【本編完結済み】寝落ちしたらモビルアーマーになってた件 ~鉄華団に「厄災の天使」が味方したようです~ 作:睦月透火
ナンデヤネン?!
うえぇ~……(困惑)
一体何がどうなっているのか……気分転換に歌ってたら、人気の無い筈の公園に彼が出現……何とこの歌を知っていた……と、いう事は……?!
(……ヤバい、この男……転生者かもしれない……黒服と繋がりがあるなら、今接触するのは危険すぎる!)
少しずつ暗くなっていく公園の入り口から接近する男……透火は反対側にある川沿いの抜け道から、危険迫るこの場を脱出する為に踵を返し走り出す……
「……! ちょ……待ってくれ!!」
(待てないっての! こっちは命が掛かってるんだから……!!)
慌てて男も走り出すが、透火の足が早すぎてすぐに見失ってしまった……
「何で……ラクス・クラインが、F91の歌とか知ってるんや……」
走り去る透火の後ろ姿……知っている人物に近いその姿を見送った後、男の呟きが暗くなる公園に響く……彼の表情は、あり得なさ過ぎる出来事に困惑を隠せないものであった。
タービンズが歳星に寄港している時に使っている自身の部屋……日が落ちきってから到着した透火の表情は、恐怖に煽られて固まっていた……
(……怖い……怖い、怖い怖い怖い……ヤダ……嫌だ……やだ……助けて……ッ!!)
入り口に鍵を掛け、全ての窓も施錠……カーテンを閉めた後にベッドの側へ行き、壁との隙間に隠れる……先程の男との遭遇で困惑した所に、時間を忘れ日が暮れてしまうまで外に居た事を後悔する透火……
幼少の頃、優しかった両親を目の前で撃ち殺され、黒服の男達に襲われそうになり、命からがら逃げ出し……名瀬に拾われるまでの数年を、見知らぬスラム街で過ごした彼女は……重度の暗所恐怖症となっていた。
突然黒服に襲われ、両親を失った恐怖……スラム街で浮浪者に何度もしつこく追い回された恐怖……そして毎日のように身を守る物もなく、冷たく凍えるしかなかった夜の恐怖……10歳にも満たなかった頃の彼女が、そんな恐怖しかない場所で行く宛もなく数年もの時を過ごしたのだ……いくら治安の良い歳星とはいえ、トラウマとなった夜を平然とできる訳がない。
『ゴメ~ン透火、まだ起きてる~?』
突然響いた扉のノック音……恐怖を煽られて一瞬顔を引き吊らせるが、直後に聞こえたラフタの声に安堵の涙を浮かべて出入り口のドアへ走り出す……
「あ~ゴメンね、ちょっとドライヤー壊れちゃっ……って、どうしたの?」
焦るような物音と共に扉が解放され、苦笑いで立つラフタに飛び付いてきた部屋の主……一瞬、困惑したラフタだが、部屋の中の様子を伺って合点がいき、無言のまますがり付いてきた妹分の頭を撫で始めた。
(……夢でも見たのかな……2年くらい前にも、こんな事あったね……)
ゆっくりと2人で部屋の中へと戻り、透火をベッドへ座らせて宥める……深すぎる心の傷を持つ彼女を、実の妹の様に扱うラフタ……今夜は久しぶりに朝まで一緒に居てやるか、と可愛がるのだった。
そして、鉄華団初の晴れ舞台……この日、タービンズとの兄弟分の盃が交わされる……
この時を以て……名瀬とオルガ、誰にも切らせたくない関係が、ここから始まる。
そして、透火は式の後……整備長と共に、マクマードの部屋へ呼び出されていた。
「お前さんまで直々に呼ばれるとは……何かあったのかねぇ?」
「……さぁ? またあの試験みたいな無理難題かも……」
歳星の整備長を勤める彼とは、フラッグ製作の頃に知り合い……歳星に居る時は良くお互いを手伝っている仲だ……
今日もいつも通り……とそんな折に突然、2人揃ってマクマードから直々の呼び出しだったのだ。
「おぉ、お前らが先だったか」
マクマードの部屋に通されると、部屋の主は2人に笑顔で手招きをする
「……何か、私達にご用命ですか?」
「……ん、あぁ……お前さん達に用があるのは、後から来る連中だ」
言うが早いか、数人が再び部屋へ通されてくる……その中にはオルガと三日月、そして見知らぬ男が1人……全員が鉄華団のジャケットを羽織り、三日月以外は緊張した面持ちだった。
「おぅ、来たか……待ってたぜ、鉄華団」
まさかの用事は鉄華団絡み……だが、1人見知らぬ男が1人混ざっていた……
「俺からの頼みだ、コイツらの力になってやってくれ……」
マクマードの仲介で、鉄華団のMSを触る事になった整備長と透火……それは、史実通り『バルバトスのオーバーホール』……だが透火が案内されたのは、MSの部品が散乱した現場だった。
「……何? このパーツの山……」
「俺の持ち物なんだ……組み上げりゃ使える筈だが、如何せん俺はそこまで出来ないからなぁ」
先程、三日月の隣に立っていた男が歩いて来ながら答える……
男の表情は何かを懐かしみながらも、何処か困惑した表情だった。
