合いが強い。
特にソ連はその人物が自国の戦車を改装するという点『だけ』で、自国の試験戦術機部隊であるイーダル試験小隊への立ち入りを認めている。これはいくらここユーコン基地でプロミネンス計画―――諸国間の情報・技術交換を目的とした国際共同計画 ―――が進行しているといっても、通常であれば自国の情報流出や機密漏洩の危険性を孕み、このような処置は考えられないことだ。だが、ソ連はあえてそれを行なった。つまり、その危険を冒してでも取り込みたい技術であり、人物であるという証左に他ならない。
統一中華戦線もそこに何とかして割り込みたいだろうが、現状では、彼らには彼を招く根拠がない。恐くではあるが、ソ連の改装車両の操作人員として自国の人物を送り込めるよう裏で工作している可能性が高いが、果たしてソ連がそれを認めるだろうか。そういった意味では、自国にあの人物がたまたま出現し自国の戦術機が世界初の魔法使用改修型として実験機として選定された―――あの魔女がその選定の中心に居るとしても、だ―――日本帝国はついているとしか言いようがない。さらに自国内に抱えていたハイヴまで、彼の対外的なパフォーマンスによって攻略されている。
聞き漏れてくる情報では、何故か佐渡島ハイヴ最下部にマグマが滞留しているらしいが、それを差し引いてもあの国は神がかった何かに守護されているかのような幸運が舞い降りたといってもいいだろう。その噂の人物が一時的とはいえ所属することになったのであるからして、各員ともその顔から緊張の色を隠せないでいた。そして小隊の指揮官であるイブラヒム・ドーゥル中尉に続いて彼が入室すると、室内の視線が一瞬にして彼へと集中する。その一挙一動すら見逃すまいとするかのように。
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「えー、初めまして、田中太郎と申します。階級はありません。日本帝国
あくまでも『民間協力者』である。たとえそれが単身でBETAのハイヴを粉砕できたとしても、民間協力者でしかない俺には彼らを従わせる権限はないし、下手をすれば強制的に強制徴兵される可能性もある。前者はともかく後者は勘弁してもらいたいものだ。まあ、そうなったら実力を持ってそれに抵抗するだけであるが。銃を撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだ、とは何処かの小説で探偵が吐いた言葉であったが、正しくそうだと思う。
俺のその言葉に、黒髪黒目の青年の手が挙がった。
「はい、えーと・・・・・・」
「ユウヤ・ブリッジス。階級は少尉。その『日本製』の戦術機は、本当に実戦で役に立つのですか?」
日本人だと思っていたのだが、名前から察するにハーフなのだろうか。それにしてもなんともまあ直球の質問が来たものだ。俺としては実戦に投入して役に立つように作ったつもりだが、本当のところはこれから機動性試験等を行うとともに、搭載する術式を変更するか否かという根本的な部分や、間接思考制御による魔法の発動手順、それを実行するOSに組み込むプログラムのバグ潰しや術式選択の方法がこれでよいのか、といったことを順次行っていかなければ、安心して戦場へ送り出せないというのが本音である。
「はい。そのつもりで設計はしましたが、未だ実験段階ですので様々な仕様変更が出てくるかと思います。ですので、少尉のご質問にある実践で役に立つかどうかについては、未だ未知数であると答えざるを得ません」
「そうですか、分かりました」
どうやらある程度満足してもらえたようだ。ただ、なぜか少々落胆しているように見えるのは気のせいだろうか。続いて手が挙がったのは小柄な女性である。黒目黒髪という特徴は先ほどのブリッジス少尉と同じであるが、小麦色の肌をしている。東南アジアあたりの出身なのだろうか。外見からは活発そうな印象を受ける。
「はい、ではそちらのお嬢さん」
「お嬢さんじゃねぇ。アタシはタリサ・マナンダル。階級はユウヤと同じ少尉。その実験機は魔法を使うと聞いたんだけど、どういったモンなんだ?」
うん、予想通りというか、初対面なのにすごく砕けた態度で接してくるね、この子。フランクな方がいいとは思うけれど、それだと一部の方は気分を害するのではないだろうか? それにしても、何ができる・・・・・・か。今のところ実際に何かをしたというのは横浜基地での起動実験だけであるし、その他は全て理論上可能と但し書きがつく代物である。ここは素直に横浜基地でどういった魔法を使ったか述べておくのが吉だろう。
「そうですね、先ほどのブリッジス少尉からのご質問の時にもお答えいたしましたが、現状ではまだ実験機です。本来は様々なことができる『予定』ですが、理論上可能であるという段階ですので、横浜基地で起動試験を行った実例が2つありますので述べさせていただきます。まず、【ハック】と呼ばれる魔法の発動には成功しました。これは切断用力場平面を射出する攻撃用魔法で、発動試験では突撃級の装甲殻を十枚重ねたものと、要撃級の前腕を九本束ねたものを標的として使用し、両目標ともその完全切断に成功しています。
