インフィニット・ストラトス 重力戦線   作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)

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04.頭上の悪魔

クラス対抗戦当日。

丸一日を試合に費やすこの行事は、一年生の実力を図り、そして向上の為の競争意識を高める為に行われる。だが、殆ど実戦レベルが低い一年生の試合では、専用機持ち達や各国の代表候補生が大きなアドバンテージを有している事には違いない。

その専用機持ちの一人である俺だが、俺は観客同然だ。これはクラス対抗戦。クラス代表たちで行うものだ。つまり、俺は自由に見ていていいはずなんだ、そういいはずなんだ。

 

「…………何故、俺を此処に連れて来たんですか、ブリュンヒルデ」

「その名で呼ぶな。まあいいじゃないか、此処はある意味特等席だぞ」

 

俺は、その自由を奪った元凶のブリュンヒルデに問いかける。

もともと、一般観客席で俺は見るはずだった。その方が気が楽だ。だが、こんな管制室に放り込まれるとは…………いや、待て。考えようによってはこれで良かったのかもしれない。此処なら下手にアクションをしかけられる事はない。もしや、ブリュンヒルデはこれを見越していて、俺を連れて来たのだろうか。

 

「一夏の初戦の相手は凰か…………何をしでかすかわからんぞ。そう思わないか、セシリア」

「そうですわね…………あれだけ言われてはいけない事を言われたのですから。波乱の予感がしますわ」

 

箒さんとセシリアが何かボソボソと言っているようだが、なんの事なのだろうか。

モニターには一夏の姿が映された。対峙するのは、中国の代表候補生、凰鈴音。専用機は第三世代型[甲龍]。白式と同じ近接格闘型だ。だが、第三世代型だ。どんな兵装を積んでいるのか、見当もつかない。

だが、それより気になるのは凰の顔だ。物凄くいい笑顔をしている。本当に何があったんだろうか。一組に宣戦布告をしかけて来た時は、あんな表情ではなかったはずなのだが…………。

それと、専用機で思い出したのだが、簪の専用機[打鉄・弍式]はまだ完成してない。最近は一夏達とは離れて、ずっと簪の手伝いをしていた。よく知らない事が多いのはその為だ。だが、そこまで尽力したにも関わらず、武装面が手付かず状態。結局、簪は代理を立てる事にしたようだ。

 

「では、一回戦を始めるとしようか。山田先生」

「はい。それでは一回戦、一組代表織斑一夏対二組代表凰鈴音の試合を始めます」

 

アナウンスで指示が伝わり、二人は身構える。多分、開始と共に突撃をしかけるつもりだろう。

 

「両者、試合開始‼」

 

その言葉を皮切りに、二人は激突した。

一夏は反りのある太刀、雪片弍型を振るう。それに搭載されたバリア無効化攻撃、試合の流れを破壊するバランスブレイカーが凰へと振られる。

だが、その情報は事前に知られている。凰は焦る事なく、手に持つ青龍刀によって初撃を受け流す。無論、受け流すだけでなく、その流れるような動作で切り返す。

 

「ああ、もう‼ 私の教えた三次元躍動旋回を使いなさい‼」

 

セシリアがモニターに映る一夏へ何か叫ぶが、こちらの声が向こう側に聞こえるはずもなく、一夏は少し押され始める。

逆に凰は試合の流れを掴んだ。彼女はもう一本の青龍刀を取り出すと、その柄同士を繋ぎ、まるで薙刀のようにして振り回す。一夏はその凶刃を避けるべく、一度距離を大きくとった。その時だった、一夏の身体が大きく吹き飛ばされたのは。

 

「な、何なのだ、今の攻撃は? 何も見えなかったぞ…………」

「恐らく、衝撃砲ですわね。空間に圧力を掛け砲身を形成し、その余剰エネルギーを撃ち出す。私のブルー・ティアーズと同じ第三世代兵装ですわ」

 

