インフィニット・ストラトス 重力戦線   作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)

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06.転校生

「高度190……180……170……」

 

上空五百メートルでミデアより射出されたカレン・ジョシュワ曹長は、陸戦型ガンダムを展開し降下している。

降下目標地点は、IS学園。彼女を含む、国連極東方面軍第08小隊は、IS学園の護衛の任にあたるのだ。

 

「120……110……噴射‼」

 

背中に背負うパラシュートパックのスラスターをふかして、着地するカレン。久しぶりの降下で、若干緊張していた彼女だが、着地する事ができて安心している。

時刻は0630。丁度朝日が水平線上から昇ってくるのが見えた。

 

「綺麗だな…………」

 

カレンは思わず感想を口にする。だが、そんないい雰囲気をぶち壊すやつもいた。

 

「おお、愛を語るには最高のロケーションじゃないの〜。な、カレン?」

 

次に降りて来たのはM353A1ブラッドハウンド。通称、ホバートラック。所謂指揮車輌である。そのソナーを担当するのが、エレドア・マシス。階級は伍長だ。

彼の放った一言により、カレンは一気に機嫌を悪くする。

 

「そ、曹長⁉ なに無言で、ツインビームスピアなんてものを出そうとしてるんですか⁉ 僕らが死にますよ‼」

 

カレンがツインビームスピアを出そうとするのを見て、それと止めようと一人ホバートラックから出てくる。彼はミケル・ニノリッチ伍長。ホバートラックのドライバー担当である。そして、08小隊の中で数少ない常識人でもある。

 

「心配するなミケル。エレドアに説教するだけだ。殺しはしないよ」

「…………なぁ、カレン。俺、何か悪い事したか? 最近、お前、俺に対して過激じゃね?」

「気のせいだ」

 

大抵、08小隊の引き起こす問題の多くがカレンとエレドアによるものだったりする。

 

「それにしても、隊長がまだ来ないな。ここで合流する手はずになっているんだが」

 

もう一機の陸戦型ガンダムのパイロット、テリー・サンダースJr軍曹は手に180mmキャノンを持ちながら、隊長である士郎を待っていた。

そんな時だった。

 

「⁉ ロックオンだと⁉」

「何者だ、貴様ら‼」

 

突然、カレン機のロックオン警報が鳴ったと思いきや、後ろには打鉄を纏った教師部隊がアサルトライフルを彼らに突きつけていた。

 

「ひぃぃぃっ‼ や、やっぱり無茶だったんですよ‼ こんな、敵陣のど真ん中に降下するものですって‼」

「な、何でもいいからお助けを〜‼」

 

まともな装甲を持たないホバーにとってISの火器は脅威でしかなかった。

 

「おい、俺の部下に何をしている?」

 

だが、教師部隊は後ろからやって来た、左肩にマーキングのある陸戦型ガンダムを見ると、サッと後ろに下がった。

 

「久しぶりだな、皆」

「「「「隊長‼」」」」

 

彼は第08小隊の隊長、雨田士郎であった。

 

 

 

 

 

「これで、全員揃ったな」

 

一度、機体を解除した俺は全員来ているかどうかを確認する。サンダースにカレン、エレドアとミケル。全員いるようだ。

 

「よし、全員揃ったなら挨拶に行くぞ。こっちだ、ついて来い」

「挨拶って、誰にです?」

「決まってるだろ、世界最強(ブリュンヒルデ)にだよ」

 

一度俺は、職員室に連れていく事にした。

 

 

「それで、私のところに来たというわけか」

「ええ。それが、妥当かと思いまして」

 

という事で、俺は08の面々を職員室に連れて来たわけだ。ただ男がこんなにいるのが珍しいのか、この時間に職員室にいる教師は驚いている。

ちなみに、先ほど08の面々を侵入者と勘違いした教師部隊の教師もいる。まあ、そりゃ以前の事があるからピリピリしてるもんな。

というかエレドア、お前少し鼻のした伸びてないか?