また、【シールド】と呼ばれる魔法の発動にも成功しました、こちらは防御用力場平面を任意の場所に展開する魔法で、発動試験では大和級戦艦から発射された主砲弾の防御に成功しました。現状でご説明できる発動できた魔法の効果は以上となります。これでよろしいでしょうか。あと、無理に敬語を使わなくても俺は気にしませんので、もっと砕けた口調でいいですよ」
発動に成功した魔法の説明に、「なにぃ!」やら「そんな馬鹿な!」とか「ありえん……」といった反応が交じるが、それがができるからこその魔法であり、戦術機や戦闘車両を態々改修してまで搭載する価値があるものだと思っている。そこに恐る恐るといった様子で、実験機のテストパイロットとなるクラレンス少尉が手を挙げる。
「はい、それではクラレンス少尉。ご質問は?」
「はい。魔法とはどこまでできるようになる技術なのですか?」
なるほど、これは答えづらい質問だ。極論からすれば、才能と魔力、そして何より正しい修行に理論(及び触媒)があればほぼ何でもできるようになるのが魔法であり、そして最後が欠如すれば何もできないのもまた魔法なのだ。うーん、これはどう答えたものか……。
「うーん、難しい質問ですね。例えばの話ですが、諸君らが実戦で使える魔法という括りでならば、その数は少ないと言える。現在のところ実験機に搭載されている
ただし、強力な魔法にはそれなりの代償が発生するのでこの先安全性が担保され、運用方法が確立された後でという条件付きとなります。そうですね、折角この機会に皆さんと顔を合わせる機会に恵まれたのです。これもひとえに縁というものでしょうから、俺が実際にいくつかの魔法を発動させてご覧に入れます。実験機で魔法を扱う際になにかの役に立つと良いですし。イブラヒム中尉、どこか適当な演習場などありませんか? 出来れば色々破壊しても文句が出ないような場所だと都合がいいのですが」
俺の問いかけに彼は、それらならばと演習場の端辺りを指定してきた。そこには草木生えぬ禿山と―――荒野―――ツンドラかもが広がっており、実験には最適と言えた。
善は急げとはよく言ったもので、早速兵員輸送車に揺られ、指定された地点へと向かった。よく観察すると、データーを収集するためなのか、装甲指揮車等も展開していることが見て取れた。とりあえず、使う呪文は八種類程度として、していろいろなものを見せた方が良いだろうと思う。
「それでは、今からいくつかの魔法を使用します。まず前半の5種類は貴方方にも使える魔法です。いくつかは現在実験機に搭載されていないものなのですが、将来的には搭載されるかもしれないものです。ではます・・・・・・【トランプル】
トリガーヴォイスに応え、一抱えもあるような岩が突然に砕け散る。その破片がこちらに向かってこないように【シールド】を発動させる。
「【シールド】
見えざる壁に阻まれ、石塊は俺たちの目の前で遮られる。
「では次です。【ディスポーズ】
目標とされた大岩が格子状に発生した切断用力場平面によりバラバラにカットされる。それを見逃さず、更なる呪文詠唱に入る。
「我、法を破り・理を超え・殲滅の意思を抱くものなり……グロークン・グロークン・エイテ・イム・シーンス! 【ヴォルテックス】
「我・法を破り・理を超え・破軍の力・ここに得んとする者なり……爆炎よ・猛炎よ・荒ぶる火炎よ・焼却し・滅殺し・駆逐せよ・我の戦意を以って・敵に等しく滅びを与えよ……我求めるは完璧なる殲滅! 【
突如として虚空に火球が出現し、大爆発と共に火炎旋風を巻き起こし全てを焼き尽くしてゆく。まず、最初の3種種類は実験機に搭載される魔法であることを告げ、後の2種類は発動までに隙ができ、有効な運用方法が確立されるまでは配備するつもりはないとコメントした。さらに、後学の為、他の魔法体系を披露することを告げる。
「其は天を焦がす偉丈夫・まといしものは青白き稲妻・雷の荒ぶる支配者よ・轟く者よ・戦士の誓いと盟約の元に・我は汝を召喚す・出よ 【
呼び声とともに、空間に透明な巨人が形作られ、そこに青白い光が灯る。その体からは溢れんばかりのエネルギーを今にも放出せんと小さな放電が所かしこで起こっている。
「ああ、気をつけてくださいね。成りはあんなのですが、内部に天然の落雷数十発分のエネルギーが封入されてますから、まあ、要塞級でも触れた途端に蒸発するでしょうね。わかりやすく説明するなら熱量換算で大和級の主砲から発射された主砲弾100発分以上の熱量といったところでしょうか」
内包されるエネルギー量は、熱量換算でおよそ60GJ。大和級の主砲弾のエネルギー量がこれまた熱量換算でおよそ591MJであると言えば、その膨大さがわかるだろう。ちなみに第一戦術級攻性魔法ほどの大エネルギーとなると、【ディフレイド】や【シールド】若しくは【シェルター】といった防御魔法で防ぐことはできない。防御用力場平面の処理能力を超えるからである。これらの防御用力場平面の処理能力は約50GJであるとされている。そのため、1
そのため、【シェルター】使用中に戦術機部隊が居る区画ごとの面制圧支援要請を受けた場合の支援砲撃は通常弾頭ならば問題はないが、流石に核砲弾の爆発エネルギーを防ぐことはできないため、そういった場合の面制圧には核砲弾は使わないように言い含めておかなければならないだろう。魔法は万能ではないのだ。
なぜか引き気味のメンバー達。まあ、確かに第一戦術級攻性魔法だから威力に驚くのはわかるけれど、そこまで驚くほどではないような?
