インフィニット・ストラトス 重力戦線 作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)
(待てコラ、おい。ふざけてるのか、この状況は? 俺を精神的処刑に処する気か?)
俺は現在、死にかけていた。なんで、こうなったんだろうな、そう思わずにはいられない。
明らかに大きな校門の前に俺は立っている。時刻は、十一時。明らかに遅刻だ。そう、此処は学校だ。それも、超有名校。だが、俺は歩き出す気力が湧いてこない。
何分か経っただろうか、緑髪の女性が俺の方に歩いてきた。
「あ、来たんですね〜。よかったです。私は、貴方のクラスの副担任を務める山田真耶です」
山田先生は、俺の顔を確認してホッとしたような表情をしている。そんなに遅れた事が心配だったのか? それも仕方ないだろ。こっちはアフガンから直通で来たんだぞ、遅くなるに決まっている。それにしても日本の土を踏むのはいつ振りだろうか、最後にこの国にいたのがいつだか思い出せない。
「ええ。それじゃ、よろしく頼みますよ、山田先生。早いとこ行きましょう」
「そうですね。早く行かないと、大変な事になりますもんね。ではついて来てください、雨田君」
俺は山田先生の後をついて行く。これから教室に向かうのだろうが、この空気をなんとかしてくれ。お前もそう思うだろ、ーーーーーーー。
「此処が、貴方のクラスの一組です。少し、織斑先生と話してくるので待っていてくださいね」
「何処にも逃げやしませんよ、俺は」
そう言って山田先生は教室に一人入って行く。廊下に一人残された俺だが、もう慣れた。一人で国外へ飛ぶことだって何回もあったからな。その慣れだ、慣れ。
それはそうと、教室の方から何やら怒鳴り散らすような声が聞こえる。一体何があったんだろうか。
「おい、入って来い」
突然、怒鳴り散らす声はなくなり、凛として響く声が聞こえてきた。ああ、この声はブリュンヒルデか。しかし、何故世界最強が此処で教師を?
そんな疑問を頭の片隅にいれながら、教室に入る。
入った瞬間、集まるのは視線。うわ、やだやだ。ただでさえ目立つのは嫌いだっつーのに、これだけ好奇の目を向けられるとな、精神的処刑になるぞ。ああ、今フランスにいるあいつに早く会いたいものだ。あの癒しは誰にも真似できんだろ。
「諸事情により入学が遅れたやつが今来た。これより、自己紹介をしてもらう。雨田、やれ」
やれやれ、しなければならないのか。こんな面倒なことしていられるかっての。だが、しないと殺されそうな気がする。何故だろうか、わからないが本能的にそう訴えている。まぁ、やるか。
「雨田士郎だ。趣味は読書。二人目のイレギュラーだが、まぁ仲良くしてくれるとありがたい。よろしく頼む」
俺、雨田士郎は本日付でここ特別教育機関「IS学園」に入学した。はぁ…………胃薬持ってくりゃ良かったぜ。
「それで、俺が中断してしまったような気もするが、誰が怒鳴り散らしていたんだ? 廊下にまで響いていたぞ」
とりあえず、この場の状況を理解できてない俺は、教室にいる全員に状況を説明してもらうことにした。だって、状況が明らかに読めないものだからな。何があったんだ、本当に。
「今、クラス代表を決めようとしているところだ」
「そんな平和な話し合いの中で、マシンガン並の速度で怒声を放つやつが何処にいるんですか? アホなんじゃないんですか?」
俺がそう言った瞬間、誰かが勢いよく立ち上がった。金髪で縦ロールの髪…………貴族か。あれは、確かイギリスの代表候補生、セシリア・オルコットじゃないか?
