じゃあ、私がやります!
ということで、初投稿です。
ケイネス・エルメロイ・アーチボルトは自室で頭を抱えていた。それは彼女が聖杯戦争の為に用意したとある大英雄の聖遺物が盗まれたからだ。
ケイネス・エルメロイ・アーチボルトは魔術師である。魔術師とは、全てが存在し原始にして終焉の場所である根源を目指す生物だ。そんな魔術師は、ロンドンの時計塔に集い根源に辿り着くために互いを補い合う。それが当初考えられていた時計塔の役割だったのだろう。
現在時計塔は、そんな当初の理念とはかけ離れた場所になっていた。時計塔には三つの派閥が存在する。バルトメロイを中心とした貴族主義派閥、トランベリオを中心とした民主主義派閥、彼らとは対立も賛同もせず、当初の目的である研究に明け暮れるメルアステアを中心とした中立派閥だ。
ケイネスのエルメロイ家は
それは彼女が女性であったためだろう。魔術師という生き物は基本的に女を優秀な子供を産むための胎盤としか思っていない側面が存在していた。ケイネスはエルメロイの傑作であり、彼女は胎盤として使いつぶすのには惜しい才を持っていたのだ。
女でなければ、男だったらなどという陰口をケイネスは何度も体験していたし、それに応じて敵は多かった。挫折も何度も経験したし、彼女自身、自分が男であればと願ったことは何度でもあった。
そしてついにケイネスの堪忍袋の緒が切れたのだ。とはいってもケイネスは時計塔のロードだ、むやみに下手な手段で
彼女が作成した魔術具、
時計塔のロードが参加しても問題ないほどの高名な魔術儀式であり、敵対勢力が派閥抗争に影響を及ぼさない程々に名の知れた魔術師である儀式をケイネスは探す羽目になった。そうして発見したのが聖杯戦争であった。
聖杯戦争は西洋魔術の後進である極東で行われる儀式でありながら根源の可能性が示唆されるほどには格が高かった。そして敵対するのはアインツベルンとかいうドイツの片田舎の魔術師と、遠坂とか間桐だとかいう東洋人のマイナー魔術師だった。更には英霊を利用して行う儀式でありケイネスがロードを務める
ケイネスは喜んだ。彼女にとっては天の配剤ともいうような儀式であったからだ。そして彼女は巨額の資金を投じて征服王イスカンダル、つまりはアレキサンダー大王の聖遺物を入手したのだ。しかし、彼女の聖遺物は何者かによって盗まれた。
そのためケイネスは怒りと失望から頭を抱えていたのだ。おそらく今回の窃盗事件は
ケイネスにはブラム・ヌァザレ・ソフィアリという婚約者がいたが、政略結婚させられた相手であり、ケイネスが
ケイネスはブラムを触媒盗難事件の黒幕の一人だと睨んでいた。あるいは
この時計塔では
ふとケイネスは頭の片隅に残っていたことを思い浮かべた。ウェイバー・ベルベットの失踪だ。ベルベット家は歴史の浅い三流の魔術師だ。にもかかわらずウェイバーは時計塔に入学してきた。そのことをケイネスは評価していたし、ウェイバーがケイネスに持ち込んだ論文もきちんと読んだ。もっとも大前提が間違っていると盛大に扱き下ろしたが。
「まさか彼が?いや有り得ないな。そんなことが有ったら私はロードをやめてもいい」
ケイネスは独り言を漏らすと、触媒を再び手に入れるために部屋を出た。
ケイネスは日本に来た。魔術工房の資材は既に配送し終わっていたので、単身飛行機に乗り移動するだけで良かったのだ。
「飛行機。原理は分かっているのだが。怖いものは怖いのだな」
ケイネスは飛行機に乗るのは初めてで新鮮な経験であったが、好んで乗るものでは無いと断じるに至った。
ケイネスの所属は
彼女が選べるものに最古の蛇の抜け殻や、それ自体が宝具である聖剣の鞘などがあったがこれらはディルムッド・オディナのものより10個くらい桁が違っていたため馬鹿らしくなって買わなかったのだ。
たかが箔付けの為に馬鹿げた大金を動かすつもりはなかった。それにケイネスが調査したところこの儀式は成立しない可能性が高いことが分かったのだ。極東の田舎でそんなのが出来るわけないだろう。これはずっとケイネスが抱いていた感想だが、その情報を得たことでケイネスの仮説に信憑性が増したのだ。
つまりケイネスは聖杯戦争は無意味な儀式であり、箔付けのためのものとして認識することにしたのだ。
ケイネスは拠点も安価なものとして済ませた。エーデルフェルトに話を持ち掛けて買い取った双子館である。嫌に安かったのが印象に残っている。
双子館はセカンドオーナーである遠坂時臣の邸宅の付近に建っている。そのため余計な摩擦を増やさないためにケイネスは遠坂時臣に挨拶に行った。
遠坂時臣は明らかに緊張した様子でケイネスを供応した。
「高名なロードエルメロイを持て成せる機会が来るとは夢にも思えませんでしたな」
「宝石翁と関係を持たれるであろうミスタ遠坂にそこまで褒められるとは、光栄ですね」
両者は軽く笑い合った。
「さてロード。今回の貴女の来訪は聖杯戦争に関してのことですね?」
「ええ、その通りです。私は聖杯を欲しません。求めるのは危険で高名な魔術儀式から生還したという実績のみです」
「成る程。聖杯は不要であり名誉だけを求める。政治ですかな?」
「ええ。面倒な輩が多くて困っていまして。名というのは虫よけになるのですよ。それに私が他人の成果を横取りするような人間だったらここには来てなどいませんからね」