続いて使用したのは、見た目が派手という理由で召喚魔法だ。
「大いなる力の三角 六芒 五芒 光と闇 円盤に満つる月と 竜王の英霊に申し上げる 天の理 地の理 人の理 力の円錐ディマジオの紋章もちて 我に聖なる炎 三頭黄金竜の力 与え給え 【
竜の世界から、高次存在の竜を召喚して、その吐息(ブレス)により敵を滅ぼす呪文である。召喚された竜は高次の存在であるため、吐息はかなりの高位の存在までにも通用するその上、見た目も派手というおまけ付きである。最後に使う呪文は彼の世界で最強とされた呪文。
「黄昏よりも昏きもの 血の流れよりも紅きもの時の流れに埋もれし 偉大な汝の名において我ここに闇に誓わん我等が前に立ち塞がりし 全ての愚かなるものに我と汝が力もて 等しく滅びを与えんことを 【
その結界はと
一応、『
「さて、魔法とはこういったことができるようになる技術です。貴方方が扱える魔法体系は限られていますが、それでも工夫の仕方によっては素晴らしい結果をもたらすことになるでしょう、以上で魔法の実演を終わります」
俺は彼らを促し、基地へと帰還の途につく。ああ、明日から始まる試験日程に、戦闘用車両の設計と改装……さあ、忙しくなりそうだ。気合を入れていこう!
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大和級の主砲弾の運動エネルギーは、K=1/2mv2乗より求めました。資料より、大和級の主砲弾の初速を780m/s,弾体の質量をおよそ1500kg(いずれも九一式徹甲弾。通常弾も運動エネルギーはほぼ同等)砲弾内の炸薬量を33.85kgとして算出しました。ただし主砲弾内の使用炸薬であるTNAのデータが見つからなかった為、炸薬はTNTとして計算してあります。またTNT1gあたり1000calと定義し、熱力学カロリーとして1cal=4.184Jの値を使用しています。内訳は、弾体の運動エネルギーが450MJ:砲弾内の炸薬の化学エネルギーが約141.62MJで合計591MJです。落雷のエネルギーは1発で1.5GJとして40発分で60GJとしてあります。また核兵器のエネルギーはTNT換算10トンで41.8GJとして見積りました。また、標準的な核弾頭としてW87核弾頭の核出力TNT換算300kt、1.25PJとして計算してあります。
大和級の主砲弾の運動エネルギーは、K=1/2mv2乗より求めました。資料より、大和級の主砲弾の初速を780m/s,弾体の質量をおよそ1500kg(いずれも九一式徹甲弾。通常弾も運動エネルギーはほぼ同等)砲弾内の炸薬量を33.85kgとして算出しました。ただし主砲弾内の使用炸薬であるTNAのデータが見つからなかった為、炸薬はTNTとして計算してあります。またTNT1gあたり1000calと定義し、熱力学カロリーとして1cal=4.184Jの値を使用しています。内訳は、弾体の運動エネルギーが450MJ:砲弾内の炸薬の化学エネルギーが約141.62MJで合計591MJです。落雷のエネルギーは1発で1.5GJとして40発分で60GJとしてあります。また核兵器のエネルギーはTNT換算10トンで41.8GJとして見積りました。また、標準的な核弾頭としてW87核弾頭の核出力TNT換算300kt、1.25PJで、核融合反応時間は30nsですが、核攻撃を想定した場合の計算で1PJ/sとしてあります。これは反応時間がごく短いため30nsでも1sであっても1sに発生する熱量は同じであると見なして計算している為です。