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ライダーを中心に巻き起こった風は、鬱蒼とした陰鬱なアインツベルンの森では有り得ないほどの熱と渇きを含んでいた。そして、褐色の大地と突き抜けるような蒼穹は戦場を覆っていく。ケイネスとランサー、ウェイバーとセイバーはその光景を呆れたように眺めていた。
「固有結界か……それもライダーのサーヴァントが」
ケイネスのぼやきもまた荒野の風の中に吸い込まれていった。
「
「さあ、余と共に歩んだ勇者たちよ、その力を示せ!」
『AAAALaLaLaLaLaie!!』
イスカンダルの声に応え、戦士たちの声が地を揺るがすように響いた。そして、その戦いに餓えた狼の如き軍勢の前には、浮足立ったアサシンは敵とすら見なされなかった。ある者は槍で突かれ、有るものは斬られ、有るものは逃げたその背を撃たれ、消滅していった。
アサシンが完全に消滅し、固有結界が跡形もなくなっても。そこには確かに残された熱気が確かにあった。ウェイバーは完全に放心した様子だった。それをケイネスが肩を小突き正気を取り戻させた。
セイバーはライダーの宝具を虚ろな目で見ていた。自分とは全く違う王の在り方に心を抉られた。セイバーは死してなお、あれ程の数の英霊に慕われる王ではなかった。自らの召喚に応じる騎士は何人いるだろうか?一人も来るはずがないかもしれない。満足にマスターとも意思疎通できない自分と、マスターと絆を紡ぐライダー。その差は王としての立場にあったのかもしれない。
「それでも、私は……。いや、私が?私ではない誰かが王になれば……」
折れそうになる心を繋ぎなおして見たものは、最高にして、最強の騎士と謳われた男の怨嗟の瞳だった。
バーサーカーと、アーチャーの闘いは両者ともに決定打に欠けていた。アーチャーが射出した武具はバーサーカーの絶技によって当たらず、バーサーカーの一撃はアーチャーの盾の宝具により妨げられる。戦いは泥仕合の様相を見せていた。
「くっ、雑種の分際でしぶとい」
アーチャーは強いストレスを感じていた。目の前の狂戦士を殺すべく、様々な逸話を持つ宝具を射出するがそれらには殆ど効果が無いのだ。かといって乖離剣を抜くのはアーチャーのプライドが許さなかった。この微妙な強さを持つ敵は確実にアーチャーから時間を奪っていた。
獣の如き咆哮を挙げ、アーチャーを襲うも殺しきれない状況に苛立っていたのはバーサーカーも同じだった。残された僅かな理性が宝具を使えとバーサーカーに囁いた。
そして魔剣が解き放たれた。
さらにはアーチャーの動きが一瞬止まったことが、バーサーカーにとっては幸運だった。時臣からの魔力が切れていることはアーチャーも把握していたが、単独行動のスキルを持つアーチャーにとっては些末なことだった。だが、それはこの場面でアーチャーに牙を向けた。
アロンダイトはアーチャーの盾を食い破り、その身体に傷を付けたのだ。
「はは、やったぞ時臣ィィィィィ!あれ、おかしいな、桜ちゃん?どうしてこんなところにいるのかな?そうか、おじさんはね時臣に勝ったんだよ……」
バーサーカーの宝具の発動、雁夜はそれに耐えられる身体ではなかった。ほとんど人が立ち寄らない、アインツベルンの森の中で、雁夜は誰にも間桐の蟲以外の誰にも気が付かれずに静かに死んだ。
バーサーカーは、森を駆けた。かつて仕えた王を殺すために。
セイバーの眼前に立っていた男、バーサーカー、その正体がセイバーには分かった。かつて自分に仕え、道を違えた男、湖の騎士ランスロット。
「サー……ランスロット……」
「Arrrrrrrrthurrrrrrr!!!!!!」
かつての湖の騎士は、狂奔しセイバーに向かって容赦のない剣を振るう。セイバーは片手でその猛攻を防ぐのが精一杯だった。
アロンダイトがセイバーの防御を切り抜けて、セイバーの華奢な身体に傷を付けた。
「ランスロット卿。卿まで、私を責めるか……私は……」
セイバーは、剣を構える事すらしなかった。力が抜け、光を失った目で、かつての忠臣に殺されることを願った。だが、そうはならなかった。飛来した武具が、黒騎士の胸を貫いたからだ。
跳ね飛んだ血が、セイバーの双眸には映った。
「私は貴女の……」
そう言い残し、バーサーカーは消滅した。
「雑種が、手間取らせてくれた」
下手人はアーチャーだった。その身に纏った金色の鎧の一部は破損し、赤黒い血が激戦の証拠となっていた。
「我自らが裁定を下そう。雑種共、剣を執れ」
ここに人類最古の英雄王との戦いが始まる。
アイリスフィールは、アインツベルン城内で死んでいた。身体には三騎の英霊の魂を極めて短時間のうちに取り込み、そのショックで死亡したのだ。
衛宮切嗣すら聖杯戦争がここまで急展開を見せるとは思っていなかったのだろう。何しろ今日は、全てのサーヴァントが召喚されてから、たった三日しか経過していなかったのだから。
アイリスフィールにしても、自分の死にはまだ数日は有るだろうと考えていた。そのため切嗣には、別れの言葉すらかけることが出来なかった。
アイリスフィールの死体から金色の聖杯が姿を現す。誰の目にも触れず顕現した聖杯。魔力の塊である聖杯の封印式は解け、そこから業火が広がり、アインツベルンの城を灼き尽くしていく。そして大聖杯の奥底、そこからは人間の悪意に満ちた泥、それが脈打ち、血管から零れ落ちる血のように小聖杯から溢れ出した。
衛宮切嗣は、後悔していた。切嗣の見通しは甘すぎたのだ。三日目にして三騎のサーヴァントが脱落し、残りの四騎も、決戦と言った雰囲気を醸し出しているのだ。切嗣が目標としたマスター狩りも全く進まなかった。捜索範囲を広げ、バーサーカーのマスターを狙ったが発見は出来なかった。
先ほどと全く同じ場所でうつぶせになっている遠坂時臣しか衛宮切嗣のターゲットは居なかった。おそらくは罠が仕掛けてあるだろう時臣の周辺を警戒しながら、切嗣は時臣に接近した。
「妙だな。罠が全く存在しない」
遠坂時臣は今にも死にそうな顔で、痙攣していた。切嗣は訳が分からなかった。時臣の令呪を移植し、マスターである資格を剥奪すると、時臣は安らかな顔で、気を失った。
切嗣は時臣を殺そうとした。だが、トリガーを引こうとすると切嗣の脳裏にはイリヤやアイリ、舞弥の顔が浮かんで離れなかった。時臣の娘や妻が、切嗣を責めるように見つめる幻覚が切嗣を襲った。結局切嗣は何も出来なかった。
切嗣は壊れていた。聖杯は異常だと時計塔のロードが指摘した事実は、切嗣の未来を完全に奪っていた。力なく笑う切嗣の目の前を、スピードを出したトラックが走り去っていった。
言峰綺礼は爆笑していた。使い魔で発見した時臣は痙攣しており、それを衛宮切嗣が慎重に観察しているのだ。滑稽でしかたがなかった。そして、時臣がまんまと令呪を奪われたのは最高の喜劇だった。さらに、暴走したトラックに路上で気絶していた時臣が轢かれて動かなくなったところで、綺礼は大爆笑した。