ケイネス先生(♀)が行く聖杯戦争   作:むにゃ枕

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感想嬉しかったので、二話投稿です。


ACT2 英霊参集

 遠坂邸での戦闘から一日が開けた夜、ケイネスはランサーと共に倉庫街に立っていた。周囲には人払いの結界を敷き、一般人の出入りを防いだ状態だ。

 

 ケイネスは遠坂時臣とは軽い契約を交わしている。それはケイネスと時臣とそのサーヴァントが最後の一騎どうしにならない限り敵対しないというものだ。約定を違えた時は一時的に魔術回路が封印されるものとなっている。このペナルティが両者の意見の合意点だった。

 

 このことから遠坂時臣とギルガメッシュは、言峰綺礼のアサシンが死亡するまではケイネスとランサーを攻撃できないのだ。二騎のサーヴァントが高確率で敵対しないことはケイネスに余裕を持たせた。それゆえ、街中のサーヴァントを誘い込み迎撃するという大胆な戦術が執れたのだ。

 

 ケイネスが冬木氏の名店を探すために飛ばしていた使い魔が捉えたのは、真っ白な肌と赤い目をしたホムンクルスの特徴を顕著に表した女と、霊体化もせずにスーツ姿で街をぶらつく間抜けな最優のサーヴァントだった。

 

「ランサー、セイバーを発見した。マスターは魔術師殺しではなくアインツベルンの女だ。魔術師殺しが付近にいる可能性が有る、注意してこちらに誘い込め」

 

「我が槍にかけて」

 

 そう言い残しランサーは霊体化した。ケイネスは魔術殺しに備え月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)を展開した。

 

 セイバーがのこのことつられてきたのをケイネスは捉えた。

 

「アインツベルンのマスター、それにアーサー王。さあ尋常に勝負と行こうか」

 

「我が主よ。我が剣、我が槍の冴えを貴女に捧げましょう。さあセイバーよ試させてもらうぞ」

 

 ランサーが一瞬のうちに肉薄した。その速度は正に疾風迅雷と言ったものだった。セイバーはスーツ姿から即座に鎧姿に移り剣を構えるがそれは悪手だった。セイバーにとって不幸なことにランサーには風王結界(インヴィジブル・エア)の意味がほとんどなかったのだ。

 

 事前にケイネスが仕入れたアーサー王の鞘の情報で、ランサーは目の前の女騎士の真名もクラスの予想も付いていた。何よりアインツベルンの女が顔に浮かべた驚きがその真偽を語っていた。

 

 ランサーの必滅の黄薔薇(ゲイ・ジャルグ)はセイバーの左腕を穿った。セイバーは王であって戦士ではなかった。その差もあっただろうし、何より情報の差が大きかった。

 

 ケイネスもランサーと同時に駆けた。月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)をバトルドレスのように展開したケイネスは強化魔術を自身に施しセイバーのマスターに肉薄したのだ。アイリスフィールにしてはたまったものでは無かった。もともとアインツベルンの魔術は攻撃用ではないし、頼みの綱の切嗣は近くにはいないのだ。水銀のドレスを着た女を遠ざける術が彼女には無かった。

 

 

 

 衛宮切嗣は焦っていた。時計塔のロードであるケイネス・エルメロイ・アーチボルトを狙撃するという作戦に不備は無いはずだったのだ。しかし、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトは優雅さなどかなぐり捨てて、ランサーと共にアイリスフィールに攻撃を仕掛けたのだ。

 

 衛宮切嗣は完全に盤面を読み間違えていた。アイリスフィールが何とか猛攻を防いでいるがそれも時間の問題だろう。頼みの綱の可愛い騎士王さんはロードエルメロイのサーヴァントに押されていた。

 

 ランサーであろうそのサーヴァントはランサーで有りながら二刀を携え、それらを巧みに操りセイバーを追い詰めていた。切嗣は一秒が過ぎるごとに自分の選択肢が少なくなっていくのを肌で感じていた。

 

「令呪は?駄目だ。セイバーは守れてもアイリが……ああ仕方がないか。すまない……舞弥」

 

 衛宮切嗣は多を救うために少を切り捨てる男だった。この場合、救うべき多がアイリスフィールで切り捨てるべき少が久宇舞弥であるだけであった。戦闘機械として、判断は間違っていなかった。そのはずだった。

 

「舞弥。アイリスフィールを救え。突撃しろ」

 

 幸いにも久宇舞弥が装備していた銃はAUGだ。素性をアサルトライフルに持つ銃は狙撃用にカスタムされていてもその本来の目的を遂げた。

 