セシリアがその謎の武装についての解説をしてくれる。つまり、圧縮空気を撃ち出している、いわば空気砲のようなものなのだろうか。ISはつくづく、奇抜なものを生み出す。ふと俺は何気なく、モニターの端に目をやる。その時、俺は恐るべきデータを目にしてしまった。

 

「衝撃砲には、射角制限がない、だと…………⁉」

 

凰の持つあの兵装は、射撃武器を避けるのが必死な一夏にとって、鬼畜ルール以外のなんでもなかった。それに舞い上がる粉塵の量から、相当な破壊力と連射力を兼ね備えているようだ。そこに射角制限無しという性能がつく。避けるのはまず無理だろう。

だが、その見えない弾丸を一夏は今日に避けていく。まるで、見えているかのように。先ほどまで、優位に試合を進めていた凰の表情から余裕が消えていった。もしかして、一夏は戦闘のセンスがあるのか?

 

「ふっ、どうやらそろそろ仕掛ける様だな」

「仕掛けるって、何をです?」

「なに、ただの瞬時加速さ」

 

一夏は、縦横無尽にアリーナの中を駆け回る。まるで、凰の隙を作り出す様に。そして、凰の反応が遅れたその一瞬。一秒にも満たないその僅かな隙を一夏は逃さず、スラスターを点火した。振り抜かれる雪片弍型は、凰の身体を捉えるはずだった(・・・・・)

 

その瞬間、二人の間に割って入る様な形で、眩い光の奔流が降り注いだ。

 

「システムに異常発生‼ 何者かがアリーナのシールドを突破してきた模様です‼」

「被害状況は⁉」

「シールドの破損以外にありません。サイバー攻撃の類は見受けられないです」

「了解した。すぐさま試合を中止、織斑と凰は離脱しろ‼ 生徒は直ぐに避難だ‼」

 

ブリュンヒルデと山田先生はこの攻撃に対する処理を迅速に行う。だが、その表情はとても焦りに満ちていた。どうやら、創設以来こんな事はなかったと見受けられる。

俺は俺で先ほどの光の奔流ーービームについて考えていた。発光は水色、ビームの直径はとても大きかった。となると、あれだけの破壊力を持つ奴は限られてくる。

俺は山田先生に一つ頼む。

 

「山田先生、監視カメラの角度を上にあげてください」

「え?」

「いいから早く‼」

「は、はい‼」

 

モニターに映る景色が上にずれていく。その時、なにか大きな物体が映った。それは、曲面の多い装甲を持ち、一つの卵を抱く姿にも見え、その中心には大型の砲口が見える。間違いない。あれは

 

(アプサラス…………‼)

 

破壊力の高いメガ粒子砲を搭載した装甲兵器、アプサラス。あのビームの威力は、あらゆる構造物を融解させるほどの熱量を誇る。そんなものを此処で放たれたら…………最悪、全滅だ。

 

「ブリューーいや、織斑先生‼」

「なんだ?」

「俺を出させてくれ‼ このままだと全滅するぞ‼」

「ダメだ。出撃は許可できない」

 

俺はその言葉に絶句する。は? ブリュンヒルデは生徒を犠牲にするというのか⁉

 

「あんたは、残っている生徒を犠牲にする気なのか⁉」

「そんな事を言っているわけではない‼ お前だって、今は生徒だ。死なせるわけにはいかん」

 

見殺しにする気はないようでよかった。軍の俺まで死なせる気はないらしい。だが、

 

「俺は国連の一軍人だ‼ 俺の犠牲で多くの命が助かるなら、その方がいいはずだ‼」

 

俺はその言葉に真っ向から対立する。俺がブリュンヒルデに啖呵を切ったのがそこまで珍しいのか、箒さんや山田先生、セシリアまでが目を見開いていた。

俺は肩で息をするように、声を張り上げて訴えた。ブリュンヒルデは、しばし苦虫を噛み潰したような表情をする。そして、その表情を解いた時、口を開いた。

 