 

「そういえば名前を聞いてなかったな」

「カレン・ジョシュワ曹長であります」

「テリー・サンダースJr軍曹であります」

「自分はエレドア・マシス伍長であります‼」

「ミケル・ニノリッチ伍長です」

「そうか。とりあえず、学園長には私の方から話しておく。雨田は、まあ授業に遅れるなよ」

「了解っと」

 

そう言って、ブリュンヒルデは立ち上がり、職員室を後にする。特に用もなくなった俺たちも、その後に続くかのように退室していった。

 

「でも、僕らはどうしたらいいんでしょうか? 下手に干渉するのはまずいですよね」

 

これから何をすればいいのかとミケルが聞いて来た。それはそうだろうな、俺も何をさせたら良いのか聞かされてないし。

 

「ひとまず、ホバーで待機。指令が下り次第、連絡をいれる」

「了解。あたしはメンテの方しとくよ」

「自分も同じく、そうさせていただきます」

「僕は少し休憩をとらせてもらいます」

「あ、それじゃ俺も同じく」

 

…………本当、やりたい事バラバラだよな08って。

 

「俺は学業の方に行くから、後は頼んだぞサンダース」

「はっ‼ 了解しました」

 

08の残りの事をサンダースに預け、俺は教室へと向かった。ん? 飯、いつ食ったって? ゼリー状の栄養ドリンク一本飲んでおけば何とかなるさ。

 

 

 

 

 

教室へついた途端、耳にはいつもの賑わいが入ってきた。どうやら、ISスーツの注文時期らしい。俺には関係の無い話だ。陸戦型ガンダムは基本、平服でも起動・展開可能な上、エネルギー消費もほとんどない。もっとも、普通は国連軍に支給されたツナギを着るが。

 

「おい、もうすぐSHRの時間だ。とっとと、席につけ」

 

そして入ってくるのは、一年一組の教導官ことブリュンヒルデ。これまた威厳のある登場だ。エース級の風格を示している。

その後ろから山田先生が入ってくる。その表情は、何処か疲れが見て取れる。

 

「えーと、今日は転校生を紹介します。しかも、二名です‼」

 

どうやら、転校生が来るらしい。だが、俺はそんな事知らないし、聞かされてもいない。

噂にもなっていないのか、女子達の間にも波紋が広がっている。

 

「さぁ、入ってきてください」

「失礼します」

 

俺はその声を聞いた瞬間、何かが脳に逆流していくのを感じた。そして、教室にはその声の主が入ってきた。輝くような金髪を後ろに流し、先端をリボンで束ねている「彼」は、教壇の前に立ち、自己紹介を始めた。

 

「シャルル・デュノアです。フランスからやってきました。いろいろと不慣れな事があると思いますが、皆さんよろしくお願いします」

 

シャルルと名乗った「彼」の目と俺の目があった。向こうも、俺を見て驚いている。表情には出てないが。

 

「「「きゃ……」」」

「え?」

「「「きゃあぁぁぁぁぁぁっ‼」」」

「きた‼ 二度目の春がきた‼」

「金髪の美形‼ 守ってあげた〜い‼」

「ソロモンよ、私は帰ってきたぁぁぁぁぁぁ‼」

 

そして、何故か発生したソニックウエーブ。その威力は窓ガラスを振動させるほど。隣では一夏が耳を抑えて悶え、シャルルも耳を塞いで涙目になっている。ちなみに俺は、陸戦型ガンダムがオートで耳に防音壁を展開してくれたから無事だ。

 

「うるさいぞ‼ 静まらんか‼」

 

だが、それもブリュンヒルデの一声により静まった。なるほど、これが世界最強の実力か。最高のカリスマ性じゃないか。

 

「皆さん静かに‼ まだもう一人の紹介が終わっていません‼」

 

そう言うと、今度はもう一人の方の転校生に目が移った。ただ伸ばしている銀髪、冷たい感覚を与える赤い瞳。それとは対象的に、左眼には眼帯。その少女は一向に口を開こうとしない。

 

「ラウラ、自己紹介をしろ」

「はっ、教官」

「私はもう教官ではない。さっさと自己紹介しろ。二度も同じ事を言わせるな」

 

ラウラと呼ばれたその少女はやっと口を開き

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

とだけ言って、口を閉ざした。

 

「あ、あの〜、それだけですか?」

「以上だ」

 

するとボーデヴィッヒは一夏を見つけると、その目つきを変え、一夏へと迫っていく。そして、手を振り上げ、その手に何か光るものが見えた。

俺は何かまずい予感がし、手が一夏へと振り下ろされる瞬間、

 

「がはっ‼」

 

その手を掴み、背負い投げし、床に伏せさせる。そして、腕をひねり上げてから、首元に保持許可の出てるスタンナイフを突きつけた。ボーデヴィッヒの手の平には画鋲らしきものがついていた。

 

「何をするつもりだ、貴様? 場合によっては、拘束するぞ」

「貴様…………ただの少尉が、少佐である私に逆らう気か‼」

 

ボーデヴィッヒは少佐らしい。だが、

 

「それがどうした? 俺は任務のもと動いただけだ。そこに階級はあったもんじゃない。お前が護衛対象に何をするつもりだったのか、それだけで十分拘束可能だ」

「ぎっ…………‼ 織斑一夏、貴様があの人の家族である事など、この私が認めん、認めんぞ‼」

 