 ケイネスを狙った銃弾は全て、銀色に蠢く礼装によって食い止められた。それでもアイリスフィールを救うという目的は達せたようでケイネスは速やかにアイリスフィールから距離を取った。

 

「目標を達成しました。切嗣指示きゃああ!これはアサシン!?嫌。切嗣、切嗣、切嗣。切嗣!!!」

 

 舞弥はアサシンに殺されたのだろう。無線機からの悲鳴は途絶えた。

 

「舞弥……すまない」

 

 切嗣の謝罪は夜の闇に紛れ消えて行った。切嗣は自身の頬を何かが伝うのを感じた。それは涙だったかもしれないし、季節外れの汗だったのかもしれない。

 

 

 ケイネスはセイバーのマスターを仕留め損なった。あと一歩というところまでは追い詰めたのだが、銃で撃たれたのだ。弾丸は一発も当たらなかったが、用心の為ケイネスは引かざるを得なかった。

 

 ランサーは順調にセイバーを追い詰めていた。この分では宝具を使う必要もなくセイバーは討ち取られるはずであった。

 

 不意に頭上で雷鳴がした。ケイネスは嫌な予感がして、ランサーとセイバーの向き合う戦場から離れた。それはランサーもセイバーも同様だったようで、彼らは後ろに飛びのいた。

 

 上空に不審な影が浮かんでいた。雷光を迸らせながら空を駆けるチャリオット。

 

「ライダー、イスカンダルか?」

 

 ケイネスが本来召喚する予定だったサーヴァントがそこにはいた。

 

 ランサーとセイバーの上空を旋回していたチャリオットは速度を落とし、ランサーとセイバーの中央に降り立った。

 

「双方、武器を収めよ。王の御前である!」

 

「我が名は征服王イスカンダル。此度の聖杯戦争においてはライダーのクラスを得て現界した」

 

 チャリオットの持ち主ライダーは、威風堂々とした様子で自らの真名を告げた。

 

「何を———考えてやがりますかこの馬ッ鹿はあああ!!」

 

 ケイネスにとってその声は聞いたことがあるものだった。それはつい先日愚かにも貴族主義派閥(バルトメロイ)のエルメロイ教室に魔術師の血統を否定した論文を持ち込んだ生徒の声だったのだから。

 

「ウェイバー・ベルベット?」

 

 その時のケイネスは般若のような顔をしていたと後にウェイバーは言っている。そのくらい恐ろしい顔をケイネスはしていたのだ。

 

「ウェイバー・ベルベット。貴様どこに頼まれた?トランベリオか?バリュエレータか?いやエーデルフェルトの連中だな。地上で最も優美なハイエナの名は伊達ではないということか。大した策だなエーデルフェルトは。私に双子館を貸しながら、敵対するサーヴァントを貴様に召喚させる。なるほど素晴らしい策謀だ。いや気が付かなかった私が愚かだったのか。奴らならこれくらいはやるんだったな」

 

「ふふ。だがこの策には決定的な穴がある。それは実行役を貴様にしたことだよベルベット君。いや私の意表を突くという意味では君は適役だった。しかし君には可哀そうなほどに魔力も実力も足りない。君では私を殺すことは不可能だ」

 

 ケイネスは目の前の少年を哀れに思った。三流の魔術回路で時計塔に入学できるほどの能力が有りながら陰謀に巻き込まれ手先となって死ぬ。ありふれた末路だが。むざむざと見せられ、何も思わないほどの冷血さをケイネスは持ち合わせていなかったのだ。

 

「そうだな。私の暗殺に失敗し拷問死するよりは、楽に殺してやる。さあウェイバー・ベルベットこちらに来い。貴様の名誉を考慮し特別に決闘という形で殺してやる」

 

 ウェイバー・ベルベットはケイネスが自身に向けた殺意が憐みを多分に含めたものになったことに複雑な気持ちがした。そして同時にメタクソにこき下ろされた論文のことが頭によぎり、怒りとも悲しみともつかぬ感情が湧いてきた。自分が眼中になかったことへの怒りか、自らの矮小さに対しての悲しみかウェイバーには理解が出来なかった。

 

 そして隣の征服王は腹を抱えて笑っていた。

 

「くく。ランサーのマスターよ。貴様は勘違いをしておる。この坊主はただ貴様に勝ちたくて触媒を盗んだのだ。もっともそれ以外の理由も有るようだがな」

 

「はっ?」

 

「勘違い。私の勘違いだと!?」

 