「…………絶対に死なない、と約束しろ」

 

その言葉は、出撃してもいいが生きて帰って来い、という意味だった。俺はその言葉を聞くなり、近くのカタパルトデッキまで急いだ。

 

 

俺はカタパルトに着くなり、陸戦型ガンダムを展開する。

 

「競技用リミッター解除、ミリタリーへ」

ーー競技用リミッターを解除します。

 

そして、俺はこいつのリミッターを解除した。競技用の出力が抑えられている状態では、アプサラスを撃破するのは、まず無理だ。

 

『こちら織斑だ。現在、生徒の避難は完了している。織斑と凰もこちらで回収した。…………後は任せたぞ』

「了解」

 

俺はその合図を聞き、僅かに生きているカタパルトを手動で作動させた。

アリーナの中はそれは、凄惨な光景なっていた。地面は一部がガラス化し、所々が抉れている。観客席も一部が吹き飛んでいる。生徒の避難が完了した後だった模様で、死人はいないようだ。それだけが、幸いか。

 

「ッチ…………誰だ、こんな化け物を作り出した奴はよ」

 

奴の赤い一つ目が俺を見つめてくる。そして、砲口をこちらへ向けてきた。砲口の周りには青白い光が集まり始めている。くっ、メガ粒子のチャージが始まったか‼

 

「撃たせるかぁっ‼」

 

俺は手にレールキャノンを展開し、放つ。現在、俺の陸戦型ガンダムに搭載された兵装の中で最大の威力と破壊力を持つキャノンの砲弾を、奴の下にある球体の部分に直撃させる。

直撃したHEAT-MPの爆発によりバランスを崩したのか、若干姿勢制御が不安定になり、チャージされたメガ粒子の奔流は空へ放たれた。

 

「クソ‼ 国連のISめ‼」

 

アプサラスの搭乗員と思われる女性の声が聞こえる。どうやら、俺を殺す気でいたようだ。だが、此処で殺されるわけにもいかない。

俺は場所を移動しながらアプサラスの球体を狙いつつ砲弾を直撃させようとするが、その度に強固な装甲に阻まれる。一発目が直撃したところは比較的装甲が薄い部位だったようだ。

 

「ちくしょう、なんて硬い装甲だ…………‼」

 

砲口を狙えば一撃で潰せるかもしれないが、あれの奥には核融合炉がある。それ破壊した途端、洒落にならない爆発が生じる。それは、カンボジアのジャングルの一部を吹き飛ばす威力を持っている。それだけは避けるべきなのだ。それに、核の汚染も否定できない。よって、砲口を狙う事は自殺行為に等しい。

 

『済まぬ、連絡が遅れた。少尉、聞こえているか?』

「なっ‼ だ、大隊長⁉」

 

突然、通信が来たと思いきや、相手はコジマ大隊長だった。

 

『台湾の方で出現したアプサラスが東シナ海を通って、IS学園の方に向かっていった。海上の為、こちらでの戦闘は不可能。よって、IS学園側での迎撃を行ってもらう。無論こちらからも援軍を送る。必ず、撃破してくれ』

「言われなくても…………わかってる‼」

 

こうして、大隊長との通信は切れた。

このアプサラスは少々改造されているらしく、機銃が取り付けられている。以前にもSマイン装備の奴もいたから、いてもおかしくはないと思うが、攻めづらいのは確かだ。俺は、その銃撃をシールドで防ぎながら、100mmマシンガンを叩き込む。狙うべきなのは一つ目の頭部。その下に搭乗員の乗るコクピットがある。そこさえ破壊すれば、後は終わりだ。

だが、この下に件のメガ粒子砲と核融合炉がある。ちょっとでもずれると大惨事だ。

次に脆いのが、球体の部分。そこを破壊すれば飛行できなくなる。俺はそこへと重点的に叩き込む。

 

「フハハハッ‼ 無駄よ、無駄‼ 対IS用にクラフトも装甲を固めて来たからねえ‼」

 

