インフィニット・ストラトス 重力戦線   作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)

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03.信頼への距離

試合が終わった翌日、教室は賑わいを見せていた。

 

「それじゃ、一組のクラス代表は織斑一夏君になりました。あ、なんだか一繋がりでいいですね」

 

クラス代表を巡る一件は、一夏がクラス代表になる事で全ての終わりを見せた。ちなみに、試合の結果は一夏の負け。悪燃費って恐ろしい…………。

 

「先生‼ 異議あり‼」

「拒否権の発動」

「ちふーーじゃなかった、織斑先生、汚ねえ‼」

 

そして鳴り響く戦車砲の音。これも聞き慣れてしまった。今じゃ、クラスの誰一人として驚いていない。初めて聞いた時は、全員ビビっていたらしいが。さすが、ブリュンヒルデ。やる事のスケールが違う。

 

「先生、なんで雨田君はクラス代表にならないんですか?」

「ああ。それなら理由がある。一つは候補に上がってないからだが、もう一つを教えるには、雨田もう一度自己紹介をしてくれ」

 

仕方ないか。候補に上がってないだけだと、このやかましい女子たちは納得しないだろう。ちなみに上層部のほうもコジマ大隊長の働きかけによって、面倒ごとには首を突っ込ませないようにしているらしい。代わりといってはなんだが、任務が追加されたくらいだ。

俺は教壇に立ち、再び自己紹介をする。

 

「国連極東方面軍機械化混成大隊所属、雨田士郎少尉だ。まあ、こんな事実を知っても、普通に接してもらえるとありがたい」

 

自己紹介をし終えると、レベルがぶっ飛んだ発言をされた為か、クラスの殆どが口をポカーンと開けている。唯一、アクションを見せているのはセシリアくらいか。

 

「そ、そんな…………わ、私は軍人の方に決闘を申し込んだだなんて…………もしかして、私、本当はここにいなかったのでしょうか?」

 

いやいや、殺す気はねえし。コジマ大隊の連中は皆根はいい奴らだから、そんな事しない。てか、民間人に手を出した時点で、軍人としての意義を問われる。軍人は民間人を守る盾と鉾のような存在だからな。…………女尊男卑のこのご時世で、そんな事言ってるの、極東方面軍だけなんだけどな。

 

「つまりはそう言う事だ。いちいち国連軍のほうから召集がかかって忙しいやつに任せられる訳がないだろ。だから、暇そうな織斑にしたわけだ」

「暇そうって…………実際そうなんだから、言い返せない」

 

一夏も見事に言いくるめられて、あえなく撃沈。

 

「それでは、クラス代表は織斑一夏で異存はないな?」

「「「はい‼」」」

 

女子の結束力ってすごいものだなと、改めて実感させられた。少しだけいい経験したな。

 

 

 

 

 

その夜。

どうやら、寮の食堂の方で一夏のクラス代表就任パーティを行うらしいが、少し面倒になった俺はまだ寮に帰ってない。寮監のブリュンヒルデにはすでに自由にできる許可を得ている。

というか、寮は女子と同室なのだが、その女子が全く顔を見せてくれない。何故だ、俺のせいなのか?

ふと、アリーナの格納庫にあたるところを過ぎようとした時、格納庫の明かりがついているのが見えた。こんな時間に何をしているんだろうか? 気になった俺は、向かって見る事にした。

 

「こんな時間に一体何をしてるんだ…………?」

 

俺は格納庫の扉を開けて中に入る。すると、中には一機のISを調整する女子の姿があった。

 

(ん? 少し様子が変だぞ?)

 

だが、女子は少し疲れが溜まっているのかふらついているようにも見える。一体、どうしたんだ。俺は、彼女に聞いてみるために近づいて行った。

その時だった。なんの前触れもなく、その女子が倒れた。

 

「って、お、おい‼ 大丈夫か‼」

 

俺はすぐさま駆け寄る。もしかして何かの持病なのかもしれない、と思い、陸戦型ガンダムの無駄なのか使えるのかよくわからない機能「人体スキャナ」を使う。病気とか障害などの異常を調べられる機能だ。戦場で医師が頼れない時には使える機能だ。

ガイドレーザー(人体に無害)を当て、直ぐにスキャンする。

 

ーー診断結果、疲労と睡眠不足。

 

どうやら持病とかそっちの類ではなかった。その事にホッとした。

 

「とりあえず、寝かせてやるか」

 

俺は近くにあったソファに彼女を寝かせ、冷えないように上着をかけてやった。

 

