アインツベルンの森に侵入してきたキャスター、そしてキャスターが召喚した海魔に、セイバーは押されていた。セイバーを救国の聖女ジャンヌダルクと誤認した、狂った英霊ジル・ド・レイは悪魔召喚の逸話のある人物だった。それ故に海魔を召喚できたのだろう。その海魔がセイバーにとっては鬼門だった。
斬っても斬っても再召喚され、増加する海魔。元が王であり生粋の戦士ではない上に、左腕が使えず、本来の能力が発揮できないのもあり、セイバーは絶体絶命のピンチだった。
遠雷を聴覚が捉えた、まさか、とセイバーの直感が働く。その雷鳴がだんだんとこちらに近づいてくることで、セイバーはライダーの接近を察した。目の前の狂ったキャスターが全くライダーには気が付いてはいないのもあって、ライダーの接近は自身にとっての好機となるだろうと、セイバーは考えた。
しかし、その予想は裏切られた。
「AAAALaLaLaLaLaLaie!!!」
ライダーはセイバーを無視して、海魔の群れに突入してきたのだ。直感が働かなければセイバーも轢かれていただろう、丁度轢かれたキャスターのように。
「おのれ匹夫めが!この匹夫めがぁぁぁ!!!!」
地に伏したキャスターを一陣の風が襲った。ランサーだった。チャリオットから駆けたランサーがキャスターの霊核を獲物で貫いたのだ。キャスターは、転移を使う暇もなく消滅した。
衛宮切嗣は、アインツベルンの森付近で敵マスターを探していた。ランサー、ライダーのマスターはサーヴァントから離れないことは分かっていた。それ故に切嗣はアインツベルンの拠点で待機することを選択しなかったのだ。
「見つけた。あいつがキャスターのマスターか……」
路上で異様なテンションで叫び声をあげている男を切嗣は使い魔で発見した。男の右手には赤い刺青のようなもの、つまりは令呪が存在していた。キャスターは転移魔術を使用する。この男を確実にここで刈り取る必要があった。そして切嗣は狙撃中のスコープでその男をのぞき込む。
(切嗣、キャスターが消滅しました)
突如、セイバーから入った念話に、切嗣は驚いたが殺人機械としての経験が生きたのだろう、その瞬間に銃の引き金を引いていた。
キャスターのマスター雨竜龍之介は、切嗣のヘッドショットによって即死した。切嗣は令呪の回収が出来なかったが、マスターの一人を始末できたことに安堵した。切嗣は死体を目立たない場所に移動し、血痕を拭い去った。そうしてスナイピングポジションに戻った。
アインツベルンの森へ至る道は限られている。切嗣のいる高台はその道全てを監視できる絶妙な位置に存在していた。凶悪な狙撃手は草木に紛れそこにいる。
事態はセイバーの予想もしなかった方向に転がっていた。キャスターがライダーのチャリオットに轢かれ、ランサーに葬られたのだ。セイバーは驚きのあまり不仲である切嗣に念話をしてしまった。そして切嗣からはキャスターのマスターを始末したという切嗣の有能さを示す情報が返ってきた。
以上のことからセイバーは切嗣を無能だとは思っていなかった。しかし切嗣から伝えられた、ランサーとライダーのマスターが不仲であるという情報は全く当てにならなかった。
「ライダー、貴公はランサーと手を組んだのか!?」
「むう、セイバー、そうカリカリするな。坊主とケイネスが仲直りをしただけのことよ」
「見損なったぞライダー」
セイバーは混乱のあまり、ライダーを罵倒する。
「そういうなセイバー。俺とライダーとで貴公を攻めるつもりは気は全くない。さあ、騎士の名誉に誓って尋常に一対一で立ち会おうではないか」
「望むところだランサー」
セイバーは破れかぶれだった。もともとセイバーは王なのだ、生粋の戦士ではないのだ。それなのに相手は二刀二槍の純粋な戦士である。左手が封じられている今、セイバーに勝ち目は薄かった。それでも戦士として背を向けることはできない。
セイバーは魔力を纏いランサーに切りかかった。
エクスカリバーの一撃をランサーは華麗に受け流す。そこには経験に裏打ちされた技量があった。
「くっ、ランサーやはり貴公は強い」
「その言葉そっくりそのまま返そう」
魔力を放出して、ロケットのように一撃離脱戦法で襲い掛かるセイバーを、ランサーは軽くいなす。それが通用しないと分かったセイバーは魔力放出を使い空中で動きを変え、ランサーを襲う。それもランサーには通じず、却って手傷を追う結果となった。
頬に流れる血を舐め取り、セイバーは再び加速した。右手のエクスカリバーから突風を発生させ、目くらましを仕掛け、膂力を活かし、蹴りを放つ。
蹴りはランサーの右腕をかすめ、血を流させた。
「なかなかやるではないか、セイバー。我が主よ、宝具の使用許可を」
「許す。ランサー存分に力を奮え」
ケイネスの言を受け、ランサーは黄の短剣をセイバーに向ける。
「ゆくぞセイバー。覚悟はいいか?」
「海神より授かりし剣よ、その憂いを示せ!
短剣が発光するとともにランサーが加速する。その槍さばきが、その剣戟がセイバーを追い詰める。
「ぐううう、左腕さえ使えれば!」
ランサーの猛撃を捌ききれずに、セイバーの矮躯に小さな傷が増えていく。
「さらばだ、セイバーよ」
ランサーが、勝負を決める一撃をセイバーに放たんというその瞬間、金色の波紋がセイバーの後方に浮かんだ。次の瞬間には宝具が雨あられとばかりにランサーに打ちかかった。
「ほう、今のを避けるか。雑種とはいえ見どころがある」
「アーチャー!」
ウェイバーの声が静寂に包まれた戦場に嫌に響いた。
「アーチャー貴様、騎士の戦いを穢すか!?」
「ほう、セイバーよ吠えるではないか。その美貌、その愚かしさ、聖杯を得た暁には我が妻となれ」
「な、なにを言うのですかアーチャー!?」
「なに、恥ずかしがらずとも良い。雑種共の間では、つり橋効果とやらが持て囃されていると聞いてな」
「お断りします。これは私への、騎士への愚弄だ」
「なに、我は焦ってなどない。雑種共が散った後でも考える時間はあるだろう」
黄金の波紋が、ランサー、ライダーに向け構えられ、緊張が戦場を支配した。