「ウェイバー・ベルベットそうなのか?」

 

 ケイネスが自分の醜態を隠すために違うと言ってくれというような表情を浮かべウェイバーを見た。ウェイバーは更に複雑な気持ちになりながらも自分が意趣返しの為に触媒を盗んだと答えた。

 

「ベルベットぉ!貴様は無惨に殺してやる。二度と時計塔に顔を出せないようにしてやるからな!」

 

 ケイネスは顔を真っ赤にしながら捨て台詞を吐いた。

 

「なあ坊主、ランサーのマスターは思いの外面白いやつではないか」

 

「え、ああ。うん」

 

 戦場に弛緩した空気が流れていた。ケイネスは頬を赤く染め、アイリスフィールはセイバーの傷を治療し、ランサーはライダー主従を憎々しげに睨んでいた。

 

「雑種共が、このようなくだらない茶番劇では我を愉しませるに足りん」

 

 エーテルの燐光をにじませ電柱の上に現れたのは金色の鎧に赤い瞳を宿した男だった。アサシンをいともたやすく打ち取ったサーヴァントがそこにはいた。

 

 そして程なくして、地の底から湧き出した怨霊のような明らかに狂気に堕ちたサーヴァントが姿を現した。黒く歪んだ虚像のみを映す狂戦士、つまりはバーサーカーだった。

 

 そしてバーサーカーはアーチャーに無謀にも襲い掛かった。その場に居合わせた誰もが、昨夜のアサシンのようにバーサーカーはたやすく討たれるだろうと予想していた。しかしそうはならなかった。バーサーカーはアーチャーが射出した武具を容易くつかみ取り、アーチャーの攻撃を完全に受け流したのだ。

 

「間桐のサーヴァントか?間桐はキャスターを選ばなかったのか?」

 

 ケイネスがポツリと独り言を漏らした。アーチャーの出現はケイネスにとっては有利となるものだった。このアーチャーの真名がギルガメッシュであるなら、このサーヴァントには正当な手段では勝利できないのだ。それが神秘というものの法則なのだ。

 

 しかし、ケイネスの期待とは裏腹にアーチャーは戦場から姿を消した。残ったのは左腕の使えないセイバーと、アイリスフィール、ライダー主従と、バーサーカー、そしてケイネスとランサーだった。五騎のサーヴァントの間に緊張が走った。そして初めに動いたのはバーサーカーだった。

 

 バーサーカーは不気味な叫び声を挙げ、セイバーに迫った。左手が使えないセイバーには防戦しか選択肢は無かった。

 

「ランサー、ここで私がセイバーを殺せと命じたら貴様は私に反抗するか?」

 

「いいえ。我が主に反抗など有り得ません。しかし、ライダーの動きが読めない以上、主を守るためにセイバーへの攻撃は控えざるを得ません」

 

「ランサー、貴様は優秀なサーヴァントだ。ここで騎士道がなどと言い出したら貴様の扱いを考えざるを得なかったのだがな」

 

 ケイネスはランサーに十分な状況判断力が伴っていることを嬉しく思った。

 

「ランサーのマスターよ。魔術師でありながら貴様は中々戦場の風流を解する。どれ今夜は余が幕を落とそうではないか」

 

「ライダーあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 ライダーはチャリオットでバーサーカーを跳ね飛ばし、夜の闇に消えいった。その際に発せられたウェイバーの情けない悲鳴はドップラー効果を十分に証明するものとなっていた。

 

 ライダーに轢かれたバーサーカーはゴロゴロと転がっていき、弱弱しく立ち上がると、霊体化し消えて行った。

 

 残されたのは、セイバーとアイリスフィール、そしてケイネスとランサーだった。

 

「セイバーとそのマスター。ライダーに敬意を表し、今回は見逃してやろう。分かったらとっとと帰るんだな」

 

 ケイネスは猫を追い払うような仕草をセイバーとアイリスフィールにした。セイバーは血管をぴくぴくさせていたが結果的に彼女たちは引き下がった。

 

 人払いの結界を解除し、ケイネスは双子館に戻った。セイバーを脱落させることは出来なかったが左手を使え無くしたことや、遠坂時臣に令呪を一画使用させることが出来たのは大きな収穫だった。そして、怒りと屈辱で一時は我を失ってしまったケイネスだったが、考えればライダーのマスターがウェイバー・ベルベットであるならケイネスには取れる手段が有ったのだ。

 

 聖杯戦争の初日はかなりの収穫をケイネスにもたらした。順風満帆に近い状況こそが、今のランサー陣営の状況だった。 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

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