 

 

 

 

「…………う、うん…………?」

「あ、気がついたか」

 

何分が過ぎただろうか。彼女が目を覚ました。と言っても寝ぼけているようだが。よし、名前を聞く時は"あんた"から"君"に変えておこう。その方が警戒されずにすむかもしれない。

 

「…………貴方は?」

「俺か? 俺は雨田士郎。一組の者だ。君は?」

「…………わ、私は、四組の更識簪、です…………」

 

彼女ーー簪さんは相当な内気な性格のようだ。それに、声も小さくて聞き取りにくい。カレンのやつならよく聞こえるんだが…………比べる対象が違うか。

とにかく、俺は何故簪さんはこんな時間に一人で何をしていたのか、それを聞こうとした。

その時、突然腹の虫が鳴った。ちなみに俺ではない。となると

 

「あ…………」

 

簪さんは、それが恥ずかしくてたまらなかったのか、顔を赤くして俯いている。

 

「腹、減ってるのか?」

「…………(コクッ)」

「レーションなら直ぐ出せるが…………食べるか?」

「…………うん…………」

 

そして再び陸戦型ガンダムの使える機能、というか空いている拡張領域内に保存してあるレーションを取り出す。一般的な軍のレーションと比べて、極東方面軍のそれは味が良いのが売りだ。

俺はレーションを開ける。中にはパック飯のチキンステーキと缶詰のパン、その他缶詰いろいろ。結構いろいろ入っていた。

 

「ほら、好きなのとっていいぞ」

「…………え、いいの?」

「腹、減ってるんだろ。いいから、食べなって」

「…………じゃあ、お言葉に甘えて」

 

そう言って簪さんは、パック飯のチキンステーキと缶詰のパンと何故か入っている鮪の大和煮を選んだ。極東方面軍のレーションには必ずと言っていいほど、鮪の大和煮が入っている。これは、極東方面軍の間で一つの謎になっている。でも大隊長、これ好物だもんな。もしかして、大隊長のえり好みでできているのか?

 

「…………冷めてるけど、美味しい」

「そうか。それはよかった」

 

簪さんは美味しそうにパンを頬張る。そこまで喜ぶものなのだろうか。

俺はレーションの箱の中をもう少し見る。すると、中にあるものが入っていた。

 

「簪さん、これもやるよ」

 

俺はそれを簪さんに投げ渡す。

 

「これは…………?」

「チョコレートクッキーだ。俺はいらないから、それも食べていいぞ」

「…………ありがとう」

 

何故、こういう甘い物が入っているのか。本来は、甘い物を与えて士気をあげる為だろうが、疲れている身体に直ぐブドウ糖が補給出来るからとも俺は考えている。あと、こんな感じに女性を喜ばせる為にも使えるかもしれない。

 

「…………ごちそうさま」

「はいはい。腹一杯になったか?」

「…………うん。ここ最近はずっと、まともな食事もとってないし。それに、ここに住み込んでいたから…………」

そう言われるとお菓子の袋とかがそこら辺に転がっている。健康に良くないな。せめて、飯くらいはまともに取れよ…………。

 

「さて、腹も満たされた事だし、一つ聞いてもいいか?」

「…………え、えと…………なに、かな?」

「簪さんは、此処で何をやっているんだ? ISの整備にしては、いささか大きすぎるだろう」

「…………」

 

俺が、気になっていた事を聞いた瞬間、簪さんの表情に曇りが見えた。

 

「あれは…………私の専用機。今、組み上げているところ…………」

「専用機を組み上げる? 企業の方はどうしたんだ?」

 

普通、ISを個人で調整する事はよくあるが、組み立てるのはまずない。企業の方で組み立てられるからだ。陸戦型ガンダムも国連御用達のヤシマ重工のラインで組み上げられたものだからな。整備でも十分大変なのだが…………それを組み上げるとなると、並大抵の努力では無理だ。

 

「…………倉持は、白式に人員を割かれて」

「そういう事か。人員を割かれて開発がストップしてしまったという事か」

 

簪さんは、小さく首を縦に振って肯定を表す。一夏の白式、あれも倉持技研製だったな。だが、確か裏の情報ーーというより、極東方面軍の間では、何処からか送られてきた白式を解析するのに時間がかかって遅れた、という噂がある。真偽かどうかはわからないが。

 