ボーデヴィッヒは俺の拘束を抜け、自分の席へと向かった。

 

「んんっ‼ 次は、グラウンドで二組と合同で実習を行う。遅れたりするなよ。それと織斑、雨田。デュノアの面倒は任せたぞ」

 

そう言うとブリュンヒルデは教室を後にする。どれ、俺達も動くとするか。

 

「君が、織斑一夏君だよね? 僕の名前はーー」

「ああ、そんな事はどうでもいい。とにかく、早く行くぞ」

 

一夏はシャルルの手を握り、そのままリードしていく。だが、肝心のシャルルは少々恥ずかしそうである。

 

「おい一夏、突然手を握ったりしたら、シャルルが驚くだろ。離してやれって」

「お、それもそうか。悪りぃ、済まんかった」

「う、ううん。気にしなくていいよ」

 

と、動きながら話しているのだが、そろそろやってくるだろうな。

 

「あ、噂の転校生発見‼」

「ああっ‼ 織斑君も雨田君もいる‼」

「者ども、出会え出会え‼」

 

噂を嗅ぎつけた女子達の群れに、俺たちは見つかってしまった。まずい、このままではブリュンヒルデの餌食になる。それだけは避けねばならない。

 

「…………許せよ」

「え、ちょ、きゃぁっ⁉」

 

俺はシャルルを、所謂お姫様抱っこし、そのまま窓に向かって走り出す。

 

「お、おい、置いていく気か、士郎⁉」

「一夏、現地で合流しよう」

「見捨てた⁉ あいつ、俺を見捨てーーギャアァァァァァァァッ‼」

 

一夏の断末魔をバックに、空いている窓から飛び降りる。その間に俺は陸戦型ガンダムを展開、地面に着地し、そのままアリーナに向かう。

 

シャル(………)、怪我はないか?」

「大丈夫だよ、シロー(………)

 

そんなやり取りをしながら。

 

 

「よし、何とか時間通りについたようだな」

 

授業開始まで残り七分。そのくらいの時間にアリーナの更衣室についた。ちなみに俺は着替える必要は皆無だ。制服の下にツナギを着ている。

 

「さて、久しぶりだな、シャル」

「だいたい八年ぶりだね、シロー」

 

もう気づいている人もいると思うが、俺と「彼女」シャルは昔からの付き合いがある。といっても、ただ二年くらい俺の家の隣に住んでいた程度だし、今じゃそこは消し炭だ。思い出など記憶にしか残ってない。

 

「そうだな…………家族が死んでそんなに経ったか」

「ん? 何か言った?」

「いや、何でもない。とりあえず、早く着替えた方がいいぞ。俺は向こう向いてるから」

「…………気づいてた?」

「お前の事を忘れない限り、気付くだろ」

 

俺はロッカーの方をしばらく向いていた。まぁ、なんだ、すこし聞こえるんだよな、衣擦れの音とか、その息づかいとかが。いつの間にか意識している。俺は、必死に邪心を振り払った。

 

「終わったよ?」

「あ、ああ。ん? 何故、男性用の方を着ているんだ?」

「…………いろいろあってね」

 

シャルは俯き、暗い表情をしてしまった。

 

「すまん、配慮が足りなかった」

「ううん、気にしないで。それよりも早く行かないと遅れないかな?」

 

そう言われて、時計を見る。開始まで残り四分。ここからグラウンドまで走って五分…………無理だ。かくなる上は

 

「シャル、ちょっと抱き上げるぞ‼」

「わ、わかった‼」

 

俺は陸戦型ガンダムを再展開、再びシャルをお姫様抱っこし、そのままグラウンドまで走っていった。やはり、生身で走るより全然早い。

 

 

「し、士郎…………俺を殺す気か…………」

「…………よく、生きて帰って来たな」

 

ぜぇぜえ、と荒い息をしている一夏を尻目に授業は始まった。

 

「今日から、射撃及び格闘における実践訓練を行う。まず、見本にオルコット、凰。前に出ろ‼」

「やれやれ…………なんで、こうなっちゃうのかなぁ」

「なんというか…………見世物のような気がしてなりませんわ」

 

ブリュンヒルデに指名させられた二人だが、そのやる気ゲージは最低レベルのようだ。顔にやる気が全然見受けられない。

 

「全く、お前ら少しはやる気出せ。あいつにいいところ見せられるぞ?」

 

ブリュンヒルデが二人に何か吹き込んだ瞬間、表情に変化があった。

 