「貴族でいらっしゃると?」
「お互い様でしょう」
深い笑みを浮かべたケイネスと時臣は魔術契約書を用いて契約をした。これはセルフギアススクロールとは異なり、署名者に重い罰則を与えないことが両者の関係性を如実に表していた。
ー天秤の守り手よ」
ケイネスの詠唱が終わるとそこに現れたのは二刀二槍を携えた男だった。しかし只の人間ではないことはその身に纏う魔力が証明していた。
「フィオナ騎士団が一番槍ディルムッド・オディナ。ランサーとして推参致しました。これより貴女に仕えるサーヴァントとなります」
「貴様のマスターとなるケイネス・エルメロイ・アーチボルトだ」
ケイネスの右手にはマスターの証明となる三画の令呪があった。
「ランサー、貴様が聖杯に託す願いは何だ?」
「我が願いは生前の汚辱を晴らすべく主に忠を尽くすこと。それのみだ」
「そうか、私の望みはこの戦いでの勝利だ。貴様には期待しているランサー」
「このディルムッド我が名に懸けて必ずマスターに勝利を捧げましょう」
ランサーが騎士道精神にあふれているのをケイネスは不憫に思った。騎士道は十二世紀以降に発生したものであり、ランサーの生前とは微塵も関係が無いのだ。英霊というのは後世の人間にその実例をたやすく曲げられてしまう。その実例がランサーであろう。
「貴様の二刀に違和感は有るか?」
「いえ、生前のままです」
「そうか。問題は無いか……」
ケイネスはニヤニヤしながら情報を集めた書面をめくった。自身の術式でランサーに宝具を増やすことが出来たのはケイネスをして予想以上のものだったのだ。せいぜいがパラメーターの強化がよい所だろうとケイネスは踏んでいたのだから。
「望外の幸運というのは有るものなのだな」
「さてランサー、私の身分について教えよう。私はケイネス・エルメロイ・アーチボルト。貴様が知っているかは定かではないが、時計塔という魔術師の集まる場所でロードという役職についている」
「そして、聖杯戦争について恐らく貴様が知らないだろう情報だ。この儀式は失敗する可能性が高い。貴様の願いが聖杯では無くて良かったな」
「最後に敵対するであろうマスターについての情報だ。この近くに拠点を構えている遠坂時臣。奴が手に入れたの触媒からして召喚されるのは人類最古の王ギルガメッシュ。しかし神霊の類は召喚が不可能だ。このことから奴の召喚は失敗に終わる可能性が高い。次にアインツベルンだ。ここは触媒からしてアルトリウス。アーサー王がセイバーとして召喚されるだろう。そして間桐だ。円卓の欠片が購入された形跡がある。召喚されるのは円卓の騎士であろう。また、私が購入した聖遺物を何者かが使用し、アレキサンダーを召喚する可能性がある。それと教会と遠坂の癒着の可能性が存在する。以上だ。質問は有るか?」
ランサーは棒立ちだった。そして涙を流した。
「ランサー?ランサーどうしたのだ?私が何かしたか?おいランサー」
ケイネスはオロオロした。自身のサーヴァントが急に泣き出すことに驚いたのだ。
「申し訳ありません主よ。このディルムッド主の智謀にいたく関心しました」
ケイネスはランサーに対して不安を覚えた。そして自分の死に備え、遺言状を残しておいたのは正解だったのかもしれないと思ってしまった。
その夜、ケイネスが情報を整理していると、使い魔の視界に戦闘風景が入った。遠坂邸に張り付かせていた使い魔からだった。
「ランサー。アサシンが遠坂邸を襲った。この双子館にも敵襲が有るかもしれん。気を配れ」
「承知」
一言を言い残し、ランサーは夜の闇に溶けていった。
ケイネスが目撃したのは戦闘すら言えない戦いだった。踊るようにして遠坂邸に侵入したアサシンが金色のサーヴァントに、花を摘むようにたやすく打ち取られたのだ。
「ギルガメッシュ……馬鹿な、召喚に成功したのか……」
「あの金の鎧に複数有るだろう宝具。破格のサーヴァントか……」
「クラスはアーチャーか……」
ケイネスはこれまでの情報と先ほどの遠坂邸との情報を照らし合わせサーヴァントのクラスとマスターを特定しつつあった。
「セイバーはアーサー王でアインツベルン所属。アインツベルンには魔術殺しの衛宮切嗣。ランサーは私の陣営か。アーチャーはギルガメッシュ、マスターは遠坂時臣、アサシンのマスターは言峰綺礼。時臣とグルで、アサシンは消滅していない。蘇生する宝具を持っている英霊か?キャスター、ライダー、バーサーカーは不明か。間桐のサーヴァントがどうなるか、円卓の騎士ならこの全てのクラスを満たせる」
時計塔で権謀術数に明け暮れた日々を送っていたケイネスにとってアサシンとアーチャーの茶番は失笑物だった。しかし、独り言をつぶやきながら深刻な顔をしていたケイネスを、ランサーが不安な目で見ていたのを彼女は知らなかった。
「主よ戻りました。周辺に敵の気配は存在しません」
ランサーはレディに配慮し、ケイネスの独り言が終わるのを待った。
「そうか。良くやった」
「お褒めに与り恐悦至極」
ランサーの気遣いはケイネスには通じず、ケイネスは何かを考え上の空であり、代わりにそっけない褒め言葉が返ってきただけだった。しかしながらランサーの返事には喜色が滲んでいた。
ランサー主従の夜はゆっくりと更けていく。