「だが、何故自分で組み上げようとしているんだ? 残った開発陣とやれば効率もいいと思うがーー」

「……そ、それじゃ……だめ。……一人でやらないと……お姉ちゃんに……追いつけないから…………」

 

その言葉は、その目標に追いつこうと必死になっている姿と、それと同時に置いていかれる恐怖や悲しみ、それらを俺の脳裏にイメージさせた。

彼女の姉は一人で何を成し遂げたのだろうか。そんな事、俺には知る由もない。だが、この俺にも言える事はある。

 

「なぁ、簪さん。君の姉さんが何をしたのか、俺には全くわからない。だが、これだけは言える」

 

俺は間を置いてから、言葉を続ける。

 

「君は君。決して君の姉さんじゃない。君の姉さんにできて、君にできない事もあるし、君の姉さんにできて、君にしかできない事だってある。だからさ、誰かを頼る事はしてもいいんじゃないか? それに、俺からしてみれば十分凄いと思うぞ、ISを自力で組み上げようとするのはさ」

 

簪はその言葉を聞いて、心底驚いたような表情をしていた。

 

「私……そんな事言われたの……初めてかも」

「そう、なのか?」

「うん…………いつもお姉ちゃんと比べらていたから…………」

 

そんな事を話す簪さんの表情は、とても辛そうなものだった。やはり、コンプレックスみたいなものを抱いていたのかもしれない。

 

 

「でも……雨田君の言う通りなら……私は……いいのかな、誰かを頼っても…………?」

 

その言葉には疑念と不安が織り混ざったような、そんなものが感じとれた。誰かに助けを求めているようにも見えた彼女に、俺は自然と言葉を紡いでいた。

 

「ああ。人を頼るのは、恥ずかしい事じゃない。一人でやっていたら、いつか限界がくる。でも、二人でやっていたら、支え合ってやっていけるだろう?」

「……うん……うん…………‼」

 

簪さんは大きく頷いて、何処か納得したような表情をする。

 

「それじゃ……お願いがあるの……‼」

 

簪さんはさっきと打って変わって、俺に頼み込むように言ってきた。

 

「一緒に……専用機作るの……手伝って…………‼」

 

その言葉に一瞬、返答に困ってしまった。俺は軍人だ。製作にはサンプルデータも必要だが、技術提供なんてもってのほかだ。だが、俺が技術を流さなきゃいいだけの話じゃないか?

気がつけば、俺はいつの間にか、彼女の頼みに返答していた。

 

「ああ。いいぜ、簪さん」

 

明らかな肯定の意思と共に。

それを聞いた簪さんは、

 

「ありがとう…………‼ ……そ、それと……さん、は……いらない……か、簪で……いい……」

「そうか。なら、これからよろしくな、簪」

 

いつの間にか、また友情とも呼べるものが生まれていた。俺はまたもや仲間を増やしてしまったようだ。だが、悪いことじゃない。俺もこれでよかったと思っている。

 

「じゃ……早速ーー」

「待て」

 

俺は直ぐに作業へ取り掛かろうとした簪に制止をかける。

 

「な、なんでーー」

「疲労と睡眠不足。診断データにはこんな事があった。今日は寮の方で寝た方がいい。此処で寝るのは疲れるだろうから」

「…………わかった、そうする」

 

簪は少し不服そうな顔をしたが、自分の健康状態を知ってか、渋々だが今日の部は諦めてくれた。

 

「一旦、帰るぞ。電気だけ消してくれ」

 

俺達は、格納庫をでて寮へと続く道を歩く。外は月明かりが照らしているせいか、そこまで暗い事はなく、歩く事に支障はなかった。

 

「そういえばさ、簪の部屋って何処なんだ?俺は1035室だが、同室になっているはずの女子が顔を出さないんだよ」

「それ……きっと私。私も1035室だから…………」

 

そ、そうなのか。俺は答えに戸惑いながらも、返事を返す。でも、まあなんでいなかったなんて事も聞ける事だし、良しとしよう。

 

「楽しみだね……」

「何がだよ?」

「明日の組み立て作業……かな……?」

「何故、疑問系なんだ…………」

 

寮までの短い距離だったが、俺と簪の心の距離はそれよりももっと短くなった、そんな気がする。

途中、何やら道に迷ったらしい代表候補生を案内するという事態も起きたが、それ以外は特に何もなく、寮までの道のりを歩いて行った。

自室についた途端、簪は眠ってしまった。相当、疲れていたのだろう。俺は、彼女を起こさないように、静かに身の回りを整理してから、意識を暗闇へ手放した。

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