「どうやら、ここはあたし達代表候補生の出番のようね‼」

「ふふふ、私の華麗な戦いを皆さんにお見せしますわ‼」

 

一気にやる気が満ち満ちていった。一体何を吹き込んだのだろうか。シャルも一緒になって考えている。

 

「それで、お相手は? 私は別に鈴さんとで構いませんが」

「それはこっちのセリフよ。返り討ちにしてやるわ」

「黙れ、小娘共。お前らの相手は」

「きゃあぁぁぁぁぁぁ‼ ど、どいてくださ〜〜〜い‼」

 

ーー警告、上空より急降下中の機体有り

 

悲鳴が聞こえたと同時に陸戦型ガンダムからも警告音が鳴る。声からして、山田先生だろう。俺はネットガンを取り出し、落ちてくる山田先生目掛けてはなった。

 

「きゃうん‼」

 

謎の悲鳴を上げた山田先生に、ネットが絡みつく。ネットの先端には小型のバルーンがついている。そのおかげにより、山田先生は勢いよく墜落する事なく、軟着陸した。

 

「何やっているんですか、山田先生」

「す、すみません。雨田君、ありがとうございます」

 

山田先生は俺に礼を言ってくる。だが、俺はそれを軽く受け流す。そうでもしないとな…………シャルが、こっちをジト目で見てくるんだよ。

 

「まあいい。お前達の相手は山田先生だ」

「え? ですが二対一はいささか問題が…………」

「心配するな、今のお前達ならすぐに負ける」

 

流石にそう言われて、流せるような人間ではなかったようで

 

「手加減なしで行くわよ、セシリア‼」

「私達の実力を見せつけましょう、鈴さん‼」

 

完全に燃えている。一方の山田先生はというと

 

「む、無理です‼ 負けますって、センパ〜イ‼」

 

涙目ながらに戦う羽目になった。

 

「…………シロー、山田先生って大人のふりをした子供だよね?」

「…………言うな、それを言ったら終わりだ」

 

 

 

 

 

現在、昼休み。俺とシャルは一夏に呼ばれ屋上にきていた。というのも、昼飯を一緒に食わないかとの事だ。

 

「…………これは、どういう事なんだ?」

 

何故か、不機嫌な箒さんを目の前にしてだが。いや、凰にセシリアもいるのだがな。

 

「いやぁ、飯食うんだったら大勢で食った方が楽しいだろ?」

「それはそうだが…………」

 

箒さんは異様によそよそしい態度をとっている。後ろには弁当箱が二つ。なるほど、

 

「…………愛妻弁当作戦か」

「あ、雨田⁉ な、何か言ったか⁉」

 

俺のボソッとした呟きに箒さんはすごい勢いで反応する。もしや、図星だったか?

 

「まあまあ、落ち着けって箒。とりあえず、今は飯だ。早いとこ食おうぜ」

 

一夏は惣菜パンを出しながら、そういう。

 

「はい、一夏。酢豚作ってきたわよ。前から食べたいって言ってたでしょ」

「おお‼ いいのか、鈴?」

「当然よ」

 

凰は一夏に酢豚の入ったタッパーを投げ渡す。よくこぼれないものだ。

 

「僕たちも食べようか」

「そうだな」

 

俺達も買ってきた惣菜パンを取りだす。シャルはタマゴサンド、俺はカツサンドだ。うむ、普通にうまい。

 

「あの、士郎さん、デュノアさん。私、こんなものを作ってみたのですが、お一つどうでしょうか?」

 

セシリアがおもむろに、バスケットを差し出してきた。気になる中身はサンドイッチだった。

 

「なんか、美味しそうだね」

「どれ、じゃあ一つもらってみようか」

 

俺はその中から一つ選んで取り出し、口にして見る。うむ、程よい酸味と甘み、異様に柔らかい何かと異常に硬い何かが混ざりあってーーーー

 

「し、シロー⁉ しっかりして、シロー‼」

 

何故か、シャルの悲鳴だけが俺の頭の中に響いてきた。そこからの記憶はほとんどない。

 

 

 

 

 

「あ〜、暇だ〜。やる事なんてねえよ〜」

「愚痴らないでくださいよ、いつものエレドアさんらしく能天気でいてください」

「どういう意味だよ、それ…………」

 

08のマーキングがあるホバートラックの中で、仕事が全くないエレドアとミケルはダラダラと過ごしていた。索敵をしても、レーダーに反応なし。本当に暇人であった。

 

「ん? エレドアさん、あれ」

「どうしたんだよ」

「あれ見てくださいよ、あれ」

 

ミケルは黒髪と金髪の男(?)二人組を指差す。

 