「組んだら判るって事? 確かに私向きだけど……あ、そう言えば名前……まだ聞いてない」
透火は、男の表情が気になりながらもパーツを吟味している中……ふと、名前を聞いてない事に気付いて尋ねた。
「……あぁ、すまん……
タイミング良く近くまで来たので、お互いに握手をする2人……すると禍月の口から、信じられない一言が発せられた。
「……似てるな、昨夜の子と……」
その言葉に、一瞬……思考が止まる……昨日と言えば、謎の男と公園での遭遇だ……
だが、続けて発せられた言葉に……透火の頭は、瞬間湯沸し器の如く沸騰したのであった。
「……しかも、何か可愛いし」
ボンッ! /////////////
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あまりの衝撃的な一言に、それまでの思考やら何もかもが跡形もなく全て吹き飛ばされ……赤面したままガッチガチに固まってしまった透火。
「……お、おい……大丈夫か?」
禍月は、自身の一言がこの状況を引き起こしたという自覚の無いまま、目の前の少女がフリーズから立ち直るのを待つ……
たっぷり2分はあっただろうか……ようやく思考が動き出し、追い打ちで禍月の顔が至近距離にあった事にも驚いて超ビビったネコの如く飛び上がって距離を取る。
「……にゃ、にゃ、にゃ……」
「……にゃ?」
ぷるぷると右手を震わせながら禍月を指差す透火……そして
「にゃにイキナリ言ってんにゃー!!」
ずどぉぉぉぉぉん!! という擬音でも聞こえてきそうな感情の爆発……
生まれて始めて、親や保護者以外から囁かれた褒め言葉は……恋愛初心者かつ、恋する願望を抱え込んだ彼女にとって、開幕直後に切り札の爆弾を投下された様なものであった。
その精神的動揺が態度はおろか、口調にまでハッキリと現れている……
そこでようやく、禍月は自身の失言(w)が気付かぬまま理由を察するのだった。
「……んで、こんなパーツよく持ってたわね……」
明らかに不機嫌なのが態度に滲んでいるものの、マクマードの頼みなので渋々パーツ類の吟味に戻る透火……
対する禍月は少し逡巡して、核心となる
「あぁ……所謂、転生特典という奴でな」
「……は? ……え……?!」
ハッキリと聞こえた、彼は『転生特典』と……じゃあ彼は間違いなく、転生者……しかも、初期から鉄華団に関わっているという事になる。
そうなると、彼は必然的に黒服と関係はない……むしろ、味方じゃん!?
今までの気苦労は一体何だったのか……禍月の言葉から5秒ほど経ってガックリと肩を落とす透火……その様子に禍月は『……感情が態度に出過ぎだろw』と笑いを堪えながら呟いた。
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時間を掛けて吟味し終えた私は、彼……禍月桐谷の『転生特典』として持ち込まれたパーツをこう結論づけた。
「明らかにコレは、宇宙世紀の……恐らく、ガンダムタイプ?」
「あぁ、俺の愛機だった奴だ……できれば急いで仕上げて欲しい」
禍月の願いに応えられるのは、確かに私しか居ない……
「……うん、なる早で仕上げるよ……あ、私……
正式に禍月の依頼を受け、ようやく互いに自己紹介と握手を交わした2人……
このクソッタレな世界を修正(※意味深)するコンビが、誕生した瞬間であった。
恋愛初心者(※意味深)に恋愛描写は地獄です……orz
なお、お互いが転生者同士だと分かったのは良いが
本格的に色々話す事になるのはもう少し後になる模様……
当面、透火はこのパーツの山と格闘する事になるのでw
ちなみに前夜の透火が錯乱した直接の理由ですが……
名も知らぬ男が転生者しか知り得ない情報を言い当てた事で危険者と見做し、
振り切る為にあちこち走っていた結果、夜の街で迷ってトラウマが再発……
錯乱したままメチャクチャに走り回ってようやく自分の部屋に辿り着きました……
これって禍月くんが虐めた事になるの?(不可抗力)
では、また次回……
禍月と透火……この2人の間に、アナタが求めるものは?
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互いに背中を任せられる信頼関係
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物語終了後も続く腐れ縁(良い意味で)
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意外な事から発展していく恋愛関係
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特にない