ケイネス先生(♀)が行く聖杯戦争   作:むにゃ枕

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書き留めがこれにて消滅

ライネスの一人称です。


CASE2 ライネス・エルメロイ・アーチゾルテ

 私は生まれつき性格が悪い。魔術師の偏屈さが遺伝したのかもしれないし、私個人が単に性格が悪いだけかもしれない。ともかくそれは生まれつきだった。

 

 ケイネス・エルメロイ・アーチボルト、私の叔母であり、時計塔で十二人のみが掛けることを許される君主(ロード)の席に着く者。私よりも優秀で、抜け目のない魔術師だ。

 

 そんな彼女が聖杯戦争に行くと知った時、私は彼女が無事に時計塔に帰ってくるとは思っていなかった。そして、死ぬとも確信していなかった。

 

 彼女は無事に帰ってきた。そして、どうしてか私を引っ張り出したのだ。幼子に過ぎなかった私はホイホイ連れられるしかできなかった。誰であれそれ以外の選択肢は無かっただろう。相手は君主(ロード)なのだから。

 

 そうして、諸々が終わり、叔母はロードという枷を外し自由になり研究に没頭している。私に責任だけを押し付けた。そう責めたいけれどそんなことをする蛮勇は持っていなかった。それに次期ロードというのは別に悪い話ではない。叔母はロードの職務とそれに付随する諸々を嫌そうにしていた。私にとってそれは苦痛ではあるが、叔母が嫌うほどのものではなかった。

 

 思うに叔母は真っすぐすぎたのだ。権謀術数が飛び交う魑魅魍魎まみれの時計塔、その君主(ロード)でありながら、彼女は真っすぐすぎた。だから、私に重荷を乗せたのだ。それは仕方が無い。

 

 時計塔から叔母とともに聖杯戦争に赴き無事に帰ってきた人物は、もう一人いた。ウェイバー・ベルベット。当時の私と比べても劣る魔術師だ。大した魔術回路もなくそれでも生きて帰ってきた。その幸運に驚きはせど何か思うところが有るわけではない。

 

 そんな評価が変わったのが、彼がエルメロイの屋敷を訪ねてきた時だった。馬鹿正直に正面から入ってきた彼を叔母は逆さ吊りにしていた。私がやった気もするが、事実は定かではない。 

 

 逆さ吊りの彼の叔母を見る目は、何やら意味ありげだった。叔母を見ているようで、遠くを見ているような瞳。僅かな後悔と熱量を秘めた瞳。それは私が見たことのないものだった。今でもその時以上のものは見たことが無い。

 

 恋情だろうか?焦燥だろうか?それとも渇望?

 

 その瞳に私は吸い寄せられた。この瞳が濁っていく様を見たい。私はそんなことを考えてしまった。

 

 と、まあ。ここまでが私の半生というものかな。

 

 私の目の前で、視線をあちらこちらに飛ばしている落ち着かない少女にむけて私は話を締めくくった。この少女のなはグレイ。我が兄が内弟子として連れてきた少女だ。

 

 フードを目深に被った少女だ。ちらりと覗く貌は美しいものだろう。しかし、どういう訳かグレイはフードを取ろうとはしないし、我が兄も叔母もそれについては何も言わない。

 

「ライネスさん、それじゃあ師匠はケイネスさんのことが……?」

 

「いや、私にもわからない。こんな愛らしい義妹にも我が兄は秘密を打ち明けはしないんだ」

 

「それは……」

 

 私は頬杖をつく。

 

「人は誰しも秘密を持っている。それは私もそうだし君もそうだ」

 

「拙は……」

 

「別に君が無理に話す必要はないさ。君が秘密を持っていることは一目瞭然だ。けれど私はそれを無理に聞き出そうとはしない」

 

 私とグレイの間に気まずい空気が流れる。天使が通るということとはかけ離れているだろうけど、こういった場面での沈黙も私は嫌いではない。

 

 その少しの時間は、ドアをノックする音で遮られた。四度のドアを叩く音。人間では有りえない銀色の肌を持つ彼女が紅茶を持ってきたのだろう。彼女の名はトリムマウ。叔母の月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)に私が魔術を施したものだ。

 

 このエルメロイの屋敷は叔母の持ち物でそこに私が住まわせてもらっている形になる。それ故、トリムマウは叔母と私が共有している。とても便利だと、叔母もトリムを褒めていた。

 

「グレイ、折角淹れたんだ、飲まないのかい?」

 

「は、はい」

 

 そんなに慌てなくともいいのに、グレイは直ぐに紅茶に口を付ける。

 

「おいしい」

 

 思わずといったところだろう、彼女の口からは素直な言葉が漏れた。

 

「それは良かった。トリムもようやく美味しい紅茶を淹れられるようになったのだからね」

 

 紅茶だけでは物足りないだろうと、トリムに持ってこさせたのはマカロンだった。叔母が作りすぎたらしい。あの人は趣味に生きている。グレイはココアを白魚のような指でつまみ、ゆっくりと口に持っていった。

 

「これ、おいしいです」

 

 グレイの毒見が正しければ、このマカロンはおいしいらしい。叔母が作るものは基本的に美味しいのだ。私もマカロンを口に運ぶ。確かに美味しかった。何も言わずに我が兄にも食べさせてやろうではないか。

 

「さて、そろそろ君をこうして誘った理由を話そう」

 

 グレイは驚いた顔をしている。もしや、私がただグレイとお茶会をしたかったなどと思っているのだろうか。……確かにそれは有る。

 

「君とお茶会をしたかったというのも理由には入る」

 

 グレイが頬を少し赤らめた。フード越しでもそれくらいは分かる。こっちまでこそばゆい気持ちになるじゃないか。

 

「本題は、私が君を借りたいというお願いさ」

 

 イゼルマの双貌塔、そこで私とグレイは事件に巻き込まれることになるのだが、それは別の話だ。

 

 

 

 

 

 

   




やりきりました。
本編完結

おまけは少し有ります。
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