「あ、貴方も私を小馬鹿にしていますの⁉ そこの文化的にも後進的な極東の猿と同じように⁉」
「ほう…………つまり、あんたが怒鳴り散らしていた訳か。あと、発言には少し気をつけろよ」
俺はオルコットのところまで歩み寄って耳元で囁くように、言葉を出す。短い文だったが、十分そこにいるファーストイレギュラーこと織斑一夏の事と日本をバカにしているのはよく伝わった。
「あんた、代表候補生だろ? お前の言葉は国の言葉。不用意に言葉を言えば、お前が戦争のトリガーになるんだが、その時責任とれるか?」
そう言った瞬間、オルコットの顔が引きつった。今更になって気づいたのかこいつは。
「…………あんたも大変だな、織斑一夏」
「一夏、でいいぜ。とりあえず、日本をバカにされたのをやり返してくれてありがとうな」
「別にこれくらい普通にやるんじゃないのか? やられたらやり返す、そんなもんだろ」
ファーストイレギュラーーー一夏に礼を言われた。うむ、別にバカにされたのを反撃したんじゃないんだけどな。ただ、日本が戦争するのはまず自殺行為だしな。戦力はほとんどないに等しいし。そこだけは止めさせておきたかった。
「決闘ですわ‼」
「話の脈絡が見えねえ‼」
「貴方達二人に決闘を申し込みますわ‼」
やっかいだな。そんなこんなで、まともに授業が進むことなく、オルコットを相手するのに、一夏だけでなく俺までもが巻き込まれた。ちくしょー、ついてねえ。
昼休み。俺は食堂の方に向かっていた。ただし、飯は用意してある。ここの飯は基本タダで食えるからな。これも、国民の血と汗と涙で出来た税金から作られていると考えると、なんでだか切なくなってくる。
「ああ、すまない。同席してもよいか?」
突然見知らぬ女子に話しかけられた。髪型はポニーテール、それでも腰のあたりまで髪は伸ばされている。…………何年、切ってないんだ?
「ああ。別に構わん。ところであんたは?」
「私か? 私は篠ノ之箒だ。お前は確か」
「雨田士郎。好きに呼んでくれて構わん。とりあえず飯を食わせてくれよ、箒さん」
「いきなり名前か⁉」
まあいいだろう。女友達がまた増えた。これで、公式には二人目か。
「それで、俺に何か用があってきたんだろ」
「ああ、そうだった。あの時は一夏が迷惑をかけた。済まなかったな」
そういうことね。だが、箒さんにとってはあまり意味のないことではないのか。
「幼馴染のやらかしたことをこっちで必死こいてフォローするのは大変なんだ。これも私の運命なのか…………」
「幼馴染、ねえ」
もう少し箒さんと会話しておこうかと思ったが、それは突然入った放送によって中断させられた。
『一年一組、雨田士郎は職員室へ速やかに来い。くり返す、雨田士郎はーー』
お呼び出しがかかった。どうせ、仕事の話だろ。そう思って席を立つ。
無言で、職員室に向かった。
「早かったな。その様子だとまともに食事は取れなかったか?」
「いえ。飯は胃袋にぶち込んでおいたんで、問題はないです」
職員室にいった瞬間、ブリュンヒルデに捕まった。
「それで、俺に何の用で?」
「いや、お前の事だ」
聞いてきたか。答えてもいいんだが、話がややこしくなるぞ。
「俺の事、ですか」
「ああ。調査書にもお前が国連に所属している以外ほとんど情報が無かったからな。話せる部分だけで構わん。教えてくれ」
別にいいか。遅かれ早かればれるかもしれなかったからな。
「俺は、国連極東方面軍機械化混成大隊所属第08小隊長、雨田士郎少尉だ。…………今のところ話せるのはこれだけです」
「尉官だったのか…………これは失礼をした」
ブリュンヒルデはそう言って俺に敬礼をしてくる。いや、うちの小隊はそんな事滅多にしねえし。大隊長にもそんな事やったか? というか、大隊長も大隊長でだるそうにしてるし。エアコン嫌い、治らないのか…………?