「あれ、隊長じゃね?」

「ですよね。それにしても、朝と比べて何か様子がーー」

 

ミケルが何か言おうとした瞬間、黒髪の方が突然崩れ落ちた。

 

「た、大変ですよ‼ た、隊長倒れちゃいましたよ‼」

「なに⁉ 隊長がぶっ倒れただと‼ ミケル、様子見に行くぞ‼」

「言われなくても行きますよ‼」

 

二人はホバーから降りると、真っ先に二人の元へ向かった。

 

「シロー‼ ねぇ、僕の声が聞こえる⁉」

「…………ぁぁ、なんとか…………」

 

一方の倒れた士郎はというと、シャルルに支えられて歩いていたものの、全身に毒が回ったのか、呼吸困難にすら陥りはじめている。目の焦点すらあっていない。

 

「隊長‼ 無事ですか⁉」

「…………ミケル…………エレドア…………」

「お、おい隊長、今のあんた、最高にやべーぞ‼ ミケル、ホバーもってこい‼」

「は、はい‼」

 

士郎を見つけたミケルとエレドアは、何故このようなことになったのか把握できてはいないが、このままではまずい事を理解し、医療設備がある程度揃っているホバートラックを持ってくる事にした。

 

「あ、あなた達は一体?」

「ん? 俺達か? まぁ、あれだ。護衛だよ、護衛」

 

シャルルの質問にエレドアは答えるが、どこか納得できていない様子だ。

 

「エレドアさん、早くホバーの中に‼」

「おう‼ すぐに医療キットの用意だ」

 

ホバートラックを持ってきたミケルは、車体中央のハッチを開き、士郎はエレドアに担がれて中へと入って行った。

 

「お願い…………シローを、シローを助けてください‼」

 

シャルルの切な願いは、二人も同じ気持ちであった。

 

「診断結果…………異常なし? こんなに重症なのに?」

「おい、そこの嬢ちゃん」

「(え? そんなにバレバレ⁉)え、えーと、何でしょうか?」

「あんた、その様子からして隊長といたんだろ。何か悪い物でも食ったか?」

「い、いや別に。セシリアさんのサンドイッチを食べてから急に瀕死状態に…………」

「…………原因、それじゃね?」

「とりあえず、試しに胃の中を洗浄してみますよ」

「仮定だとしても、人を瀕死に追い込む飯…………バイオ兵器か?」

 

 

 

 

 

「…………ぅぉ…………?」

 

俺が目を覚ますと目の前には

 

「川か。とりあえず、渡ってみるか」

「だ、ダメだからね⁉ その川、渡ったちゃダメだよ‼」

「隊長⁉ しっかりしてください‼」

「た、隊長さんよ、こっちに戻ってきてくれ‼」

 

どうやら、あの川は渡ってはいけないらしい。そんなに危険なのか、この川。

というかさ、

 

「何で俺、ホバーの中にいるんだ? 俺はさっきまでキリストとかと酒盛りしていたような気が…………」

「「「ちょっと待て⁉ マジで死後の世界に行ったのかよ⁉」」」

 

と、シャルとミケル、エレドアに突っ込まれた。でも、確かに俺、キリストに会ったような気がするんだよな…………

 

「とりあえず、今は何も食う気がわかないんだ。何でだかわかる?」

「…………言った方がいいのか?」

「…………いや、言わない方が得かもしれないですよ」

「…………僕も、そう思いますよ」

 

なにやら、ヒソヒソと三人が話している。何を話しているんだろうか?

 

「ところで今何時なんだ? 早くしないと授業に出れないんだが…………」

「そ、それがなんですね隊長。今、午後六時です」

「マジで?」

「半日近く、気を失っていたようだぜ」

 

…………どうしたらいいのだろうか。明らかにブリュンヒルデの戦車砲級出席簿が落ちてきそうだ。

 

「その事だけど、特別に見逃してくれるって、織斑先生が言ってたよ」

「ん、そうか。それならいいんだ」

 

俺はそう言ってベットから降りると、そのままホバーの外へと出た。

 

「とにかく、ミケル、エレドア、助かった。俺は寮に戻る。お前達も休みとってくれよ」

「「了解」」

 

俺はそのままの足で寮に戻る。

何故か記憶が一部あやふやだが、シャルと再会できてよかった。俺の懐中時計が俺達を繋いでくれた。そう、俺は思いたい。

 

「ところで、シャル、お前の部屋は何処になるんだ?」

「1035号室だよ。相部屋らしいけど」

 

シャル、一言言わせてくれ。お前が来たら、三人部屋だ。

なにも知らないシャルをよそに、俺は同居人()にどう説明しようかと、悩む羽目になった。

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