搭乗員の言葉通り、ダメージはあまり通ってないみたいだ。接近するにも、Sマインが装備されているかもしれない。極力シールドエネルギーの消費は抑えたいため、中々接近できずにいた。

そんな時だった。

 

「隊長ぉぉぉぉぉぉぉっ‼」

 

叫びと共に、砲弾がアプサラスに取り付けられたスタビライザーの片方を吹き飛ばした。そして、パラシュートを背負った陸戦型ガンダムが降り立つ。今の声って、もしや

 

「サンダース‼ 援軍とはお前の事なのか?」

「はっ‼ コジマ中佐からの命令により、只今派遣されました‼」

 

テリー・サンダースJr。階級は軍曹。俺と同じ08小隊所属。小隊の中では俺の右腕とも呼べる存在だ。…………年上にいっていいセリフなんだろうか、自分の右腕とも呼べる、って。

サンダースは銃口から硝煙が出ている180mmキャノンをその手に持っている。こいつでスタビライザーを吹き飛ばしたのだろう。制御用のスタビライザーを破壊されたアプサラスは不安定な動きをし始めた。

 

「クソッ‼ よくも、よくもやりやがって‼」

 

アプサラスの搭乗員は、メガ粒子砲のチャージを始めた。だが、そのチャージ速度は最初のやつと比べてはるかに遅い。

 

「サンダース、援護を頼む。俺が斬り込む」

「任せて下さい。支援射撃は自分の得意分野ですから」

「それじゃ…………行くぞ‼」

 

俺は右の脹脛より、円筒状の物体を取り出す。それを握ると同時に、ビームの刀身が展開される。ビームサーベルだ。俺はそれを構えて、スラスターをふかす。

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉっ‼」

「バカめ、こいつには機銃だけじゃなく、Sマインも装備してあるんだよ‼」

 

上方のハッチが幾つかひらく。あれが恐らくSマインの発射口だ。厄介なクラスター爆弾だ。だが

 

「やらせはせんぞ‼」

 

その発射口と片側の機銃は、サンダースのはなった榴弾で破壊される。

 

「がはっ‼」

 

さらにバランスを保てなくなり始めたアプサラスへ突撃していく。

 

「や、やめろ…………こっちに来るなぁぁぁぁぁっ‼」

 

どうやら、ビームサーベルを構える俺の姿か恐ろしく映って見えるようだ。まぁ言われても仕方ない。ビームの出力は中の上クラスだ。並大抵の装甲なら融解させることだって可能だ。

 

「それなら…………攻めてくるんじゃなかったな。じゃあな、名もなきパイロット」

 

俺はビームサーベルをコクピットに突き刺した。装甲が圧倒的な熱量で溶けていき、肉が焼けるような音が聞こえた。搭乗員の女は確実に死んだ。

それっきり、アプサラスは活動を止めた。

 

「こちら81。敵機の沈黙を確認。回収の手配を頼みます」

『了解した。ミデアで回収班を送る。ご苦労だった』

 

大隊長に回収の手配を頼み、俺は手に持っていたビームサーベルの柄をサーベルラックにしまった。

 

「終わりましたね、隊長」

「ああ。後は回収班の到着を待つだけだな。サンダース、お前はどうするつもりだ?」

「自分は直ぐに基地に戻ります。隊長からの命令ですから」

「ああ、そうだったな。08の面々を押さえるのは何かと大変だろ? 特にカレンは」

「そうですね」

 

その後、俺がいない間にエレドアがナンパしてカレンに殴られたりとか、エレドアが調子に乗ってカレンにスパナを投げつけられたりとかした事をサンダースから聞いた。…………正直言って、頭を抱える内容だ。大体、カレンとエレドアが騒動の中心だからな。

そうやって、他愛もない話をしながら回収のミデアが来るのを待っていた。

…………情報の開示とか求められるのだろうか? そんな事が頭の中をよぎって行った。

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