「敬礼なんていらないですよ。どうせ、俺は一士官にしかすぎません」
「僅か十六歳で士官になったやつが、どの口で言ってるんだか。だが、此処は学校だ。軍人としては扱わんからな。…………昼休みも終わりに近い、次の授業には遅れるなよ?」
「わかってますって」
俺は職員室を出た。ため息だけが漏れる。
ん? 俺の性格が、明るいのか暗いのかはっきりしろって? 今日はいろいろあり過ぎて疲れているだけだ。
『はっはっは、お前も有名なったものだな。国連軍の中でも話題になってるぞ』
「…………どの口が言うんですか、コジマ大隊長。貴方のせいで客寄せパンダ状態ですよ。どうしてくれるんですか」
俺はディスプレイに映し出された初老の男性からの言葉に心底呆れた。
この男性はコジマ大隊長。極東方面軍機械化混成大隊の指揮官だ。もっとも、大隊長よりおやっさんと呼ばれる事が多いが。
俺は、少し嫌味を込めて大隊長と呼んでやった。この人が、口を滑らさなきゃ平和だったのに…………
『済まん済まん。その事なんだが、追加武装を送る。明後日までには着くように手配しておいたからな。それで、勘弁してくれ』
「…………パッケージの種類は?」
『RTX-440と追加武装コンテナ一式だが』
「…………了解しました。では」
そう言って通信を切る。俺はそのままベットの上に寝転んだ。いろいろあり過ぎて疲れが、異常に溜まっている。…………てか、俺抜きで
「エレドア‼ お前、また他の隊の女にナンパしたのか、このお調子者‼」
「そ、曹長‼ スパナは投げていけませんよ⁉」
「お、おいカレン⁉ 俺を殺す気か⁉ ミケル、カレンを止めてくれ‼」
「そ、そんな⁉ む、無理ですよ、エレドアさん‼」
「…………隊長、自分は不安でいっぱいです」
「サンダース‼ お前もそこのお調子者を捕まえてくれ‼」
「や、やめろカレン‼ 俺はまだ死にたくなーーギャアアアァァァァァ‼」
あながち、士郎の予感は外れていなかった。コジマ大隊の基地に関節が外れる音と、悲鳴が響き渡った。
俺が入学してから丸一週間が立った。大隊長からの贈物も受け取ったし、問題はない。…………08小隊が、また問題を起こしたらしいが。
まあ、それを気にしたらダメだ。それに、やっとの事で調子がいつものやつに戻ってきたんだ、ここで落としたらまずい。
「それにしても、お前達…………剣道だけやってて勝てるのか」
「「…………」」
俺がそう言うと、後ろにいる一夏と箒さんの二人は露骨に目をそらした。実を言うとこの二人、この一週間ずっと剣道だけしかやってない。まあ、座学なんて必要ないと思うが、もうちょっと別な方法があったんじゃないか?
「し、仕方ないだろ。
「わ、私だってこいつに負けたくなかったんだからな」
「それで、勝負にばっか気を取られ過ぎてまともな特訓をしなかったと?」
「「…………はい、その通りです」」
過ぎた事はどうしようもないんだがな。
「それより、俺の専用機はまだ来ないのか?」
「わ、私に聞くな。雨田、お前は何か知っているか?」
「今日中に届くみたいな事は聞いているが、それ以外は知らんな」
これは事実。国連側から今日中に一夏の専用機が届く話を聞いた。日本政府が用意するみたいなんだが、こんな調子で大丈夫なのだろうか?
「雨田、時間がない。試合はお前から始めてくれ」
どうやら、時間の前倒しで俺からやるようだ。よし、じゃ頑張るとしますか。
「わかりましたよ、織斑先生。行くぞーー来い、陸戦型ガンダム」
その言葉と共に、俺は光に包まれた。装甲が全身にまとわれて行く感覚を感じながら、俺は左腕にショートシールドを呼び出す。
眩い光が収まると、視界がクリアーになる。
「進路クリア。RX-79[G] 発進どうぞ」
山田先生からの合図と共に、俺はカタパルトに乗る。
「陸戦型ガンダム、出るぞ‼」
俺はリニアカタパルトによって押し出され、滞空する事せず、そのままアリーナの地面へと着地した。